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これが僕らの異能世界《ディストピア》  作者: 多々良汰々
第二次星片争奪戦~イギリス編~
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第4話 そして灰色の鷹は漆黒の空に飛んだ Part14

〈2122年 6月?日 ? 第二次星片争奪戦終了まで約?時間〉―アナベル―


 いったいどれほどの時間わたくしの過去を話したことでしょうか。グラウ・ファルケが真剣な眼差しで聞いてくださいましたので、ついつい滔々と話してしまいました。もう喉がカラカラです。ギブミエナジーを呷り、渇いた喉を潤します。


「結局、あんたが星片に執着した理由って……そのエリックっていう男のためなのか?」


 グラウ・ファルケが神妙な面持ちでわたくしに問い訊ねてきました。そうですね。まだはじめの質問に答えてはいませんでしたわね。


「ええ、そうですわ。わたくしが星片に執着したのは全てエリックのため。より具体的には――こんなこと、他の誰にも話したことはないのですよ。ですから、もう理解なさっていますわよね、グラウ・ファルケ。わたくしはあなたを信頼したからこそ、全てを打ち明けようとしているということを」


「俺を……信頼?」


 むぅ~~~っ!まさかこの男、気が付いてなかったとでも言いたいのでしょうか?


「そう頬を膨らませないでくれよ、悪かったな鈍感で」


 素直に謝ってきましたが許したくなんてありません!もうっ!!どうして大事なところが鈍いところまでエリックに似ているのです!?


「あなたは、エリックの次に信頼出来る相手なのですから、しっかりしてくださいましね!」


「エリックの次……あんたらの団長シーヴァーってやつよりもか?」


 むっ、そこを突いてきますか。シーヴァーさんは確かにレッド・シスルの頼れる団長です。あの人はたった一人の例外を除いて不敗の猛者。その実力を疑うつもりなんて露もありません。ですが、あの人は――


「シーヴァーさんは大事な時にいませんでした。ですから――」


「なるほどな。余計なことを詮索してしまった、すまない」


 グラウ・ファルケにしては空気を読んでくれましたね。でも、ありがたいです。

 もちろんわたくし自身わかっていますわ。これは八つ当たりに過ぎないと言うことを。ただ、シーヴァーさんがあの日はじめから基地にいてくれたら……そう思わないでいられるほど、わたくしは利口ではありません。それに、あの人は――と、これ以上はレッド・シスルの部外者であるグラウ・ファルケに話す必要はありませんね。


 さて、少し話が脱線してしまいましたわね。わたくしが星片に執着する理由の核心、あなたにお教えしましょう。


「グラウ・ファルケ、全てはエリックのためだとわたくしは言いましたが、その真の意味は――」


 こんなことを話せる相手に巡り会えるなんて、思ってもみませんでした。しかもその相手が一度は猛烈に殺意を抱いた相手だなんて。

 決して一人で背負いたかったというわけではありません――話せなかったのです。わたくしが長年抱いてきた夢の内容は――仲間を裏切ることに直結しているのです。


「わたくしはレッド・シスルの目的とは別に、個人的な願いを星片に抱いていました。その願いとは――エリックをこの世に復活させるということですわ」


 グラウ・ファルケ…念願の答えを聞いたというのに、あまり意外だとか、驚きの表情を浮かべませんでしたわね。でも、それもそうですわね。あなたには、わたくしの過去を包み隠さずお話したのですから。聡明なあなたには、きっとわたくしが星片に執着する理由の見当がついていたのでしょうね。


「アナベル、今のあんたの答えにもう一つ疑問が生まれた」


「ここまで話したのです。せっかくですから、それも答えて差し上げますわ」


「じゃあ……あんたは“抱いていました”と、その願いを過去のもののように語ったのは……俺の聞き勘違いか、それとも――」


 本当にあなたは鋭いですわね。でもそのことは、あなたがわたくしの話を一言一句漏らさず聞いて下さっている証拠でもあるのですが。


「ええ、確かについ少し前までは何より大事なわたくしの願いでした。ですが今はもう、過去のものとなりましたわ」


 もう躊躇ことなどありません。この際、とことんわたくしの心中を語ってしまいましょう。そうしてグラウ・ファルケにも――なんて、わたくしも随分イタズラなことを考えてしまいましたわね。


