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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第4話 そして灰色の鷹は漆黒の空に飛んだ Part19

〈2122年 6月?日 ? 第二次星片争奪戦終了まで約?時間〉―アナベル―


「アナベル、どうする?俺を連れて仲間たちの元へ向かうか、それとも俺を洞窟の中に拘束しておくか……俺の生殺与奪の権利はあんたのものだぜ?」


「ええ…そんなことは、わかっていますわ…でも――!」


 なんであなたは自分の命が失われるかもしれないというのにそんなヘラヘラとしているのですか!わたくしがしくじれば、あなたは――って、どうやらわたくし、悩むまでもなく結論が出ていたようですわね。


「グラウ・ファルケ……一度はわたくしを侮辱し、コケにした男。わたくしとあなたは敵同士。それは揺るがない事実です」


「改まって、いきなりどうしたんだよ?今すぐ俺を殺すか?それはそれでありかもしれないが――」


 どうして、どうしてそんな言葉が出てくるのですか……やはりあなたもエリックに似て鈍感が過ぎます!ですから――どうやらビシっと言わなければ駄目なようですわね!!


「いいか加減にしてくださいっ!そんなこと、出来るわけがないでしょうっっッ!!」


「っっ!?あっ、アナベル…?」


 洞窟の中にわたくしの怒声が未だに木霊しています。久しぶりにこんな叫びました。そのためでしょうか……悲しくもない、わたくしは今激怒しているというのに…何故か瞳の奥が熱くてたまらないのです。


「ハッキリ言いますわ!わたくしはあなたに――情が移ってしまったのですのっ!!」


「情が移る……捨て鷹()を拾いたくなったとでも?」


「ええ、そうですわ!わたくしが数時間前の、あなたに剥き出しの殺意を向けていたアナベル・ロッテのままだとお思い?……そんなわけありませんわ!あなたは敵であるわたくしのために崖から飛び出してくれた、あなたは腹ぺこのわたくしのために魚を捕ってきてくれた、あなたは他の誰にも話したことがない過去を共有しあった相手、あなたは――」


「それらすべて、俺の勝手に過ぎない。感謝される覚えはない」


 ああ、もう!!あなたはどうしてそれほどまでに素直じゃないんですか!!


「すべてが勝手だとしても、ですよ……責任は、あるはずでしょう?」


「責任?なんのだ?」


 多分この男は、“情が移る”程度の言葉では、わたくしの気持ちの半分も伝わっていないことでしょう……もっと直球で、明瞭な言葉をぶつけなければ、きっとあなたにわたくしの心は届かないのでしょう。

 ああ、エリック。わたくしはあなたを裏切るつもりなどありませんわ。ですが、あなたの言葉に救いを見いだすことをどうかお許しくださいませ。それに、きっと彼がいれば――わたくしのもう一つの目的の成就に、王手をかけることが出来るはずですので!

 “自分の思いは言葉で表せ”。ロッテ家の教訓、今こそ果たして見せますわ!


「グラウ・ファルケ。わたくしは――あなたに惚れたのですのっっ!!」


「俺に?あんた、俺をからかって――」


「なんているはずありませんわっ!理由は先ほど口にしたとおり。わたくしにいくつも思わせぶりな態度を取っておいて…まさか好意を抱かれないとでもお思いでしたの?もしかしたらあなたはチョロい、なんて言われるかもしれませんが、しかしきっとこれは必然の理。あなたはエリックに似ているのです。ですからわたくしを惚れさせた責任、キチンと最後まで果たして――」


 すっと、グラウ・ファルケが腕を伸ばして…制止サイン、ですわね。


「アナベル。わかったぜ……あんたの気持ち」


 ここまでハッキリ言えば、いくら唐変木でもわたくしの気持ちを理解してくださっているはず。それで、答えは――


「あんたは、俺にエリックの面影を投射しているだけだ。一晩経てば、その俺への気持ちが一時の感情に過ぎないと気がつくはずだ」


「んなっ……!」


 グラウ・ファルケをエリックと重ね見ている……それは確かにその通りなのかもしれませんわ。わたくしはエリックを愛していたからこそ、グラウ・ファルケにも惚れた。その因果関係は否定できません……ですが――


「“だけ”とか“一時の感情”に過ぎないとか――あなたはどうしてそんなひどいことを平気で言えるんですかっ!!やっぱりあなたは、最低鬼畜外道ですわねっっ!!」


「なんとでも言ってくれて構わないぜ。だが、俺は大抵の言葉では傷つかないがな」


「ぐぬぬ……なら――この不全野郎!なんですか、あなたはっ!獣のくせして清純でも気取るつもりですかっ!?」


「はっ、不全だ……?おい、いったいどういう意味で言ってやがる!!?」


 はん!傷つかないとか言っていたわりに、露骨に反応しているじゃないですか!なるほど、グラウ・ファルケにも弱点があるのですわね!!


