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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第一次星片争奪戦~日本編~
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第6話 勝利の美酒にはまだ早い Part2

〈2122年 5月8日 3:22PM〉―グラウ―


「おお…ここがその場所か……」


 商業ビルの地下にやってきたわけだが…店の前に滝があるっていったいどうなっているんだ?黄金の床に黄金の壁。格調高い設備の数々。うん、そうだな――


「たぶん今お前と同じことを考えていると思う、グラウ」


「俺もそう思うぜソノミ――」


「「場違いすぎるだろ!」」


 こんなにも自分が恥ずかしく思えたのは初めてだ。俺のようなろくでなしが高級料理店なんて行ったことあるわけない。しかしそんな俺でもわかる。ここは女性ならネルケが着ているようなドレス、男ならタキシードなどの正装が求められる場所だ。それにここにくるのは国を動かすようなお偉い方々…汚れ仕事をしているような人間は本来無縁の場所だろう。


「何を騒いでるの二人とも?」


「ネルケ……」


 俺たちとは対照的に一切この場に物怖じしていないネルケ。それもそうか。彼女は元令嬢。きっと慣れているのであろう。


「話を付けてくるからここで待ってて」


「おっ、おう」


 一人受付けに向かうネルケは堂々たるもの。


 あのドレス姿――やはり美しいな、ネルケは。変なことを言いださない限り彼女ほどの美女はそう他に存在しないだろう。いや、ある意味そのマイナスの部分があるからこそ俺は彼女を見ることが出来るのかもしれない。暗闇の中のものはみることは出来ない。それと同じように輝きすぎているものも見ることは出来ない。だから多少の欠点があった方が人らしくて良い。ネルケという人物がもしもおしとやかな人だったのなら、それこそ本気で俺のような人間とかかわりあわない方が良いだろうと突き放していただろう。でもまぁ……対処に困りはするが彼女のアタックも――悪くない。


「ちっ」


「舌打ちしなかったか、ソノミ?」


「別に。そうだよな、こんなダサいジャージ着たちんちくりんより金剛石のように美しいあいつの方が良いに決まっているよなぁ!?」


 急に切れだすなんて珍しい。俺、何かソノミの気に障るようなことしたか?


