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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第2話 誠実なる奇襲作戦 Part1

〈2122年 6月7日 2:31PM 第二次星片争奪戦終了まで約34時間〉―グラウ―


 女騎士の檸檬色の髪は腰まで長く、それを黒のリボンで結んでいた。瞳はエメラルドの様な深緑色。纏う軽鎧は白を基調とし、金色の装飾が施されていた。その右肩には青いマントが留められており、そこには赤い何かの花の紋章が刺繍されていた。そして手に握られている片手剣は形状から判断するにレイピアのようだ。


 他の兵士もまた軽鎧。しかし彼等は全員同じ赤い軽鎧、黒のマントと共通の装備――これらから判断するに、この女騎士が彼等の統率者ということか。


「貴方たちがP&Lで間違いありませんね?」


 柔らかく、そしてまるで赤子をあやすような慈愛に満ちた声が鼓膜を震わした。


「もしそうではないと言ったら?」


「そうですね・・・だとしても、結界内部にいる方々なのですから、わたくしたちとは相容れない関係なのは間違いありません。ですから何であれ、貴方たちはここで成敗いたしますわ!」


 とても丁寧な口調、こっちの姦しい三人とは違うな――


「グラウぅ~~今、すっごく失礼なこと考えなかったかしらぁ!?」


「お前にとって敵は誰だかその身に刻んでやろうか?」


「うふふ、ワタシたち三人を相手に勝てるかしら?うふふっ!」


 あれ、俺口に出してないよな?顔にも出してないはずなのに・・・余計なことを考えるべきではないということか。


「――えっと・・・よろしいですか?」


 俺たちが内輪ののりを引っ張る中、女騎士は何故か申し訳なさそうに訊ねてきた。


「あぁ、続けてくれ。別に否定はしないさ。俺たちはP&Lで合っている」


「そうですか、それなら・・・・・・ふぅ、一安心です。では黒一点、貴方がグラウ・ファルケということですね?」


「そうだ」


 今更隠すつもりはないが、名前まで筒抜けとは。いったいどこから俺の情報を入手したのだろうか?


「貴方のことはよく調べさせてもらいました。前回の争奪戦において、WG(ダブリュジー)から星片を奪ったのは貴方ですよね?」


「三人の所持者候補から、たまたま持っている人間の元に行ったのが俺だったってだけの話だ」


「でも、風の異能力者レスペドはWG(ダブリュジー)の中でもトップクラスの異能力者でした。その人物を倒すだけの実力が貴方にはあるということですよね?」


「・・・・・・買い被らないでくれ。実力で言うなら、俺は他の三人の足下にも及ばないし、きっとあんたにも敵わないだろうからさ」


 へぇ、WG(ダブリュジー)の異能力者の情報まで知っているのか。世界機構にまで面と向かって啖呵を切るなんて、流石は今回の争奪戦の最大勢力だ。


「グラウ、あなたはもっと自身を持って良いと思うけれど?卑下しすぎよ」


「クリーム色の髪、紫色の瞳・・・貴女はネルケ・ローテですね?」


「そうだけれど?」


「えっと、黒髪で鬼の面を腰にくくりつけているのがソノミ・ミト」


「ふん!」


「最後に紫髪の妖艶な女性・・・元テラ・ノヴァのルノ・フォルティ」


「あらあら、ワタシのことまで知っているのね」


 全員の特徴までロイヤル・ナイツは調べ上げたのか。ルノが入ったのは直近、そしてP&Lではないネルケであるのに。ずいぶんと念入りだな。


「で、女騎士、あんたはなんで俺たちのところにやってきたんだ?」


「女騎士?あっ、わたくしのことですね。そう呼ぶのはおやめ下さい、わたくしにはちゃんと名前がありますので。わたくしはアナベル・ロッテ。以後アナベルとお呼び下さい」


 アナベルと言えば、白いアジサイが連想される。ライムグリーンの手のひらサイズの花をつけ、そこから白色に、そしてまたライムグリーンと花の色を変えていくのが特徴。敵の名前など、どうでも良いことではあるが――


「わたくしたちが貴方たちを狙った理由は一つ。貴方たちが前回の争奪戦の勝利者であるから」


「万人規模の勢力だというのに、たった四人を警戒しているのか?」


「はい。事実、たった四人・・・実際には三人で星片を持ち帰る偉業を成し遂げているではありませんか?いくら人数は少ないとはいえど、貴方たちには最大限の注意を払って当然です」


 異能力者はその名の通り、非異能力者と違って異能力があることが最大の違いである。しかしその肉体は人間でしかない。急所を貫かれれば簡単に死ぬ。何もそれほど数がいるのであれば、俺たちなんかを気にせず彼等の次に勝利者候補であるWG(ダブリュジー)とでもことを構えてくれていれば良かったんだがな。


「貴方たち全員の異能力も把握済みです。ですから対策もとってありますが・・・・・・」


「が、なんだ?」


 対策か。俺の異能力なんで対策しなくても十分、ルノはカタコンベに動物がいない以上異能力は使えないだろうが――


「グラウ・ファルケ、貴方が一番のネックなのです」


「俺が?」


 意外なことを言う。ソノミとネルケが一番問題なんじゃないのか?ソノミが鬼化を使えば正面きって戦っても勝ち目はないだろうし、ネルケは仲間ですらその姿を目で追うことは出来ないというのに。二人の対策まで考えてあるというのなら、是非ご教授願いたい。それなのに俺がネックだと?


