表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
83/108

第3話 裏切りの狐に、天使は裁きを… Part8

〈同刻〉―グラウ―


 円卓を挟んで向かいあう男は「優雅」という言葉が良く似合う。野郎の顔を評価する趣味はないが、彼は俺が今まで出会ってきた男たちの中で一番の美形。色の良い金髪の髪、全てを見通しているようなきりっとした瞳、その顔立ちからして北欧系の血筋が入っているのだろうか。あの天使ポーラはこの男に惚れ込んでいるようだったが、その理由がわからなくもない。顔だけで無く性格もいいしな。


「それで、俺はこのナイフを使うが、あんたはどうするんだ」


 ナイフのリングに指にかけくるくる回し、そして逆手持ちをする。仕込みナイフといえど切れ味は十分。異能力のおかげで銃は手入れの必要がないが、こいつは切れ味を維持するために頻繁に砥石を使っているからな。


「武器、か……持っていないし、いらないかな?」


 グレイズが少し自嘲気味な笑みを浮かべる。


「ステゴロということか」


「単にボクは各種武器の取扱になれてはいないんだ。だからもしボクが勝ったら、キミから銃の撃ち方でも教えてもらおうかな?」


 そんなもの部下から教わればいいものを。だが俺の射撃技術は特殊。なんたってあの英雄様(ユス)が教えてくれたものなんだから、安売りするつもりは毛頭ない。


「はっ、勝てるとでも?」


「50%もいかないけれど……勝ってみせるよ」


 とても自信なさげな声色だが――しかしその青の瞳には闘志がめらめらと燃えていた。


なるほど、あんたはただデスクの上で指を組んで、椅子に深々と座っているだけの人間ではなかったのか。正直あんたのことを見くびっていたよ。


 しかし武器に慣れていないというのは、慣れる必要が無かったからなのか、それとも本当に技術を学ぶ機会がなかったからなのか。前者であれば、そうだな……素手で戦うことを得意とした異能力、怪力とかが想定されるだろうか。しかし、異能力者組織の代表がそんな異能力だとは思えない。きっとインチキな異能力だとは思うんだが……まぁ、前者であれ後者であれ、グレイズの異能力が何であるかを推定するような手がかりは不足している。ただもう一つ引っかかることがあるとすれば、元秘書であったルノさえも彼の異能力を知らなかったということか。


 軋軋軋軋(ギシギシギシギシ)……なんだか上から足音が聞こえてくるな。この城も築何百年だそうでたびたび補修はしているようだが、確か居館のいくつかの部屋は劣化の進行具合から立ち入りが禁止になっていたはず。そんなことを知らないテラ・ノヴァの兵士が真上の部屋に入ってきのだろうか――ドスドスドスドスドスッ、駕駕駕駕駕駕(ガガガガガガ)ッッ!!、パリンッッッ!!


「耳障りだな……なぁ、グレイズ。部下にはもう少し行儀を教えた方がいいんじゃないのか?」


「ははは、申し訳ない……でも、おかしいね。なんだかただならない感じの音だよね」


 グレイズが頬をぽりぽりと掻きながら謝ってくるが、騒音のためにその声すら少しかき消されていた。続けて三種類の声も天井越しに聞こえてきた。流石に何を話しているのかは聞きとれないが、でも、なんだろうか。この女性の声、聞き覚えがあるような気もするが……まさかな――


「少し風情にかけてしまって申し訳ないけれど、始めようか」


 グレイズがネクタイを緩め、そしてなんとも不格好な構えをとってきた。そんなフォームの格闘術を俺は知らない。それに目まで閉じて……まるで俺を舐めているのかと思うが、あまりにもその動作をとってきたため奇妙に映るが――


「いいぜ、グレイズ――覚悟しなッッ!!」


 屈み、低姿勢でロケットスタート。グレイズとの距離はほんの数メートル――格闘術に関しての俺の自信はそこそこ。しかし、あのずぶの素人に負けるとは思えない。


 既に間合い、それはグレイズにとっても同じ。しかしやられる前に決めれば、やられることはない。上半身を時計回りに捻る動作と共に右腕を引き、ナイフを持つ右手をその首元を目がけて――渾身の一撃を放つ!


