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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第3話 裏切りの狐に、天使は裁きを… Part10

〈2122年 6月7日 6:12PM 第二次星片争奪戦終了まで約30時間〉―グラウ―


「この部屋でいいかな?」


「どこでもいいぜ、あんたの好きにしてくれ」


 グレイズが二人の兵士に目配せをし、そして両開きの扉が開かれた。まず目に映ったのは縦幅が10メートルはありそうな長机。純白のテーブルクロスの上には三又の燭台が5つ置かれている。そこに立てられた蝋燭には火が灯されており、この部屋の中は結界の中であるというのに関わらず暖かな光に満ちている。椅子はゆったりとした間隔配置され、片側10席ずつに最も奥に1席の合計21席。天井からは煌びやかな宝石が装飾されたシャンデリアが吊されている。この部屋の雰囲気からするの……ここは城における食堂なのではないだろうか。


「お好きな席に座ってくれて構わないよ」


「おう」


 グレイズが左側の最も奥の席へと着いた。その隣にポーラ、えっと確かあの深緑の髪をした子の名前は……レイシェ、そして薄赤色の短髪をしたルッジェーロが並んで座る。まぁ、敢えて彼等から離れたところに座る必要もない。俺はグレイズの反対側、右側の最も奥の椅子を引いた。そして隣にルノ、ソノミ、ネルケという並びになった。


 着席からまもなくして、テラ・ノヴァの兵士たちが数人部屋にの中に入ってきて、各人のグラスをひっくり返した。


「何になされますか?」


「うーん、ギブミ……いや、アイスコーヒーとかあるか?」


「はい、準備しております。かしこまりました」


 今一番飲みたいものの名を口にしかけたが、流石にこの場に相応しくないと気がついた。アイスコーヒーならグレイズたちの前でも恰好がつくだろうか?


「乾杯とかするつもりか?」


「これは宴席でないし、それに主人も不在だからね。そう畏まったことをする必要はないかな」


 言い終えてすぐ、まるで手本を見せるかの如くグレイズは透明な液体が注がれたグラスを口へと運び、それを傾けた。俺も喉が渇いたし、いただくとしよう。ごくごくごく……やっぱり甘党の俺にはブラックは苦い。ミルクとガムシロップをもらえば良かったな。


「さて――」


 グレイズが立ち上がった。いったいなんのつもりだろうか――?って、腰を、曲げた?


「はっ?」


「グレイズ様!?」


 俺たちP&L側からも、そして彼の部下たちであるテラ・ノヴァ側からも、その行動に対して驚愕の声があがった。


「申し訳なかった、グラウくん、ネルケさん、ソノミさん、ルノ。はじめからこのように平和的な接触を図るべきだった」


「……取り敢えず顔を上げろ」


 それを見ていられなくて俺は声をかけた。この男……どうしてこんなことを?


「グラウくん、そもそも争奪戦の最中に勧誘なんてするべきではなかったとも反省している」


「あら、本当にグラウを引き抜こうとしていたの?」


 ルノがグラスの飲み口を手でぬぐいながら、グレイズへと問い尋ねた。この二人、かなり長い付き合いがあるから、グレイズが俺をヘッドハンティングしようとしていたことにうすうす気がついていたのかもしれない。


「うん。だけれど……グラウくん、もう一度聞くけれど――」


「あんたらには与しない」


「このようにグラウくんの決意は固くてね」


 自嘲気味の笑顔でグレイズはルノに答えた。


「グラウ……アンタ、グレイズ様から勧誘されておいて……!」


「グラウはお前達なんかに興味ないそうだぞ、金髪天使(ポーラ)


「お前達“なんか”……?青鬼ぃ、今すぐ訂正しなさいッ!」


 ポーラが机をダンッと叩き、それからソノミを指さした。


「はっ!するわけないだろ、絶壁天使!」


 ソノミは見下すような目つきでポーラを嘲り笑う―― 


「なっ……アンタだって大して変わらないでしょ、この、まな板青鬼ッ!!」


「ああんッ!?」


「はあッ!?」


 バチバチという音が聞こえてくるほど激しく睨み合うソノミとポーラ。この二人、前回の争奪戦の時は顔を見合わせたぐらいで会話などしていなかったはずなのに……いつの間にこんな言い合える仲になっていたんだ?


