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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第3話 裏切りの狐に、天使は裁きを… Part11

〈2122年 6月7日 6:52PM 第二次星片争奪戦終了まで約30時間〉―グラウ―


 人間はどれほどの効率で摂取したカロリーをエネルギーに変換しているのだろうか?正直こんなことを求めることに、どれほどの意義があるのかについては疑問がある。その理由として第一に個人差が挙げられるだろう。全ての人間が同じ変換効率であるというわけではない。摂取する時間、そして年齢によってもそれは変わってくるだろう。第二に、動作によって変換効率は違うだろう。例えば腕を伸ばすという単純な動作と、走るという複雑な動作では効率がかなり違うはずである。


 動物のエネルギー変換の効率は40%近くあるという。もう見かけなくなった発熱電球は3~5%、ガソリンエンジンは20~30%であることを踏まえれば、これはかなり効率が良いのかもしれない。


 ところで、非異能力者と異能力者ではどちらの方がお腹が空きやすいだろうか?もちろん――後者に決まっている。異能力は人間の能力の中で最も不完全な能力だと言える。その理由にはもちろん、万人が共通にその異能力を持っているわけではないということもある。しかし何より異能力は発動する度に精神を摩耗すると共に膨大なカロリーを消費することがその最大の理由である。例えば俺の異能力における銃弾、は科学的根拠があるわけでもないが、俺のカロリーを消費して作られている。そう考えると、俺の異能力はカロリーを銃弾に変える異能力と表現するのが正しいのかもしれないが……流石にダサいので、今まで通り銃弾を装填する異能力ということにしておこう。


 というわけで、ここまで走る、蹴る、殴る、撃つ……これでもかと身体を酷使してきたがために、俺が貯蓄していたカロリーは底をついてしまった。別に俺がやたらめったら燃費の悪い人間というわけでは決してない。ネルケだってソノミだってルノだって、きっともう腹ぺこのはずだ。だから俺の腹の虫は素直になれない女性陣の気持ちを代弁したのであって、感謝こそされど嘲笑される覚えは――


「うぁぁぁっっ………」


「ソノミ、ルノ!グラウがB級映画のゾンビみたいに唸っているわ!!記念に動画を撮りましょう!!」


「ネルケちゃんもどうせなら一緒に写る?あとソノミちゃんもどうかしら?」


「私は別にいい。だが……あとでENIL(エニール)で送ってくれないか?」


――ないはずなのだ……パポンっという音が聞こえてきた。この音は確か、次世代スマートフォンとして大ヒットしたOrangeシリーズの録画開始の音声だ。普段だったらそのスマートフォンを奪い動画を消すというのに……今の俺にはそんな体力さえもない。


 俺たちはグレイズが去った後城に戻り、居館一階のこぢんまりとした部屋で食事をすることにした。作戦会議室にあったものよりは少し小さな円卓、それに椅子が四つ。ここはまさに俺たちのために用意された部屋だったのかもしれない。時計回りに俺、ネルケ、ルノ、ソノミと着席してすぐ、俺は机に突っ伏した。


「……ラウ、おい、起きろ、グラウ」


「ソノミ……?」


 ぼやけた視界。目をこすると、ソノミが小判型の曲げわっぱの弁当箱を二つ差し出してきていた。


「ほら、これがお前の弁当箱だ」


「二つとも俺に?」


「お前、見かけによらず大食いだからな。このぐらいないと足りないだろ」


 腕を伸ばし受け取ると、かなりの重量を手に感じられた。一体中身はなんなのだろう?


「開けて良いか?」


「いいぞ」


 では早速――こっ、これは!


「ビフテキ弁当!」


 ふたをあけたと同時に焼けた肉の香ばしい匂いが広がってくる。ご飯の上にはほどよく焼き目の付いた肉の絨毯が敷かれていて絶景かな、絶景かな。そしてもうひとつの曲げわっぱのふたを開けると――ほうれん草のナッツ和え、豆苗のサラダ、ミニトマトのはちみちマリネ……様々なおかずが盛りだくさん!


