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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第一次星片争奪戦~日本編~
25/108

第3話 泣いた青鬼 Part9

〈2122年 5月7日 9:10AM 第一次星片争奪戦終了まで残り約27時間〉―グラウ―


 ソノミを襲う赤い甲冑を装備した男、その顔を覆う鬼の面。見覚えがある。まさかとは思うが――


「グラウ・・・・・・」


 いつもは気丈に振る舞うソノミが、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。ソノミも、そんな表情をすることがあるとは意外だな。


「ソノミ、確認の意味で聞くが・・・こいつが兄か?」


「・・・・・・ああ、そうだ。私の兄様だ」


 吐息をもらしながら、狂ったかのように動き回り、そして手当たり次第に物を破壊する男。いや、それこそ鬼と言うべきか。日本の妖怪の一つで、人畜に危害を与えると恐れられてきた存在。鬼に金棒と言うが、どうやらこの男は、いやソノミもだが、刀を持ったことでさらに危険度が増しているように思う。


「グラウ・・・どうして来たんだ。私はお前らにひどいことをした。憎まれ、嫌われ、呪われるならわかる。それなのに・・・・・・何故助ける?」


 何を聞いているんだろうか、ソノミは。当たり前のことを。


「仲間だから、ソノミがかけがえのない存在だから。ただそれだけだ。俺は、ソノミを失いたくなんかない」


 ソノミの青の瞳が丸くなった。そんな変なことを言っただろうか?


「お前は・・・・・・なんだ、お前はもしかして私に惚れているのか?」


 急に変なことを。いつものソノミらしくない。


「もちろんソノミを可愛いとは思う。きりっとした目、艶のある黒髪、もう少しおしとやかな性格だったら、俺も惚れていたかもな。だが事実そうなのかは知らない。例えそうだとしても、本人に直接、照れもせず言えるほど俺は度胸はない」


「結局どっちなんだよ・・・」


 何かソノミが言ったようだが、まぁいい。今は目の前の男をどうするか考えなくてはならない。


「ソノミ。鬼化っていうのはあんな風になることもあるのか?」


 俺が見てきた限り、ソノミは鬼化を使ってもあんな理性を欠いたことはなかった。ソノミの兄・・・確か情報では流魂と言ったか、あいつの鬼化は暴走状態に陥る性質でもあるのだろうか。


「いいや、あれは鬼化のせいじゃない。たぶん、直前にいた女の仕業だ。ピオンという女が・・・うん?くそっ!いつの間にかいなくなっているようだが・・・そいつが兄様に何かをしたに違いない」


 そうか。第三が関与しているのか。


 人間が動物たちと大きく違うのは、理性があるということ。薬物やら、精神異常を起こさない限り、あれ程暴走することはない。その手の薬でも打たれたのか?しかしあそこまで我を失ったような状態になる薬物なんて存在しないはずだが・・・・・・まさかな。


「この男を放置するわけにはいかない。毘沙門のためというわけじゃないが、野放しにすれば無駄に命が喪われるだけだ」


「確かにそうだが・・・いったいどうするつもりなんだ、グラウ?」


 イカれてしまった人間を落ち着かせる方法。原因がわかっているならば考えようがあるが・・・・・・生憎わからない、かつ危険度が高い以上、思い付く方法は一つ。だがそれを、ソノミに告げることは抵抗がある。でも――


「眠りについてもらう。それが簡単で確実だ」


「ッ!?・・・・・・」


 マイルドに言ったつもりだが、俺の言いたいことは伝わってしまっているようだな。それもそうだ。自分(ソノミ)の兄を殺すと言われているのだから。


 思い詰めたような表情でソノミは何か考えている様子。そして自らの頬をぱしっと叩き、血を流す腹部を押さえながら立ち上がった。


「・・・・・・グラウ。それならば・・・・・・・・・」


「なんだ?」


「私がやる。私が、兄様を討つ。兄様の妹としてっ!」


 とても固い意志がその瞳には宿っていた。今までソノミが見せたことのないような、強い覚悟が見て取れた。


 だが、同時に気が付いてしまった。彼女が微かに震えていることに。その理由はよくわかる。


「その傷でまともにやりあえるとでも?手負いの仲間を戦わせるほど、俺は鬼畜野郎じゃない。それにな――」


「傷は問題ないっ!この程度屁でも――うっ!」


 ほら見たことか。軽い怪我じゃない。もう少し傷口が広かったら致命傷になるというのに。まったく無理をする。ソノミらしいと言えなくもないが。


 今にも飛び出しそうなソノミを無理やりその場に座らせ、俺は流魂と向き合った。攻撃を仕掛けてはこないようだが、時々こちらをちらと見てくる。鬼の面から覗かせる瞳は、人のものとは思えないほどおぞましい。


「ソノミ・・・自分の家族を殺すのは辛いだろ?だから俺にに任せろ」


「・・・・・・・・・グラウ・・・あぁ、辛い、とても・・・・・・」


 潤みを帯びた声に、こんな状況なのにドキりとしてしまう。今日は、ソノミの珍しい一面を多くみるものだ。


 家族を殺す。そんな経験、多くの人間は出来ないだろう。肉親には情を抱いてしまう。血の繋がった者には、幸せになって欲しい。そう自然に思うはず。それでも、家族を殺してしまうことは、望まなくても起きてしまうこともあるのだが。


「そう言うわけだ、流魂。今のあんたにソノミは似つかわしくない。あんたの妹、もらい受けるぜ・・・・・・お兄さん?」

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