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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第4話 そして灰色の鷹は漆黒の空に飛んだ Part18

〈2122年 6月?日 ? 第二次星片争奪戦終了まで約?時間〉―アナベル―


 それは喜劇とも悲劇とも捉えられる昔話。そのどちらであるのかを決めるのは話者たるグラウ・ファルケのみなのですが……わたくしにはどうしても後者にしか思えないのです。

 わたくしはもちろん“英雄”ユスティーツ・ファルケのことを知ってはいても、何ら彼女と縁があるわけではありません。ですが…彼の語り口のせいでしょうか、彼女の死に、心にポカンと空洞をあいた様な虚無感を感じてしまったのです。


 話が終わり一息吐くとグラウ・ファルケは身体を起こし、焚き火の反対側へと戻っていきました。彼の頭の余熱が未だに膝の受けに居座り続け、なんだか肌寒くて、そしてもの寂しさすら感じてしまいます。


「グラウ・ファルケ……あなたが復活させたかったという人物は――ユスティーツ・ファルケで間違いありませんわね?」


 グラウ・ファルケが着席してまもなく、わたくしは彼に問い尋ねました


「その通り。俺は第一星片が地球に落下してからの3年の間、それを目的に生きてきた」


 グラウ・ファルケがギブミエナジーをコクりと呷ったのにつられ、わたくしも唇を湿らせる程度に缶を傾けます。


「どうだ、“英雄”なんて言われる人間の印象、話を聞いて様変わりしたんじゃないか?」


「ええ、確かに。“英雄”ユスティーツ・ファルケ。わたくしは彼女を一人の異能力者の象徴…つまりその強さは古今無双、そして方正謹厳な人物だと思っていましたわ。もちろん実力ついては当代随一なのは確かなのでしょうが、その性格はよく言えば天衣無縫…少し悪く言うならば――」


「“粗暴”の二文字の方があいつにはぴったりだ」


 わたくしが言おうとしていた言葉を先にグラウ・ファルケの口から出てきて、思わず息を呑んでしまいました。この男、わたくしの考えが読めているのかでしょうか……?いいえ、わたくしと彼とが息が合い始めていると考える方が自然。それはただのわたくしのただの願望なのかもしれませんが。


「そういえば、俺はあいつが“英雄”なんて言われているのを知ったのは、あいつと一緒に暮らし始めて1年が経ったときだったんだ。世界の歴史についてあいつがいろいろと教鞭たれてくれていた時、あいつ、いきなり“アタシがその英雄の一人”とかと言い出してさ。唖然としたよ。ただの金持ちの三十路女性と思っていたやつが、実は異能力者の中の異能力者、“英雄”なんて言われる人物だったなんてな。それでもあいつはさ、それを威張るなんてことはしなかた。だから俺もあいつの笠に着るつもりはない、あいつに育てられたなんてことは誰にも話してはこなかったんだよ」


 焚き火の炎をどこか郷愁に満ちた瞳で見つめながら、グラウ・ファルケは続けます。


「あいつは俺にとって師匠であり、母親であり――そして俺の唯一の希望でもあった。俺はあいつに出会うまで、“人”ではなく“物”としてただ利用されてきた。だから生きる意味なんて持ち合わせていなかったんだ。でもあいつはそんな俺に、人生を生きていく理由と、そしてそのための鍵とをくれたんだ。だが俺は……あいつがいなければダメだった。あいつの死により、俺に差し込んだ一条の光が失われ、俺は再び暗闇に迷い込んだ。ひたすら鬱々としていた…俺はあいつとくだらない喧嘩をして、笑い合って……それだけで良かったんだ。そしてあいつの死に囚われていた矢先に“奇跡の欠片”星片なんて物の存在を耳にした。それから少しして、紆余曲折あってP&Lにスカウトされたんだ。加入理由は少人数だということを利用し、星片を俺が奪うため。裏切りやすいから加入したと言った方がわかりやすいか」


「ですがあなたは……結局組織を裏切ることはなかった、ですよね?」


「まぁな。きっとそれは……あいつらが仲間だったからかもしれないな」


「あいつら……あなたのお仲間の方々ですか?」


「そうだ。ネルケ……あいつとの出会いがまさか再会だなんて思わなかった。あいつは俺のことを……自分で言うのもあれだが、愛してくれている。重すぎるくらいにな。ソノミ……あいつは元は馴れ合うことが嫌いで、友好的な関係が築けてはいなかった。でも今は、あいつの兄から“(ソノミ)のことは任せた”なんて言われてな。ゼン……今は亡き俺の後輩。どうにかして救ってやりたかった。あいつも、俺と同じく過去に苦しんでいたから――そんなやつらと一緒にいて……俺はある結論に至った。それは――あいつらを裏切るような真似をしたら、きっとユスに怒られるってな。ガキみたいだろ?親に怒られるのが嫌で、裏切るのを止めたんだぜ、俺?」


 グラウ・ファルケが白い歯を見せながら笑み、同意を誘ってきますが……素直に頷くことは出来ません。


「あなたにとってユスティーツ・ファルケは……何よりも大切な存在だったのですね?」


「ああ。今でもそれは変わらない。実はさ、あんたが今着ているそのコート、ユスが現役時代から愛用していたものなんだ」


「なっ!?」


 わたくし、グラウ・ファルケの母親に当たる人が着ていた物を身につけて――いえ、それよりも、わたくし!