「“アナベル、ぼくに縛られる必要なんてないから…だからアナベル、どうか幸せになって”。わたくしは随分と長い間、彼の最期の言葉を忘れていました。きっとその言葉は、“ぼく以外の人と幸せになってくれ”という意味だったのでしょう。だからこそ、その言葉を覚えてなどいられませんでした。わたくしにとってエリックは、たった一本の赤い糸で結ばれた運命の相手。彼が例えこの世界からいなくなったとしても、わたくしの心は常に彼の側にありますから」


 一息吐いて、また話を続けます。


「ですが……彼はついさっき夢の中に現れて、その言葉を繰り返したのです。そして彼のその言葉のお陰で、ようやくわたくしは気が付きました。いいえ、本当はずっと前から気が付いていたのですけれど……わたくしは彼がいなくなった喪失感に耐えきれず、その事実に目を背けていたのです。彼は自分を犠牲にしてまで他人を救おうとする高潔な人物です。そんな彼が、他の多くの人間の命の犠牲の上に獲得した星片による復活など望むはずがないのです。彼のことを一番知っていると自負してきたのに、彼の一番望まないようなことをしようとしていたなんて……バカですわよね、わたくし?」


 どうしてでしょう?瞳の奥が熱くなってきて……大粒の涙がぽとりと落ちました。なにも悲しくなんてない…ない……はずなのに…どうして、こんな気持ちに――


――ぎゅっ

「っ!!ぐっ、グラウ・ファルケ!?」


 涙でぼやけて視界が歪んで、嗚咽が鼓膜で木霊して、彼がこんなにも近くに来ていたことにわたしは気が付きませんでした。いいえ、そんなことはどうでもいいのです。わたくし、今、グラウ・ファルケに抱きしめられている……温もりが伝わってきて、一人背負ってきた悲しみたちにも安息の風がそよいできて――


「……あんたはバカじゃない」


「えっ……」


「誰かの死に、明日すら見えなくなるほどの深い悲しみに苛まれて……他人という名の犠牲を払ってでも、誰かを復活させたいなんてことを考えたことがあるやつは――今、あんたのすごい近くにいるぜ?」


 わたくしの近く――そっ、それって!?


「俺もあんた同様、第一次争奪戦が終わるまでは……P&Lを裏切ってでも、俺の本懐を遂げようと考えていた」


「なっ!?」


 彼の発言が意外すぎて、きっとわたくしは今拍子抜けな顔をしていることでしょう。


「あっ、あなたが……P&Lを裏切ろうなどとしていただなんて――」


「ふっ、涙は収まったようだな。それなら、もうこの話は終わりにしよう」


「ふえっ!?」


 彼の腕がわたくしの背中から離れ、なんだか名残惜しい……そっ、そんなことより!気になることを言うだけ言って、そこで話を終わらせようとするなんて――そうはさせませんわ!


「コホン!グラウ・ファルケ。まだ仲間が来るまでは時間があるようなので――」


「それじゃあ寝て待つとしよう」


「はいっ!?」


 何おもむろに身体を横にしているのですか!?まだわたくしが話をしているというのにっ!!


「一方的にわたくしばかり過去について語って、あなたはただひたすら聞くばかり。ずるいとは思いませんか?」


「別に?過去を話したのはあんたの意思で、だろ?無理強いした覚えは無いぜ?」


 ぐぬぬ……やはりこの男、口が達者ですわね!でも、この男が一体どなたを復活させようと考えていたのかが気になって仕方ありませんわ!!この気を逃せば、わたくしと彼がこんな濃密に語らうことなどないでしょうし……仕方ありませんわね。エリック…申し訳ありませんわ。ほんの少しだけ、他の男に身体を許すことを認めて下さいまし!


「グラウ・ファルケ…そんなごつごつとした岩場で寝ると、むしろ疲労が蓄積するだけですわよ?」


「いいや?俺はどこでも寝られる質なんでね」


 この男ーーーーっ!こちらを振り返ることすらせず、一方的に会話を終わらせてくるなんて!でも、わかりましたわ。あなたがそうやってわたくしをあしらうというのなら――

 グラウ・ファルケに近寄って……そしてがしっと彼の頭を両手で掴みます。


「いったいなんのつもりだ?」


 不機嫌そうな表情をしてきますが――


「ええい、こうです!」


 彼の頭を――わたくしの膝の上へと乗せます。いわゆる、膝枕というやつです!

 わたくし、知っているのです。世の中の男性は皆、女性に膝枕をされたいということを!そう、エリックが言っていたのです!


