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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第3話 裏切りの狐に、天使は裁きを… Part7

〈続き〉―ルノ―


 指から深紅の雫が滴り、煙となってワタシを包んでいき――獣の尻尾が伸び、先端の尖った狐の耳まで生えだした、半人・半獣の姿になる。身体が軽い。軽鎧が外れたというのにこんな火照るような熱さ……高揚しているのね、いつも以上に。興奮しているのよ、この瞬間に!


「いつみても不思議な姿をしているわよね、ルノ。人の身体にして獣のパーツを持ち合わせるなんて」


「翼の生えた人間には言われたくないけれどね♪」


 そういえば、ここにいる三人とも異能力を使うとただの人の姿ではなくなるわね。青鬼のソノミちゃん、天使のポーラそして紫狐のワタシ。


「繰り返し言うけれど、一切手を抜くつもりはない。全力でアンタを倒してみせるから――」


「――ほう、全力であの程度なのか、お前?」


 まるで火に油を注ぐかのような挑発をし出したのは隣で剣をくるくる回しているソノミちゃん。ああ、ポーラが目を瞑って右手をグーにしてぷるぷるしている。あれをするってことは――


「うるさいわね、青鬼ッッ!!これからアタシとルノが一騎打ちするって時に、水を差すんじゃないわよっっ!!」


 ブチ切れているということ。そもそもポーラはグレイズ以外には怒りやすいけれど、あの様子だと、メーターが振り切れているわね。


「ほう、あの程度でルノを仕留められるとでも?こいつ、実力は私以上だぞ?」


「っ!それは……」


「ソノミちゃん、そんなにワタシは強くは――」


「真剣勝負っていうなら本気でやれよ。喧嘩は全力でやらないと後悔するぞ」


「青鬼……」


 ソノミちゃん、いったい何を言っているの――?


「グラウと戦っていた時のお前の攻撃には、あいつを散々に痛めつけてやろうという思いが感じられた。だが金髪天使(ポーラ)、お前の今の攻撃は出し惜しみが見えた。大方その理由はわかるが……ルノも立ち直ったんだ、お前も本気を出して良いんじゃないか?」


 まさかワタシなんかより、ポーラの心理状況を察しているなんて――!ただの攻撃で、そんなに多くの事なんてワタシじゃわからないのに。流石は武士(もののふ)の魂を継ぐ少女というだけのことある。でも、それを敢えて指摘するのは――


「……ッ!アンタに言われなくても、やってやるわっ、ええ、やってやりますともっっ!!というわけで、ルノ!ちょっとでも油断したら、それが命取りになるからねっ!!!」


 ポーラの戦意を向上させてしまう。つまり、それって仲間であるワタシを追い込んでいるんだけれど……あっ、今イタズラに笑ったわね!わかっていてやったってことなのね!!もう……ポーラが全力で来てくれるのはいいけれど、それを助長するなんて……あとでたっぷり身体で支払ってもらうことにしようかしら、うふふ♪


「ええ、少し痛い目をみてもらうけれど、我慢してね」


「そっちこそ、痛くても泣くんじゃないわよ、ルノ?」


 子供みたいな啖呵。うふふ、でもこれでいいの。こんなにもすがすがしい気分は久しぶり。もう――言葉はいらない。


「喰らえっっッッッ!!」


 ポーラの叫びが、第二ラウンド開始のゴングとなる。まるで数分前の再現のように浮かぶ光の輪と凶器の羽根。でも今度は違う――!


「はぁッッ!」


 回避のため後方にバク宙。でも――それで終わりではない。攻撃の雨は降り止まない。だから。つつけて側転、前宙――


「まだまだッッ!」


 バルコニーが光の輪で破壊され崩れ落ちていき、かろうじて残る足場にも羽根が埋め尽くされていく。ワタシの逃げ場はいよいよなくなる?いいえ、それならばっ!