「うふふ、貧しい者同士仲がいいわね♪」


「「黙れ、ホルスタインっッ!」」


 正反対の性格をしているように見えて、案外青鬼(ソノミ)天使様(ポーラ)は馬が合うのかもしれない。


「ワタシたちからも謝罪をさせてください、ネルケ様」


「いいえ、逃げ出した捕虜を追いかけるのは普通のことよ。でも……」


「なんだよ、オレの剣をじろじろ見て?」


「アナタも反省なさいルッジェーロ!」


 あの三人は俺たちの頭の上で戦っていたんだもんな。気配遮断と魔剣使い。ネルケもよく二人の異能力者を相手に無傷で立ち回ったものだ。


「あなた、実はいつもはプレートアーマーを装備していたりはしない?」


「……しないが?」


「そう、人違いね……」


 ネルケがいつにもなく神妙な顔をしている。あのルッジェーロという男の剣に、何か気になる点でもあったのだろうか?


「ネルケ様、何か気になることがあるならお申し付け下さい。テラ・ノヴァの一員として、アナタ様に協力させて頂きます」


「ありがとう。でもいいのかしら?わたしたちは――」


「敵ではないが味方でもない、微妙な関係になってしまったな」


 俺も立ち上がり、グレイズと向かい合う。


「俺はずっと、あんたらを偽善者の組織だと思ってきた。でも、あんたと話して思い知らされたよ……あんたらは、本物だとな」


「本物って、どういう意味で言っているのよ?」


 ポーラが訊ねてきた。


「テラ・ノヴァは、本当に異能力者と非異能力者の同権を願っているという意味でだ」


「グラウくん、そう結論づけてくれた理由を聞いてもいいかな?」


「ああ。だがこれは、あくまで俺のひん曲がった性格から生み出された論理なんだが……もしもあんたらが暴力を一切よしとしない集団であったなら、俺はあんたらを嫌悪し、叩き潰しにかかっていただろう。しかしあんたらは、現にこんな精鋭を揃えて争奪戦に参戦、勝負に勝つ気まんまんときた……試合に負ける覚悟をしてまでもな」


「……えっと、グラウくん?もう少し仔細に話してはもらえないかな?」


 流石に間を省きすぎた。しかし俺はグレイズと違って弁舌に長けてはいない。こうやって人前で自分の意見を述べるのは苦手だ。上手く説明出来るかどうか。


「要するに、だ。俺は大層な望みを抱いているというのに、正しいというありもしない尺度に固執し、それに反することを一切しない、正道のみを付き進むような偽善な連中を信用しない。そんなやつらは地獄に落ちればいい。本当に、大層な望みを叶えたいというなら――その命を賭し、這いつくばり、泥水を啜りながら、汚れた道を進んでなんぼのはずだ。そんな覚悟が持てないくらいなら……はじめから望みなんて持つべきではない」


「……なるほど。ようやくキミがテラ・ノヴァを認めてくれた理由を理解したよ」


 グレイズには伝わったようだが……他六人は…頭の上に疑問符を浮かべていてちんぷんかんぷんな様子。まぁ、でも一番伝えたい相手には伝わったからよしとしよう。


「グレイズ……俺もあんたに謝るよ。すまなかった、あんたを誘拐しようとして」


「あはは、そんな話もあったね……でも、今はこうしてわかり合うことが出来た。だよね?」


「そうだな。不思議なものだ。俺とあんたは、俺ら(P&L)あんたら(テラ・ノヴァ)は、天と地ほどの違いがあるというのにな」


「ボクはそうは思わないよ。キミの気を悪くするかもしれないけれど……ボクとキミは、そして組織同士だって、かなり似た者同士だと思うよ」


「あんたと似たもの同士か……悪い気はしなくなったよ。あんたは口が達者だ」


 グレイズがくすりと笑い、俺もつられて笑ってしまう。そして――グレイズが手を差し出してきた。

「グラウくん。キミのことは諦めよう。けれど、一つ提案していいかな?」


「なんだ?」


「星片を巡る争いは互いに譲れないと思う。だけれど、この結界の外では――手を取り合うことは出来ないだろうか?」


「!?」


 その提案に思わず息を呑んだ。テラ・ノヴァと俺らが……でも――


「俺は四人の内のリーダーであって、組織の代表なんかじゃない。だから、それを決める権限は俺には――」


「――私は異議なしだ。第一次で星片を奪って以降、私たちは様々な組織に睨まれ、四面楚歌の状態が続いていた。敵ではない存在が出来るのなら、その方が良いに決まっている」


