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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
Intermission1 乙女る青鬼は初恋の香りと共に…
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乙女る青鬼は初恋の香りと共に… 起

第一章終了後、少し経ってからの本当にあったのかは不明(?)なお話です。本編の張り詰めた(?)雰囲気とガラッと違う内容になりますので、気楽に読んでいただけたら幸いです(少しキャラ崩壊を含むかも?)。箸休めですね、はい。

〈2122年 5月14日 11:33PM〉―ソノミ―


「ふうっ……」


 身体が芯まで温まった。やはり仕事終わりのお風呂は格別だ。


 髪は……これはまだドライヤーを使うには早いか。ソファにタオルをしいて……よし。もう少し髪が乾くまで横になっているとしよう。


「うん?」


 スマホの通知音(ピコン)?まぁ、十中八九ラウゼだろう。私のスマホを鳴らすのなんて、どうせ仕事の連絡だけ――


「ん?このアイコンは……ネルケ!?」


 撫子の花を一輪握りしめる絶世の美女――ネルケ・ローテ。私は彼女に第一次星片争奪戦で知り合い、私たちはたぶん……友達になった。あのトイレでENIL(エニール)を交換して以降ちょくちょく会話はしていたが――未だに慣れないものだな。こうして同世代の友達から個人のENIL(エニール)が来るのは。昔はグループ会話での通知はあったが、個人的に話すことなど…そんな親しい間柄の友達なんて当時の私にはいなかった。


「どれどれ」


 何の要件だろうか?


ENIL(エニール)

ネルケ:ソノミ、ソノミ!あなたとグラウにプレゼントを用意したわ(*’▽’)!!

ソノミ:プレゼント?いったいなんだ?(既読)


 相変わらず反応が速いやつだ。既読まで五秒もかからなかったぞ。


ENIL(エニール)

ネルケ:秘密っ(*´ω`)!!本当はわたしがグラウとと思っていたんだけれど……ちょっと忙しくてね(´;ω;`)……

ソノミ:そんなに多忙なのか、お前?というかプレゼントの内容がわからないから、お前がグラウと何をしようとしていたのかわからないんだが?(既読)


 ネルケの組織については未だよくわからない。たぶんP&Lと同系統の仕事をしているのだと思われる。今更聞くのもなんだし、敢えて知りたいとも思わない。


ENIL(エニール)

ネルケ:だ・か・ら!プレゼントは秘密(・´з`・)!今はちょっと畳みかけるように忙しいの。だからね、ソノミ……ファイト(≧▽≦)!!

ソノミ:お前が何故ファイトなんて言い出したのかわからん(既読)

ネルケ:まぁ、本当はこれ以上ソノミがグラウに接近するのは恋敵としては困るけれど……でも、友達として応援してあげるの!もちろん、ソノミに遅れた分はすぐに取り返すから、十分に差をつけておくがいいわ(。-`ω-)!

ソノミ:はっ、はぁ?(既読)

ネルケ:それじゃあたぶん、ラウゼさんから何か連絡がくると思うから……(/・ω・)/バイバイ

ソノミ:おい、待て!本当にオマエが何を言っているのかわからないんだが!?説明しろ!


 ちっ、既読がつかない。考えられるのは二つ。ネルケがスマホの画面から離れたか、それとも未読スルーか。いずれにせよ、これ以上会話を続けることは出来ないということだ。でも…なんにせよプレゼントをもらったんだ。


ENIL(エニール)

ソノミ:ありがとう


 このくらいは送っておくべきだろう。さて、髪の水気もだいぶ抜けてきたから乾かしはじめ――


 また通知音(ピコン)。ネルケからの反応か――


「今度はラウゼか…はあ……」


 そうだよな。ネルケは忙しいって言ってたから、そんなに私に構っている暇はないよな…いや、構って欲しいわけじゃない!決してそんなことは思っていないからな!!


 で、ラウゼからは「明日連絡があるから集まるように」か。これってネルケが言っていたやつか?それとも単に仕事か――いずれにせよ、明日になればわかることだな。


〈2122年 5月15日 10:21AM〉


「入るぞ……って、お前もいたのか、グラウ」


「ソノミもか。ということは今回の依頼は二人でということか?」


 建付けの悪い扉を開けた先、プレジデントデスクに座るラウゼ、そしてその前に立つ灰色の髪の男――グラウ・ファルケ。私の同僚で、そして私を救ってくれた男。感謝してもしきれない恩人だ。だから私は彼の敵を斬ると約束した。それに私はきっと彼を――


 しかし、その反応をするということはネルケと連絡を……ああ、そうか。グラウのスマホは争奪戦の時に破壊されていたんだったな。ということは、ネルケはグラウとENIL(エニール)を交換していないわけだな。無論私もそうなわけだが。


「ソノミ君も来たから話をしようか――コホン!!」


 あえて大きく咳払いをし、居住まいをただすラウゼ。


 この感じはネルケの件ではなさそうだな。たぶんグラウの言う通り、二人がかりのそれなりに骨の折れる依頼の発表だろう。でも、まぁ、こいつと一緒にやれるならそれはそれで――


「君たち二人にはここに行くことを命じる」


「「……は?」」


 颯爽とラウゼが胸ポケットから取り出したのは……二枚のチケット?これは?


