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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第3話 裏切りの狐に、天使は裁きを… Part5

〈同刻〉―ソノミ―


「さて、平穏無事に軟禁されたわけだけれど……」


「軟禁されている時点でどこもつつがなくはないんだけれどな」


 エメラルドグリーンの髪をした少女と二人の兵士によって、私たちは二階の客室へと連れて行かれた。ベッドは一つ、椅子も一つ。ここは本来シングルの部屋なのだろう。しかし彼等は私とネルケを別室にすることはしなかった。それは私たちへの配慮か、それともまとめて一部屋に入れておいた方が彼等にとって都合が良いのか。もちろん私たちとしてはありがたい状況である。ネルケと一緒なら、何かと心強い。


 ネルケはベッドの枕を抱きしめながら横になっている。一方私はクラシックな柄の椅子に腰掛け、差し出されたペットボトルの水で喉を潤している。


「ソノミ、お腹の傷は大丈夫?」


「問題ない。この程度で私はへばらない。だが……どうしようもない状況になってしまったな」


 今のところ私たちが兵士たちから何かをされる気配はないが、あの二人が心配だ。グラウはグレイズ・セプラーと向かい合っていることだろうし、ルノはあの金髪天使(ポーラ)と戦っているのだろうか?


「そうね……ねぇソノミ、大丈夫って言葉、信用していいよね?」


「当たり前だ……さてはお前、何か企んでいるな?」


 ネルケがいたずらな笑みを浮かべている。


「もちろん!ここから脱出するわよ!!」


 私を指さしながら、ネルケは自身に満ちた声で高らかに宣言した。


「どうせそう言い出すと思っていた。はぁ……」


「やっぱり傷が痛む?」


「違う。グラウは、何か考えがあって無抵抗に投降するという選択をした。そうは思わないか?」


「まぁ、“何かあったら二人で逃げ出せ。ルノは俺に任せろ”なんて言っていたから、確かにそうなんでしょうけど……」


「私たちが変に行動を起こして、むしろグラウの策を狂わせる可能性があるとは思わないか?」


 私の問いかけにネルケはむむむと唸り、顎に指をかけ悩み始めた。それから十秒ぐらいが経って、ネルケも気がついたようだ。


「そういう可能性があるとは言ったけれど……ソノミ、わたしの考えに反対とは言ってないわよね?」


「まぁ、そういうことだ。私が言いたかったのは、もしかしたら後でグラウに怒られるかもしれないということだけだ」


 誰がネルケの考えに反対するか。こんな部屋で指をくわえて全てが終わるのを待っているなんて出来る質ではない。ネルケだけではなく、私も。後でグラウになんと言われようが、「説明しなかったお前が悪いと」二人で反論すればいいだけのことだ。


「流石はソノミ!気が合うわね、わたしたち!同じ人(グラウ)を好きになっただけのことはあるわね!ソノミがわたしの恋敵(ライバル)でよかったわ!!」


 少し前だったら、恋敵と言われたことに噛み付いて、それからネルケと自分のスタイルを比べて嘆いていたかもしれないが――今の私は違う。あの遊園地で私は誓った。勇気を出して一歩前にすすむと。そう簡単にあいつ(グラウ)を譲るつもりはない。


「本当だ、お前だったら張り合いがある。お前が見た目だけの物言う花だったら速攻で斬り捨てていたかもしれない」


 啖呵を切ってやったつもりなんだが……なんか、変なことを言っていないか、私?


