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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第一次星片争奪戦~日本編~
33/108

第4話 透明の狂気 Part6

〈2122年 5月7日 11:31AM 第一次星片争奪戦終了まで残り約25時間〉―ポーラ―


「行ったわね」


 あの三人の姿が見えなくなった。アタシもようやくあちこちに付いた小さな葉っぱを落とし終えた。


「すごい奴らでしたね、あの人たち」


「ええ。あれほどの実力がありながら、どうして知名度の低い組織にいるのでしょうか……」


 実際に戦ったグラウ・ファルケのことしかわからないけれど、彼だけとっても凄腕だった。異能力はあの銃を撃つ程度のものなのだろうけれど……その技術、戦闘における立ち居振る舞い、敵ながらあっぱれと言わざるを得ない。


「――ポーラ様!ルノ様から伝言です」


「何?」


「WGの異能力者に苦戦している。至急応援に駆け付けよ、だとのことです」


「はあっ?あっちに戦力をかなり集中させているのに苦戦しているの?相手の異能力は何よ?」


「それが……煙を使っているみたいです」


「煙?」


 あのもくもくとした煙のことかしら?それのどこが脅威なのかしら?


「まぁ、いいわ。負けてばっかりじゃ気分が悪い。腹いせにそいつを蹂躙してさしあげようかしら」


 ルノの異能力では確かに煙の異能力者なんていうのは相手しづらいかもしれない。他のみんなもそうだ。でもあたしは違う。煙?そんなものは空を飛ぶアタシには効かない。ええ、やってやりますわ。アタシのすべては、グレイズ様のために。


〈2122年 5月7日 0:08PM 第一次星片争奪戦終了まで残り約24時間〉―ゼン―


「ここか」


 住宅街の片隅に聳える尖塔。白装束を着たやつががいる。ここで間違いなさそうだ。


 結構歩いたぜ、ここまで。あれから何人か殺してきたけれど、どいつもこいつも狂っていた。異能力者は世界の敵とか、異能力者は地球の侵略者とか……オマエらは異能力者の敵だってば。


「全員ヤるのは面倒くさいな……」


 警備をしている連中だけでも10人以上いる。オレはソノミ先輩のように多人数を相手に立ち回ることに特化した異能力じゃない。どうせ親玉を潰せば、あとは糸の切れた凧のようになるだろう。


「(おじゃまぁ)」


 何も臆することはない。正面をきって入ることが出来る。このバカ共は気が付かない。オレが隣にいることを。誰にもわからない、誰にも邪魔されない。この異能力は、そう無敵なんだ。


 教会なんて信心深いところとオレは無縁。日曜礼拝に行ったことがないどころか、そもそも教会の中に入ること自体これが初めてだ。でもある程度知っているぜ、あの色ガラスを組み合わせて模様を描いているの、ステンドグラスって言うんだよな。そして奥のものものしい壇を、祭壇って言うんだろ。

ん?なんだあいつ頭に包帯巻いて…露出しているのは耳と鼻だけ。いや、ほぼ全身に包帯巻いているじゃないか。


「誰かいますね?」


 しゃがれた声。ふっ、流石にオレのことを言っていないことぐらいわかるさ。たぶん後ろに信徒がいるからそいつのことを言っているのだろう。


「アナタですよ、アナタ」


 まさか、そんなはずないだろ?また嗅覚がすごい奴なのか?


「……透明化の異能力者、と言ったところですか?」


「――!?」


 息を呑んでしまったが、ばれてないよな?いや、なんで?透明人間の異能力者って――ここにいることがわかるわけないだろ?どうやったって……


「ああ、罪深き異能力者の忌み子よ、白を切るおつもりですね。ワタシにはわかります。ここにくるまでに我が親愛なる子らを殺めてきましたね……そうでしょう?」


 完全にばれている?死臭ってやつ?いや、それは早くても二日、三日経ってからし始めるものだろ?ならば血の臭い?念入りに洗ってきたぜ、これでも。


 薄気味悪い、こんなやつ――


「ワタシにはアナタが見える。親愛なる子らに見えずとも、ワタシには見えるのです――」


「……じゃあ、オレが今から何をしようとしているかわかるか?」


「ワタシの首を締めあげようとしていますね」


 背後をとった。両手がもう、その包帯の巻かれた首の圧迫を開始しようとしている。


「構いません。効きませんから」


「最期まで、狂信者は頭おかしいのか?」


 ゆっくり、締め上げ――はっ!?固い?まるで石の棒を握っているような……いったい――?


「――ノウザ様から離れろ!!」


 真上からの殺気に、その場から後方に跳躍。危ない、少しでも反応が遅れれば、槍の餌食になっていた。


 新手だ。さっきまではこんなやついなかった。角刈りの男。こいつもオレが見えているのか?


「ゲンマ、手出しは不要です」


「しかし………っ、はい」


 嘘だろ、なんでだよ!見えてないだろ!見えるわけないんだよ、オレの異能力はッ!!狂っているから…狂っているから見えるって言うのかよッッ!!


「単身で教会に攻めてくるとは思えません。透明化の異能力者よ、アナタの仲間はどこに?」


「さぁね。どこにいるかな?」


「……そうですか。ゲンマ。彼はワタシに任せなさい。我が子らを連れて、さらなる異能力者に備えなさい」


「かしこまりました、ノウザ様」


 このゲンマって男、ずっとオレから視線を離さないまま立ち去っていくって……なんでだよ!!透明化が通じないなら、俺はいったいどうすれば良いんだよッッ!!


「さて、透明化の異能力者よ。今すぐ懺悔するとおっしゃるなら、命は助けて差し上げましょう」


「懺悔なんて……するわけないだろ!!」


 どうする?どうする、どうする?こいつ、只者じゃない?通信機……畜生、自分で壊したじゃないか。武器って言っても、ナイフの一本しかないし…戦闘技術なんて、オレなんか大したことないし――


「もしかして、焦っているのですか?」


「っ!?そんなわけ!!」


 いや、ばれている。あからさまな反応過ぎる。でも今更この不安を押し隠せるわけないだろ。くそ、クソッ!こうなったら――


「オマエを……オマエを殺す。ノウザ、オマエが親玉なんだろ!?」


「子らをまとめる大義を教皇から仰せつかったまでのことです。親玉と言う言葉は、ワタシには相応しくありません」


「黙れッ!?」


 ナイフ一本でどこまでやれる?そもそもこいつは本当に非異能力者?あの嗅覚が優れたやつが異能力者だったこと、さっきの首の固さとかからしても、もしかしたらこいつも――逃げるか、今から?こいつに殺されるぐらいなら、グラウ先輩に土下座する方がましだ!でも逃げたとしてもあのゲンマって男に気が付かれる。


「忌み子よ、懺悔を拒否した時点でアナタの未来は確定しています。アナタはここで永久に眠る」


「っ!?ぐっっっっッッッ………はあああっっっッッッッ!!」


 突撃。もういい、考えるな。はったりだ、オレの心を乱そうとしているに過ぎないだろ!殺す、殺す。オレは勝てる、オレは勝てる…絶対に勝てるッ!!


「汚らわしき忌み子……断罪を――――我が目を見よっ!!」

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