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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第3話 裏切りの狐に、天使は裁きを… Part1

〈2122年 6月7日 4:46PM 第二次星片争奪戦終了まで約32時間〉―グラウ―


「なるほど、それがその半獣化の異能力による変化と」


 ルノの頭から伸びた先端の尖った耳、そして尾てい骨付近から生えたもふもふとした尻尾……彼女は元々つり目で狐顔をしていたが、これで完全にお狐様に違いなくなった。コスプレイヤーなる人たちも何かのキャラクターを演じるために偽の耳や尻尾をはやすことがあると聞いていたが、ルノのそれは異能力で出来た本物(・・)。人間に存在しないものが生えていることに違和感はあるが、彼女のその美貌にそれらのパーツは恐ろしくマッチしている。


「ええ、そういうこと……あの、ネルケちゃん、どうしてアナタもワタシの背後に回っているのかしら?」


「ソノミばっかりずるいわよ!わたしだってもふもふしたいっ!!」


「ふっ、悪いなネルケ。ルノを第一順位でもふるのはこの私だ!」


 ネルケとソノミはルノの背後に回って、その狐の尻尾に顔を埋めている。確かに動物のあの毛がもふもふした感じには触りたくなる。だが――


「あの…きゃっ!二人を止めてくれない、グラウ!」


 あくまでそれはルノから生えたもの。しかもその尻尾は敏感なようなので、男である俺が触ることには問題がありそうだ。それで、ルノから止めるように言われているが――


「まぁ……いいんじゃないか?減るもんじゃないし」


 俺は関わらない。理由は単純。このまま女性三人の睦み合いを眺めていたいから?まぁ、否定はしない。結構眼福ではある。しかしもっと大きな理由がある。それは――ここでネルケとソノミを止めた場合、二人からもの凄く恨まれそうだからだ。要するに、一人を助けて二人から恨まれるくらいならば、ルノに生け贄になってもらった方が俺としては楽だからだ。


「グラウ!アナタまで裏切るなんて……このままワタシのイメージ崩れちゃってもいいの!?」


「妖艶でミステリアス、そして獣娘って、属性過多の気もするが別にいいんじゃないか?」


「ぐっ……覚えておきなさいよ……!って、ソノミちゃん付け根の方はダメ!あとネルケちゃんも耳を勝手に…きゃっ!?」


 もの凄く恨めしげな目線されたが……もう少しこの光景を眺めていることにしようか。記念の一枚も、っと。



「わかってくれたかしら?これは飾りじゃないの、感覚があるの。だから不用意に触るとワタシもびっくりするわ」


「でも……もふりたい衝動に歯止めをかけるなんて無理だ……」


「無理じゃないの!堪えて、ソノミちゃん!」


「むしろそんなもふもふつけるなんて“触って下さい”って言っているのと同じだと思うわ!!」


「尻尾はそんなこと言ってないからね、ネルケちゃん!まったく…二人のことは好きだけれど、こんなことで急に好かれるのはあまり嬉しくないわね……でも――」


 なかなかルノも大変そうだなぁ。説教をしても全く二人は聞いていないし。俺には何の関係もないことだから知ったことではないが――


「ねぇ、ソノミちゃん、ネルケちゃん。そんなに尻尾が好きだと言うならはっきり聞くけれど――ワタシの尻尾とグラウ、どっちが好きなの!?」


 どうしてそこで俺を巻き込むかなぁ……もしかしてそれが報復か?


「それは……比べること自体間違っているわ!」


「そうだぞ、ルノ。土俵がちが…って、余計なことを言わせるな!」


 そういえば、目の前のファーカー城のことだ。俺たちはこの後この城を拠点として利用しようとしている。事前のミレイナさんの調べによると、どこの勢力も拠点にしていないようだが……


「そう。答えないというのなら――今後一切触らせてあげないことも辞さないわ!」


「「!?」」


 城は堀に囲まれておりかつ外壁により守られているため侵入経路は限られる。跳ね橋はどうやら観光地であるためか引き上がってはいない。城壁塔、門塔、見張りは見えない。居館の窓からも人影は……ないな。


「でも、答えなければでしょ?なら答えたら触らしてくれるのよね?それなら――グラウよ。わたしのグラウへの愛は、決して揺らぎはしないわ!ねっ、グラウ?」


「すまない、何か言ったか?」


「ちょっと、グラウ!完全にシカトするのはひどくないかしらっ!!」


 いや俺は今、城のことを考えていたんだが――それでだ。この城の前の森のからでは、城の中に本当に誰もいないと断定するのは少し恐ろしい。この城は防衛には最適。ここからは見えない城の内部に敵が潜んでいる可能性は大いにある。


「……ソノミちゃんは?」


「私は……悪い、ルノ。お前の尻尾をもふってやりたいが…もふってやれないようだ」


「そんなすっぱいものを口に含んだ時みたいな渋い顔しないでよ……はぁ、結局ワタシはグラウには敵わないのね……やっぱり、グラウを先に攻略するべきなのかしら」


 このまま侵入するか?いや、それは危険過ぎるな。中で待ち伏せされていた場合、俺たち四人全滅もありうる。ドローンでもあれば便利なんだが――ああ、その手があったか。


「ルノ、話は終わったか?」


「ええ、アナタに尻尾を振るところから始めるとするわ」


「まるであんたが何を言っているのかわからないだが……」


 俺に尻尾を振って……なんだ、誘惑する気か?それとも俺も触っても良いのか?だが、話を脱線させるには時間が惜しい。


「頼みたいことがある。その半獣化の状態でも動物憑依は使えるんだよな?」


「ええ、使えるわ。えっと、そうね……あの鳥にでも憑依しましょうか」


 ルノが指したのは顔から胸にかけて橙色をした鳥であった。確かあの鳥はロビンと言う鳥だ。日本では駒、すなわち馬のいなく声に似ているためコマドリとも呼ばれているようだが。


