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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第4話 そして灰色の鷹は漆黒の空に飛んだ Part16

〈グラウの回顧ー中編ー〉


 それじゃあ、少し話しを進めようか。ユスが俺を見つけたとき、それこそ生死の境をさ迷うぐらいの重症を負っていたそうだ。だから少なくとも1ヶ月は入院しなければならなかった。なのにあいつはーー2週間経過した後、俺を無理矢理退院させた。


「ユスティーツさん!?まだグラウくんの怪我は完治してないのですが!!」


「あん?別に大丈夫、こいつは。戦場のど真ん中、一人生き抜いた様なやつだからな。唾でもつけとけば後はなんとかなるだろ」


 あいつは看護師さんの反対を押しきり、俺を担いでどしどしと病室を出た。まだ脚は痛むわ、背中の傷が開きそうだわ……そんな状況だったというのにな。


「ほれ!」


「うおっ!?こっ、ころすつもりっ!?」


「死なねぇ~よ、人間はこの程度で」


 駐車場の前、ユスは黒光りするオープンカーの助手席に俺を放り投げた。そしておもむろに茶色のレンズ、べっこうのフレームのサングラスをかけるとーー


ーーブンブン…ブブブブブンンっっっッッ!

 きっと改造に改造が重ねられていたのだろう。まるで車は生きていることを俺たちに知らしめるが如く、車体を激しく震わせた。

 あいつは適度な常識と過多な走り屋精神を併せ持っていた。病院を出て、街から出るまでは速度制限を守っていた。だが、峠を走り出してからは違ったーー


「どうだ、景色は綺麗だし、気持ちがいいだろグラウ?」


「うっ、ううん?!」


「なんだよ、歯切れが悪い、なッ!」


 景色に関しては絶景と言ってもいいだろう。エメラルドグリーンの海を見下ろしながら、峠道を走っていたのだから。

 200km/hはあったことだろう。オープンカーでそれだけ飛ばせば頬撫でる風も気持ちが気持ちがいいを通り越して痛いの域だ。俺は終始顔をひきつらせていたのだろうが、隣のユスはサングラスの内側で目を見開き、ほぼ躁の状態でハンドルを回していた。


 もしもあの爆走でコーナーを曲がりきれなければ確実に空を飛んだだろうし、対向車にでも追突すれば大爆発を起こしただろう。まるで俺はカースタントでもやらされているような気分だった。しかし何故か何事もなく、無事に彼女の家へと到達したのであった。


「着いたぜ!ここが今日からオマエの家だ!」


 もしかしたら家というより、屋敷といったほうがそれを表現するのにより適しているのかもしれない。屋敷から数分行った所にはプライベートビーチ、反対に屋敷の裏側には鬱蒼と木々が繁っていた。白いレンガ造りのその西洋建築は決して古めかしいという印象を与えない。むしろ現代彫刻が至るところに採り入れられており、現実に近く遠いような世界にいるような感覚に陥った。屋敷は地上2階建て、地下1階まであった。面白いのは、あいつが極度の花粉症だからというんで、どこの部屋にもティッシュペーパーが置かれていたことか。


 そんな貴族の豪邸で俺は十年近く過ごしたわけだが……そこでの暮らしは、決して裕福・優雅なんて言えるものではなかった。まさにそこは楽園の皮を被った、独裁者の庭であったーー



 それから一年くらいか。あいつは俺に最低限の常識を教えた。“たのしい”とはどう書くのか、4×4がいくつになるか、世界にはどんな歴史があるのか、火はどうすれは灯せるのか。俺の今の知識は、大半はあいつが教えてくれたものだ。


 でも子供ってのは親によく似るものだろ?良いところも、そして悪いところもーー


「オマエはバカか?照準を定めるときにそこを凝視してどうする?“これからここを撃ちます、ですから注意して下さいね”とでも言いたいのか間抜け」


「はぁ?バカはあんただろッ!?照準を定めるのに相手を見ないなんて“当てるつもりはないですよ”って言っているようなもんだろ!このクソババア!」


 一年もあいつと一緒にいたせいで、その粗暴な口調、気性の荒い性格まで俺にうつってしまった。当時の俺は今の俺なんかよりずっとやんちゃで、“英雄”なんて呼ばれる人間に挑もうとするほどの悪ガキだったんだ。


「あんッ!?ぶん殴られたいのかゴラッッ!」


 いや、子供の悪口に挑発されるユスもユスなんだがな。俺とあいつはことあるごとに口喧嘩、そしてだいたい殴りあいの喧嘩に発展。でも勝つのはーー


「あんたも大人なんだから、子供相手に少しは手を抜けよな………」


「はッ!知るかよッ!!ほら、早く立て!オマエも男だっていうならな!」


 もちろんユスだ。腐っても“英雄”なんて言われる人間に、十代になって間もない子供が勝てるわけがない。

 あいつは決して俺が立ち上がる時手を差し出すことはなかった。強くなりたければ自分の力で立ち上がれ。よくそう言っていた。


「くそッッ!」


 今思えば、あいつはわざと憎まれ口を叩いていたのかもしれない。俺を挑発して、見返してやりたいという気持ちを芽生えさせることで、俺を成長させる……あいつ、何も考えてないようで全てを考えていたからな。