「とウッ!」


 脚をバネのように屈伸し、一気に力を解放。空高く舞い上がり――そのまま居館の屋根に着地。


「ちょこまかと逃げて……でも、これ以上は逃げられないでしょ?」


 その通り、バルコニーがあったのは居館の右側だけ。ここから先に逃げ場はない。この屋根の底に広がるのは奈落。この屋根で決めなければ、ワタシはその時点でゲームオーバー。


「ならば決めましょう――一撃で仕留めてあげるわ」


よく慣れた構えでポーラを見上げる。


「嘗めないでよ、ルノ。でも――アナタがその一撃に全てを懸けるというのなら、アタシもそれに答える」


 そう言うとポーラが地上に降り――その両翼を消した!?


「どういうこと、ポーラ!?」


「アンタと正々堂々やって勝ちたいの。どうせ空中へ攻撃なんて出来ないでしょ?だから地面に足を付いて迎え撃つ。なら、翼はもういらない」


 翼が邪魔になる、と言いたいのね――うふふ、正々堂々か。Mr.外道のグラウが聞いたら「反吐が出る」とか言い出しそうね。でも――ワタシは好きよ、そういうの。アナタとなら――。


 ポーラが光の輪を掴むとまばゆい光が放たれ、そして形状が鋭利になっていく。


「これが本気。アンタに言われた通り、近接戦闘だって鍛えたんだから」


 まるでそれはジャマダハルのよう。握りがH型をし、突くこと特化した刀剣。その切っ先をワタシへと向けてきた。


「これが今のアタシの全力だから――アンタも本気で来なかったら許さない!」


「ええ、もちろんよ。アナタに負けるつもりはないから!」


 ゆっくり呼吸をし、身体に酸素を満たしていく。そして十分になり、最後は大きく息を吸い込み――ワタシたちは息の揃った同じタイミングで互いに駆け出していた。


「ウラぁぁァァァっッッッッーーーー!!」

「ハァぁぁァァァっッッッッーーーー!!」


 ねぇ、ポーラ。アナタとこうして全力で戦うのは何年ぶりかしら?もうずっと長い間、ワタシたちは模擬戦なんてしなかったわよね。


 アナタに戦い方を教え始めた頃は、アナタをただの可愛い妹のようにしか思っていなかった。アナタを蝶よ花よと育て――いずれ、薄汚れた道から外れた普通の女の子にしようとしていたの。可愛いアナタに戦いの道なんて似つかわしくない。だから、ワタシはアナタに戦いの核心なんて教えなかった。


 でも、それなのにアナタはメキメキと力をつけていった。いつの間にかアナタは、ワタシにとって誰よりも頼れる存在にまでなっていた。その時ようやくワタシは気がついたのよ。アナタのグレイズへの忠誠心、いえ愛情が本物だということに。だからもう、アナタへの教育で手を抜くことは止めた。ワタシが去った後、アナタが一人でグレイズを守れるようになってもらうために。


 アナタはワタシの教え子で、最高の相棒そして――ワタシの初恋の相手。ソノミちゃんも、ネルケちゃんも愛しているけれど――やっぱり、一番に思い浮かぶのはアナタの顔なの。ワタシはアナタの全てが好き。そのニコッと笑った表情、照れた顔、ツインテールのブロンドの髪に、天使のような翼。でも、アナタの恋だって応援しているの。グレイズの隣に一番よく似合うのはアナタだから。彼がどう思っているかはわからないけれど、頑張り屋のアナタならきっと彼と上手くいくわ。


 アナタは矛盾していると思うかしら?いいえ、何も矛盾はないわ。ソノミちゃんとネルケちゃんがグラウを好きでも構わないように、ポーラがグレイズを好きでも構わない。だって――好きな人の幸せを願えないなら、それは愛だなんて言わないから。


 距離が近づいていく。この一撃は、ワタシの全て。ワタシが出来る、アナタへ見せるサイゴの大技。だから、受け取って――


「っ……流石ね、ルノ………」


 勝ったのは――ワタシだった。半獣化は、俊敏性を高くする。ネルケちゃんのように相手の時間を鈍化させるわけではないけれど、ワタシはその特性によって相手に先んずることが出来る。ワタシがしたのは、ポーラが間合いに入るよりも先にその身体に全霊の一撃をたたき込んだというだけ。それでもこれは、いわゆる必殺技なのだけれど――ポーラが脇腹を押さえながら、その場に倒れ込む。だから、急いでその正面に座り、彼女の肩に手を伸ば―― 


 パシンっ!


