第2話 誠実なる奇襲作戦 Part6
〈2122年 6月7日 3:42PM 第二次星片争奪戦終了まで約33時間〉―アナベル―
「ルファ、シェミー、無事ですか!?」
駆けつけた先の大地には亀裂が出来ていて――隆起した部分にルファは腰掛け本を読み、シェミーはその裂け目に座り脚をばたつかせていました。見たところどうやら二人とも大事はないようですね、ふう……一安心です。
「大丈夫っすよアナベルさん。ボクは」
「アタシはもうさんざんな目を見ましたよ……半分こいつのせいですけれどっ!!」
シェミーはルファを指さしました。えっと、どういうことでしょうか?
「シェミー、何回も言っているだろ?ボクはただP&Lを狙って異能力を使っただけ」
「でもそのおかげで地盤が緩んだんじゃないっ!」
「それを逆手に取られて落ちたからって、それはキミのせいだろ?なに、それともそもそも異能力を使わなければ良かったとかふざけたことぬかすつもり?」
「ええ、そもそも最初の一撃で仕留めていればこんなことには――え?」
「ぐすん、ぐすん………」
申し訳なさから涙が出てきました。そうです。わたくしが彼等をカタコームの中で仕留めていれば、二人の手を煩わせることも、そしてシェミーが大地の亀裂に落ちることも――
「あの、ミレイナさん?別にアナタを責めているわけでは……」
「そっ、そうですよ。仕方ないですって、相手が相手だったんだし……」
「ルファ、シェミー……」
二人が私を慰めてくれます。ああ、なんと優しいお二人なのでしょうか。
「その……二人はどういう感触を得られましたか?彼等と対峙して」
まずルファが答えるようです。
「そうっすね……ネルケさんは知りませんが、グラウくん。彼は厄介ですね。何を企んでいるかわかりませんし、かつ身体能力もずば抜けているんでしょ?」
「本人は自分を卑下していましたが――」
「そういうやつほど危険っすよね……次にやり合う時は、真っ先にどうにかするべきでしょうね」
ルファも同じことを思っていたようです。わたくしも彼を真っ先に、というよりかあの人はわたくしが自らぎったんぎったんにすると心に誓っております。そう簡単に死ねると思わないで頂きたいものです。
「アタシが戦った方だと、鬼のソノミっていう子がやばかったかなぁ。あの鬼化っていう異能力、アタシの炎の弾を真っ二つにしたし」
「それは単純にシェミーの異能力が弱いだけじゃない?」
「黙れ、ルファ、燃やすぞ?」
「なら今度こそ地獄まで続く亀裂に落としてやろうか?」
二人がバチバチと火花をたて睨み合って――いけません!
「コホンっ!!」
敢えて大きく咳払いをし注意をひきます。話を戻しましょう。
「えっと……とりあえず、あの4人を倒すにはやっぱり、シーヴァーさんに出張って貰わないときつくないっすか?」
そうですね、シーヴァーさんの名が出ましたか。ならばちょうどこの話を切り出す良いタイミングでしょうか。
「わたくしもそう考えていたのですが……ルファ、シェミー。シーヴァーさんから撤退の命令が下されました」
その事を告げると、2人は直ぐには納得してくれませんでした。
「P&Lを潰せば後はWG、そして――って言っていたのに、急にどうしたんすか?」
「偽装作戦がばれたようです」
「はやっ!まだ始まって数時間だって言うのに!!」
はい、その通りです。数十時間は持つかと思われていましたが……流石は規模が数倍違う彼等だけのことはあります。
「岬で既に彼等と開戦しているようです。わたくしたちも駆けつけ、本隊に合流します!」
ルファとシェミーはうなずきました。それでは向かいましょう――
「いざ、ロイヤル・ナイツの殲滅へ!!」
〈2122年 6月7日 4:01PM 第二次星片争奪戦終了まで約33時間〉―ラピス―
「まだ痛みますね……」
ルノ・フォルティに吹き飛ばされて木に激突された時に負った背中の傷がじんじんと痛む。直前に受け身をとっていなければこんなところであっさり死んでいたかもしれない――なんて情けないことか。
「ラピス大尉、お電話です」
「誰からです?」
「マドラス大佐からです」
お父……マドラス大佐からか!早く受け取らなければ!!