「いいか、グラウ。銃っていう武器は強い。引き金を引くだけで相手は死ぬからな。だがな、それ以上に到達するのが難しいんだよ」


「それ以上?」


「日本には刀っていう武器がある。そんぐらいは知っているだろ?あれは誰が使っても強いなんて武器じゃない。刀を振れば人が死ぬなんてことはない。速度が遅けりゃ避けられる、力が弱ければへし折られる。だからこそ、修練をすればするほど、他の追随を許さない達人の域まで到達出来る。その修練の方法は武士が確立し、そして刀の道として収斂されたと言える。だが銃っていうのにはそんな道なんてものはない。もちろんこれまでオマエに教えた通り、風を読むだの、弾速を計算するなんてのは最低限だ。だがグラウ、オマエはそんな当たり前のことを当たり前に出来るだけじゃダメだ。もっと深奥を極めなければならない。それでだグラウ。オマエはより強くなるためにどうすればいいと思うよ?」


「……他人に思いつかないことをする?」


 ほんの思いつきの言葉だった。でも、意外性、それの大切さを断片的にユスは俺に教えていたから、きっと無意識の内に必然に浮かんだ言葉だったのかもしれない。


「わかってんじゃねぇーかよっ!それでこそアタシの息子だ!!」


 ユスはニカッと笑って俺のことを抱き締めてきた。きつく、きつく…でもそれが俺にとっては恥ずかしくてーー


「はっ、離せよ!」


 俺はその腕を即刻退かした。そうしたらユスはほんの一瞬残念そうな表情をしてきて……今は思うよ、抱かれたって何も減るわけじゃない。だからせめて子供のうちには、親の好きなように抱かれてやればいいってな。


「じゃあ、グラウ。他人を出し抜くため何をすればいいか、例を一つ言ってみろ」


「例……?敵を見ることなく撃つとか?」


 そう、それは半ば誘導尋問だったーー


「そうだ、グラウ!いいか、照準を定める時に必ず敵の姿を凝視する必要はない。いいか、相手を見るな、戦場を概観しろ!そして視覚だけに頼るな、五感を駆使しろ!」


 あいつは天才だ。天才は指南書よりも蓄積した経験を優先する。そして往々にして天才は……無理難題を押し付けてくる。


「ノールック射撃だ、わかるな?」


「わかるわけないだろ!」 


 あいつの教え方唯一無二だろうーー何も臆することもなく、標的と俺との間に立ったんだ。


「ほら、早く的を撃てよ」


「はぁ?ならそこを退けよ!」


「オマエ、アタシの話聞いていたか?相手を見るなと言っただろ?それに今回は実戦と違って的の位地はわかる。オマエなら、もうどうすれば当てられるかわかってんだろ?」


 その言葉に、俺は躊躇いが消えた。“オマエなら”。あいつの期待は俺へと後押しになった。


ーー銃撃(バン)ッッ!

 標的と俺との丁度半分の地点にある壁、そこを狙い撃った。そして銃弾は跳ねてーー的を射ぬいた。


「やるじゃねぇーか、グラウ」


 まるで無邪気な子供の様にくしゃっとユスは笑った。俺にはあいつの笑顔が、一番のご褒美だったんだーー

小話 グラウくんの強さの理由


アナベル:あなたの強さの理由、それは“英雄”ユスティーツに指導を受けてきたからなのですね?


グラウ:まぁ、そういうことだ。まったくあいつの教えることはメチャクチャなものばかりだ。壁を走ってみろだとか、1メートル垂直跳びしろとか……昔はそんなのが何の役にたつかわからなかったが、でも実際第一次争奪戦のときにそれらの技術を使うことになったしな。あいつは本物の天才だ


アナベル:なるほど、ユスティーツさんはなかなかスパルタ指導をしていたようで……感謝しなければなりませんわ。ユスティーツさんがあなたを育ててくだされなければ、わたくしはこうして生きてはいなかったのですから……


グラウ:アナベル……

(しっとりとした雰囲気になり、二人は見つめあう)


アナベル:(しかし自分がしていることに気がつき、急に我に返る)はっ!(あっ、危なかったですわ!このまま見つめあいすぎていたら、わたくし、グラウ・ファルケにーーうぅぅ!)やっ、やっぱりあなたに災いあれ、ですわっ!


グラウ:どうしてこの流れでっ!?

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