「そういう意味で、ですわよっ!だいたいなんですの、あなた!わたくしは今、コートの下はランジェリー…というかわたくしを脱がしておいて手を出さないなんて、それでも一人の男ですの!?それとも、何です?わたくしはそれ程までに魅力がないとでも言いたいのですの!?」


「くっ、ああ、もう――」


 ふわりと風が起こり、焚き火の炎が揺れて――そしてグラウ・ファルケは、わたくしをまた抱きしめていました。


「何ですの?今さら事を始めようなんて、もう遅いですわよ?」


「そんなつもりはない。俺の話を聞いてくれ、アナベル!」


 いつにもまして熱誠に満ちた声色……素直に聞いてあげないわたくしではなくてよ?


「まず第一に、俺だって人並みにはそういう感情はある。だから、大の女性であるあんたを脱がすときも、自分を制御するのに苦労したんだ。そして第二に、あんたは魅力的な女性だ。ネルケともソノミともルノともまた違ったタイプの」


「それじゃあ今、どういう気持ちでわたくしを抱きしめていますの?」


「取りあえずこれで満足してくれないかという打算の気持ちだ」


「はっ、はいっ!?」


 打算?いや、先ほどもグラウ・ファルケに抱きしめられましたけれど……でも、いったいどれほどまでに卑劣ですの、この男!?


「告白されたのはこれで三度目。だが、俺は決まってこう答える――保留、とな」


「保留……?」


 保留…いえ、そもそも三度目って……たぶん一人はネルケさんで、もう一人はソノミさんかルノさんのいずれかでしょうか――そう、ですわよね。敵であるわたくしまで惚れさせたのですから、味方の方々からも好意を抱かれるというのは不思議ではありませんわね。


「そうだ。俺はユスと約束したことがある。だから、その約束が果たされるまでは、誰かと親密な関係になるつもりはない、だから俺は答えを出せないんだ」


 なんて情けない男――とは彼の過去を知った今では言えませんわね。彼は“英雄の息子”。その責任は脇目を振っては全うできるものではありませんから。


「それで、他のお二人は保留で納得されましたの?」


「…一人はその時まで俺を守ると言った。もう一人は…保留って言ったことにキレたが、それでも未だに俺を事あるごとに誘惑してきやがる。まったく、困ってやつだぜ」


「そうですか………」


 随分とそのお二人に愛されているようで……わたくしは、その二人に比べたら――いいえ、そんなことはありませんわ!先約があるから退く?わたくしの思いは、そんな軽いものではありませんわ!


「ならば……グラウ・ファルケ。一つだけ約束してくださいませんか?」


「なんだ?」


「この争奪戦が終わり、あなたに時間が出来たなら…再びイギリスを訪れてくださいませんか?」


「別に、構わないが……どうしてだ?」


「一緒に旅行をしましょう。具体的には……観光名所でも紹介して差し上げましょう。ああ、宿はわたくしが手配しますわ。ですから、最低限の旅行支度さえしてくださればそれで構いませんわ」


「…ほう。ならば連れて行ってもらいたいところがある」


「なんなりと」


「じゃあ――あんたのおすすめのフィッシュ・アンド・チップスの店には確実に連れて行ってくれ。それとあれだ。スターゲージー・パイも食べてみたいな」


「ええ、あなたの望む場所なら、何処にでも連れて行って差し上げますわ!」


 グラウ・ファルケが乗り気で良かったですわ。そうですわね、想像するだけでわくわくしますわ。スコットランドではエディンバラ城にネス湖。イングランドではビッグ・ベンにバッキンガム宮殿。手をつないで歩けば、きっとグラウ・ファルケも…なんて――


「アナベルさ~~ん!無事ですかぁ~~!」


 ルファの声、ですわね……どうやら、仲間のみなさんが到着したようで。

 グラウ・ファルケとの旅行のためにも、今わたくしがしなければいけないことは一つ――仲間たちからグラウ・ファルケを守ること。それは今、わたくしにしか出来ない重大な任務。


