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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第4話 そして灰色の鷹は漆黒の空に飛んだ Part10

〈2122年 6月?日 ? 第二次星片争奪戦終了まで約?時間〉―アナベル―


「それでグラウ・ファルケ。これからどうしましょうか?」


「うん?俺はどうすることも出来ないぜ?ボートの作り方は知っていても、それに必要な材料の木は、今燃やしているからな」


 そっ、そうだったのですか!それならば急いで鎮火をしなければなりません!!えっと、水を持ってくる方法もないから……そうです!このグラウ・ファルケのコートを海水で濡らし、焚き火を覆い隠すことで空気を遮断すればいいのです!


「おい、どこに行くつもりだ?」


「コートを濡らしてきます!」


「……は?」


 わたくしとしては一刻も早く鎮火をしたいのですが……グラウ・ファルケは眉を顰め、まるでわたくしの行動を否定するかのように首を横に振ってきました。


「まさか、今の話を本気にしていないだろうな?」


「えっ、嘘……だったのですか?」


 グラウ・ファルケがやれやれという表情をしながら深く溜息を吐いてきました――この男、またわたくしを騙したのですね!?


「今のは冗談だからな…あんた本当に、簡単に詐欺に引っかかりそうだな。人を無条件に信頼出来るのはあんたの心が清いことの証明だが、それだけじゃ、あんたはいい様に利用されるだけだぜ?」


「うむむ……ご忠告、感謝しますわ…」


 騙す方のグラウ・ファルケが悪いということは譲りませんが、わたくしに何ら落ち度がなかったかと言えばそうではないのかもしれませんね。でも今のグラウ・ファルケの発言――わたくしのことを“心が清い”だなんて、ほっ、褒めたところでわたくしの心は揺らぎませんのに……


「つまり俺が言いたいのは――」


 両手で顔を包んでいるわたくしを尻目に、グラウ・ファルケは話を続けました。


「俺には、仲間を呼び出す手段がないということだ」


 グラウ・ファルケはおもむろに左耳の中から何かを取り外し、わたくしに見せてきました。これは……通信機、ですわね。


「海水で一発でポシャった。だがあんたはどうだ?何か仲間に連絡できる手段、持っていないのか?」


 仲間に連絡……ええっと、わたくしの通信機も起動しませんし――あっ、そうですわ!!確か軽鎧の腰の辺りの収納スペースに…ありましたわ!!


「なるほど、信号弾か」


 気が付けばグラウ・ファルケがわたくしの隣に来て、ふむふむと首を縦に振っていました。こんなに近付いてきて――わたくしへの警戒を怠りすぎではありませんこと?


「これを打ち上げれば、きっと仲間の皆さんがボートで迎えに来てくれるはずです。なのですが――」


 これを打ち上げて来るのはわたくしの仲間であっって、グラウ・ファルケからすれば敵……ええ、もちろんわたくしもグラウ・ファルケの敵なのですが――バカですわね、わたくし。この男に情が移ってしまうなんて。

 仲間たちを呼べば、グラウ・ファルケは彼らを敵とみなして引き金を引くでしょうし、仲間たちもグラウ・ファルケに襲いかかる。その時、わたくしは……どうすれば良いのでしょうか?仲間に傷ついて欲しくはない、けれどグラウ・ファルケにだって――べっ、別に恋愛感情ではなく一食の恩があるだけなのですが、それでも彼を蔑ろにするのはわたくしの心が許さなくて――


「アナベル、別に構わないぜ。俺のことは気にするな。俺はあんたの仲間に手出しをするつもりはないし、その場で撃ち殺されたならそこまでというだけだ」


 わたくしが暗い顔をしていのに気が付いたのでしょうか?グラウ・ファルケは白い歯を見せて笑い、わたくしの不安を取り除いてくれました。ああ……あなたは気が付いていないのでしょう。そんな風に笑うから、わたくしを困らせているということに。


