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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第3話 裏切りの狐に、天使は裁きを… Part3

〈2122年 6月7日 5:17PM 第二次星片争奪戦終了まで約31時間〉―グラウ―


 グレイズの護衛に挟まれる形で、俺は彼の後について行った。そして辿り着いたのは、獅子の彫刻が彫られた扉。彼が扉を開けると、部屋の中に赤いクロスが敷かれた円卓、その円卓を囲んで6つの金色の装飾が施された椅子が置かれているのが目に入った。彼がまず部屋に入り、そして一番奥の椅子に座った。


「どうぞグラウくん、お好きな席に」


 言われるがままに、グレイズの反対の席に座る。


 壁には剣と盾が飾られ、机にはチェスの駒と古めかしいイギリスの地図が。このファーカー城は今は観光地となっているそうだが、当時のままの状態で保存されていると聞く。これらのものが置かれていた部屋ということは、ここは城の作戦会議の場所として使われていたのだろうか。


「改めてはじめまして、グラウくん。テラ・ノヴァの代表として、話合いの場についてくれたことに感謝を述べさせてほしい」


 グレイズの護衛の兵士から、ティーカップが差し出された。


「………」


「紅茶は好みではないかな?いや、違うようだね……安心してくれたまえ、毒は入っていないよ。怪しいと思うなら飲まないでくれてもいいけれど、それは王室御用達の店の紅茶ブルーレディという――ふっ、飲んでくれたね」


 王室御用達など、どう考えても高そうな紅茶をみすみす逃すわけにはいかない。紅茶を口に含んだ途端、グレープフルーツのさわやかな香りが一杯に広がっていく。こんな香り高い紅茶、今まで飲んだことがない。


「あんた、揃えるものはすべて最高級、とかいう口の人間か?」


「いいや、別にボクはそういう口ではない。客人におもてなしを、というだけさ。ボクは一般家庭で育ってきたからね。グラウくん、前回の争奪戦で日本のカップラーメンを食べる機会はあったかな?」


「まぁ、あったが……あんたも食べたことがあるのか?」


「もちろん。執務に終われているときはよくケトルでお湯を沸かし、容器に注いで三分間待つんだ。あの短時間であれだけの味、凄い技術だと思わないかい?」


「思うが……ふっ、あんた、想像していたイメージと全く違うな」


 あのテラ・ノヴァの代表様がカップラーメンをねぇ。毎日ステーキ、フォアグラ、キャビア、トリュフ……そんな貴族めいた食事しかその口には入らないかと思っていたのに、案外庶民的な人間なんだな。


「少しは警戒心を緩めてくれたかな?」


「さぁ、どうだろうな?紅茶には毒は入っていなかった。それとあんたが思ったより普通の人間とわかっただけの話さ。あんたらを信用するつもりにはまだない」


「それは手厳しい……けれど、その用心深さがキミの強さであるのだろうけれど」


 決して緊張の糸を弛緩させることはない。グレイズ・セプラーについて知ることは少ないのだ。裏をかいてくる可能性もある。いざとなれば、すぐにでも――


「では、本題に移ろう。二人は部屋の外で待機していてくれ」


「しかし――」


 グレイズの命令に、護衛は異議を述べた。しかしグレイズが小首をかしげ目配せをすると、彼等はおとなしく部屋の外に出て行った。これで俺とグレイズの二人きりになったわけだ。本題ね、いったい何を言い出すのか。


「単刀直入に。ボクがキミを読んだ理由、それは――グラウ・ファルケくん、テラ・ノヴァに来ないか?」


 なるほど、そう来たか。


「ほう。どうして他のメンバーじゃなくて俺なんだ?一番弱い俺にそんな話を持ちかけるあんたの気持ちが知れない」


「それは嘘だ。キミは第一次星片争奪戦におけるWG(ダブリュジー)の指揮官を撃破しただろう?」


 まだ食いついてくるか。人を見る目がないな、この男は。


「偶然だ。もう一度戦ったら、確実に俺が負ける。なぁ、教えてくれないか?あんたはどうして俺を過大評価している?」


「キミの第一次星片争奪戦での活躍、そして――キミの過去からさ」


 過去、と聞いて背筋が凍った。それを、どうやって……過去のことなど、あいつら(・・・・)を覗けばラウゼしか知らないはずなのに!


「どこまで知っている?」


「キミがユスティーツ氏に出会う以前のことも知っている」


 ずいぶん詳しく知っていやがる。そしてそれならば――俺の異能力の秘密も!


「………くっ!」


 立ち上がりホルダーに手を…そうだった。銃は今没収されているんだった。


「銃があったら、その口をボクに向けていたかい?」


「その通りだ、この野郎ッ!」


 俺だけの秘密を、ユスとの約束を詮索するような真似を!!