「おっと!」


 空を切ったか。だが一撃避けられたぐらいで終わりでは無い。続けて左足を軸にし回転、右足で着地をすると共に左足で頭を狙――はずしたっ?おいおい……なら、回転を続けそのまま裏拳を――これもだとっっ!?


「ごめんね、グラウくん」


「はっ!――うぐッ!?」


 脇腹に激痛――がら空きの腹部めがけて彼が蹴りを入れてきたことに気がついたのは、身体が宙に打ち上げてられてから。


「ぐふっッッ!」


 壁に背中を強打する。背骨は…折れてないようだ。それに喉の奥から血がわき上がってくる感覚も無い。ただ、壁に思い切りぶつかった後頭部にはたんこぶが出来ていてもおかしくはないか。


「はあっ…はあっ………」


しかし、何故か攻撃を避けきったはずのグレイズの方が呼吸を荒げていた。


「ごめん、グラウくん……休憩とか、出来ないかな?」


「人を吹き飛ばしておいて何を言い出すかと思えば……じゃあそうだな。いくつか聞いて良いか?」


「いいよ、脈が落ち着くまでの間、キミの質問に答えよう」


 グレイズの顔色が悪いな。味方でもない人間に同情するつもりはないが、相当無理をしたのか?そう心配になってしまう。


「取り敢えず壁にでも寄っかかったらどうだ?少しは楽になるぞ」


「ごめん、気を遣わせて。そうするよ」


 グレイズがふらつく足取りで俺と反対側の壁側に背を預けた。まるでエネルギー切れを起こしたロボットのようだが……少しは落ち着いたようだな。


「まず聞きたいのはあんたの異能力についてだ」


 今の攻防の間に情報を多く得ることが出来た。冷静に考えて、そうだな――


「思い浮かんだのは二つ。一つ目は俺の頭の中を読んでいる。二つ目は未来予知」


「その二つまで絞り込んだ理由を聞いてもいいかな」


「あんたが俺の攻撃を避けた、そのこと自体にはおかしい点はない。拳や蹴りなんかと比べものにならないスピードの銃弾をいとも容易く避けたり、もしくはキャッチしたりするやつらまでもいたからな。だが、あんたの避け方がどうも気になった。例えるなら――次に来る攻撃が拳によるものなのか、蹴りによるものなのか。そして一体どこを狙っているのか、それら全てをわかった上で、最小の身体の動きでそれを回避しているように映った」


「……!すばらしい観察眼、流石はグラウくんだ。そこまでの考察を聞かされては、答えを言わずにはいられない――正解は後者だよ」


 あんたの異能力は未来予知ということか。


「でも、そこまで万能で優れた異能力ではない……目を閉じると3秒先の光景が目に浮かぶんだ」


「3秒、か……」


 人が何かを認知をしてから反射的な行動をとるに至るまでは一瞬の出来事のように思う。しかし実際は結構時間がかかっているという。車に乗っていて、危険を感知しブレーキをとっさに踏むまでに掛かる時間は0.4秒。しかし脳ではなく脊髄反射で行われていてその秒数。俺の攻撃がこう来るとわかっていて、それを脳で理解し最善の回避をするというのに3秒という時間はあまりにも短いだろう。


「あんたの頭の処理速度は光速だったりするのか?」


「いや……限界を超して動いたから、この有様(パンク)というわけだよ。まぁ、それだけじゃないんだけれど」


 その額にグレイズは汗を浮かべ、苦々しい笑みを浮かべてきた。


「キミの攻撃はどれも喰らったらひとたまりも無い。吹き飛ぶどころか死ぬかもしれない一撃で……」


「ちゃんと手加減していたぞ?」


「普段身体を動かさない人間の鈍った身体にとっては、キミの拳も脚も凶器なんだよ。それを寸前で回避しても次から次へと攻撃が繰り出されて……ははは、普段からランニングでもして、最低限の持久力はつておくべきだったね」


