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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第4話 そして灰色の鷹は漆黒の空に飛んだ Part15

〈グラウの回顧ー前編ー〉


 俺の母親……に当たる人物は二人いると言っていいだろう。一人は俺の生みの親、もう一人は育ての親。俺のことを調べ上げたというなら、後者は知っているだろ――そう、ユスティーツ・ファルケ。あの戦争の英雄の一人だ。だが、順序立てて話すなら、前者を先に片付けようか。


 俺の生みの親。俺はその人の名前も、容姿も知らない。当然その人が存命なのかすらもな。俺が彼女について知っていることは二つだけ。一つ目は娼婦であったということ。そしてもう一つは俺を金のために奴隷商に売ったということだ。


 その人物が娼婦だったなんてことは後から知ったんだが……まぁ、彼女が身体を汚していかなければ生きていけなかったというのなら、きっと苦労していたんだろうな。それにも関わらず、俺の父親に当たる人間に俺を孕ませられて……挙げ句のの果て逃げられたのだろう。そして当然のことだが、自分のことすらやっとという人間に子供を養う余裕なんてあるわけない。だから俺を奴隷商に売り飛ばすことでお金を得た。だがきっとそんな人だから……もしかしたら俺の兄妹っていうのもいて、そいつらも金に変えられてしまったのかもしれないな。


 実の父親はドグサレ野郎が過ぎる。女性を、母親をいったい何だと思っていたのか。まぁ、そんなことはないだろうが、もしもやつに出会う機会があったのなら……俺はそいつを楽には殺さないだろう。20本の指をペンチで潰し、32本の歯を一本ずつ引き抜いてーーえ?そういう話しは聞きたくないからやめてくれ?あぁ、すまないアナベル。配慮が足りていなかった。


 当然だが、実の子である俺をポストに預けるならともかく、奴隷商などに売り飛ばした母親も恨んではいる。だが……彼女が俺を堕ろすことなく産んでくれたことには感謝している。俺の人生、キツいことは多かった。主に異能力に関してだが……でも、俺は多くの人たちに出会え、関わりを持ててる今この時に感謝はしているんだ。それに、こうして生きているからこそ、こうして今あんたに膝枕をしてもらえていないんだしな。


 どうした、顔を赤くして…え?余計なことはいいから早く話しを続けろ?わかったよ、それじゃあここから先はユスのことを話していこう。


 奴隷商に売られて、それからユスに拾われるまでは紆余曲折があった。だがそこは割愛させてくれ、その間の出来事について、あまり思い出したくはないからな……ただ一つだけ言えるのは――あの森でユスが俺を見つけて、そして病院まで運んでくれなければ――俺は今、こうして生きてはいなかったことだろう。


 白い天井、白熱灯の光がまぶしく感じた。そして嗅いだことのないシーツの匂い、花の匂い、ベットの匂い、優しい人の匂い……俺が目覚めた時、鮮血の如き赤い髪をした女性がベッドの端に座って分厚い哲学書を読んでいた。そいつがユスティーツ・ファルケその人だった。俺が起きたことを確認すると、あいつは大空のような水色の視線を俺に向けてきた。


「おう、起きたか。なぁ、ガキ。オマエ、哲学って好きか?」


「てつがく?」


「何だ、哲学って言葉すら知らないのか……じゃあオマエ、こんな分厚い本に意味があると思うか?」


「……ない、かな?」


「そうか。なら――オマエとアタシは気が合うかもしれないな!」


 あの時のことは今でも鮮明に覚えている。ユスはニヤリとイタズラに笑ったと思えば――その本をいきなり窓から外へと放り投げたんだから。唖然としたよ。いったいこの人は何を考えているのかっ、て。確か病室は5階、真下は普通の歩道だぜ?もしそれが人に直撃したら、ただではすまないというのに。