「あんた、触れちゃいけない過去ってのがあると思うぜ!」


「キミの気に障ったのならそれは謝るよ。でも……いや、キミの異能力は銃弾の無限装填、その理解でいいかな?」


「そうしろ」


 答えながら。腰を再び椅子に落ち着けた。それから溜息を一つ。


「グラウくん、それでどうかな?テラ・ノヴァに入る気は?」


「今の流れでそれを聞くか?だいぶ心証が悪いぜ……それに、素性の知れない男が代表の組織に与するつもりはない」


「そうかい……ならば、こういうことをしないかい?ボクはキミに二つ質問をする。キミはボクに三つ質問をする。それでボクのこと、組織のことを知る機会にはならないかな?」


 悪くはない。こちらに有利な条件もつけてきたか。


「質問の内容に制限は?」


「ないよ。でも、キミは答えたくなければ答えないでくれても構わない。質問はテラ・ノヴァのこと、ボクの個人的なこと、別な組織のことでも構わない」


 グレイズに聞きたいことなど山ほどある。3つか――


「まぁいいだろう。あんたから質問してくれ。その間に考える」


 ティーカップを口に運び、唇をぬらす。慎重に質問を選ばなければならない。


「じゃあ……グラウくん、P&Lは星片の破壊が目的と聞く。その理由を教えてはくれないかい?」


「星片は、絶賛今も行われているが、血で血を洗う戦いを起こす。そんな争いの火種が世界に存在してはならない。そんな穢れた結晶によって叶えられて良い願いなどない。だから破壊する」


 俺の理解であり、組織の理念に沿った解答であるはずだ。


「なるほど、君たちも平和を希求しているわけか」


「あんたらよりかもな」


「ふっ……それじゃあ二つ目。キミはどうしてP&Lにいる?」


「その理念に賛同したから――」


「本当に?」


 すぐに「そうだ」と言えばいいのに、言葉に詰まった。でも、今の俺は――


「昔どう思っていたかはどうであれ、今はそうだ。あんたが知っている通り、俺は“英雄の息子”だ。あいつの意思を引き継ぎ、それを体現することこそが俺が戦う意味だ」


「そうかい……キミはなかなか正義の心に満ちた人間なんだね」


「どこがだ?あんた、病院にいって耳と脳の検査を受けたほうが良いぜ。俺の言葉が鼓膜で変換されているか、それかもしくはあんたは思考障害をおこしていると思うぜ」


 グレイズは微笑で返してきた。散々暴言吐いたのに言い返さないか。不動心でも宿っているのだろうか――さて、今度は俺が質問する番だ。三つの質問は……ああ、これでいこう。


「俺からあんたに。一つ目。どうして異能力者の地位向上を求めるテラ・ノヴァが星片を狙う?奇跡の欠片に目がくらんだのか?」


「いいや、星片の願いを叶える、その部分に惹かれたのではないさ。しかしそれが世界的に価値あるものであるのは事実。その具体的な価値は、ある大国の国家予算にさえも匹敵するという。つまりそれがあれば、いろいろと交渉が楽になるよね」


「どことだ?」


「……それも一つ目の質問の内に留めておいてあげるよ。WG(ダブリュジー)だよ。ボクたちテラ・ノヴァにとって乗り越えなければならない一番の障壁は異能力規制法。それが有効な限り、ボクたちの理想郷(ユートピア)は実現されない。星片はその失効を求める交渉において、切り札となりえるとは思わない?」

「例え争奪戦において異能力者をその殺してもか?」


「何の犠牲もなしに理想が実現出来ると思うほど、ボクは考えが甘い人間ではないよ」


 ただ理想を語るだけの人間だと思っていたがそうではなかったと。


「二つ目。あんたにとっての理想郷(ユートピア)って何だ?異能力者と非異能力者の地位が逆転した世界か?」


「ふふ、そう来たか。ボクにとっての理想郷(ユートピア)、それは異能力者と非異能力者の間の壁を無くし、手を取り合えるような世界さ」


「具体的にはどうする?」


「異能力者/人間という区別をまず根絶する。異能力者は人間という種の一部に過ぎないからね。そして異能力者が、その異能力というアイデンティティを自由に実現できるように制度を整える」


「本当にそんなことが出来るとでも?なぁ、こうは考えられないか?今は異能力規制法があるから、そして異能力者の数が非異能力者より少ないから、非異能力者への差別が起きてはいないって」


「確かにそれは言えるね。異能力者が異能力を使えるようになったら、そして人口が逆転したのなら、当然マイノリティとなった非異能力者への差別は起こる。でも、それは意識一つで変えられることさ。人間は善なる生き物だからね」


「俺は悪なる生き物だと思うがな」


 性善説、性悪説という言葉が頭に浮かんだ。かの思想家孟子は人間の本性は善であると唱えた。対して筍子は人間の本性は悪であると唱えた。俺はどう考えても後者だと考える。前者だというなら――俺は誰一人殺すことなく生きることが出来ただろうから。