「おいおい……冗談だろ」


 グラウがそれを一枚受け取って確認をしている。それでは私も。って、これは!


「俺たちはつい数日前に遊園地で散々な目にあったんだ。当てつけか何かか?」


「いや、準備したのは僕ではないから文句を言われても……あ」


 ということはこれがネルケの言ってたプレゼントということか?


 この遊園地はこの事務所から一時間程度の所。彩奥市の遊園地と同規模…しかしかなり歴史があるため、アトラクションはどれも新しいとは言えない。それでも休日には多くの親子連れやカップルが訪れると聞く。


「おい、あんたじゃないなら誰が?」


「そっ、それは……」


 ラウゼの顔が青ざめていく。何故?


 もしかしてだが……ネルケは自分が送ったということをばらしてほしくはなくて、ラウゼの手柄にさせようとしていた?考えすぎかもしれないが、もしそうならば――助け舟を出してやるべきだな。


「グラウ。それよりお前は……どう思うんだ、遊園地?」


 ラウゼを睨み付けていたグラウがこちらを向いた。ラウゼは安堵のため息を漏らす。


「いかない」


「……は?」


 行かない?え、どうして?


「二つ聞かせろ、ラウゼ。今P&Lの仕事は増えているだろ?」


 グラウが改めてラウゼを向く。


「ああ、そのことは気にしないでくれていいよ。争奪戦後、P&Lの名は瞬く間に広まったけれど……でもそれは、今は気にしなくて良い」


「……あんた何か隠しているな?」


 鋭いな。でも私もそう思う。 


 ここのところ依頼を毎日のようにこなしていた。骨身を削っているが、それでもすべての依頼をこなせないでいる。まさに猫の手も借りたい状況だ。それなのにラウゼが遊園地行きを許すなんて。ネルケが取り計らった?いや、それはありえない。彼女はあくまで別の組織の人間。そんな干渉は出来るはずがない。だからラウゼは何か私たちに黙っていると予想される。


「別に隠しているわけではないよ。でもまだ不確定な段階なんだ。ちょうど試用期間に適しているかなと」


「試用期間?」


「おっと、これ以上は話せないよ」


 ラウゼの言っていることは引っかかるが、こいつは問い質したところで真実を語るような人間ではない。これ以上は時間の無駄だ。


「では二つ目。俺たちに遊園地に行ってこいって言うなら、それは俺たちに束の間の休暇を与えるってことだよな?」


「そうだとも」


「なら――別にわざわざ遊園地に行けと縛る必要はないだろ?」


 あれ、この流れは不味くないか?


「休暇をくれるっていうなら俺は家に引きこもるよ。そろそろゆっくり眠りたいと思っていたんだ。いいだろ、ラウゼ?」


「確かにそうだね……このチケットはもったいないけれど、君がそういうなら別にそれで僕は構わないよ」


 待て待て待て!そこは止めろよラウゼ!


 どうする?このままだとネルケが用意してくれら遊園地行きが無駄になってしまう。


「ソノミもそれで構わ――ソノミ?」


「っ!」


 そんなの……そんなの嫌だ。こんな機会、二度とないかもしれないんだ。せっかくネルケがお膳立てしてくれたというのに、それを無下にするなんて――いや、そうじゃない。グラウと一緒に休みを過ごす機会を棒になんて振りたくない。これはネルケのためじゃなくて、私のわがままだ。


「グラウ、行こう」


「……珍しいな、ソノミがこういうのに乗るなんて」


 グラウの反応は良くない。きっと彼は私もこの遊園地行きに反対すると思っていたのであろう。その予想もおかしくない。少し前の私だったら、こんなものは見た段階で真っ二つに引き裂いていたかもしれないのだから。


「俺たちのガラじゃないだろ?行ったところで素直に楽しめるか?」


 グラウの心配はきっと杞憂じゃない。ネルケと一緒というならば、きっと遊園地が二倍ぐらいおもしろく感じることだろう。しかし私とグラウの二人だ。互いにはっちゃけるような性格でないことは理解している。


「……それはわからない」


「ならば互いのために休もう。俺たちはこれから過酷な任務をこなして――!」


 気が付けばグラウの胸倉をつかんでいた。


「あっ……」


 急いでその手をはなした。悪い癖だ。考えるよりも先に手が出てしまう。こんな性格だから――私はネルケのようにはなれないんだろう。


「なんの真似だ?」


 グラウが怪訝な目をむけてくる。


「手を出したのは悪いと思っている。だが――」


 覚悟を決めろ、私。ここで退いては後悔するに決まっている。今だ。そう、今なんだ。一歩踏み出す時は。だって私は――


「行ってもないのに決めつけるな。その……案外面白いかもしれないだろ。私とお前の……デートも」


「っ!」


 顔から火が出そうだ……こんなセリフ!まさかこの私が、こんなことを言う日が来るなんて。しかし事実そうだろ?男と女二人で遊園地なんだから!それで、グラウの反応は…どうだ?わからない。そっぽ向くなよ!


