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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第一次星片争奪戦~日本編~
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第6話 勝利の美酒にはまだ早い Part5

〈2122年 5月9日 2:54PM〉―スクリム―


「若頭、ちょっと待ってくださいよ!」


「あまり我々から離れると、迷子になりますよ!」


「うるさいなぁ……ガキ扱いするなよなぁっ!」


 まったく過保護すぎるんだよこの二人は。こんなところで迷子になるわけないっつうの!それにここは日本。何も危険なことなんてありはしないのに。


「ミノ、ビーザ。別にお前らは争奪戦終わった時点でもう帰ってよかったんだぜ?ていうか帰れよッ!」


「そういうわけにはいきません」


「ご自分がどういう立場にあるかまだ理解されてないんすか?」


「それは……」


 痛いところを突かれたな。立場なんて言われてしまうと言い返すことが出来ない。親父には迷惑をかけられないからな……それでも、親父に好きにしていいと言われてここに来たんだ。アパレル店が並ぶストリートでまで、保護者同伴とか辟易するぜ。


「あっ、これとかいいんじゃないっすか、若頭?」


「そんな安っぽいパーカー着れるか!」


「スクリム様」


「あっ、いや、別にそんなつもりで言ったんじゃない。安くていいパーカーだって、言おうとしたんだ」


 危ない。店員がいることを忘れていた。不用意な発言は慎まないと。


「でも、スクリム様に似合うものが、日本にあるとも思えませんよ?」


 ミノが耳打ちしてきた。確かに、オレの来ている服は全部オーダーメイド。ここにあるものはオレには似つかわしくない。


「いや、別に……ここに来たのはオレのを買おうとしにきたんじゃないんだよ」


「「……え?」」


 ビーザまでも驚いた素振りを見せた。まったく、なんでそんな反応するんだよ。


「若頭、ご自分のじゃないっていうなら、いったい誰のを買いに来たんすか?」


「………親父のだよ」


「…!エモンド様のをですか!?」


「なんだよ、そんなに変かよッ!!」


 ビーザ、露骨に笑いやがって……くそ、言わなければよかった。


「スクリム様、理由をお聞きしても?」


「うん……親父、忙しいだろ?ぶいぶいいわせてたころは世界中を旅してたって言っていてが、今じゃデスクから離れられないほど多忙だ。だから、せめてお土産をと思ってな。親父、別に名産品はいらないって言ってたから、もっと頻繁に使ってもらえるようなものを……って、おい!なんで涙目なんだよ!!」


 わけがわからい!なんでミノ涙ぐんでいるんだよ。それにビーザもあっけにとられて顔をして。


「スクリム様……やはり根はやさしいお方なのですね」


()は?馬鹿にしているのかッ!?」


「いや……だって若頭勝手な行動しまくりだったじゃないですか、結界の中で」


「ギクっ!!」


「ですが無事に帰ってくださって本当に良かったのです。これでエモンド様も安心されるはずです」


 そんなことを言われたら、オレまでなんだか泣きたくなるじゃないかよ……


「あのグラウって人に感謝しないとっすよ、スクリム様」


「他の異能力者であればと考えると……」


「そもそもオレを負かすようなやつそういないって――でも」


 灰鷹。このオレを破った最初で最後の男。確かに命を救ってくれたのは恩だと思ったけど、それももう返した。だから――


「次に会ったときは必ずぶっ飛ばす。それまで首を洗って待っていろよ、灰鷹ッッ!!」


「反省してませんね、スクリム様」


「これはもう一回説教したほうがよさそうっすね」


「うっせぇ!!」


 きっと次の争奪戦にも参戦するだろ?今度こそ負けないからな――!


〈2122年 5月9日 9:14PM〉―?―


「――ということがありました」


「ほう、ノウザが……アア、ナンタルことカ!我らが同胞が、世界を救う選ばれし異能力者(サルワートル)ガ喪われるナド……」


 膝から崩れ落ち、何度となく頭を地面にぶつける法衣を纏った年齢不詳の白髪の男。その前に白装束の信徒が立っている。


「聖下、どうかお止めください――」


「アナタにソンナことを言う資格などアリマセンねッ!!」


 急に起き上がり、男は信徒の首を締めあげた。法衣の隙間から見える骨ばった細い腕からは想像出来ない力が、信徒を苦しめる。


「おっ…おやめください……」


 信徒が必死に紡ぐ言葉に、男は情けをかけようとはしない。むしろより力を加え、喉を圧迫していく。


「ノウザを、そしてその愛する子らは喪われタ……ソレをしたモノが最たるアクであるのは確かデスが………何故アナタはのこのこと帰ってきたのですカ?」


「そっ、それは……報告のために……」


 信徒の顔が真っ赤に染まっていく。血が止まっていたのだ。男の締め上げによって。


「…アナタがすべきことは報告ではナカッタ……ソノ異能力者を見つケ、首を持ち帰る。そうデしょウ?」


「それは……」


 無理であったと伝えようとした。信徒は異能力者ではない。もちろん戦いの術は学んでいたが、ノウザを仕留めたような人物など自分の力ではどうしようもなかった。しかしそれを言うのが得策ではないことは明らか。それは火に油を注ぐようなもの。八方塞がりであった。言い訳も、肯定も出来ない。この先自分を待ち受けるのは――


「アナタのようなマヌケがいるから異能力者などに後れをとっタのデスよッッ!!」


 ボキと鈍い音が聖堂に響いた。信徒の首はあらぬ方向を向き、男はそれを放り投げた。


「親愛なるノウザを殺めた冒涜者よ……アナタの罪は重イ、決して現世では償いきれないデショウ……アナタは楽には殺しまセン。ゆっくり、じっくり……真綿で首を絞めつけまショウ。ありとあらゆる爪を剥いで、関節を破壊シ……生まれたコトを絶望させてあげまショウ。ふふふ、ハハハハハハハハハッッッッッッ!!」

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