 ソノミらしい分析的な意見だ。俺たちは俺たちしか味方がいなかったのは事実。


「ワタシも乗るわ。だって……結界内ならまだしも、普段からテラ・ノヴァのみんなといがみ合いたくはないもの」


 ルノの立場は特殊。グレイズの提案はルノの救いにもなるのかもしれない。


「わたしは関係ないわね。グラウの好きなように」


 あと問題なのはあの二人か。でも、ここまで言われたら――


「ラウゼとミレイナさんにはあとで俺から説明しよう」


「と言うことは、グラウくん!」


「言うまでもないが――その提案、受け入れよう」


 グレイズの手を握り返した。


「同盟、とまではいかないが……あんたらを信用させてもらう。よろしく頼むぜ、グレイズ」


「こちらこそよろしく頼むよ、グラウくん――!」


―ソノミ―


「本当にいいのか、お前ら?この城を私たちに明け渡して?」


 城の跳ね橋の中ごろ、兵士に指示を出していた金髪天使(ポーラ)を捕また。


「ええ、グレイズ様が仰った通りよ。アタシたちはこれから用事があるのよ。だからこの城でずっと腰を落ち着けている暇なんてないの」


「あいかわらず忙しいのね、ポーラ」


 ルノがどこからともなく現れ、私の肩に手を置いてきた。


「誰かさんがいない所為もあるかしら?」


「あらあら、うふふ……そんなにワタシが恋しい?」


「んなッ!そっ、そんなわけないでしょ!勘違いしないでよ!!」


「うふふ、ポーラも素直じゃないんだから♪」


 「とある人物と話をしに行く。だからこの城はキミたちが使うと良い」。そんなことをグレイズは言っていた。とある人物、それについてグラウも尋ねたが、グレイズは語ろうとはしなかった。


 どうやら私たちが談笑している間にもテラ・ノヴァの兵士たちは撤退の準備を進めていたようで、続々と城の外に兵士が集結してきている。これだけの人数がいたのかと驚くが、それでも他の組織に比べればテラ・ノヴァは小規模。いかに私たちが狂っている(・・・・・)のかを見せつけられているよう――


「青鬼、ちょっと良いかしら?」


「あ?」


「何よ、アンタ。アタシに対して敬意がなさ過ぎじゃ無いかしら?」


「敬意だ?あるわけないだろ。人のことを青鬼としか呼ばないやつなんかに」


「アンタがはじめに人のことを金髪天使だとか言い出したんでしょうがッ!!」


 普段人を弄るなんてことはしないが……こいつを弄るのは、なんかおもしろいな。


「ソノミちゃんも目覚めたのね?」


「かもしれない」


 ルノと同様に、私は今もの凄く嫌らしい顔をしていることだろう。


「ぐぬぬっッッ!こっち来なさい、ソノミ・ミト!」


「だから、なんだよ!」


 無理矢理腕を引っ張られ、ルノから離される。と言うか、はじめてこいつ人の名前を呼んだな。やれば出来るじゃないか。


(で?)


(アンタにしか頼めないのよ…お願い、ルノを……ルノを守ってくれない?)


 珍しくポーラが頭を下げてきた。


(……ふっ、言われるまでもない)


 敢えて頼まれなくったってそのつもりだ。ルノは仲間、家族だ。当然あいつのことは私が守る。もう、仲間を一人たりとも失いたくはないからな。


(そう……良かった)


(お前、実は優しいんだな。わざわざルノのことを気に掛けるなんて)


(はっ、はぁ!?やっ、優しくなんかないし!アンタの勘違いよ!!)


 こいつ、確かグレイズを好きなんだよな。あの男も鈍感そうだし……苦労しそうだな。人のことを言えたものではないが。


「何を話していたのかしら?」


「ぎくッ!なっ、なんでもないわよ、ルノ。ちょっと、ねぇ?」


「ああ、そうだな」


 何故そんな怪しい反応をするのか。やっぱりこいつはアホなのか?バカなのか?流石絶壁の異能力者というだけはある――


「また失礼なこと考えたでしょ……この、洗濯板っ!」


「次言ったら斬る(キル)ぞ――壁女」


「うふふ、二人が仲良くなって嬉しいわ……二人とももう少し弾力が欲しいけれど♪」


「「黙れ、ロケットパイっッッ!!」」


―グラウ―


「あの三人、本当に仲良いな」


 橋で三人が楽しそうに話しているのが、こちらにまで聞こえてくる。あの時出会った天使様(ポーラ)とその仲間たちとこういう間柄になるなんて、人生何があるかは本当にわからないな。


