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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第一次星片争奪戦~日本編~
31/108

第4話 透明の狂気 Part4

〈2122年 5月7日 11:02AM 第一次星片争奪戦終了まで残り約25時間〉―ポーラ―


「銃を下ろしてはくれないか?俺たちはあんたらに危害を加えるつもりはない」


「嘘おっしゃい!アンタの隣の刀を持った子、柄に手をかけて今にも斬りかかってきそうなのだけれど?」


 アタシたちの背後から忍び寄ってきていたのは三人。リーダー格と思わしき灰色の髪の青年、グラウ・ファルケ。刀を腰に据えた黒髪の少女。そして……なにこの人、めちゃくちゃ美人なのだけれど!?えっ、何、その余裕そうな笑みは――


「ソノミ、刀から手を放せ」


「だが……ああ、お前が言うなら私は従う」


 黒髪の子、ソノミって子はグラウに従順なのね。もしかして惚れているのかしら?


「ネルケもだ。そんなあからさまに殺気を放っていたら、先方も快く思わない。俺たちは頼む側であって、脅しに来たわけじゃない」


「むぅ~。そうね、グラウの指示なら従ってあげる。借金に上乗せする形で」


「気づいたら返済不可能になっていそうだな」


 クリーム色の髪の女性ネルケとグラウが何を言っているか全くわからないけれど…そもそも彼女が殺気を放っていた?全然気が付かなかったのだけれど。


「これでいいか?さて、あんたらに一つ聞きたいんだが――」


「誰が答えると言ったのかしら!?」


 アタシの発言に、ここにいる人たちは3つの反応を示した。アルビオとシセは何故か首を横に振って訂正を促してきている。まったく、どれだけアタシのことを信用していないのかしら。ソノミと、たぶんネルケもそうだろうけれど、抑えていたはずの殺気の色が再び見て取ることが出来るようになった。そしてグラウは……無反応。表情一つ変えず、アタシから視線を外さないでいる。


「そうだな。俺たちとあんたらは互いのことを何も知らない。だからと言って敵でもないだろ?危害を加えてはいない」


「いいえ、敵ね」


「テラ・ノヴァは異能力者の味方じゃないのか?」


 流石にこちらの軍服で気が付いていたか。肩に飾った刺繍。異能力者と非異能力者が握手している図。他でもないグレイズ様が描いたもの。アタシたちのシンボル。


「ええ、そうね。アタシたちは異能力者の地位向上を求める慈善団体。でもね、時として手段をわきまえてばかりじゃいられないの」


「奇跡の欠片、星片には目が眩んだと?」


「……アタシたちの意思はグレイズ様の意思。グレイズ様がそれを求める以上、必ずグレイズ様の元へそれを持ち帰る」


 星片を狙う目的……グレイズ様はアタシたちにそれを教えてはくださらなかった。グレイズ様はただ「彩桜市の星片を回収しなさい」とだけ言われた。でもテラ・ノヴァの団員はグレイズ様を決して疑わない。グレイズ様は多くのことを考えてくださっている。きっとここでの戦いが、異能力者と非異能力者の橋渡しに寄与するはず。


「随分信頼しているんだな、グレイズ・セプラーのことを」


「ええ、もちろん。グレイズ様はアンタのようなどこの馬の骨とも分からないやつと違って、賢くてお美しい紳士なの――」


「聞き捨てならないわね!」


「!!なっ、なによいきなりっ!」


 ネルケが急に近づいてきたと思えば――顔が近い。ちょっと、同性なのに照れるのだけれど!?それになんでこんな笑顔……いや、違う。怒っている!この人激怒してない!?アタシ別に彼女の悪口言ってないんだけれど!


「グラウがどこの馬の骨とも分からない?グラウを馬鹿にしないで。グラウは優しいから怒らないだろうけれど、代わりにわたしが怒るわよ。貧相な身体つきのブロンドさん?」


「なっ……」


 うぐぐぐぐっっっ。何も言い返せない。この人相手じゃ、アタシなんかじゃかないっこない。歴然とした差がある。ああ、せめてもルノが隣にいてくれれば心強いのに。


「よせ、ネルケ。綺麗な顔にしわがつくぞ」


「ソノミ……そうね。わかったわ。今は許してあげる」


 ソノミに従って、ネルケはまたグラウの隣に戻っていったけれど……ここまでのことを総合すると、このグラウって人――二人ともこましているの!?いや、確かに顔は悪くない、もちろんグレイズ様以下だけれど……それにしたってまさに両手に薔薇よ。なんなのこの人!罪づくり過ぎなのではないかしら?


「で、だ。あんたらは質問に答えてくれないようだが――」


「ポーラ。テラ・ノヴァのポーラ」


「ポーラ。どうすれば答えてくれる?」


「そうね……ふっ、アタシは話し合いを望んでいない。意味、わかるわよね?」


「見かけによらず好戦的なのか、あんた」


 星片が落ちてから結構な時間が経ったというのに、アタシはずっと歩いてばかり。ルノと同じく前線にいれば、こうは退屈しなかっただろうけれど……このままでは、何もせず帰るなんてことになってしまうかもしれない。だからせめて、アタシも一人の戦士として活躍しておかないと!


「良いことを教えてあげるわ。実はアタシ――異能力者よ!」


 ……あれ、なんだか反応薄くないかしら?異能力者ってだけで、結構レアな存在なのに。


「そうか。ならばお返しにとびっきりの情報を教えよう――俺たちは三人とも異能力者だ」


「……えっ?」


 さっ、三人とも?嘘でしょ?それじゃあ戦力的に……ちょっと、アルビオもシセも絶望みたいな顔しないでよ!


「だがいいぜ。あんたらには情報を吐いてもらうからな。俺たちも譲歩しよう。俺たちの中から一人選べ。戦うのはその一人だけ。悪くないだろ?」


「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!なんで勝つことが前提なのかしら!?」


 この燃えカスみたいな髪の男ぉっ……調子にのりやがって!


「三分の二で勝てると確信しているからな。で、どうする。誰を選ぶ?」


 そんなの決まっているでしょう!ここまでアタシを怒らせおいて、タダで済ませるなんてできるわけがないわ。


「アンタよア・ン・タ!このキザ野郎っ!女の敵ッ!!その顔に泥を塗ってやるわ!」


 アルビオとシセが青ざめた顔をしているけど気にしない。絶対にその鼻をへし折ってやる。


「散々な言われようだな……流石に傷つくぜ。だがあんた、見る目があるぜ。見事三分の一を引き当てた。俺はこの中じゃ一番弱いからな」


 あれ、意外ね。一番厄介な敵に敢えて挑んだつもりだったけれど……それはそれで都合が良いかしら。


「あたしは一切手加減しない。もしかしたら殺しちゃうかもしれないけれど、それでも良いのよね?」


「俺はあんたを殺すつもりはないんだがな……死ぬ前に、終わらせないとな」


 ついに異能力を使う時が来たみたね。


「この勝負、グレイズ様に捧ぐ…テラ・ノヴァ、ポーラ・ワイズ――アンタを蹂躙してやるっっ!!」


「それじゃあ少しだけ痛い目……見てもらおうか!」

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