「ソノミ、それは怖い……」


 でもなんかネルケに言われるとむかつくんだよな。


「お前の依存症のようなグラウへの愛に比べれば私の恋愛観はまともだろ」


「わたしのは直球だからいいんです~~!現実世界のツンデレはただの暴力です~~!!」


 なんだ、ツンデレって、私のことを言っているのか?この私が……!?そういうことには疎いから、本当にそうなのかはわからないが……ふっ、いいものだな――


「こうして歯に衣着せぬ暴言の応酬が出来る関係の仲間が出来て、私は幸せだ」


「親しき仲にも礼儀ありを真っ向から否定している気もするけれど……でも、私も嬉しいわ、ソノミと友達になれて」


 ネルケがまっすぐにアメジスト色の視線を向けて微笑んできた。なんだか面映ゆい。それに、やっぱりこいつは黙っていれば完璧――


「今すっごく失礼なこと考えなかったかしら?」


「いや、物言わなければ完璧な花だなんて思ってない」


「それ思っているってことよね!!」


 むきぃ~~!とまるで猿かとツッコミをいれたくなるような怒りかたのネルケ。


 でも、本当に幸せなんだ。心が温かいって気持ち、長らく忘れていたけれど、こういうことだったのか。仲間……いや、本当にこいつらは家族のように尊い存在だ。だから――もう誰も失いたくなんてない。私が必ず全員守り抜く。


「わたしはまだそんなにお話していないけれど、ソノミ、ルノとも仲が良いわよね?」


「まぁな。あいつにとってどうかはわからないが……」


「きっとルノもそう思っているって!」


 元テラ・ノヴァという経歴を持つルノ。あいつは私たちのことをどう思っているのだろうか――あいつは多くのことを語るタイプではない。だからと言って無口というわけではなく、真顔で私の唇を奪おうとしてくる危険な人物ではあるが……根がいい、仲間思いのやつだということは十分にわかっている。私が吸血鬼に血を啜られた時には憤慨してくれたし、そしてついさっきだって私のために異能力を使ってくれた。


 果たしてあいつは今、どんな心境で元仲間と戦うっているのだろうか?私にはわからない。もしも三人と敵対することになったら……そんなことを想像するだけで、胸が苦しくなる。嫌だ、絶対にそんなことは――


 ああ、そうだ。ルノだって、きっと辛いはずだ。いくら覚悟を決めていたとしても、一度仲間だった者たちと戦うなんて、罪悪感や不安で押し潰されそうになるに決まっている。それにあいつ、仲が良かった金髪天使(ポーラ)と戦っているんだろ?だったら今ルノは――


「ネルケ。ルノは私が助ける。お前がグラウの方に向かえ」


 今こそルノに恩を返すべきだ。ルノは今、きっと不安定な状況にあるだろう。あいつは今、私に例えるなら、目の前の恋敵(ネルケ)と戦っているようなものだ。考えたくもないけれど、そんな状況になったら、私は刀なんて抜けない。きっとネルケに身を委ねてしまう――


 だが、ルノがもしそうだとしたら、私はそれを許すわけにはいかない。あいつはもう仲間なんだ、家族なんだ。見捨てられるわけがない。


 まぁ全部憶測だし、全て杞憂で、もしかしたら平気な顔で戦っているかもしれない。それに恩なら、グラウにだってもの凄くあるけれど……そっちは一生かけて返せば良い。だが、ルノの場合恩があるからと言って何を言い出すかわからないだろ?あいつ「身体で返して」とか本気で言ってきそうだし。だから、一刻も早く恩を返さないと私の貞操が――!!


「私は一体何を考えているんだっ!!?」


「しっ、知らないわよ!いきなり大声出さないでよ、驚くじゃない!!」


「すっ、すまない……」


 大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。なんでルノのことを考えた終着点であの二文字が思い浮かんだのだろうか?いや、私は悪くない。全部出会って数分で唇を奪ってきたあいつのせいだ。あの出来事のおかげであいつはネルケとは別方向の変態というイメージがついて―― 