 まだ戦いが終わっていないのに勝手に締めくくりをはじめて。ここで終わられたら、さも俺が負けたようになるから止めて欲しいんだがな。


「だが、あの蹴りは普段身体を動かしてない筋力の無い人間が放つ一撃には見えなかったが?」


「非力でも、計算で実力を覆そうと頑張ったんだよ――キミが普段しているようにね」


「…………」


 俺みたい、か。やけに俺の実力を買ってはいたが、俺の異能力がどうしようもないものであることは理解していたんだな。


「ボクがキミをテラ・ノヴァに招き入れたい一番の理由は、キミが誰にも想像つかないような奇策を巡らせる賢い人間だからだよ」


「俺は賢くない。俺の最終学歴を知っているか?幼稚園すら卒業してないんだぜ?」


「今の世界はWO(ダブリュオー)によって、少なくとも小中学校までの教育が義務づけられているのに……いったい、キミは――」


「過去を知っているんだろ?改めて驚くことはないだろうに」


 俺に学、いや、生き方を教えた人間はユスだ。だから俺はほぼユスのやり方を複写しているに過ぎない……反面教師にしている部分が3割くらいはあるが。


「でも、ボクとキミが手を組めば、この世界を変えられると思うんだよ」


 疲れ切った顔ながらに、その青い瞳はとても強い自信に満ちていた。その気迫に飲み込まれそうになるが――しかし、俺はそうは思わない。


「いいや、不可能だ」


「理由を聞いても?」


「俺をして世界を変えようと考えているのなら――世界は、血で染まることになる」


「ううん、そうはならないよ。今のキミは――英雄の面影を受け継いでいるから」


「……あんた、ユスに会ったことがあるのか?」


「さて、どうかな……」


 グレイズは答えず、壁から背を離した。ようやく、脈が落ち着いたということか。


「正直、キミの攻撃を先ほどのように避けられない……だから申し訳ないけれど次の一手で――」


「いいぜ、あんたの望むとおりにしてやるよ」


 ナイフをきつく握りしめ、再び腰を低くする。対してグレイズはまた目を瞑る。


 三秒先のことを既にグレイズは予知している。どう対抗するべきか?そんなの簡単だ――不可避の一撃でもって決めれば良い!


「いくぞ、グレイズッ!!」

「来なよ、グラウくんっ!!」


 右足に込めた力を解放――うん? 


 揺揺揺(ゆらゆらゆら)揺揺揺揺(ゆらゆらゆらゆら)…………底抜け(ドガン)ッ!?


「はあっ!?」


 爆発音にも似た音に思わず足を止め天井を見上げた。すると――上の階の床が抜け落ち、そして大量の埃とともに、見覚えのある人物が落ちてきているではないか。


「ネ…ルケ……?」


 俺はあまりの出来事に目を見開き、口が半開きのまま――気がつけば彼女の下敷きになっていた。

小話 完璧な男ぐれいず・せぷらー


グレイズ:はぁ、はぁ、はぁ……


グラウ:……大丈夫か本当に?保健室でもいくか?


グレイズ:あはは、そんなところはこの城にはないけれど……心配させてごめんね。でも、そんな風に優しいから、キミはあの二人から好意を寄せられているのかな?


グラウ:(そっぽを向いて)さて、誰と誰のことか……


グレイズ:――けれど年上として一つ忠告するけれど、二股はあまり褒められたことではないよ。痴情のもつれから刃傷沙汰に発展してしまい、女性二人を相手に大変な目にあった人物もみたことがあって……


グラウ:待て、二股なんてしていないからなっ!!俺に彼女はいないからな!!


グレイズ:…………(懐疑的な眼差し)


グラウ:いや、まじだから!!嘘突いてないから!!――はっ!?


ネルケ、ソノミ:じぃぃ~~~~~~


グラウ:なんで二人が……いや、俺、別に変なこと言ってないからな!ただ事実を述べただけで――


ネルケ:や~い意気地なし!


ソノミ:このもやし野郎っ!!


グラウ:だから八つ当たりはやめてくれっっ!!


グレイズ:あはは、本当にキミたちは仲が良いんだね


グラウ、ネルケ、ソノミ:どこが!?


ルノ:うふふ、グレイズはこういう人なのよ♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