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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第一次星片争奪戦~日本編~
28/108

第4話 透明の狂気 Part1

〈2122年 5月7日 10:05AM 第一次星片争奪戦終了まで残り約26時間〉―グラウ―


 歩き始めてすぐ、俺はとあることを思い出した。スマートフォンを取り出して、耳に入れた通信機への着信履歴を表示する。


「ずいぶん熱烈なラブコールだな」


 ソノミが後ろから画面を覗いていた。


 着信履歴の相手は――びっしりとネルケで埋ままっていた。


「こんな時にラブコールをしてきていたというのなら、俺はネルケを恐ろしく思う。肝が据わっているというか、空気を読んでいないというか・・・ラブコールかは知らないが、彼女ならありえなくもない話だな」


「だが、なぜ無視し続けていたんだ?こんなにかけてきていたのに?」


 別に通信を切っていたわけではなかった。しかし、彼女の着信に応答しなかったことにはそれなりの理由がある。


誰かさん(・・・・)のことに集中したかったからな。二人は神社にいるのだから、緊急の用事なんてそうそう起こりえないだろ?」


「・・・・・・悪かったな」


 ばつが悪そうにソノミは視線を逸らした。


「ソノミ、少し物陰に隠れて良いか?流石に十件以上着信があって折り返しかけないでいるのは気が引ける。それにソノミが無事に見つかったって早めに言うべきだろ?二人も心配しているだろうし」


「わかった。見張りは任せておけ」


 近くのビルとビルの隙間に入って、室外機の側面を背に座り込む。ソノミが守ってくれているなら安心だな。


 通信機を操作して、ネルケへとつなぐ。


「ネルケ、無事にソノミを連れ戻した。今からそっちへ――」


『グラウ!どうして通信に出てくれなかったの!?何回もかけたのよ!!』


 怒りの調子だけじゃない。焦りが滲んだ声。少なくともラブコールとか、そういう冗談じゃすまないような・・・・・・何かあったのだろうか?


「落ち着け、ネルケ。何があった?」


『ゼン君が・・・・・・ゼン君がいなくなったのよ!』


〈2122年 5月7日 10:37AM 第一次星片争奪戦終了まで残り約26時間〉


 悪い予感はしていた。俺がソノミの元へ向かおうとしていた時に、ゼンが何か企んでいるように見えた。しかしそのことを、俺は看過してしまった。あの時、最優先にすべきはソノミのこと。俺はそう判断した。ゼンよりソノミの方が可愛い後輩だから?違う。俺にとってソノミもゼンも大切な後輩だ。二人に優劣なんてあるわけはない。だからこそ、一人で全てを背負い込んだソノミの元へ一刻も早く駆けつけたいと思ったのだ。


「ネルケ!」


「グラウ!ソノミも!」


 石段を駆け上った先にネルケは不安げな表情を浮かべ俺たちを待っていた。


「ゼン!隠れているなら出てきてくれっ!・・・ちいっ、流石に辺りにはいないか」


 ゼンのことだから、もしかしたらずっと近くに潜んでいた、という落ちも考えていた。しかしそんな楽観的な考えは、現実から目を背けさせようとする俺の弱さから生まれたものに過ぎなかったようだ。


「どういうことなんだ、ネルケ?ゼンはどうしていなくなった?」


 俺が訊くよりも先に、ソノミが問いを発した。


「それが、暇だから少し散歩してくるって言って・・・怪しいなと思ったの。だから止めたんだけれど、ゼン君に異能力を使われちゃって。姿を見失ってから、そのまま帰ってこないの。通信にも応じないし・・・・・・」


 ゼンが姿を消したことはこれが初めてじゃないが――


「くそッ!」


 転がっていた空き缶を蹴り飛ばした。缶は空を舞って、カランとむなしい音と共に地面へと落下した。


「ごっ、ごめんなさい、グラウ!わたしが目を離したばっかりに・・・・・・」


「いや、ネルケのせいじゃない。悪いのは・・・悪いのは、うすうす気づいていながら何もしなかった俺だ」


 ゼンの性格はよくわかっていた。この中じゃ俺が一番ゼンのことをよくわかっている。


 兆候にも気づいていた、そしてゼンはこれまでも同じようなことをしてきた――そこまでわかっていたのに、俺は何も手を打たなかった。あの時、ソノミの元へ行ったことは間違ってはいなかったと強く思う。だが、もう少しあいつと話をしてやるべきだった。