「また失礼極まりないことを考えたでしょ!!」


「っ!!お前、エスパーか何かか?」


「なんとなくわかるわよ、もう……」


 でもお前がグラウに対しては淫蕩なのは事実だがな。


「とりあえず……わたしがグラウ、ネルケがルノ、それで異論はないわ」


 ネルケが私が言ったことを反復、それからベッドから身体を起こした。


「待て。まさかその勢いで飛びだそうなんて考えてないよな?」


「そのつもりだったけれど?」


 さも「当たり前だ」と言いたげな表情をしてくる。


「お前、太もも触ってみろ。何もないだろ?」


 なまめかしい手つきでその太ももに手を走らせると、ネルケは「あ!」と声を漏らし、表情の雲行きが怪しくなっていった。


「素手でいかないとなのか……」


 私たちは全員、城に入る前に武器を没収されている。グラウは拳銃二丁とその他もろもろ、私は刀、ネルケはナイフ、ルノは鉤爪。


「柔術の心得は多少あるから私はいいが――」


「ふふふ、わたしもあるんだなぁ~~!」


 腰に手をあてえっへんとポーズを決めてくるが、何故そこまで自己主張してくるのかわたしにはわからないのでスルーする。


「でも、ソノミが異能力使えないのはいたいわよね」


「ああ、まったくだ」


 そう、私に関しては青鬼のお面までも奪われてしまっている。あれがないと非常に不安だ。この異能力者がひしめく空間において、異能力発動のトリガーが手近にないのだから。


 鬼化(きか)が使えない以上気を引き締めていかなければならない――ん?ネルケが置かれていた段ボールの中から何かを取りだして、それを私へ……?って、おい。


「馬鹿にしているのか、お前?」


「本気よ本気!ソノミ、あの青鬼のお面じゃないと鬼化(きか)は発動出来ないの?」


 差し出されたのは丸顔をした、まん丸の目、そして耳、とんがった鼻をした――ネズミのマスク。これは宴会芸の時に被るやつだ。何故こんなものがここにある?いや、そんなことよりも――


「そもそもいつものあれでしか鬼化を発動したことはなかったから、別なものでも出来ないとはまだわからないが……本当に被らなきゃダメか?」


「命の駆け引きをしている場所なんだから、文句なんて言っていられないでしょ!大丈夫、ソノミなら出来るわ!」


 期待されているのは嬉しいが、異能力が発動出来るか否かは気持ち一つで出来ることではないと思うんだが……まぁ、いざその時が来たら一か八かでやってみるしかないだろう。


「ソノミ、右をよろしく」


 ネルケが両開きの扉に前に立った。私も急いで左側に立つ。


「相わかった。そこから先はどうする?」


「各自別行動。わたしはグラウの元へ、ソノミはルノの元まで駆け抜ける!」


「無鉄砲すぎるが……どうせ私たちじゃ、グラウのような完璧な作戦は立てられないし、そのくらいがちょうどいいのかもしれないな」


 ネルケが小悪魔のような笑みで返してきた。たまにはこういうクレイジーな作戦もありかもしれない。なんたって私達は互いに頭のねじが数本吹き飛んだような仲間同士。ミラクルだって起こせるはずだ!!


「それじゃあ5、4、3――」


 ネルケに代わって続ける。


「2、1……退け、クソ野郎どもッ!!」


「美女二人のお通りよっ!!」


 寸分違わぬタイミングで扉を蹴り飛ばした――待っていろ、ルノ。お前は、必ず私が助ける!!

小話 めっちゃ気が狂った少女たち


ネルケ:わたしとソノミとルノを足して3で割ったら真人間になると思う?


ソノミ:無理だろう。中和なんてされることがなく、愛情表現激しくて、なのに近寄られたらぶっ飛ばして、同性にすら言い寄る……フ○○キンクレイジーガールが誕生するだけだ


ネルケ:うわ、救いようがないね……というか、そんな言葉使って良いの?


ソノミ:だから本編ではなくこっちでしているんだろ。それにヤバくなったら消せば良いだろ


ネルケ:それもそうね。あっ、ルノ!あなたもフ○○キンクレイジーガールズの一員ね!!


ルノ:ねぇ、いったい二人は何を話していたのかしら!?あの、流石のワタシでもそんな不名誉な集団の一員に巻き込まれたくはないんだけれど?


ネルケ、ソノミ:ですよね~~

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