「ポー……ラ?」


その手は軽く払いのけられた。それでも――


「もう仲間じゃないから……アンタに、施しなんて――って、聞いているの!?」


 めげることなくポーラをそっと抱きよせる。ポーラの柔らかな感触が伝わってくる。ほんのりとハーバルな匂いが鼻腔をくすぐる。


「ごめんなさい、ポーラ。アナタになにも言わずにテラ・ノヴァを抜け出して」


 ようやく謝ることが出来た。ただ「ごめんなさい」の五文字を伝えたかったのに、こんなに遠回りをするなんて。でもね、ポーラ。ワタシにとってアナタと別れることは辛くて、切なくて、怖くて……アナタは「バカみたい」っていうかしら?


「ルノっ――!」


 今度はポーラがワタシを抱き締めてきた。きつく、とてもきつく――


「あの、ポーラ?出来ればもう少し優しくして欲し――」


「うるさいっ!今は、今は……」 


 その気丈な声は湿りを帯びていき、そして嗚咽混じりになっていく。ポーラ――アナタに泣かれたら、ワタシだって耐えきれないわ……


「ルノ、アタシは…アタシは、ただ一言声をかけて欲しかったの。そうしたら……アタシはアンタに残って欲しかったから、認めるかはわからないけれど……でも、きっと笑顔でアンタを見送ることが出来た」

「ポーラ……ええ、本当にそうするべきだったわ」


 ワタシには返す言葉がない。ただ、「残って欲しかった」という言葉が切なく胸につき刺さる。


「……例の復讐のため、よね?」


「ええ」


 長年一緒にいるから、やっぱりアナタは理由の見当もついていたのね。


「組織として一体性を保つため、テラ・ノヴァは全てグレイズの意思で動いている。だから、彼が望まないことを勝手にすることは出来ない」


「でも、別にそれはどんな組織でも共通でしょ?P&Lだってそこは変わらないんじゃないの?」


「ええ。でも、確実に近づいているわ。だってP&Lは――三望枢機卿を殺害しているもの」


 ポーラが「ああ」と声を漏らし、ワタシの言わんとしていることを理解してくれた様子。


「いずれ、あの人も出てくる――」


「――三望枢機卿。デウス・ウルトの話か?」


 背後から声が聞こえて振り向くと……ソノミちゃんが腕を組んで立っていた。どうやら、会話の内容はよく聞こえてなかったようね。


「邪魔したか?」


「邪魔よ、青鬼ッ――!」


「いいえ、ソノミちゃん……ちょうどいい機会だから、アナタにはワタシがP&Lに加入した理由を話そうと思うわ」


 名残惜しいけれどポーラから離れ、ソノミちゃんと向かい合う。


「二人にもではなく、ワタシにだけか?」


「その……あまりしたい話ではないから」


 その言葉でソノミちゃんも察してくれたようね。ふう、このことを告げるのは、とても気が滅入る。決して大声で言えることではないから――


「驚かないで聞いてね。ワタシの父は――デウス・ウルトの三望枢機卿の一人なのよ」


―ソノミ―


「は?」


 驚くな、なんてことを言われていても、流石に声が漏れてしまう――ルノの父親が、デウス・ウルトの枢機卿の一人?


金髪天使(ポーラ)、お前、ルノになんかしたか?」


「していないッ!人からルノを奪っておいてなんなのよその態度っ……」


 事実なのか。なんと声をかけたらいいのだろうか?気の毒、なんて言えないし、かといって良かったとも言えないもんな……


「まぁ、ワタシはあの人のことをもう父だとは思ってないし、それにワタシの目的は――父を殺すこと」


「はあっ!?」


 ダメだ、驚きの連続で開いた口がふさがらない。きっと私は今、鳩が豆鉄砲を連射されたような顔をしているだろおう。立て続けに衝撃の事実が押し寄せすぎだ。


「テラ・ノヴァとデウス・ウルトは完全に敵同士なのだけれど、グレイズは正面切ってやりあわない。彼は穏健な人物だからね」


「グレイズ様は皆のことを考えて、他の組織と多くことを構えないの」


 副音声が聞こえてくるが、要するにグレイズ・セプラーはチキンということか。


「おい青鬼。今、グレイズ様を侮辱しなかったか?」


「お前もエスパーか何かなのか!?」


 むきぃ~~!と怒ってくるが無視する。なんでネルケにもばれて、こいつにもバレるんだよ……案外顔に出やすいのか、私?


