第4話 透明の狂気 Part2
〈2122年 5月7日 10:52AM 第一次星片争奪戦終了まで残り約26時間〉―?―
「異能力者、異能力者、異能力者・・・・・・」
「この世界を汚す存在、この世界を狂わす存在、この世界を滅ぼす存在・・・・・・」
「見つけて、見つけて、全員見つけて・・・・・・」
「「「殺すッ!」」」
白いフードが闊歩する。異能力者を求めて練り歩く。
右手には蝋燭。溶け出した蝋が手に垂れても気にしない。熱さより悪なるものを知っているから。
左手には銀のナイフ。つい数刻前に切り刻んだ異能力者の血肉がこびりついたまま。大いなるお方のためへの供物を捧げん。
「殺す、殺す、殺す・・・・・・」
「世界は人間のもの、世界は異能力者のものではない、世界の奴隷の異能力者・・・・・・」
「探して、探して、全員探して・・・・・・」
「「「血祭りにッ!」」」
―ゼン―
「ふははっ!不気味、っていうか気持ち悪っ!!」
あのへんちくりんな格好からするに、あの三人はデウス・ウルトの信者に違いないな。
本当に異能力者のこと嫌悪しているんだな。でもそれを口にして歩くなんて頭おかしいんじゃないのか?
「くんくん、くんくん・・・・・・これは・・・・・・・・・!」
「どうされましたか?」
「ああ、ああッ!アアアっ!」
何しているんだ、あいつら。目抜き通りをわが物顔で歩いていたと思えば、ど真ん中で急に立ち止まって。
「いっ、いい、いいい・・・・・・異能力者の臭いだぁっ!」
「なっ、なんと!」
「この近くにまだ潜伏しているのですか・・・・・・うううっっっ!!」
うん?異能力者の匂い?はあ?そんなものあるわけ――
「あっ、ああ・・・・・・あそこです!!」
あん?あそこって・・・一番背の高いやつ、俺のいるところを指さしていないか?
ビルの物陰だから、あいつらのいる位置から見えわけはないし……それに異能力だって使っている。まさか、本当に匂いでだと?
「いい忌まわしき・・・・・・いいい異能力者!」
「ああ、なんたることか。虫けらよ、早く姿を現しなさいッ!」
「聞こえているのでしょうッ!それとも我々をわざわざ赴かせるつもりですか!!?」
「・・・・・・はっ、ふはははははっ!!」
なんだこいつら!やっぱり気色悪すぎるだろ!虫唾が走る!
異能力者が嫌いすぎて異能力者の匂いがわかる?そんなこと天地がひっくり返ってもあるわけがない。ただ――一つの可能性を除いては。
「姿が見えませんね・・・・・・もとよりその手の異能力のようなので仕方ありませんが」
「さっさとしなさい!いつまで待たせるのですか!」
「すんすん、すんすん・・・・・・いや、近付いてきていますッ!みなさん、準備を!!」
さて、どう遊んでやろうか。その白装束、赤で染めてやるよ!
「・・・・・・そこですねッ!!」
凄い嗅覚だ。でもさ、オマエらみたいな気持ち悪いやつには負けないって。
突き出されたナイフを持つ左腕を掴み、さっき人ったばかりの釘を関節に突き刺す。
「うぐっ!!」
落としたナイフを拾い上げ、痛みに悶絶する男の脳側頭部へと突き刺す。一人目終了。
「なっ、ななななな・・・・・・」
「おっ、おお恐ろしい異能力者!死になさいッ!」
「オマエには用はない」
突き刺さったナイフを引き抜く。
オレを目がけて手当たり次第ナイフを振り回している馬鹿の背後に回り首を切りつける。噴水のように血を吹き出しながら二人目も絶命。残すは一人。
「ひっ、ひぃ・・・・・・」
一番背の高い男。こいつには少し話を聞きたい。だから速攻で逝かせはしない。
足を蹴り飛ばし、地面に顔面からダイブさせる。そして上からのしかかり、身動きを封じる。
「なぁ、オマエさ・・・・・・」
「すぐにでも殺して……」
「やれるもんならやってみな。出来ないから。二つ教えろ」
動揺を隠しきれていないのに強がられても、それは脅しにはならない。虚勢に過ぎないんだよ。
「憎き異能力者に教えることなど・・・・・・」
「オマエ、異能力者だろ?嗅覚が異常に優れている、とかそんなところだろ?」
「なっ・・・・・・」
イエスとは言わなかったが、反応からして正解だな。そうだよな。異能力じゃなきゃ説明つかないよな。
異能力者に共通の匂いなんてものがあるなんてネットの情報で読んだことないし、たぶんそれはこいつにしかわからないことだろう。異能力者と非異能力者の明確な区別は異能力の有無だけで、それ以外を頼りに峻別することは今の科学技術じゃ不可能。こいつの異能力があれば、もしかしたらそれを可能にしてしまえるのかもしれないな。そんなこと、オレにとってはどうでも良いけど。
「続けて二つ目。異能力者のオマエが、異能力者嫌いのカルト集団の構成員って、矛盾してないか?オマエ、本来なら教義に従って殺されていてもおかしくないんじゃないか?」
「…………」
「黙りか」
なにか秘密がありそうだな……たぶん、口割りそうにないな。
仕方ない。
「じゃあさ……オマエらのアジト教えろよ」
「はっ!?貴様、いったい何をしに行く…いいえ、貴様のような大罪人は、枢機卿様に裁かれるべきなのかもしれません」
オレが大罪人?それはうけるな。オレ程度でそれなら、先輩方超大罪人じゃん!
「へぇ、そんなやつまで来てたんだ。で、場所は?」
「……ここからさらに南へ向かったところ、我々の教会があります。この私が直に、貴様を連れて行って差し上げよう」
道案内か。わざわざそんな気遣いをしてくれるなんて親切だな――
「なんて思うわけないだろッッ!!」
後頭部目がけて一突き。もう人をイラつかせる声は聞こえなくなった。
「地図はあるんだよ。教会にいるってことさえわかれば、あとは一人で行ける。オマエらを一分、一秒と多く生かしてやるようなやつじゃないんだよ、オレ」
退屈すぎてここまで来たけど、まさかこんな面白いことが見つかるなんてな。オレはつくづく運が良い。
もうグラウ先輩がソノミ先輩を連れて神社に戻っているだろうな。あの二人は化け物だし、野垂れ死にはしていないだろう。ネルケさんはほんと、こましてやりたかったけれど、グラウ先輩にぞっこん過ぎて……これは仕返しみたいなもんだな。
その枢機卿ってやつを脅せば、デウス・ウルトの秘密もわかるだろう。あいつらの情報を教えれば、グラウ先輩の度肝を抜けるだろうし、ソノミ先輩もあっと言わせられる。絶対楽しいことになるはずだ。
さてと、こいつらの巣に行くとするか!!