「どうしたんだよソノミ?」


「鼻の下伸ばして……お前もやっぱりあいつのことが――」


「お待たせ!」


 ソノミが何かを聞こうとしてきたところに、ネルケがクリーム色の髪をなびかせながらやってきた。


「ソノミ、どうかしたの?」


「別に。よかったなネルケ」


「うん?」


 ソノミの言わんとしていることは俺にも、そしてネルケにもわかってはいないようだ。


「まぁいいわ。うん、行きましょう。グラウ、あなたの念願のシャトーブリアンよ」


「おう。ついにきたんだな」


 ソノミが不機嫌なのは気になるが……お腹でも空いているんだろうか?無理に聞くのも逆に悪いかもしれない。今ははやく肉のもとへ――



「本当に良いのか、ネルケ?」


「ええ、もちろん。今日はわたしの奢りで構わないわ」


「お前、値段見たか?三人分なんて6桁いくぞ?」


「そのくらい、へでもないわ!」


 思わずソノミと顔を見合わせた。目の前の人物はもしかしたら札束の風呂に入るのが趣味の人種なのかもしれない。


「しかし、わざわざ個室まで用意してもらえるなんて思わなかったぜ」


 純白のクロスが敷かれたテーブル、座り心地が最高のチェア。黒塗りの壁、シャンデリア。生きている間にこんな場所に来ることになるなんて思いもしなかった。


「本当は目の前で焼いてくれるんだけれど……いろいろあるでしょ」


「私たちの話を聞かれては困る、そんなところか?」


「ええ、そう。一応ここのシェフと知り合いだけれど用心はしないと」


 目前でシェフが焼いてくれるというのも憧れているが確かに仕方がないな。このボディバックの中にあるそれのことも考えなければならない。


 コンコンと扉が叩かれた。ネルケが応答すると来たのは――


「ソノミはまだ成人じゃないわよね?」


「ああ。いいなお前らは。こういう場所に似合ったものを注がれて」


 ポンと音をたてコルクが外れた。そして俺の目の前のグラスが返されて注がれていく真紅の液体(ワイン)。それからネルケへと。最後にソノミは透明な炭酸水が注がれた。


 接客が去って行った後、ネルケが俺に目配せをしてきた。そうだな、俺が乾杯の音頭をとるべきか。


「それじゃあ36時間お疲れ様でした。この勝利は俺たち三人、そしてゼンがいたから成しえたもの。付け加えるなら、どこぞのマフィアとの奇縁のおかげもあるか」


「何が幸いするかわからないものね」


「あいつらが星片の場所を教えてくれなければWGに逃げ切られていただろうな」


 あの戦場の中で三人にまで絞ってくれたのはありがたかった。それと実はポーラがあのマルスという煙の異能力者を追い込んでくれていたことも実は大きな助けであったのかもしれない。もし彼女があの人と交戦していなかった場合、俺はこうして二人とともにこの場にいることは無かっただろう。


「では俺たちの勝利と生還を祝して――乾杯!」


「「乾杯っっ!」」


 3つのグラスがコツンとぶつかり小気味の良い共鳴がした。それからグイっとワインを口に注ぐ。


 さわやかなアタック。それからほどよい辛さ。ミディアムなボディ……余韻もこれほど長く続くとは――


「普段飲むわけではないが…そうとう良いやつだってのはわかる」


「グラウは飲み物に関して変な味覚をしているから正当な評価をしないかとおもっていたけれど……ええ。百年物よ。名前はBaiser(ベゼ)


「口づけ、か……」


 ネルケは名前でこれを選んだのかと邪推してしまう。意識せざるをえないだろう。出会いが出会いだったから。言葉をまともに交わすよりも先に唇を交わすなんて忘れるほうが難しいだろう。あの唇を――


「――いてッ!なんだよソノミ?」


 テーブルの下という空間において、俺の足の甲を襲ったのはソノミの鬼脚だとすぐに気が付いた。


「お前がいちいち鼻の下伸ばすのがむかついた」


「鼻の下って……」


 そんな俺、露骨に顔に出さないと思うんだが…鏡もないからわからないが……うん?なんでネルケは笑っているんだ。


「ふふん!ここではいいところなしね、ソノミ!このままわたしが押し切っちゃうかしら?」


「……ふん。問題ない。私は焦る必要がないからな。お前とは違って」


「確かにそれもそうね……でも例えば誰かのグラスにだけ特殊な薬が塗って有ったりしたらどうする?」

「なんの話をしているんだよ」


「「グラウには関係ない(わ)!」」


 いや、むしろ俺が中心にいるこぐらい俺でもわかってはいるんだが。


「もしかしたら気が付かないうちにぐっすり寝ていて、放っておくにも放っておけずホテルに連れて帰ったり――とかするかもしれないわよ?」


「……お前にそんな隙はなかった。それにこいつは睡眠薬に耐性があるぞ、だろ?」


「ああ、まぁそうだが…」


 実際に睡眠薬飲ませてきたやつがネタにすることではないと思うが。そうツッコミたいのはやまやまだが、今のネルケとソノミはまた龍虎の掛け軸のように火花をバチバチさせている。この状況の女性二人に口をはさみたくはない。


 コンコン――と、救いがやってきたじゃないか。扉を再びノックされた。そして扉が開いた瞬間、俺は気が付いた――今までかいだことのないような最上の肉の香りが漂ってきたことに。


「あっ、ああ…これが……」


 接客がいるのにかかわらず声が漏れてしまった。だが反応しない方が無理というものだろう。香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。じゅじゅじゅと鉄板の上で肉が焼けていく音が鼓膜を震わせる。ああ、なんたることか。この匂いを袋詰めにしたい。この音を録音して着信音にしたい。


「本当に待ち望んでいたのね、グラウ?」


「垂涎の一品だ。今の俺は夢にいるんじゃないかと疑ってしまう」


「現実だ。この匂い、この目の前のシャトーブリアンは」


 ネルケは反応が薄いが、ソノミは目を輝かせていた。そうだよな、こんなものを見せられて興奮しない方がおかしいよな!