「お前らと私の弁当は全部同じだ」


「グラウのだけ特別って事なのね、ソノミちゃん?」


「その通りだ」


「露骨にグラウ贔屓を……って、ごめんってソノミ!没収しないで!!」


 三人の弁当を覗いてみると――おお、鯖の塩焼きか!食欲を誘うこんがりと焼けた鯖の匂いが漂ってきて……それだけで涎が垂れそうになる。


「別に贔屓をしようなんて考えていたわけではない。グラウは男だから精が付くものを、そして私たちは美容にいいものをと思っただけだ」


 なるほど。確かに鯖に含まれるEPAは血液をさらさらにする効果、血管を柔らかくする効果、そしてやせるホルモンを大量に分泌させる効果もあるという。鯖はそれだけじゃない。ビタミンDはカルシウムの吸収をサポートし、DHAは脳を活性化させる効果もあるという。もちろん女性のみならず男性も積極的に鯖を食べるべきであろう。


「精が付くなんて…ソノミったら……積極て――ごめんなさいぃ~~!もう変なことは言わないから!!」


 ネルケが何を意図しクスクス笑ったのか、そしてソノミが何故ネルケの弁当を回収しかけたのかを考えるほど頭が回らない。精が付くって、活力をつけるという意味以外があるのだろうか?


 ネルケとソノミの攻防も終わり、ようやく一同が席に着いた。よし――


「それじゃあ――」


「「「「いただきます!」」」」


 というわけで早速をステーキでご飯を包んで口へ……極度の空腹のせいか間近で肉の匂いをかぐだけで頭が蕩けそうだ。さてお味は――うん!ほどよい塩かげんと胡椒のソフトな辛みが抜群に組み合わさっていてまさに妙味。それに肉は口の中でとろけるかのよう――ああ、あの日食べたシャトーブリアンを思い出す。この肉、さては――


「ソノミ、肉を買うのに無理をしなかったか?」


――相当高級なものを使っているに違いない。そうであるならば申し訳ない。後でお金を渡すべきだ。


「いや。ただのスーパーの安肉だ」


「……嘘だろ?」


 開いた口が塞がらない。にわかには信じられないのだ。これがただのスーパーの肉だなんて。あんな固くて筋張っているというのに!


「本当だ。ふっ……だが、そう言ってくれるということなら、お前の口に合ったようだな」


「ああ、マジでおいしい」


 曲げわっぱを持ち、肉とご飯をかきこむ。冷めているというのにこれだけの味、いったいソノミは何をしたと言うのだろうか?


「タンパク質分解酵素というものが肉を軟らかくしてくれるんだ。例えばパイナップルやパパイアなどの南国系の果物にそれが含まれている。私が使った舞茸もそれが多く含有していてな。前者に比べれば安上がりだし、ついでに舞茸でもう一品作れるから助かるんだ」


「なるほど、これか」


 もう一方の曲げわっぱに、キャベツと舞茸の炒め物を発見した。では早速これも……うん!バターの風味が効いていてこれもまた美味だ!


「ちなみに柔らかいステーキを作るには筋を切っておくことも大事で……って、お前にわざわざ説明しても、どうせ自分で作るなんてことはしないか」


「確かに、俺は基本的に自炊しないからな。一家に一人ソノミがいてくれればな……なんてな」


 うん?ソノミの顔がほんのり赤めいていく……?俺、また余計なことを言ったか?


「そっ、そうか……お前が望むなら、私は――」


「うわ、ソノミったらにやけちゃって……でも、今は完全にソノミのターンね」


「うふふ、でもいいんじゃない?ネルケちゃんはさんざんグラウと行動していたんだし」


「そうだけれど……でも悔しいわ!まったく箸が止まらないのよ!!はむはむはむ」


 ネルケとルノもソノミのお手製弁当に舌鼓。あちらの鯖の塩焼き弁当もおいしそう――


「少し食べるか?」


「いいのか?」


 ソノミが鯖を箸でほぐしてその一欠片を――


「ほら、口開け」


 伸ばされた箸からそれを――頂いた。うむ、これほどまでにおいしい鯖の塩焼きははじめてだ。本当にほっぺたが落ちそうだ。


「むむむ、ナチュラルにあ~んをして!」


「“口開け”って少し男らしすぎると思うけれどね」


「ううぅ、好き放題グラウに餌付けして!……あっ、今したり顔したわねっ!むぎぃっっ~~~!」


「食事中に変な声を出すな。ソノミに失礼だろ。それに俺は餌付けなんてされてない」


「それは悪うございましたぁっ!」


 ああ、幸せだ。どれもこれも至高の一品。本当にソノミが俺と結婚したなら、こんな料理を毎日――身に余る幸せだ。俺なんかがそんなことを、だが……



「緑茶だ」


「サンキュー」


 ソノミから差し出された湯飲みを受け取りそれを呷る。ごくごく……ふあっ!食事の後の緑茶もまた格別だ!


