第1話 再会はほの暗く、しかし確かな感触を・・・ Part1
〈2122年 6月3日 10:34AM 第三星片イギリス到達まで約87時間〉―グラウ―
「まぶし・・・・・・」
照り輝く太陽に、思わず手をかざした。日光が目に染みるように感じるが、別に俺は遠視ではない。通常行動している時間が夜、すなわち俺は日の光が差し込まない世界の人間だから、一般的な人々が持つ日光への「慣れ」が失われてしまったのだ。
しかし日光を浴びることは人間にとって大事なことである。日光浴をするとビタミンDが作られ骨が丈夫になる。その他病気の予防、精神安定化、安眠作用・・・・・・日光は金のかからないサプリメントのようなものだといえるだろう。よって俺も、日光の恩恵にあずかりたいのだが・・・・・・こういうたまの事務所への呼び出しの時ぐらいしか、俺に日光が降り注ぐことはない。
「・・・・・・これは――!」
うん?前に来た時はこんなものはなかったのに――エレベーター、それは人や荷物を上へ下へと運んでくれる装置。これは階段が進化してエスカレーターが誕生したというのなら、エスカレーターはエレベーターが進化した究極の姿なのではないだろうか。俺たちはただその箱に入ってボタンを押すだけで良い。俺たちは「上る」という動作をすることなく、これが指定したフロアへと連れて行ってくれる。
しかしなんでまたここにエスカレーターが・・・・・・この雑居ビルは俺たちの4階の事務所以外にも、不動産会社、探偵会社、あとよくわからない拝や屋が入っている。建物のオーナーは確か近隣に住んでいると聞いていたが、その人が建物の効用を上げるためにエレベーターを作ってくれた――?いや、違うな。40年も改築をしてない人間が、いきなりエレベーターを導入するという決断をするとは思えない。思い返すとラウゼは言っていたな。「最近階段を上るのが辛い」と。P&Lは確実に収益を伸ばした。この機会に援助金を出すから導入してもらおう――本当にそうだったら、はっ倒してやろうか?
「まぁ、使うんだけれども」
いちいち5階まで上るのは面倒だ。それに出来てしまったものを壊してももったいない。利用できるのだから利用しよう。
階段で上がって45秒が、エレベーターではたった15秒ほどで到着。30秒の短縮にどれほどの意味があるのかはわからないが、体力の温存は出来たから良しとしよう。
この建付が悪くなった事務所の扉も、もしかしたら次に来た時には直っていたり――なんてな。
「遅いぞ、グラウ」
「これでも予定より20分はやく来たんだぜ?」
俺以外全員来ていたか。揃いも揃って何十分前行動しているんだか。長机をはさんで右側のソファに座る黒髪のクールビューティ少女――ソノミ、左側のソファに座るは紫髪のミステリアスな女性――ルノ。そしてプレジデントデスクで指を組むラウゼ、その隣に立つミレイナさん。
「うふふ・・・・・・早く座ってはどう?」
「おう、そうだな・・・・・・」
うん・・・これは困った。いつもは真っ先に俺が座っているんだが、もう両側とも着席済み。どちらに座れば良い?いや、意識しすぎだとは思っているが、結構重要な問題である。人間にはパーソナルスペースというものがある。他人に近づかれると不快に感じる空間のことだ。たとえばトイレが5つあったとする。この時右から二番目、左から二番目が埋まっていた場合、苦渋の決断を強いられる。真ん中は一番選びたくないし、両端を選んでも隣に人がいることになる。そうなった場合、俺は最悪どちらかが去るまで待つという選択さえ考慮してしまう。が、今回は待つという選択肢は選べない。ソノミ側か、もしくはルノ側かどちらかに座らなければいけない。これは俺だけの問題じゃない。彼女たちも俺にずっと隣に座られることを嫌がるかもしれないから・・・・・・いや、待て。第三の選択肢が存在しないわけでもないじゃないか――
「・・・・・・よし」
折りたたんであったもパイプ椅子を開いて着席。事務所の物置部屋に壁にかけてあったものだ。いや、俺もよくこれの存在を思い出したものだ――
「ちっ・・・・・・腰抜けが」
「ソノミ、俺は暴言を吐かれるようなことなどしてはいないぞ?」
「うふふ、本気でそれを言っているなら本物の意気地なしね」
え、そんなに俺の第三の選択おかしかったのか?