「えっと……それじゃあいただきましょうか」


「ああ!」


 フォークを右手にナイフを左手に切り込んでいく。溢れ出てくる肉汁がもったいなく感じる。さて、とりあえず一切れを――んん!?なんだこれは――


 ああ、ああ!これがシャトーブリアン、伝説の肉!外側の良い焼き加減と内側の丁度良く火が通ったレアの赤身。おいしい……そんな表現じゃ足りない。至高、この世のものとは思えない。ああ、ほろっと溶けていくこの上品な味!もう思い残すことは――


「二人には感想を聞かなくても、なんだかいろいろ伝わってくるわ」


「ああ、ネルケ。感謝してもしきれないぜ。こんな機会を恵んでくれたことに」


「右に同じだ。父様と兄様と行っていた店でもここまでのものはなかった……お前はライバルなのかもしれないが、今はそんなことを忘れてしまう」


「あはは……連れてきてよかったわ、二人を」


 ネルケの顔が少しひきつっているようだがそんなことはどうでも良い。このステーキ、後何切れに分けれれる?小さすぎては口の中で味わう前に消えてしまうし、大きすぎるのはもったいないし……


「……別に一枚だけじゃなくて良いわよ?」


「本当か!?」


「えっ、ええ」


 思わずネルケの手を掴んでいた。ああ、女神だ。女神が目の前にいる。一枚ですら感謝しきれなかったのに、もっと頼んでいいなど――


「ネルケ……愛してるぜ!」


「――っ!!」


 思わず口から何かとんでもないことを言った気がするがまぁいいだろう。鉄板が覚める前に美味しく食べさせてもらおう。


「ぐ、グラウ?えっと、その……そっ、そうよね。今はまだ……うん。きっと聞き間違いよね」


 うん、ネルケの顔が今まで見たことがないぐらいに真っ赤だ。


「どうした、ネルケ?」


「ううん、何でもないわ。ソノミも追加する?」


「悪いな。頼む」


「わかったわ」


 もしかしたら本当に天国に来たのではないかと思う。もしそうでないにせよ俺の今の口の中は天国だ。塩と胡椒の味付けも最高だし、白いご飯にもよく合う。後何枚食べられるだろうか?もう二度と食べる機会なんてないだろう。しっかり口と鼻と耳と目に焼き付けなければ!

小話 お酒以前の話


ネルケ:ソノミ、お酒が飲めない年齢なんて可愛そうね


ソノミ:成人しても飲むつもりはそうないがな


グラウ:人によってアルコール適性ってあるからな。パッチテストとかで試してみるのもありかもしれない


ネルケ:でも、ワインってけっこう身体にいいって聞くわよね


グラウ:でも飲み過ぎには注意な。俺もけっこう酔いが回りやすくてな……へっく!


ソノミ:じゃあ酔っぱらいに変わって、書いている人から渡された原稿を……皆さんはビールは飲めますか?うん、誰に聞いているんだ?


ネルケ:さぁね。わたしはもちろんのめるわよ


ソノミ:作者は……無理だそうだ。炭酸の時点でダメ、と。あぁ、いるよな炭酸飲料ダメなやつ


ネルケ:まず唇が痺れて、喉の奥に液体流し込むのが辛い……相当なものね、作者


ソノミ:幼少期にはぴゅーっと吐き出したそうだ


グラウ:なのになんで俺、炭酸飲料(ギブミエナジー)好きな設定なんだろうな


ネルケ、ソノミ:出た、ゲロマズ飲料!


グラウ:怒るときは怒るぜ、俺?


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