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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第4話 そして灰色の鷹は漆黒の空に飛んだ Part11

〈アナベルの回顧―幼少期編―〉


 檸檬の様に黄色い髪をした少女。可愛らしい水玉模様のリボンで、その髪をポニーテールに結んでもらって。お気に入りの白いワンピースを着て、おませなヒールを履いて――


「それではアナベル、ワタクシたちは6時に迎えに来ますので、ここで本を読んで待っていること。よろしいですわね?」


「はい、おかあさま、おとうさまっ!」


 右手はお父様に左手はお母様に握られてやって来たのは、とある街の大きな図書館でした。

 わたくしのお父様とお母様は、スコットランドのとある企業の重役でして……取引先との会議に出席するために、その街にやって来たのです。本来ならばわたくしはお屋敷でお留守番なのですが、その日はわたくしが駄々をこねて、条件付きではありましたが一緒に連れて行ってもらうことになりました。

 条件。それは図書館で本を10冊読みなさいというものです。何も難しいことではありません。お堅い内容の本を10冊というわけではなく、絵本を10冊。しかも両親の指定したものではなく、自分の好きな絵本を。あってないような条件、わたくしならば達成するのは造作も無かったはずだったのですが――当時のわたくしはまだ10歳。ほんの少し、イタズラ心が働いてしまったのです。


「ふんふふん♪」


 わたくしはお父様とお母様の言いつけを破り――図書館の外に抜け出したのです。

 わたくしは他の子たちとは違って、外に連れて行っていってもらえる機会がそう多くはありませんでした。そんなわたくしに芽生えたのは、外の世界を知りたい、聞きたい、触れたい、感じたい、という気持ちでした。その気持ちは日に日に募るばかりで、そしてその日に爆発したというわけです。

 わたくしにとって外の世界は何もかも新鮮でした。通りを行く人たち、野菜を売る髭の生えた男性、チラシを配るコルセットをつけた化粧の濃い女性、かくれんぼをする子供たち。空に浮かぶ飛行機雲を仰ぎ見ながら歩いて、路地裏の野良猫にを追いかけて――気づけばわたくしは、迷子になっていました。


「え~~ん、えん!え~ん!!」


 夕焼け空の下、ただ一人公園のベンチの上。瞳の奥が熱くなって、ぼろぼろ、ぼろぼろと涙があふれ出てきました。素直にお父様とお母様の言いつけを守っていればよかったのに。もしかしたらもう帰ることは出来ないかもしれない。自責と不安とで、まるで針のむしろに座らされた気分でした。


「きみのなまえは?」


「ふえ?」


 健気な男の子の声が鼓膜を震わせました。泣き腫れた瞳をこすって目の前を見ると――サファイアブルーの髪に、くりっとした瞳の男の子が心配そうにわたしを眺めていました。


「アナベル……ロッテ、ですわ」


「アナベル…うん!アナベル!!ぼくはエリック・バッセル!きみはどうしてないているの?」


 そう、これがエリックとわたくしとの初めての出会い――彼は下からのぞき込むようにわたくしをじろじろと見てきて……わたくし、はじめエリックのことを警戒しましたの。

 同年代の男の子とお話しする機会なんてありませんでしたし、日頃からお母様に“男性には気をつけるように”と言われていましたから。“きっとエリックは悪い子で、わたくしをどうにかしようとしているんだ!”なんてひどいことを内で考えていたのですが――エリックは、太陽の様に明るい笑顔を見せてくれて……わたくし、きっとその時から彼に惹かれはじめていたに違いありませんわ。


「ふむふむ、なるほど……わかった!ぼくがきみをとしょかんへ、つれていってあげる!」


「ほっ、ほんとうですの?」


 わたくしの不安を取り除いてくれるために、彼はおどけてみせたり、近くに咲いていた花を取ってきてくれたり。わたくしはいつの間にか、彼に事情を話したのでした。そうしたら彼、自信満々に自分の胸を叩いて「任せろ」って。その姿にわたくしはどれほど勇気づけられたことか。


「エリックはこのまちのしゅっしんですのね?」


「うん!でも、ぼく…アナベルのようにゆうふく?なかていじゃないから……」


 その道柄、わたくしとエリックは互いのことを話しました。わたくしはこの街にお父様とお母様と一緒に来たこと、そして普段は屋敷で暮らしていること。対してエリックはこの街生まれこの街育ちで、その歳で既に親御様の手伝いをしているとのこと。どうやら彼はその日、たまたまご友人と遊ばれていたようで、その帰り道にわたくしを見つけたとのことでした。


「ほら、ついたよ。ここがとしょかんだよ?」


 行きは途方もない時間をかけて公園に迷い込んだというのに、帰りはほんの数十分で図書館に戻ることが出来ました。


「アナベル!」


「おとうさま、おかあさまっっ!」


 お父様とお母様は、図書館にわたくしが図書館にいないことに卒倒しかけたと後におっしゃっていました。誘拐されたのではないか、神隠しにあったのではないかとお考えになるほどに。