「もっと熱く議論をするかい?」


「弁論はあんたの十八番だろ。わざわざ論破されるかもしれないのに挑むつもりはない」


 そんなに長くグレイズと話をしたいわけでもないしな。


「じゃあ最後。あんたら、Lowless(ロウレス)という組織について知っているか?」


Lowless(ロウレス)ね。知っているよ。彼等について聞きたいと言うことだね」


 その通りとうなずく。進行形でミレイナさんに調べてもらっているが、情報を集められるならそうしておきたい。


「あまり多くのことは知らないけれど……彼等の理想はボクたちに近く、そして離れているといえるだろうね」


「矛盾したことをいうな」


「そうだね…彼等もどうやら異能力者の救済を行っているようだ。しかし彼等はボクたちとは違って非異能力者を目の敵にしている……デウス・ウルトの真逆とも言えるね」


 非異能力者嫌いというというわけか。そういえば、あの吸血鬼に宛てられて手紙に「迎えにいく」と書いてあった。吸血鬼は悩んでいた、その異能力による渇きに。それを救おうとしていた……そこまでなら良いが、非異能力者を目の敵か。それがデウス・ウルトばりにだとなれば、かなり危険な組織であることは間違いない。


「彼等について今現在わかっていることはそう多くはない。しかし、彼等ともいつか交渉の席を構えるべきかもしれないね……彼等が単一の組織であれば良いけれど……」


「うん、どういうことだ?」


「こっちの話さ」


 何か隠している?まぁ、無理に聞くつもりはないが。


「それで、グラウくん。どうだろうか。テラ・ノヴァに入ってくれる気にはなったかい?」


 すっかり代表による会社説明会のように感じていたが、元はそんな話だったな。正直、答えなんて最初から出ていたが――


「――嫌だね。あんたらの組織には入らないさ。仲間をもう二度と裏切るつもりはない」


「二度と、ね……ふふ、そう来るとは思っていたよ。キミは強情な様だから」


 わかっている上でやるなんて、そんなに俺をヘッドハンティングしたかったのか?まぁ、俺は自分の意思を貫くだけ。そう――このまま終わると思うな。


「それではグラウくん、あのお二人を解放し――ん?どうかしたかい?少し殺気だっているようにみえるけれど」


「その通りだ。あんた、俺を誰だと思っている?」


 詳しく俺のことを調べたというのなら、あんただって理解しているはずだ。俺は、あんたらが高尚な理念を掲げた組織であっても、ただ俺たちの味方ではないだけであんたらを利用しようと企む質だということを。


「ふふ、そういうことか……ボクを殺そうと?」


「いや、人質にする。あんたをこの場で拘束すれば、あんたの従順な部下達は俺の言うことを聞いてくれるだろ?」


「かもしれないね」


 一切同様の素振りを見せない、か。肝が据わっていやがる。


「ちなみに、ボクが叫べば二人がやって来るけれど?」


「そうしてくれたらちょうど良い。自動小銃という武器を運んできてくれるんだからな」


「キミは今異能力を使えないだろう?あの拳銃がないんだから。それでどうやって戦うつもりなのかな?」


「異能力が使えないというだけで、戦えないわけじゃない」


 ベルトのバックルを弄り――指をかけ、ナイフを一本引き抜く。


「隠し武器ってやつだ。ナイフ一本あれば、いつも机に座っている人間ぐらいならなんとかなるだろ」


「そうかい……じゃあこうしよう。護衛は呼ばない。ボクがキミの相手をしよう。そしてキミがボクにナイフを突き付けることが出来れば、キミの言うことを一つ聞こう。別にそのまま好きなようにしてくれても構わないけれどね。でも、ボクがキミの頸の左側に触れたら、テラ・ノヴァに来てくれないか?」


 まだそれを狙っているのか……でも、そうだな。その提案を受け入れた方が良さそうだ。この男、会話の間に嘘を吐いてはいなかった。怪しい動作を一つたりともしなかった。俺が勝てば、本当に俺の命令をなんでも一つ聞いてくれるだろう。しかし、そのまま拘束すれば……素直に従わないと言いたいのだろう。


「いいだろう。だが……あんた、戦えるのか?」


「テラ・ノヴァがどういう組織か失念したのかい?」


「……そうだな、異能力者の組織の代表は当然――」


「異能力者というわけさ」

小話 布教


グラウ:グレイズ、カップラーメンの中で一番好きなのは?


グレイズ:商品名を出すのは不味いんじゃないかな、グラウくん


グラウ:ちなみに作者は湯切りに失敗すると大惨事が起こるやつが好きみたいだぞ


グレイズ:それとシーフード味のアレも好んでいるそうだ。うん、ボクもアレは好きだよ


グラウ:昔は容器が薄かったせいか、隣の匂いの強いものの匂いが移ったりしたよな


グレイズ:今の技術の発展は素晴らしい。開発者に感謝しないとね

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