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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第一次星片争奪戦~日本編~
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第5話 皐月の夜は明け、光は満ちて…… Part8

〈2122年 5月8日 11:31AM 第一次星片争奪戦終了まで残り45分〉―グラウ―


 サッカーという競技は、観客さえも熱狂させるほどの熱いスポーツだ。ルールも単純明快で、要は敵のゴールにボールを入れれば良い。しかし今でこそ禁止行為が定まって一大スポーツとなったサッカーだが、今の形に至るまでにはルールがかなり変化してきたそうだ。イングランドでは敵の将軍の頭を蹴り飛ばしていたという。また起源と言われるモブ・フットボールではコートは街全体、禁止されていたのは殺人のみ。殴ろうが噛み付こうが……ボールでなく人を蹴ろうが問題はなかった。きっとその反省が、今のサッカーでは手を使うことを禁止していることにつながっているのだろう。


 俺はスポーツと言うものがあまり好みではない。何故ならルールがあるからだ。あれをしてはだめ、これをしてはだめ。正々堂々スポーツマンシップにのっとって競技を行うことがプレイヤーに求められるわけだが……その制約を非常に重たく感じる。純粋な能力だけでの戦いこそ燃えるものがあると人は言うが、それは強者の戯言に思う。もちろん強者になった人間には努力を積み重ねた者もいるだろう。しかし努力なんて本当に必ず実るものなのだろうか。もしもその努力が全て無駄だったら、その費やした時間はいったいどうなる?もっと簡単に弱者が強者に追い付く手段があるじゃないか――利用できるものはすべて利用する。それゆえ、ルールなんてものは俺にとって障害でしかない。縛るものがなければ無いほど、弱者はその小さな牙に強力な毒を塗ることが出来るだろう。


 テレビをつけた時、たまたまそのチャンネルでスポーツの生中継をやっているということはよくあることだ。その度に思う。俺は絶対スポーツ選手にはなれないだろうと。野球をやればデッドボールしか投げないだろうし、バスケットボールをしたらボールを持ったまま駆け抜けそうだ。サッカーをやったら……手が出ないはずがない。そういうわけでチャンネルをすぐ変えてしまう俺だ、わざわざスタジアムに赴くなんて今までしたことはなかった。今日この時が、きっと最初で最後のスタジアム入場になるのだろう。


 しかしこんなにもサッカースタジアムが広いとは思わなかった。事前に見た情報だと、このスタジアムは五万人を収容するそうだ。それだけの大衆に見られながら競技を行う選手のメンタルは鋼で出来ているのではないだろうか。


 青白い光が俺を照らす。天井が存在しない?否、可動式のようで、開いた状態のまま結界に飲み込まれたのだろう。芝生は青々として、一定の長さに刈り揃えられている。いつでも試合を行える状況にきちんと整備されているわけだが――あの男との戦いが終わるころには、この芝生がめちぇくちゃになっているかもしれないな。


「まさかここに来る者がいるとは……付近の部下を全員葬ってきたということですか?」


 黄緑色をした長い髪を揺らしながら、男は青い視線を俺に向けてくる。


「あんたらの兵士の多さにはうんざりしたぜ。いくら倒しても湧いて出てくるからな。だがここに来ている兵士、実戦経験ほとんどない新兵ばかりだろ?」


「よくそんなことにお気づきになりますね」


 慣れている兵士と慣れてない兵士とでは歴然とした差が出る。新兵10人と古参兵5人とではどちらが強いだろうか?人数で言えば言うまでもなく新兵に分がある。もちろん数は戦局において大きな意味を持つわけだが、それだけでは勝敗は決しない。戦慣れした人たちの連携を崩すことは容易ではない。仲間の位置を把握したうえで、自らもまた相手に一方的に仕掛けられる位置につく。新兵は個の連なりでしかないことが多いのに比べ、古参兵たちは集団のメリットを最大限に活かす。幸い俺が戦ってきたWGの兵士たちは、てんでバラバラ。一人ずつ狙っていけば、対応していくことはそれほどむずかしくはなかった。


「君はなかなかの手前にお見受けする。ですが君は……毘沙門でもテラ・ノヴァでもありませんね?」


「ああ。あんたらの知らない組織だよ。Peace&Liberty、P&L。グラウ・ファルケ」


「確かに聞いたことがない。だが知れてよかったよ。僕はレスペド。本争奪戦においてWG全部隊の指揮権を与えられているよ。よろしく頼むよ、グラウ?」


 それが友好的な挨拶ではないことはすぐにわかった。レスペドは笑っていない。兵士の仇をとるため、星片を守るため。俺と親しくするつもりなど、彼にあるわけないのだ。


 しかし指揮を任せられているということは……もしかして俺が当たりを引いたのかもな。


「ここまで来たんだ、いったいどんな異能力なのか、存分に見せてくれたまえよ」


「期待するな。あんたの異能力の方が絶対に強いからさ」


 ホルダーから銃を引き抜く。


 きっとこれがこの争奪戦の千秋楽になるだろう。この男を倒し星片を奪うか、男に敗北し殺されるか。未来はその二つのみ。いや、一つだ――


「レスペド、勝利の直前で敗北する絶望、あんたに味わわせてやるよ!」

「ふん!いいでしょう。無名の組織の異能力者よ、何も世界に刻めぬまま果てるがいい!!」

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