 図書館の前、わたくしを発見したお父様とお母様は――急ぎ駆け寄ってきて、わたくしのことをそっと抱きしめてくださいました。


「アナベル…心配したんだから……!」


「もうしわけありません、おかあさま、おとうさま……」


 お父様にもお母様にもこっぴどくお叱りを受けました。しかし同時にわたくしが何事もなく無事に帰って来たことに安堵のため息も吐かれました。

 しかしわたくしの隣に立つ男の子の存在に気がつかれたのは、それから数分経ってからのことでした。


「えっと、アナタは?」


「かれ、エリックっていうの!このこがわたくしをここまでつれてきてくれたの!!」


 エリックをお父様とお母様の前に突き出して、そして彼の腕に抱きついて仲良しのアピールをしました。今振り返ると、昔のわたくしは大胆だったのかもしれませんわね……


「そうか……ありがとう、エリックくん。何かプレゼントを――」


「いいえ、おきもちだけでじゅうぶんです!!」


 そんな妙に大人びた台詞を言うものだから、お父様もお母様も大層お笑いになりました。それからお父様は彼からご両親について聞き出し、感謝の電話を入れました。お母様は彼にフルーツバスケットを無理矢理持たせました。きっとお父様もお母様も、エリックのことをお気に入りになられたのです。

 でもわたくしたちの帰りの電車の時間が近づいてきて……エリックと別れの時になりました。


「エリック………」


 彼はわたくしの最初の友達。ほんの少しの時間でしたが、わたくしにとって彼はかけがえのない存在になっていました。離れたくはない。そんな思いから、わたくしはまた泣き出しそうになりました。


「ううん、アナベル――」


 それを見かねてエリックはわたくしの目の前にやって来て――


「ニコっ!」


 満面な笑みを作ってくれたのでした。


「アナベル、ぼくたちはかなしいわかれをするわじゃないんだ。またあえるはずなんだから、えがおでおわかれをしないと!」


 また会えるなんて何の根拠もないはずなのに……でもそれは、一重にわたくしの涙を断ち切るために紡がれた言葉で――


「ほら、アナベルも!」


「えっ、えぇ…わかりましたわ……にこ?」


 “淑女たるもの上品に笑え”とお母様に教えられていたので、きっととてつもなくぎこちなかったのでしょう。エリックはゲラゲラと笑いはじめ、わたくしはぷんぷんと怒って。でも、わたくしもすぐにエリックにつられて繕わず笑うことが出来たのでした。

 そして駅のホーム、電車がやってきました。


「それじゃあまたあいましょう、エリック!」


「うん、アナベル!!いつかまた、どこかでかならずあおう!!」


 ホームの端まで追いかけてきてくれて、ずっとずっと手を振ってくれて。わたくし、幼いながらに確信しましたの。彼が、エリックこそがわたくしの――運命の相手であることに。

 “また会える”。その言葉を例えエリックが本気にしていないとしても、わたくしにとっては未来すらも変えてしまうような非常に大きな意味を持ったのです。ですから“また”なんて他人任せな事、わたくしはしたくない――必ず彼と再会する。そのためにわたくしはある行動に出たのです――

小話 ぜんぶグラウくんのせい


グラウ:あんたの小さい頃ね……写真でもあれば、ぜひ見せてもらいたかったんだがな


アナベル:(紅潮して)なっ!あっ、あったとしても、あなたなんかに見せたりしませんわよっ!?


グラウ:(どこからともなく何かがヒラヒラと舞い降りてきて、それをキャッチ)おっと、これは……はーん、なるほど(嫌らしい笑みを浮かべる)。檸檬色の髪の少女か、なかなか可愛いじゃないか(中指と人差し指で写真を挟み、それをクルリと回転させてアナベルに見せる)


アナベル:なななっ、なんでこんなところに!?よっ、よこしなさい!(顔を茹で蛸のごとく真っ赤にし写真を奪おうとするが、グラウに軽くあしらわれる)むうううっっっ!!(頬を膨らませて怒りを表す)


グラウ:そんなに怒んないでくれよ。ついあんたを弄るのが楽しくなってしまってな


アナベル:ぬぬう、また年上をバカにして~~~~っっ!!こうなれば、奥の手を取らざるありませんわね!!(スマートフォンを操作)……もしもし、ネルケさん?ええ、そうですアナベルですわ!!わたくし、またグラウ・ファルケにひどいことをされて――!!


グラウ:おい、なんでネルケの電話番号をあんたが知っているんだ!というか、なんでまた電波つながっているんだよ!!

※結界内部ではスマートフォンの電波は届きません。しかし、大人の事情によりアナベルとネルケとの間で通話が成立したようです。


アナベル:あっ、はい!わかりましたわ!!本人にもそう伝えておきますわ。!!スマートフォンをしまう)というわけでグラウ・ファルケ、あなたの仲間であるお三方を代表し、ネルケさんがあなたに罰を与えるそうです


グラウ:罰って……なんだ?


アナベル:“変な気を二度と起こさないように、枯れるまで搾り取ってやるわ!”ですって。どういう意味でしょうか、グラウ・ファルケ?


グラウ:(背後に何者かの気配を感じ、急いで回避行動をとる)なっ!?なんであんたがここにいるんだよーーネルケ!!


ネルケ:だってグラウ、わたしたちとの約束破ったでしょ!だからすぐにでも――(高速移動を使いグラウに背後から抱き浮こうとするも、みぞおちに一発決められそうになり一時撤退)やるわねグラウ。でも、戦いはこれからよ!


グラウ:くそ!!なんでこんな場所であんたとやり合わないといけないんだよ!


ネルケ:ヤリ合わないと?


グラウ:ああ、もうっ!!あんたは次の出番まで待機していてくれよ!!


アナベル:(息ぴったりの攻防、お二人は本当に仲が良いのですね……)えっと、次回からもわたくしの回顧が続きますが、どうぞよろしくお願いしますわ!

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