「グラウ・ファルケ……その言葉、信じても構いませんこと?」


「ああ、いいぜ。約束するよ。と言っても、あんたに信じてもらえないだろうから――こいつはあんたが預かっていてくれないか?」


 グラウ・ファルケが岩場に引っかかっていたガンホルダーを掴み、それをわたくしに差し出してきました――


「でも、これは……!」


「あんたは俺を恨んでいるだろ?だから俺を煮るなり焼くなり好きにしてくれても構わないんだけどな……それじゃあ、早いところそれを打ち上げに行こうぜ?」


 わたくしが困惑していることなどお構いなしに、彼は洞窟の奥へと向かっていってしまいました――グラウ・ファルケ……わたくしはもう、あなたのことを恨んでなどいないのですが……

 急いで彼の後を追い、彼が立ち止まっていたところで天井を見上げると、そこには地上へと続く穴がぽつんと開いていました。信号弾をセットし、銃口を真上に向けます。


「それじゃあ、撃ちますわよ?」


「ああ、ちゃんと狙いを定めてな」


 もちろんですわ!普段はレイピアしか使いませんが、これでも射撃の腕は結構ありますの。ですから――えいっ!


――ひゅーーーーん…ぱんっ!

 空中で弾が炸裂し、黄色の光が暗き結界の空に煌めきました。これなら、きっと仲間の皆さんにも気が付いてもらえるはずです。


「さて、どれくらいの時間であんたの仲間がやってくるだろうな?」


 グラウ・ファルケは結界の皮膜の空を仰ぎ見ながら、わたくしに訊ねてきました。


「さぁ……そもそもここがいったいどこなのかわかりませんから……」


 事前にニュー・クラーナの地図を頭に入れてきたのですが、この洞窟の存在は知ってはいませんでした。ですが、ここが結界の内部であることは確かですから、そう長く時間がかかるとは思えませんが。


「そうか。まぁ、こんなところで突っ立ってい待っているのも何だし、焚き火にあたりながら待つことにしないか?」


「ええ、良い提案ですわね」



「ほら、実はこれで最後なんだが……まぁ、いいだろ」


 わたくしが焚き火の前に体育座りをしてまもなく、グラウ・ファルケがギブミエナジーの缶を差し出してきました。


「よろしいのですか?あなた、これが大好きなのでしょう?」


「布教の意味も兼ねているからな」


 そしてまるでわたくしに促すように、彼はプルタブを開きゴクゴクと飲み始めました。それならわたくしも遠慮無く――ごくごく。


「なぁ、アナベル。二つ質問してもいいか?」


「ええ、構いませんわよ?」


 ただぼーっと待っているのも退屈ですし、話でもして待つことにしましょう。


「それじゃあ――一つ目。エリックって誰だ?」


「ぶふううううっっっ」


 おっ、思わず口に含んだギブミエナジーを吹き出してしまいました。しかも…思いっきりグラウ・ファルケの顔に引っかけてしまって――


「飲むのは好きだが、引っ被るのは好きだとは言ってないぜ?」


 グラウ・ファルケが表情を曇らせ、非難に満ちた視線をわたくしに向けてきます。


「もっ、申し訳ありませんでした……でっ、ですが!あなたがいきなりエリックの名を口にするから!!」


 首を猫の様に高速で横に振り、水滴を飛ばそうとするグラウ・ファルケですが……べたりとこびりついてしまっているようで、大きく溜息を吐いてじとっとした目を向けてきました。本当に申し訳ない限りです。


「まあ、あんたが話したくないなら無理に聞くつもりはないが……二つ目だ。あんた、どうしてあんなに星片に執着を見せた?」


「星片……あ!」


 そそそっ、そうです!わたくしはそもそも、星片を手に入れるために崖の下へと落ちたのでした。えっと、どこに……って、これグラウ・ファルケのコートなんだからあるはずがありませんわ!


「ほれ」


「わわわっ!……そんな粗末に扱わないでくださいませ!」


 もしもわたくしが気が付かなければ、ちゃっかり盗もうとしていませんでしたわよね?まぁ、返してくれたから良いのですが。紫色のダイヤの形の結晶。ええ、わたくしが溺れながらにもキャッチした星片に違いありませんわ!