「そうだね。でも、ルノがキミたちと馴染んでいるのを見て少しほっとしたよ」


「変人集団だからね、わたしたち。ルノはその筆頭になれるぐらい変人度が――」


「うふふ、ソノミちゃんとポーラだけを狙っているわけではないこと、忘れたかしら?」


「ルノ!?あっ、あなた、いつからそこに!!」


 ルノは未だ半獣化の状態が解けていない。その細長い耳でネルケの陰口を聞き逃さず、そして抜群の脚力でここまで跳んできたのであろう。


「グラウくん、一つだけいいかな?」


「なんだ、グレイズ?」


 グレイズが近寄ってきて、耳打ちをしてきた。


(用心して欲しい。ボクがキミを狙ったように、キミはいい意味でも悪い意味でも狙われている)


(俺を?……まぁ、デウス・ウルトの枢機卿を殺したから、やつらからは相当恨まれているだろうな)


(うん、確かに彼らも。だけれど彼ら以上に――)


 一瞬間を置いて、グレイズが続ける。


(ボクたちの共通の敵は、想像以上に深く根を張っている…気をつけて、グラウくん。敵の魔の手は……すぐそこまで迫ってきているかもしれないから)


(共通の敵……?)


 グレイズはただ首を手に振るだけで、それ以上語りはしなかった。


 共通の敵、デウス・ウルト以外となると、WG(ダブリュジー)?いや、ロイヤル・ナイツか?それとも……Lowless(ロウレス)だったりするのか?


「時間の経過が、ボクの話の続きをキミに語ってくれるだろう」


「何を言っているんだ、あんた?」


 しかし俺の問いかけは彼の耳には届かなかったようだ。城から撤退する準備が整った様で、グレイズはレイシェやルッジェーロたち隊長格を予備集めた。そして最後に――


「ポーラ、時間だ」


「はい、グレイズ様!」


 ポーラが駆け寄り、グレイズの隣に並び立つ。


「ルノ。まぁ、アンタはアンタで上手くやっているようだから……互いに頑張りましょう?」


「ええ、ポーラ。アナタも……次はもう少し距離を詰めているところを見せてね」


「うっ、うるさいわよ、ルノ!」


 最後に二人は抱き合い、それから互いに別れを告げた。


「じゃあな、グレイズ。さんざんな目にはあったが…あんたと話せたこと光栄に思う」


「こちらこそだよ、グラウくん。どうか無事でまた会おう」


 グレイズは一礼をしてきて――それから兵士たちに厳重に守られながら、この城を去っていった。


 俺と同じ目線で話してくれはしたが、あいつは組織の代表。いや、ほぼ全ての異能力者の代弁者。そんなやつにため口って……今思うと失礼極まりなかったか?


「さて……それでグラウ、この後はどうするの?」


 そうだな、ロイヤル・ナイツに邪魔をされて作戦会議を中断していたし、仕切り直しと――うっ!


 ぐぅぅぅっ……ぎゅるるるるぅぅぅっっ……


「お前……」


 長い間押さえ込んでいた腹の虫が暴発、口よりも先に返答してしまい――俺たちが次にする行動が即座に決定されたのであった。

小話 2枚の壁と4つの半球、そして被害者G


ソノミ:削壁っ!


ポーラ:iPadっ!


ルノ:あらあら、まだ続けていたのその醜い言い争い?


ソノミ、ポーラ:黙れよ、デカメロンっッッ!!


ルノ:そんな全100話の物語集のタイトルを叫ばれてもねぇ……


ソノミ:知るかよ!富めるものにはわからなんだよ、この気持ちはっ!!


ポーラ:そうよ、だいたい胸囲の格差社会って何よ!なんて言葉を人類は生み出したのよっ!!


ネルケ:ふふふ、聞いているこっちが胸が痛むわ……あなたたち二人には痛む胸も無いけれどね!!


ソノミ:なっ!?お前は!!

ポーラ:なっ!?アンタは!!


ネルケ:真打ち登場!!って、煽っといてなんだけれど……結局好きな相手の好みも重要だと思うから、二人とも元気を出して!


ソノミ:お前……


ポーラ:良いこと言うじゃない!!


ルノ:これは完全にネルケちゃんに良いところを持っていかれたわね


ネルケ:でしょでしょ!と言うわけで……グラウ、アナタの好みは?


グラウ:俺でオチつけるの止めろっっ!!

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