「グラウ・ファルケ。あなたの身を守るために、一つ芝居をうつ必要がありますが……ご協力願、えますか?」


「芝居…?ああ。あんたとの約束も出来たしな……いいぜ、協力しよう!」


 抱き合うのを止めて、互いに頷きました――これは博打。そしてグラウ・ファルケにも少し迷惑をかける…いえ、彼に嘘を吐くことにもなるかもしれません。ですが、どうか許してくださいませ……わたくしにも、あなたの助力が必要なのです。


「アナベルさ~ん、って、グラウ・ファルケ!?どっ、どうしてアナタがまだ生きて――アナベルさん?」


「ルファ、説明させてください――」


 ルファ、そして兵士たちの殺意の銃口がグラウ・ファルケへと一斉と向けられます。緊張の糸がピンと張り詰められる中、わたくしの額にも汗が一滴――ですが、グラウ・ファルケ。あなたは決して動じたりしないのですね。それはわたくしへの信頼か、はたまたこの状況すら覆す奇策を秘めているのか…前者だったら嬉しいのですが、答えを聞く余裕なんてありませんわね。


「グラウ・ファルケは――P&Lを裏切りました」


「はぁ?」


「え?」


 全員が全員同じ反応……まるで“驚愕”の二文字が顔に張り付いて剥がれないようです。


「というわけで、グラウ・ファルケは現時点をもって――レッド・シスルの異能力者、わたくしの部下になりましたわっ!!」


 我ながら完璧な策。ええ、もちろん嘘。ですが――事実になる可能性もありますわよね、グラウ・ファルケ?

小話 グラウくんの夢の中


アナベル:グラウ・ファルケ、寝ていますわね…いったいどんな夢を見ているのでしょうか――


In his dream


グラウ:(急に照明に照らされる)うっ、うぅ…ここは……?


?:被告人、前へ


グラウ:ルノ…?なんだよ、法服なんか着て。なんかの遊びか?


ルノ:被告人、前へ出ないなら即刻判決を出すけれど、それで構わないの?


グラウ:(素直に従わないと面倒くさそうだな……)いいぜ、あんたの遊びに付き合ってやるよ


ルノ:人が不足しているから、検察官の役割もワタシがやるわね。えっと…(起訴状を取り出して)被告人は3人の女の子をたぶらかした疑いがかけられているけど、間違いないわね?


グラウ:はぁ?俺は何もして――


?:ひどいわ、グラウっ!あんなことをしておいて自分に罪はないとでも言うつもりなの!?


グラウ:ねっ、ネルケ!それに、ソノミにアナベルも……揃いも揃って何の真似だ?


ソノミ:人に好意を抱かせておいて、白を切るつもりか?


アナベル:お仲間の方々だけではなく、敵であるわたくしまで惚れさせて……心が痛みませんの?


グラウ:はぁ?


ネルケ:この、女たらし!


ソノミ:すけこまし!


アナベル:プレイボーイ!


グラウ:あんたら………!(流石にいらだち拳をぷるぷるさせる)


ルノ:――みんな静粛にっ!はい、判決をだすわ――もう、死刑!…だと三人の望まないかたちになるから、そうね……取りあえずアナタを拘束するわ。その後は、三人にめちゃくちゃにされればいいのよっ!!


グラウ:あぁん?裁判長、そんな判決認められるわけ――おい、誰だよあんたら!このっ、やめろよッ!!(どこからともなく巨漢の男が現れ、抵抗むなしく縛り上げられる)


アナベル:やりましたわねネルケさん、ソノミさん!


ソノミ:ああ、ようやく報われる時が来たんだな!


ネルケ:ええ、今までの鬱憤、存分に発散させてもらうから覚悟しなさい、グラウ!


グラウ:(三人がゆっくりと近づいてくる)おい、裁判長!せめて判決理由を聞かせろ!!(必死)


ルノ:え、理由……だって、アナタ、自分でも罪の意識はあるのでしょう?


グラウ:はぁ?何を根拠に――


ルノ:だってこれ――アナタの頭の中の寸劇だから


After his dreaming


グラウ:はっ!ゆっ、夢、なのか……ふうっ……


アナベル:だっ、大丈夫ですのグラウ・ファルケ?大分うなされていたようですが……


グラウ:あっ、ああ……アナベル。一ついいか?


アナベル:なんですの?


グラウ:すまない……心から謝罪をさせてくれ


アナベル:いきなりどうしたのですの?やはり具合でも悪いのですか?(不安そうな顔)


グラウ:いや、大丈夫だ、問題ない……だが、無性にあんたとネルケとソノミに謝らないといけない。そんな気がしてな――

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