「貴方の異能力は・・・はっきりいって奇抜姓にかける、そもそも異能力がない(・・)と言っても過言ではありません。それなのに貴方は多くの猛者を撃破した・・・・・・その裏には貴方のずば抜けた身体能力、そして奇策があったからだと聞き及んでいます」


「奇策ねぇ・・・だから、俺は利用できるものを利用しているだけに過ぎない。そうしなければ勝てないからそうしているだけだ」


「ご謙遜を。その神謀、この詰みさえも逆転しかねない・・・そうですよね?」


「俺に聞くな」


 しかし、俺たちがピンチであるは確かだ。アナベルが率いているロイヤル・ナイツの騎士たちは、このカタコンベの奥までびっしり並んでいる様子。数にして少なくとも100はいるだろう。しかしロイヤル・ナイツに二万も兵がいるというのであれば、100人部隊は少なく感じる。恐らく入り口がある地上にも部隊は展開していることだろう。


 この危機的状況下において存在する俺たち四人の選択肢は2つ。このまま降伏するか、それとも合計どれだけいるかもわからないロイヤル・ナイツ全員を打ち倒し、正面突破するか。前者はありえない。そのようなことを三人も望んではいないだろう。後者も無謀だ。既に銃口が向けられている以上、下手な動きを見せれば蜂の巣にされるだろう。だが――これは王手であって、詰みではない。


 右手を背中の後ろに回す。そう、計略は既に始まっている。


「なぁ、アナベル。あんたら、ロイヤル・ナイツって組織だろ?Royalか?それともLoyalなのか?」


「忠義をなす騎士として・・・後者の意味でしょう」


 でしょう?断定じゃないのか?そういうことは新人研修とかで教育されることではないのだろうか?まぁ、別にそこは深く掘り下げなくて良いだろう。


「LoyalなKnights様ねぇ・・・・・・なぁ、誠実な騎士って名乗るのなら、もっと正々堂々と喧嘩を売るべきじゃないのか?」


「っ!それは・・・・・・」


 ひたすらにまっすぐな視線を向けていたアナベルが目線を逸らした。揺さぶりが効いているようだ。


「騎士道っていうのは、正しさを重んじるところに特徴があるんだろ?ところでアナベル、奇襲ってあんたの中では騎士道精神に則っているのか?宣戦布告もせず、不意打ちをするのは俯仰天地に愧じぬ行いか?」


「ぐっ・・・・・・だっ、黙りなさいッ!!貴方が今置かれている状況がわかっての発言ですか!?」


 清く正しい女騎士様の顔が歪む。いい調子だ。


「俺は生粋の外道だ。不意打ちも、暗殺も、汚いやりことを平気でする。むしろ、そうしない方がおかしいからな。殺し合いはスポーツじゃない。命の駆け引きにルールなんて存在しない。俺たちの戦いはなんでもあり、生き残った方が勝者というだけにすぎないんだよ。アナベル、あんただって俺たちに勝ちたかったんだろ?だからあんたも不意打ちなんて卑怯なことをした。はっきり言うぜ。あんたは同じ穴の狢――外道だ」


「・・・・・・聞こえませんでしたか?それ以上わたくしを愚弄する発言を続けるのなら、グラウ・ファルケ、貴方はこのわたくし自ら、地獄の底へと送って差し上げましょうっ!」


「へぇ、罵詈雑言がその清らかな口から飛んでくると思ってはいなかったよ。ふっ、そっちの方が張り合いがあって良いわけだが」


 さて、そろそろ頃合いか。アナベルの位置からじゃ俺の背中は見えない。指でカウント始めよう。5、4――


「グラウ・ファルケ、これまでの人生でこれほどまでにわたくしをこけにしたのは、あなたが初めてですわ!」


「そうか、それは光栄だな。あんたみたいな美人の初めてになれて」


「グラウ・ファルケ、人に言って良いことと悪いことの区別が付いていないようで・・・・・・もう許しませんわ、この人畜生、鬼畜、人で無しっ!」


「はっ、ほめ言葉だよ!あと、もう一つだけあんたに言っておこう」


「もう聞く耳など――」


「外道さなら、あんたは俺の足下にも及ばないッ!」


 3、2、1、0――事前に背中に括り付けておいたそれ(・・)のピンを引き抜き、アナベルの方へと投げつける。それと同時に煙りがカタコンベの中に広がっていく。そう、スモークグレネード。今回は自作ではなくちゃんとしたメーカー物。やはり効き目が格段に違う――


「ルノっ!」


「ええ!!」


 ガゴンという音と共に装置が作動し・・・奥の壁が開き、地上へと続く階段が出現する。


 まさかこれを使うことになるとは思ってはいなかったが、しかしこうも窮地に陥っては仕方が無い。いったい昔の人たちが何の為に棺桶を横にスライドすることによって、隠し扉が開くという仕組みを作ったのかは不明だが、感謝しなければなるまい。


「ごほごほごほっ・・・・・・こんな真似・・・・・・まっ、待ちなさい、グラウ・ファルケ!」


 煙に包まれたアナベルの姿は視認出来ないが、その声ははっきりと聞こえた。


「俺は神謀を巡らせるような才はない。ただ、子供騙しの仕方が少し上手いだけに過ぎないんだよ」


「くっ・・・許さない、覚えておきなさい!・・・・・・必ず貴方を、ぎったんぎったんにしてやりますわ!!」


 無垢な騎士様からは想像が付かない暴言だ。恐ろしくて震え上がりそうだ。


 さて、煙の効果はそこまで長くはない。急いでこの場から離れるとしよう――

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