「グラウ。お前のせいでもない。きっと私が・・・あいつに説教たれてばかりだった私が、身勝手な行動をとったことも引き金になったのだろう。だから・・・・・・すまない」


「ソノミ・・・・・・」


 俺は首を横に振った。


 ソノミの行動がゼンの逃亡の一因であることは否定できないかもしれない。ソノミは、ゼンの行動に対して厳しく当たることが多かった。その本人(・・・・)がとなれば、自分もしていいだろう。至ってシンプルな動機ともいえる。


 だが、なんといっても俺が――


「ねぇ、グラウ。あれ、使えないの?ほら、さっき使っていたじゃない?」


 さっき使っていたあれ?何のことを言って――ああ!


 一縷の望みとはまさにこのことだ。スマートフォンを取り出し、彩奥市の地図を開く。


「・・・・・・こんな時にスマートフォンをいじって、何をするつもりだ?」


 そうか、そういえばソノミは知らないんだった。どうやって居場所を突き止めたのかを。


「通信機に仕掛けがあってな。それが発信する位置情報をこれでキャッチすることが出来る。要するにゼンの居場所がわかるんだが――ん?」


 あれ?俺たち三人の位置情報は表示されているのに、ゼンの位置情報が表示されていない・・・まさか――?


「ゼン・・・通信に応じなかったんじゃなくて、破壊したのか?」


 しまった。あのタイミングで通信機の秘密を話したことが仇になったか!ゼンは、通信機をつけていれば位置がばれることを知っていた。だから通信機を破壊することで、俺たちの追跡方法を絶った――


「くそっ、どうすれば、どうすれば!!」


 諦めきれず彩奥市の地図をスクロールする。いない、いない、いない・・・ゼン、いったいどこにいるんだ!?


 スマートフォンを握る手に力が入った。俺自身へのふがいなさと、愚かさに耐えられそうにない。自分で自分を殴ってやりたいほどだ!


「グラウ。わたしが言うことじゃないかもしれないけれど・・・・・・落ち着いて、ね?」


 ネルケが俺の両手の手首を優しく握ってきたことで、はっと我に返った。


「・・・・・・そうだ、な。こんな時は、焦れば焦るほど空回りする。いったん冷静に、対応策を考えなければならないな」


 ため息を一つ吐く。ゆっくりと拝殿へと歩き、縁側へと腰を下ろした。続いてネルケが俺の右側に、ソノミが左側へと座った。


「お茶でもいるか?」


「ああ、もらう・・・・・・ふうっ」


 ソノミから差し出されたカップを受け取り、一気に呷った。うむ、美味だ。


 日本の緑茶には健康効果があると広く認知されているが、特にテアニンにはリラックス効果があり、ストレスを軽減してくれるという。こんな時にはぴったりなのかもしれない。


「うう~~」


「ほら、ネルケにも」


「もらうけど、そうじゃない!・・・ぷはあっ!」


 酒を一気のみするかのように豪快に飲み干したネルケ。急に立ち上がり、ソノミの前へと立った。


「なんだ、まずかったか?」


「おいしかったわよ、とっても!ありがとう!でもそうじゃないの!!なんだかグラウとソノミの距離感が近くなっているような気がするんだけど・・・気のせい?」


 確かに、ソノミは人当たりが悪くて、一つ壁を感じていたんだが・・・それがなくなったような気がする。接しやすくなったかな。


「だからどうしたという。お前には関係ないだろ、ネルケ?」


 ネルケに対しては相変わらず――


 うん?二人の視線が激しく・・・まるで火花を散らしているように見えるのは俺の気のせいか?さながら、虎と龍がにらみ合っている様だ。


「いいえ、もちろん関係ないわよ。でもグラウは私がもう先約済みよ?」


「ほう?出会って数時間程度のお前が、先約済みだと?こっちは数年来の付き合いだ」


 女三人寄れば姦しいと言うが・・・ネルケとソノミの場合、二人でも十分騒がしいな。それに俺は蚊帳の外。何か別なことでもしていようか。


「へぇ、でも数年来の付き合いのくせに何もしてこなかったんでしょ?というか、別にソノミはグラウのことをなんとも思っていないのよね?」


「ぐっ!?それは・・・だが、今は自分の気持ちに気がつきつつある。ふん、ところでお前のそれは本物の気持ちなのか?グラウはお前のことを知っていなかったんだぞ?人違いかもしれないだろ?」