「城に潜入してもらえるか?敵が潜んでいないか調査してきてほしい」


「わかったわ。でも一つだけお願い。ワタシの身体が眠りについている間、グラウがワタシを守っていてちょうだい。他の二人に頼むと尻尾を弄って無理矢理にでも意識を引き戻されそうだから……」


「了解だ」


「それと、何かあったら揺らしてくれればこの身体に意識が戻るから。それじゃあ、行ってくるわね」


 言い終えて突如、彼女は意識が消えたかのようにその場に倒れていく。それを受け止め、近くの木を背中に寝かせる。ロビンに憑依を開始した、ということだろう。


「とのことだ。もふもふするなら帰ってきてからにしてくれ」


「せっかくチャンスだと思ったのに……でも、潜入を邪魔しちゃうならしょうがないわね」


「そうだな、座って待っていることにしよう」


 ネルケとソノミは隣あって太い木の幹に背中から座った。俺も適当な石に坐そうか。


「ソノミ、ルノの一件で聞くのが遅れたが……大丈夫なのか、腹は?」


「問題ない、戦える。あいつをもふもふしたからな」


 もふもふしたからといって傷は治癒しない。ルノからの報告によれば、側腹部を槍で掠められたそうだが……さらしに血が滲んでいる。激しく動けば出血量も増す。傷口が完全に塞がるまでは、あまり無理をさせるべきではないな。


「ところでグラウ、一つ聞いて良いか?」


「なんだ?」


「お前、いつだか“英雄の息子”とか自分で言ったことあったよな?」


「ああ、確かに。それがどうかしたか?」


 それをソノミの前で口にしたのは確か第一次争奪戦が終わって、事務所に帰った時だったはずだ。何故今更そんなことを聞くのだろうか?


「私たちが戦った、ラピス・イムリという女が“英雄の娘”と言っていたんだが……お前の知り合いか?」


「ラピス?知らないな。そもそも俺はWG(ダブリュジー)に知り合いなんていない」


 名前を知っているのはせいぜい煙の異能力者マルスと、あと……ああ、思い出した。もう一人いるじゃないか。あの人も英雄。あいつと年齢がそう変わらないんだから、娘がいてもおかしくない年齢だろう。


「ソノミ、もしかしてそのラピスと俺が兄妹だとか疑ったのか?」


「そうだ。“英雄の”共通だからな」


「違う。WG(ダブリュジー)の英雄……マドラス・ジャッカル。あの人も英雄だが、俺の言っている英雄とは別人だ」


「も?」


 ネルケが会話に入ってきた。


「俺を育てた人も英雄と呼ばれていた。ほら、デス・ダイヤモンド戦争。あの戦いで王国と連邦とが最終的には和平交渉に臨んだだろ?その提案をし戦争解決への立役者になったのが俺の言っている英雄と、あの英雄マドラスなんだよ」


「……確か聞いたことがある。まさか――お前の母親は、あのユスティーツ・ファルケなのか?」


「血は繋がっていないがそうだ」


「「はあっ!?」」


 そんな驚くことを言っただろうか。


「なんでそんなことを今まで黙っていた!」


「しゃべる必要も無かったからだ」


「それならなおさら自分を卑下する必要がないじゃない!というか、血が繋がっていないってどういうこと?」


「まぁ、それについて話すと長く―――ネルケ、ソノミ!」


 ルノを揺らし、急いで意識をこちらに戻す。すぐに状況を理解してくれたようだ――ホルダーから銃を引き抜く。ネルケソノミ、そしてルノも臨戦態勢。しかしこれは――


「危害を加えるつもりはありません。P&Lのみなさん」


 カタコンベの時より数は少ないが、しかし周囲を囲まれ退路はない。そもそもこの兵士たちはどこの勢力――


「久しぶりね、みんな。でも手厚い歓迎がすぎないかしら?」


 ルノの反応からしてテラ・ノヴァか。


「はい、ルノ様。しかし今回用事があるのはあなた様ではございません」


 俺たちの包囲する兵士たちの中から、濃い緑色の髪をした少女が俺たちの前に出てきた。


「グラウ・ファルケ様。グレイズ様がお待ちです。ご同行願います」


「――は?」


 グレイズ・セプラーが、どうしてテラ・ノヴァの指導者がどうして俺を?これは何か企みがあるに違いないが――そう素直に従うとは思うなよ……グレイズ。

小話 もふもふもふもふ


ルノ:ねぇ、この話まだ引っ張るの?


ネルケ:だってわたし、まだソノミと同じぐらいもふってないもの!


ルノ:ワタシ一言も平等にもふっていいなんていってないけれど……というかソノミちゃん?アナタ……


ソノミ:(。-ω-)zzz


ネルケ:ルノのもふもふ尻尾にはこのくらいの安眠効果が!今ではなんとお値段ーー


ルノ:売ってないから!


ネルケ:次回もふもふもふもふもふもふ、お楽しみに!


ルノ:やらないから、流石に三度目はないからね!

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