「女の子にここまで言わせたんだから、行ったらどうかしら、グラウくん?」


「ミレイナ……!」


 隣のデスクで気配を消しキーボードをかたかたしていたミレイナの助け船をだしてきた。


「……はぁ」


 グラウが大きくため息を吐いた。この反応……だめか?こいつ、結構強情なところがあるから――


「で、いつだ?」


「え?」


「ラウゼ、俺たちの休暇はいつなんだ?」


「明後日を予定していたけれど」


「そうか……わかった。ソノミ」


「……なんだ?」


「明後日、遊園地な。詳しくは……ちょっと待ってろ」


「グラウ……!」


 これは…やったのか!グラウを誘えたということだよな!


 グラウがおもむろに背中に手を回し、そして取り出したのは赤いスマホ。その光沢からそれが新品であることは明らか。


「それがお前の新しいスマホか?」


「ああ。急に壊れたおかげで全部データ吹き飛んでな。そういえばソ、ノミと連絡手段一切なかっただろう?この機会にどうだ?」


 グラウのスマホの画面に浮かぶ「シェイク」の文字。その状態で互いのスマホを触ることにより、簡単に友達追加が出来るというものだ。


「もっ、もちろんだ!」


 私もスマホを取り出し同じ画面にする。そしてスマホをシェイク。


 まさかグラウと連絡先を交換できるとは。今日は本当についているな。そしてネルケを越してやったことは誇ってもいいかもしれない。


「これでいいな。俺はこの後用事があるから、詳しくは今夜ENIL(エニール)で決めるという漢字でどうだ?」


「私は構わない」


「よし。次会う時は遊園地で。それじゃあな、ソノミ」


「ああ、明後日……楽しみにしている」


 私が最後の言葉を発するころには、既にグラウは事務所を後にしていた。


「よかったわね、ソノミちゃん」


「ミレイナ……すまないな。お前の一言が無かったら……」


「いいのよソノミちゃん。でも……うふふ!」


 急に笑いだすミレイナ。


「いったいなにがおかしい?」


「若いって良いなって。まさに青春ね」


「青春?ふん!私はもうそこまで若くはない」


「19歳にそれを言われると、なんだか自分が年増なんじゃないかと思えるわね……」


 いけない。ミレイナが急に死んだような眼をしている!地雷を踏んでしまったようだ。


「いや、お前はまだいける。だよな、ラウゼ!?」


「こんな時に僕に話を振らないでくれよっ!僕がうなずいたら、それこそ危険な臭いがしてしまうだろ?」


 うっ、それもそうだ。ラウゼとミレイナはWOで同じ研究室にいたといっても、親と子ぐらいの差がある。えっと……気まずい空気だ。ここは――!


「じゃ、じゃあ私も帰る。なんだか知らないが、依頼関係はよろしく頼むぞ、ラウゼ!」


「ああ、楽しんできなさい」


「あっ、逃げるつもりねソノミちゃ――」


 小走りで扉まで駆け寄り事務所から脱出。壁越しにミレイナの怨念がましい声が聞こえてくるが気にはしない。


「グラウと……よし!」


 頑張らないといけないな。あのグラウが、次もまたうなずくとは限らない…いや、もうこんなチャンスは二度とないという覚悟でいこう。だから確実にこの機会を最大限に活用する。


 でも……どうしようか。少し冷静になると不安しか湧き上がっては来ない。何を着ていけば良い、どう振る舞えば良い。だってそんなこと、私にわかるはずないだろ――私は、普通の少女じゃないのだから。

小話 Intermission


ソノミ:唐突に始まったな、本筋にあまり関係ない話


グラウ:でも、一応本編でもIntermission内での出来事に触れることもあるそうだ


ソノミ:……二人きりだな


グラウ:あぁーー


ネルケ:ところがどっこい、小話の中ではわたしも登場するのだ!


グラウ、ソノミ:わぁ!


ネルケ:どこかの盗人プリーストみたいな驚き方しないでよ!


グラウ:そもそもわかる人いるか怪しいがな


ソノミ:……邪魔しやがって


ネルケ:何か言ったかしら?


ソノミ:別に、お前のことおじゃまむしだとか思ってはいない


ネルケ:思っているわよね、それ!


グラウ:……はぁ、今回は俺の二番目のセリフのことを伝えたかった、それだけだそうです


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