「結局、お前との勝負の決着がつかなくなったな、ルノ?」
「ええ、残念ね。ワタシの方に座ると思っていたのに」
こいつら、人がどちらに座るか賭けていたのか?まったく、人をなんだと思っている・・・・・・
「ええと、いいかな?三人とも?」
申し訳なさそうな声で訊ねてくるラウゼ。この組織のボスなんだから、もう少ししゃきっとしてくれてもいいんだけどな。
「いいぜ、はじめてくれ」
俺たち三人の視線がラウゼに集中する。そしてラウゼは口を開いた――
「では・・・・・みんなもわかっていると思うけれど――4日後、第三星片が地球に飛来する」
俺たちはあの屋敷に行く前にラウゼからそのことを知らされていた。だからこれは再確認の意味だろう。
「第二次星片争奪戦の開幕ね。場所はどこかしら?」
「イギリス、ニュー・クラーナという場所だ」
イギリスか。日本に行くほどの長旅にならずにすみそうだ。ここからイギリスなら、確か1時間30分程度だったか。俺も仕事で行く機会が結構あった。それが果たして良い意味か悪い意味なのかはわからないが。
「こういうことを言って良いのかはわからないけれど・・・前回の争奪戦は試験的というか、多くの組織まだ、本気を出していなかったと言えるだろう」
「まあ、そうだろうな。初回から全力をぶつけたのは俺たちぐらいだろうな」
俺の皮肉にラウゼの顔が引きつった。だが・・・ラウゼの発言は的を射ている。
星片は全部で5つ。現状地球に落下したのは、国際秩序機関――通称WOが回収した第一星片と、俺たちP&Lが奪取した第二星片。星片は3つ揃えば「奇跡」を起こすという。初回を捨てたとしても、残りの三回全てに勝利すれば「奇跡」は起こせる。もしくは既に地球に存在する星片を強奪すればということも考えられるが、それはあのWOの本拠地、アトランティスに攻め入らなければならなくなる――俺たちが奪取した第二星片は、もうこの世に存在しないのだから。ラウゼが作り出した装置で、第二星片は破壊された。俺はその残骸をしかとこの目で見た。
「それで、またたった三人でいけというのか?」
まったくソノミの言うとおりだ。ソノミもルノも、その強さは異能力者としてのみならず、戦闘員としての能力も相当なもの。しかしいくら二人が強くても、敵の人数は数千倍。俺は戦力に数えられないような下の下の異能力者だから、いくらなんでもやはり無謀――
「ああ、もちろん助っ人は用意してあるよ――グラウ君とソノミ君がよく知るね」
「「まさかっ!!」」
示し合わせたように声が重なり、思わずソノミと顔を見合わせ――うなずいた。
「ネルケ・・・・・・なのか?」
「ああ、もちろんだ。彼女以上の適任はいないからね」
そうか、ネルケが!・・・・・・ネルケは前争奪戦でP&Lの勝利に大いに貢献してくれた他組織の異能力者。その彼女が今回もまた味方になってくれるというならこれほどまでに心強いことはない――彼女は扱いづらいという難点があるが。
「グラウ君、ソノミ君、ルノ君。君たちの活躍、大いに期待する」
威厳に満ちた声で、ラウゼが鼓舞してくる。
「ええ、前任の子の穴埋めになれるかはわからないけれど・・・・・・精一杯がんばるわ!」
「お前ら二人と、そしてネルケとなら、やってやる!」
二人ともやる気に満ちている。
ああ、そうだ。俺には信頼出来る仲間がいる。俺は・・・俺自身の力を信用出来なくとも、この三人の仲間のことなら信用出来る。ネルケ、ソノミ、ルノとなら――もう一度、番狂わせを起こせるかもしれない。いいや、起こせる!
「俺たちは星片を手にする。どんな組織と対峙しようとも、俺たちは敗れることはない。だから俺は――英雄の息子として全身全霊で挑むと誓おうッ!」
見守っていてくれ――ゼン、ユス!!