「もっ、申し訳ありませんわ!先ほどこのコートで焚き火を鎮火しようとして……」


「まぁ、そろそろそいつもボロくなって着たし、新しいのを買うべきなのかもしれないが……燃えなくて良かった…かな?」


 これが形見の品というなら、大切にしないといけませんわね。

 ですが、一つ謎が解けました。このコートを着ているとなんだか温かい気持ちになれたのは、二人の思い出がこのコートに染み付いていたからなのですね。


「あいつは色々大切なことを教えてくれたが、中でも一番気に入っている言葉がある。“人生において無駄なことは一つ――それは悪事を働くことだ。それ以外のうれしいこと、楽しいこと、そして悲しいこと、辛いこと……誰かとの別れさえも、いずれ血となり肉となり骨となる。だから何事も経験だ。これはしてはダメだとか、これはしなくちゃならないとかそういうことの明確な線引きはない”……俺たちの辛い別れも、今となれば俺たちを育て上げた一つの要素になった。そうは思わないか?」


「そうですわね。今だってエリックの死は受け容れ難いことですが……でも、彼との思い出は確かに胸の中で今もなお生きています。それに――」


 このことは、あなたにとっては迷惑なだけなのかもしかないのかもしれません。ですが、わたくしにとっては――


「星片のために崖から飛び出したことも、良い経験…というか、案外良い結果にたどり着いたかな……なんて」


 グラウ・ファルケ、わたくしは…どうやら、あなたに――!


―――ブブブブブブブッッッッ!!

 今の音は――小型船のモーター音!?ということは――


「やっと来たか…あんたの仲間のようだな」


「ええ、どうやらその通りみたいですわね……」


 仲間が来てくれたということは、ようやく無事に帰れるということ。それは当然うれしいのですが――素直に喜べないのです。だってそれは同時に、わたくしはあなたをどうするか、その答えを出さなければならないときがやってきたことを意味するのですから――


小話 グラウくんは○○○○?


グラウ:ユスがいい歳のくせして一切男を作るつもりがなかったから、いつだかあいつにふざけて“(血の繋がっていない親子であり一応可能だから)俺が18歳になったら結婚してやろうか?”なんて言ったことがあったんだ。そうしたらあいつ、一瞬まんざらでもない顔をしてきてさ……いやぁ、その後は完全に変な空気になってしまってな。ああいうことは冗談でも言うべきじゃないんだなって


アナベル:グラウ・ファルケ…薄々気がついていたのですが、あなた……


グラウ:なんだ?


アナベル:もしかしてーー超絶マザコンなのではなくてっ!?


グラウ:はぁっ!?唐突に何を言い出すんだよ、あんた!!


アナベル:だってあなた、ユスティーツさんの話をしている間珍しく饒舌でしたし、それに何より結婚を申し込むなんて――黒で間違いありませんわっ!


グラウ:いや、だからあれは子供ながらの冗談であって――


ユスティーツ:ああん!?なんだよ、あれ冗談だったって言うのかよッ!?親に冗談言うとは、さてはぶん殴られてぇ―のかッ!!!


グラウ:ユス!?なっ、なんであんたがここに!!?


ユスティーツ:答えろよ、グラウッ!連れの女の前だからって、アタシは容赦しねぇーぞ?それとも、成長した今ならアタシにも勝てる自信はあるってか?


グラウ:いや、あんたにはいくらなんでも勝てない……たっ、確かにあんたには親愛の情を抱いていた。それに……結婚すれば、それから先もずっとあんたと一緒にいれる、そんなことを考えてなくも――


ユスティーツ:(くしゃっと笑って)はっ、そうかよ!なら、オマエもあっちの国に行ったら、アタシと結婚しろよ?拒否権はないからな?


グラウ:はああッ!?だから、それは昔の話で――


ユスティーツ:冗談に決まってんだろ、相変わらずバカだなオマエ!


グラウ:(頭をわしゃわしゃされる)やめろよ!俺はもうガキじゃ――


ユスティーツ:(唐突にわしゅわしゃをやめ、グラウたちに背を向ける)息子が元気にやっているところも見れたし、それじゃアタシは帰るわ。しかしオマエ、まさか四人もこましているとはな――じゃあな!


グラウ:(追いかけるがユスティーツはどこかに消えてしまう)まっ、待て!ユス……あんた、どうしてここに――というか、四人…?ああ、そういうことか――こそこそ隠れていやがって、俺が気がつかないと思ったか?


ネルケ:で~も~、あの人に指摘されなければ気がつかなかったんじゃないの?


ソノミ:なるほど、お前は案外強引なやつに……くそ、それってネルケの方に分が……


ルノ:あらあらうふふ、ワタシまで含まれちゃったわね。でも、そのほうが面白そうだからいいけれど!


グラウ:はぁ……あいつも来るなら来るって言ってくれればいいのに…って、それも無理な話か……(どこか遠い目をしている)


アナベル:(グラウ・ファルケ……もう少しユスティーツさんとお話したかったのでしょうか?)グラウ・ファルケ、そう落ち込まないでくださいましね……(ですが…ユスティーツさんも、本当に嵐のような人でしたわね。まさかこの目で”英雄”を目にするなんて……なおさら崖の下に落ちて良かったのかもしれませんわね!)

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