「どうですか、グラウ・ファルケ?岩場よりは寝心地がいいでしょう?……グラウ・ファルケ?」


 自分でもグラウ・ファルケに一本とったとしたり顔をしていることに気が付いていたのですが……グラウ・ファルケが顔を赤くして唖然と何も言ってこないために……今になって、自分がしたことに気恥ずかしくなってきてしまいましたわ!


「あっ、あんたいきなりどうしたんだよっ!?」


「……どっ、どうしたって……そうです!わたくしを抱いて、膝枕までさせておいて、それでもあなたは口を割らないおつもりですか!?」


 言い逃れをさせないように強く迫ります。わたくしを抱きしめた男の人は、お父様を除けばエリックだけでした。大事な二番目になったのですから……責任をとってもらわないと! 


「事実としては間違ってはいないが誤解を招きそうな言い方を……はぁ………」


 彼は大きくため息を吐いてきました……むぅ!せっかくわたくしから膝枕をして差し上げたというのに、なんです、その反応はっ!


「しかし結構大胆だな、あんた……案外ネルケに似ているところがあるのかもな」


 ネルケさんですか。彼女の異能力や容姿について事前の情報で知っていましたし、実際に一言二言彼女と会話もしましたが…彼女の性格までは把握出来ておりません。ですが、グラウ・ファルケはネルケさんのことを好印象に思っているようですし…素直に喜んでもいいのかもしれませんわね。

 でも、似ているというのなら――


「あなただって、どこかエリックに……似ていなくもないのですよ?」


 ついに打ち明けてしまいましたわね。でも…わたくし、隠し事は苦手なのです。大事ことはしっかり言葉で伝えるべきです!


「そうか…それは光栄だな。あんたみたいな美人の思い人に似ているなんてな」


 そうニカッと笑ったときの表情なんて、本当にエリックそっくりで。それだけではありません。あなたは星片が偽物だと見抜いていたのにもかかわらず、敵であるわたくしを助けるために崖から飛び降りた。自分を犠牲にして誰かを救う、エリックに心根も似ているのですよ。


「さて、そうだな……じゃあこうしよう。もしもあんたがネルケ、ソノミ、ルノに偶然出会う機会があったとしても…あんたを許可無く抱きしめたこと、そして今膝枕をしてもらっていることを秘密にするというなら…あんたの知りたいことを話してもいい」


「えっと……わたくしを抱きしめたことや膝枕をしてもらっていることが彼女たちに伝わると、何か不都合なことがあるのですか?」


 グラウ・ファルケが「まぁ……」と言葉を濁しました。どうやら深く突っ込んで聞かれたくはないようですね。この男と三人の関係性がいまいち掴みかねているのですが…彼も彼なりに、苦労しているのかもしれません。


「俺がP&Lを裏切ってまで、あいつを復活させようとしていたことなんて、あんた同様誰にも話していないんだが……まぁあんたの様な誠実な人となら、秘密を共有してもいいのかもしれないな。流石にあんたのように事細かに話すつもりはないが――始めようか、俺の昔話でも――」

小話 積もりゆくカルマ、溢れ出す時は近く……?


アナベル:ちなみにどうですか、グラウ・ファルケ?


グラウ:何がどうですかだ?


アナベル:(いつもは察しがいいのに、やはり大事な時だけ鈍感になるなんて……!)膝枕に決まってます!膝枕の感想をいってくださいましっ!


グラウ:(膝枕の感想……?いや、そんなことを言われてもな……)気持ちいいぜ。適度な柔らかさで(こんなんでいいのか?)


アナベル:なっ……!(聞いておいて恥ずかしいですわね……)で、でも…気に入ってもらえたなら幸いですわ。ちっ、ちなみにですけれど……わたくし以外に何人の方に膝枕をされたことがあるのですの?


グラウ:どうしてそんなことをあんたに話さなければいけないんだ?


アナベル:……素直に答えないというのなら、ネルケさんをここに召喚しますわよ?


グラウ:三人です。すみませんでした(ソノミとユスと……あいつにだな)


アナベル:素直でよろしいですわ!でも、三人ですか……(ネルケさん、ソノミさん、ルノさんということですわね!)ほんと、罪作りな方ですわね。いつか罰が下りますかもしれませんわよ?


グラウ:罪作り?いったいなんのことだ?


アナベル:じぃぃぃぃーーーーっっ


グラウ:なんだよ、そんなじとっとみてこないでくれよ……何か俺、悪いことをしたか?


アナベル:さぁどうですかしらねぇ~~。でも――いつかこのスケコマシに災いあれ、ですわ!

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