「話を続けるけれど、テラ・ノヴァにいてはいつまで経ってもワタシの本懐は果たされない。そのことは明らかで、ワタシはいつも葛藤していた。そんなところに枢機卿の一人が殺されたという情報が耳にはいった」


「――なるほど、因縁のついた組織にいた方が、その人物に近づけるという腹か」


 みなまで聞かなければわからない私ではない。


「そういうこと。勝手な人間でしょ、ワタシ?」


「うちは全員勝手なヤツばかりだろ。グラウは誓いを建前に告白を保留とか言い出すし、ネルケは場所をわきまえずグラウを襲うし、私は……前回仲間を睡眠薬で眠らせたし」


「そんなことしていたの、ソノミちゃん?」


「……ちゃんとその後謝ったからな。だから聞いて忘れろ。まぁ、そんな連中ばかりだから、どんな目的がを持っていてもいい。だが――」


「だが?」


 これはグラウの受け売りだ。だが、とても気に入っている。なぜならこれを言われたからこそ、私があいつを好きにったのだから。


「私たちは家族なんだから、お前の辛いことだって一緒に背負ってやる。だから、一人で突っ走るなよ?」


「ソノミちゃん……!」


 あれ、ルノが涙目から一転、目をきらきら輝かせて――あぁ、これは危険なやつだ。


「ソノミちゃん~~!」


 ルノが飛び付いてきて、思わずバランスを崩してその場に倒れこむ。しかしそんなことお構いなしに、ルノはぐりぐりと頭を擦り付けてきて――


「この、離れろッ!」


「イヤよ!これはさっきポーラを煽ったことへの仕返しでもあるのだから!」


 煽る……ああ、全力でうんぬんの話か。いや、どうなっても後腐れをないようにした方がいいと伝えたかったのが第一で。もちろん、半分悪ふざけはあったけれど――


「ルぅぅノぉぉォォォっっっ~~!」


「ポーラ?」


 一人放置された金髪天使はゴゴゴと怒りを煮えたぎらせ、まるで子供のように拗ねていた。やっぱりこいつら仲良しなんだな。


「うふふ、混ざりたいのね。ほら、ならポーラも来て。これでさんぴ――」


「「それ以上は言うなっ!!」」


 互いに素性を知らない同士なのに、まるで示し会わせたように金髪天使と声が重なった。あぁ、これから先も、このお狐様には頭を悩まされていくことだろう――

小話 女性に聞いてはならないこと


ソノミ:ルノ、お前、結局何歳なんだ?


ルノ:(昨日やるはずだったネタをぶち込んできたわね!)そうね……2ソノミちゃんで許してあげるわ!


ソノミ:なんだその単位っ!?全身が鳥肌たったぞ!!


ルノ:大丈夫よ、やさしくするから!


ポーラ:ふ~ん。ならば青鬼、代わりにアタシの年齢を教えてやろうか?


ソノミ:なるほど。お前の年齢がわかればルノの年齢を逆算できるな。ふむ、頼む


ポーラ:ということで、ルノ。これはアンタへの仕返しってことで。アタシの年齢は――って、どこ触っているのよ、ルノ!殺されたいの!?


ルノ:どこでしょうね♪うん、これっぽっちも成長していないっ!さてこっちの娘は――


ソノミ:おい、来るな!わかったから、もう詮索しないから!!


ルノ:うふふ……謝ってもゆ・る・さ・な・い!うふふふふっっっ!!


ソノミ、ポーラ:ぎゃああああぁぁぁぁっっっーーーー!!

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