再開は急展開・三
白銀は笑みを浮かべ続けながら、自己紹介をしてきた。と言っても名前しか言ってもらえず、黒瀬から見ると、白銀は謎に包まれているような感じがする。
「さて、本題に行こうか」
仲の良い知り合いと接するような口調で、白銀は続ける。
「君さ、僕のグループに入らないか? 個人で活動するよりも効率的だぜ」
勧誘をしてきた。さらに詳しく訊いてみたほうが良いかもしれないが、興味が無いので断った。
「遠慮しますよ」
聞いた白銀は不満そうな表情をして言う。
「詳しく聞いていないのに断るなんて……。君は若いのに優秀だ。グループに入ったほうが仕事も多くなるし、同じ殺し屋やそれに関係している人々と交流を深めることも可能だ。孤独に生きるよりは良いと思うけどね」
グループのことについて言わないのは、何か理由があるのだろうか? と思っているときに白銀は付け加えるように言う。
「あ、グループっていうのは、僕をリーダーとする団体のこと。殺人の依頼とか、殺人トリックの考察などをして、他にも色々と研究をしている。と言っても人数はたった十人だけどね」
十人が少ないのか多いのか、黒瀬にはわからない。
やはり、白銀は人を誘うのが得意では無さそうだ。興味が湧いてこないし、逆に怪しい雰囲気を漂わせてしまい、白銀たちの仲間には絶対になりたくないと思ってしまう。
こんな人間がリーダーをしているなんて、数日後にそのグループが壊滅しても俺は変だとは思わないだろう。そのような考えが黒瀬の脳裏に浮かんでいた。
少しずつ確実に、白銀に対する嫌悪が脳裏に増えていく。しかし、それを知らない白銀は黒瀬を頑張って勧誘しようとしている。何故、そこまでして黒瀬を仲間にしたいのかはわからないが。
「僕とも良い関係になれるかもしれないし、このグループは絶対に成長する。それは確信できる」
何を根拠に確信しているのか訊きたいが、仲間になろうと思わなかったので、訊かなかった。ただ、黒瀬を勧誘したい理由は、年齢の近い人間を仲間にしたかったのだろうと思った。友達がほしい、ということかもしれない。そうだとすれば、殺し屋にならなければ良かったのに。
疑問符が黒瀬の脳裏を渦巻いていた。
話し合っても平行線のように永遠と口論が続くだけだと思った黒瀬は、強引に会話を終わらせて自宅に帰ることにした。
「あ、今日は考えることをしたくないんでね」
そう冷たく言うと、アパートの一室から、いつもより早く歩いて出て行く。ふと白銀の顔を見てみると、笑みが消えていて、細い目で見下すような表情をしていることに気づいた。
怪しい。黒瀬は走ってマンションから出た。
*
白銀は初めて出会ったときよりも背が少し伸びているように見える。これで白銀と出会ったのは最初の出会いを入れて三回目。二回目も適当なことを言って逃げたことを覚えている。
白銀はいつもと変わらない明るい口調で言う。
「早くしてほしいんだよね。おためしでも良いから来てよ。会いたいと言っている人もいるし」
二回目の出会いのときもそんなことを言っていた。
「あとさ、この女子さ。死にたいとか言ってたらしいね。君が毒を飲ませたらしいけど、嘔吐だけしかしなくて、死ぬことはできなかったみたいだね」
白銀の言葉に続いて、横にいる水落が言う。
「コーヒー飲んだときに、気持ち悪くなったから、それでトイレで吐いたけど、今は平気。あれ、毒でしょ? じゃないと、君が店から出た意味がわからなくなるし」
そのとき、黒瀬はこれがファンタジーなのか現実なのか一瞬迷った。その迷いは表情にも表れていて、驚いているような顔をしていた。しかし、それとは対照的に白銀は平然とした表情をしている。
「まあ、彼女が死なない理由……僕は知ってるからね」
白銀が自信があるように言うと、さらに続ける。
「薬を飲まされたんだ。特殊なものを、ね。それを作ったのが僕達なんて言ったら、どうする?」
不死身になる薬を作ったと言うのか。嘘に決まっている。しかし、白銀は笑みを浮かべて、
「水落さんが飲まされた特殊な薬は試作品だ。何かのミスで偶然、彼女の口に入ってしまったんだろうね。実は、試作品の薬が奪われたことが一回あったんだ。でも、それを直す薬は開発できた。ほしけりゃ、あげるよ。そうすれば、黒瀬君も依頼を普通に実行できるな」
と言った。依頼を受けていたとかは、水落から聞いたのだろう。
まあ、水落が死のうと生きようと関係ないし、これで解決するようなので、黒瀬は「そうか、それは良かった」と言うと、白銀に背を向けて自宅に帰ろうとした。そのときに白銀が、
「まあ、待て。条件があるんだよ。黒瀬君にも関係している」
と言って、自宅に帰ろうと足を進めた黒瀬を止めた。
仕方なく、白銀がいるほうへ顔を向ける。また、不得意な勧誘の始まりか。黒瀬のその予想は当たっていたが、予想外とも思える発言が白銀の口から飛び出してきた。
「黒瀬君。僕の仲間に……いや、一時間だけでいい。グループの中に入ってほしい。ただ、それだけだ。金はいらないよ。それだけで、水落の『死ねない身体を死ねる身体に直す薬』を提供してやろう」
何だ、この取引。黒瀬は理解ができない。ここまで、仲間に入れたいと考えるのは異常だ。
「黒瀬君。お願い」
白銀の横にいる水落が優しく頼ってくるような口調で言った。依頼失敗は自分自身が許してくれないので、行くしかない。
巨大な罠が待っているような気もするが、何回逃げても、白銀はしつこく俺に迫ってくるだろう。ならば、白銀の言う通りにするしかない。黒瀬はそう考えた。そして、白銀との邪魔な関係を完全に切るのだ。
黒瀬は少し口を開いて言う。
「わかった」