 そうだ。冷静さを欠いて失念していたが、通信機の情報は時間単位でマッピングされているんだったな。


「痛いところをついてくるわね・・・でも、私はもうグラウにキスをしているの!控えめなソノミの一歩どころじゃなく十歩、いや百歩は先を行っているわ!」


「ふふふ・・・・・・」


「なっ、何を笑っているの、ソノミ?」


「お前だけじゃない。立ち位置は変わらない。むしろ拒まれなかっただけ私の方が優位だろうな」


「んなっ!したの?本当に?」


「ああ。上書きしてやった」


 よし、表示された!位置は・・・南西方向の商店街?時間は今から15分前・・・と言うことは、急げばまだ追いつけるか?


「おい、二人とも策が――」


「ぐう~~~結構やるじゃない、ソノミ!ならば、もっと大胆なことをする必要があるみたいね!」


「ふん。大胆さだけが全てじゃない。献身的なことをするのも、効果的だと思うがな」


 こいつら、人の話をまるで聞いていないな。と言うか、聞こえていないのか?はぁ、仕方あるまい――


「げふん!」


「「グラウ!?」」


 あえて大きく咳払いをしたことで、ようやく二人が俺がここにいることを思い出したようだ。俺が渋い顔をしていたことに気がついたのか、二人が申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「別に女性二人が仲良くしてくれる分にはいっこうに構わない。打ち解け合うことは大切だからな。だが、俺の話にも耳を傾けてくれ」


「「すみませんでした」」


 二人は声を揃えた。ネルケとソノミの二人をしゅんとさせてしまうと、俺が悪いことをしたのかと錯覚してしまう。


 気を取り直して。


「15分前にゼンは商店街にいた。と言うことは、ゼンはそこからそう遠くないところにいるはずだ。目的ははっきりわからないが、ゼンのことだ。戦いたいといったところだろうな」


 WGの煙の異能力者を発見した時も、その人との対決を望んでいた。好戦的な性格は戦士として望ましいが、それは時に仇にもなることを、ゼンにみっちり教えなくてはいけないようだ。


「商店街・・・・・・南西と言えば、あの薄気味悪い宗教団体のデウス・ウルトが潜伏しているんだろ?」


「それを狙って行った、ってこともあるのかしらね?」


「否定出来ない。そうでないことを願う限りだ」


 ウルトの連中と戦ったことはないが、彼らの噂は嫌でも耳にしている。異能力者を見つけては殺害する集団。出来ることなら戦うことを避けたかった連中だ。


「ねぇ、グラウ。ゼン君のいそうな場所まで行くことは出来ても、具体的にゼン君を見つけるのはどうするの?」


「正直策はない。名前を呼んで、出てくることに賭けるしかないな」


 透明人間を探知出来る装置は残念ながら持ち合わせていない。途方もない捜索になるだろう。


「それなら、わたしたちも行った方が良いんじゃないの?」


「ネルケとソノミも?いや、それでは――」


「見つかる確率は上がるわよ、確実に。それに、そろそろ身体を動かしたくなってきたわ!うぅ~、ふうっ!」


 背伸びをするネルケを直視することは出来ない。一点に視線がいきそうになる。


「あら、どうしたのグラウ?顔を赤くして?」


「わざとやっているだろ・・・はあっ・・・・・・」


 本当に意識せずやっているなら、危険がすぎる。世の男性の視線を釘付けにしたいのか、ネルケは。


「ちッ」


「ソノミ、舌打ちしたか?」


「気のせいだ。それより、私もネルケに賛成する。要はゼンを見つける鬼ごっこのようなものだろ?それなら私は適任だろ?」


「誰が上手いことを言えと・・・・・・」


 そうだな。ソノミの場合は追いつけば連れ戻すことが容易だったが、ゼンの場合は見つけることが最大の問題だ。全員行って全員がやられた場合、という場合のことを考えないことはラウゼに申し訳ないが、この三人一緒に行動すれば、そこまで敵に恐れることもないだろう。


「それじゃあ、今から三人で商店街方面へと向かう。痕跡を探し、ゼンを見つけ出す。いいな?」


「ええ、まかせておいて!」


「ああ、やってやるさ!」 


 ゼン・・・お願いだ。無事でいてくれよ――

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