「グラウ、それでどうするのかしら、この後は?」


 ルノは机に肘をつき、そこに顎を乗せていた。細長い獣の耳は生えてはいるが、ミステリアスな雰囲気は未だ健在のようだ。


「そうだな……星片の位置が絞られていることだし……下見に行くというのはどうだ?」


「マクレガー宮殿、西の海岸、沖の三つ。流石に沖へは行けないから、行く先の候補は二つか」


 ソノミも一通り片付けが終わった様子。湯飲みの底に手を添える飲み方からは、彼女の品の良さが感じられる。


「ふっ、ううっ!マクレガー宮殿に行けばWG(ダブリュジー)が待ち構えているだろうし、海岸に行けばロイヤル・ナイツがうじゃうじゃしていそうね」


 ネルケは両手を広げて背伸びをして――胸が押し出され、その形の良いラインがくっきりと見え……急いで目を逸らす――


「あら、グラウならもっと見ていいのよ?」


「さて、なんのことか……」


 ソノミが冷たい視線を送ってきているのはわかる。だが……半分はしかたないだろ。あんなものを見せつけられたら、男は誰だって――って、話が脇道に逸れたな。


 どちらに行くべきか。結界出現から数時間経った今、既に星片が移動している可能性は十分にある。ロイヤル・ナイツではなくWG(ダブリュジー)、あるいは他の組織が星片を握っていることも想定される。しかし――


「海岸に行こう。もし彼らが星片を持っていなそうだとわかれば、それはそれで収穫にはなる」


 三人がうなずいた。よし、決まりだ。それじゃあ――


「行こうか、不誠実なる騎士様たち(ロイヤル・ナイツ)の元へっ!」

小話 今の世界と少し前の世界のエネルギーのお話


グラウ:エネルギーと言えば……21世紀前半と、21世紀後半とでは主要な発電方法が大きく変化したな


ソノミ:“奇跡のエネルギー革命”なんて言葉を聞いたことがあるが……そのことか?


グラウ:ああ、そうだ。21世紀前半までは石炭・石油・天然ガスを利用した火力発電、そして核分裂の際に生じる膨大なエネルギーを利用する原子力発電が主流だった。しかしこの二つは徐々に衰退していき、今では多種多様な再生可能エネルギーによって発電が行われている。原子力発電と言えば……ソノミ、日本では――


ソノミ:私が生まれるずっと前にあった原子力発電所の事故だな。あれを境にして――


グラウ:と言うのは間違いだ。それ以前から実は原発産業は衰退を始めていたんだ。スリーマイル島とチェルノブイリでの原発事故、9.11もまた世界を反原発に傾けた要因に挙げられるな


ソノミ:ん?どうして同時多発テロが反原発につながるんだ?


グラウ:もっともな質問だ。だが考えてみろよ、ソノミ。もし飛行機がビルではなく、稼働中の原子力発電所に激突したらどうなる?


ソノミ:あぁ、なるほど……未曾有の人災が起こることになるな


グラウ:その通りだ。もっとも、あの原発事故は原子力発電の危険性を国内外に知れ渡らせたのは事実だがな(これ以上原発のネタをすると話が長くなりすぎるので割愛)。しかし、よく日本も原発依存から抜け出したものだ


ソノミ:太陽光などを筆頭とした自然エネルギーの台頭だな


グラウ:そうだ。自然エネルギーには水力、風力、波力、地熱、太陽光、太陽熱があるな。その中でも海洋発電は海の多様性の問題もあって、まだまだ成長の余地があるようだが、ほんと、人間もよく海を利用しようなどと思いつくものだ


ネルケ:ねぇねぇ、グラウ。自然エネルギーとか再生可能エネルギーとか効くけれど……違いはなぁに?


グラウ:再生可能エネルギーに自然エネルギーが包含されていると言えなくもないが……まぁ、その二つはほぼ同じような意味で使われている。先ほどあげた6つ以外の再生可能エネルギーには、バイオマスなどがあるな。最近ニュースでやっていたのは確か……


ネルケ:藻のプールね!


グラウ:そうだ。あれはすごいよな。なんたってCO2を原料に、太陽光のみで発電してしまうんだからな


ネルケ:なるほど……発電って、多種多様な方法が存在しているのね


グラウ:そうだ。日夜研究開発に励んで下さっている方々には感謝しなければならないな

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