「あんたは気が付いていないようだが……ちなみにそれ、贋作だぜ?」


「……へ?」


 グラウ・ファルケ……今、なんと仰いましたの?


「ルシアンがそれを取り出した時から、まぁ偽物だろうとは思っていたんだが……直接触ることで確信に至ったぜ。本物はな、触れただけで飲み込まれそうなほど強力な力を宿しているんだよ。確かにそれは、見た目は精巧に作られている。しかし、どう考えても俺が前回触れたやつとは違う」


 そうでした。グラウ・ファルケは前争奪戦で本物の星片に触れているのでした。その彼が言うからには…でっ、でもぉ……


「あなたが嘘を吐いている可能性だってありますわよね?」


「今回ばかりは本当に嘘じゃない。まぁ、それが本物だと縋り付きたいというのなら、それはあんたがもっておけ。もしかしたら偽物でも高く売れるかもしれないからな」


 そこまで言ってくるということは、どうやら本当にこれは偽物なのでしょう。どう見たって資料で見たものと瓜二つなのですが……仕方ありませんわね。ポケットの中にしまっておくことにします。


「話が逸れたが、アナベル。二つ目の方は話してはくれるのか?」


 星片に執着する理由……ええ、確かにありますわ。ですが、それはわたくしだけの秘密であって――いいえ。グラウ・ファルケには溺れるわたくしを救ってもらった恩、極度の飢えから救ってもらった恩……敵同士であるのに関わらず、彼には二回も助けてもらいました。だから……グラウ・ファルケなら、信頼しても良いのかもしれませんわね。


「他の方には内緒にしてくださいます?」


「ああ。秘密は墓場まで持っていこう」


 グラウ・ファルケが真剣な眼差しでわたくしを見つめてきました。本当にそういうの、反則なのですから――


「グラウ・ファルケ。一つ目の質問と二つ目の質問の答えは密接な関係にあります。ですから順を追って説明していきますわね――」

小話 答え.全てはグラウくんへの愛が産んだ悲劇です


グラウ:実はな、アナベル。沈み行くあんたを海面に引っ張り上げたあと、とあるもの……人体の一部分が落ちてきたんだ


アナベル:怖い話でもするつもりなのですか?


グラウ:違う。本当にあったやつだ


アナベル:まさにほん怖ですわね!(昔見たことがありますわ!)


グラウ:まぁ、そうだな。別にオチなんてない話なんだが……ルシアンの頭が落ちてきてさ。しかも俺の目の前に。流石に悲鳴をあげそうになったぜ


アナベル:グラウ・ファルケにも怖いなんて感情あったのですね


グラウ:当然。俺だって人間だからな。だが、悪い奴って必ず裁かれるんだな。今もなおぷかぷか海を漂っているだろうよ


アナベル:でも、ただ命を奪うだけで無く断頭までするなんて――

グラウ:しかし、ただ殺すだけで無く頭まで吹き飛ばすなんて――


グラウ:あんたの仲間も残酷なことをするんだな……えっ?

アナベル:あなたの仲間も残酷なことをするんですね……へっ?


グラウ:いやいや、いくら俺の仲間でもそんなむごいことはしないって


アナベル:いえいえ、わたくしの仲間はそんな非道なことはしませんわよ?


グラウ:うむ……

アナベル:むむぅ……


グラウ:いや、俺は信じるぜ。いくらネルケやソノミやルノだって、そんなことはしてないって


アナベル:ですが、人の頭を切り落とすなんてそう容易ではありませんことよ?首は多くの筋肉に守られ、7つの頸椎もありますわ。それを切断するなんて、かなり鋭利な刃物を使わなければなりません。わたくしたちの持つレイピアは刺突用武器なので、そんな真似は不可能――Q.E.D.ですわね!(一度言ってみたかった台詞ですわ!)


グラウ:仮にそうだとしたら……なんでそんな残忍な真似をしたんだろうな?

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