「マドラス大佐、お疲れ様です!」
『ラピス大尉……いや、電話越しまで固くなる必要は無いよ、ラピス』
「ですが……」
『君はもう既に私の娘になったのだ。だからせめて、君は私に安らぎを与えてはくれないか?』
「お父様……」
そう言ってもらえるのなら、自分も躊躇いなく大佐をマドラスお父様とお呼びすることにしよう。
『それで、状況は既に報告されているが――』
「申し訳ありません、父様、不手際を……」
自分はお父様の娘であるのに関わらず敗北した。それはすなわち、お父様の顔に泥を塗ること――
『いいや、君が無事なら何よりだ。しかし、ラピスに一矢報いるとは……P&Lにも猛者がいるようだね』
「えっと…彼女は元テラ・ノヴァのルノ・フォルティです」
『ほう、グレイズの秘書であったあの子か。一度彼女に会ったことがあるが、まさかそこまでの実力者であったとは……ちなみにだけれど、その場にはグラウ・ファルケはいなかったのだね?』
「ええ、彼はいませんでした」
『そうか……それはたぶん、良かったというべきだろうかね』
お父様もグラウ・ファルケのことを?ソノミ・ミトも自分にグラウのことを聞いてきたが…あれはなんだったのだろうか?自分は彼のことなど上がったデータでしかしらないのだが……お父様は何か知っておられるのだろうか?
「あの、お父様。お父様はグラウ・ファルケと面識があるのですか?」
『いや、ないよ。彼に直接会ったことはない。ただ……彼の母、のような存在の人はよく知る人物でね。その女性が……ふっ、まぁ、この話はじっくり話せる時にでもしようか』
そんな人物がお父様にいらしたとは。確かに、わざわざ通話ですることでもないのかもしれない。
『それで、ラピス。君も疲れただろう?だから君に下した命令だが、マルスにでも変わってもらおうかと――』
「いいえ、お父様。自分にお任せを!“英雄の娘”に恥じぬような活躍、今度こそしてみせます」
マルスなんかに…あの男なんかに変わってもらう?そんなこと絶対に嫌だ。あの男は不真面目だ。あの男は不健康だ。あの男は……お父様の友人に相応しくない。あのだらしのない男なんかに、自分に下された命令を変わってなどもらうものですか!
『そうか……ふっ、我が娘よ、どうか健闘を』
「はい!お父様!!」
よし、お父様に背中を押されたんだ。自分なら絶対にやれるはずだ――レッド・シスルの殲滅を!
〈2122年 6月7日 4:10PM 第二次星片争奪戦終了まで約32時間〉―スクリム―
「なぁビーザ、ここから出してくれよぉ~オマエなら出来るだろ~?」
「出来ますがねぇ、若頭。反省するまで――」
「いいえ、結界が消える直前まではここで反省して下さい」
「そんなぁ~~って、オマエら俺の護衛だよな!」
なんで護衛の一存でオレが大樹の下敷きになり続ければならない!まぁ、オレが招いた結果ではあるけれども……
「ほんと、偶然なんすよね、若頭?あのグラウって青年の元に辿り着いたのは?」
「そうだよ、森歩いていれば誰か強いやついるかなぁ~っと思っていたら灰鷹を見つけてさ。でもまさか二回も負けるなんてね――」
「三回目は許しませんからね」
「はいはい、三回目はありませんよぉ~~」
と、口では言うが全く反省していないオレである。もちろん三回目も灰鷹に挑むつもり。二度あることは三度ある?いいや、三度目の正直っていうのをオレは信じるね。まっ、次に戦うのがいつになるかはわからないけれど。
「ミノぉ~、オマエ星片が沖にあるとか言ってたけど、何、魚人でも星片をもって逃亡していったの?」
「違います。あれはたぶん……戦艦でしたね」
「なに、今回戦艦まで投入しているところあるの……はぁ、これは本格的に灰鷹もどうしようもないのかなぁ」
海を泳いで辿り着けるわけはないだろうし、だいたい辿り着いたところで甲板で兵士が待ち構えているだろう。これは、その海に逃げた連中が勝つのかなぁ。
「ですが、少し気になることが」
「なんだ、ミノ?」
「どうやらその戦艦の中に、1人だけ別の軍服を着た人間が見えたのです」
1人だけ別の軍服……まさかとは思うが…潜入工作員?
「そいつが状況をひっくり返すほど強力な異能力者であったなら……もしかしたら、な」
まぁ、異能力者といってもそんなに強いわけじゃない。でも、船が寄港しなければいけないような状況をそいつが起こせば――灰鷹にもチャンスはあるか。
「なぁさ、今回も灰鷹を助けに行こうぜ、だからここから――」
「そうやって逃げたからなぁ、若頭は」
「ぎくッ!!」
あぁ、どうやら今回は助け船出せそうにないや、灰鷹。
「でも、それならせめてさ、他がどんな戦いしているかとか実況してくれない?流石に暇だからさ」
「……わかりました。ですから、それで我慢して下さいね」
テウフェルの次期ボスであるオレが大樹の下にいるなんて無様であるが……まぁ、この2人が助けてくれない限り俺も脱出することが出来ないしな。まぁ、頑張ってくれよ灰鷹。オマエを倒すのはこのオレだから、それまで負けるんじゃないぞ!