「ガキ、オマエ、名前は?」


「なまえ……FD774」


「はぁ?アタシはオマエの名前を聞いているんだよ。それじゃあまるで個体識別番号じゃなねぇーかよ?」


 眉間に皺を寄せるユスの顔が当時の俺には怖かった。だが、その時の俺には、他の人物と識別されるための名前はそれしかなかった。


「震えやがって……本当にそれしか、オマエにつけられた名前はないのか?」


 俺はビクビクしながら頷いた。そうしたらユスは――


「っ!!」


 抱きついてきたんだ。男より屈強な右腕と、鉄で出来た義手の左腕とで。


「…ガキ……オマエ、これまで生きていて楽しかったことはあったか?」


「ない…いちども……」


「オマエの母親と父親、いや他の誰でもいい。他人から愛情を注がれたことはあるか?」


「ない。むけられてきたのはへいきとしてのきたいと、そしてやつらのなかまをみなごろしにしたことへのぞうおのみ」


「そうか…ガキ。なら……ならばオマエに、愛情ってものを教えてやる。オマエに生き方っていうものを教えてやる。だからオマエは――今日からアタシの息子だ!」


 ユスが何を言っているのか、当時の俺にはさっぱりだった。どうせこの人も、俺のことを利用するだけ利用して捨て……と、余計なことを言い過ぎたな。まぁ、息子とか親とか、そんな言葉の意味を俺は知らなかったんだよ。


「だから、オマエに名前をくれてやる。そうだな…髪の毛が灰色…そうだ、オマエは今日からグラウだ!!」


 俺の名前はこんなにも適当に決められた。安直すぎるだろ、人の髪の毛の色だけを見て決めるだなんて?でも、あいつが決めてくれたんだから……これ以上を求めるつもりはない。


「おばさんは、なまえなんてーー」


 今ならわかる。初対面の人間にいきなりおばさん呼ばわりするのがいかに失礼でーーそしてよりにもよって最悪な相手にその発言をしてもらったということを。


「おい、ガキ。口の聞き方がなってないな………?」


 俺は初めて見た。怒りで髪の毛が浮き立つ人間を。


「ひっ、ひぃぃぃ!」


 そして俺は起きてまもなくーー第二の眠りにつくのであった。


 まぁ、これが俺とユスとの出会いだ。あんたのエリックとの出会いをロマンチックと形容するなら、俺とユスとの出会いはグロテスク…バイオレンスだ。仮にも"英雄"なんて呼ばれる人間の癖に、初対面のガキをぶん殴るんだぜ?本当に、困ったやつだったよーー

小話 グラウくんの幼少期


アナベル:わたくしの時は何処からともなく写真が落ちてきたというのに、どうしてグラウ・ファルケの時はありませんの!?これは立派な差別ですわよ!!


グラウ:まぁまぁ落ち着け。当時の写真なんて本当に一枚もな……いや、ないことはないはずだが、果たして持っていた人間が生きているかどうか……(ガキのころの写真を見られるのも恥ずかしいし、丁度よかったとは思うがーー)


ネルケ:お困りのようね、アナベル!


グラウ:だからあんたは今回出番じゃないだろッ!


ネルケ:へぇ~~いいのぉ?わたしをそんな粗末に扱うと……これ、アナベルに見せちゃうわよ!


グラウ:なっ!?(それは…俺の幼少期の写真ーー)なんであんたがそんなものを持っているんだよ!?


ネルケ:へへっ、嘗めないでよこのわたしを!わたしの情報網は最強なのよ!!


グラウ:くそっ!寄越せ、それを!


ネルケ:(異能力により軽くあしらう)このわたしに勝てるとでも?ーー(と調子に乗っていたら第三の刺客に襲われる)くっ、この手はーーソノミっ!?


ソノミ:ほう、避けられたか。流石だな、ネルケ。だが、次はーー逃さない!


ネルケ:くぅ……グラウの写真には反応してきたか…恋敵(ソノミ)というだけはあるわねーー(第四の刺客登場)まさかあなたまで来るとはね、ルノ?


ルノ:ええ、だって面白そうなんだもん。ほら、アナベルちゃんも混ざらない?グラウの写真に興味ないの?


アナベル:へっ?あっ、あのっ、わたくしは……(思い悩むも瞳に覚悟を宿した)いえ、わたくしも、参戦させて頂きますわ!


グラウ:(女四人が一つの写真を求めて乱れあうのを遠目に見ながら)出番完全に無視していいのかよ、あんたら……

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