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再開は急展開・二

 夕食を食べ終わると、黒瀬はパソコンのほうへ身体を向ける。メールの確認だ。しかし、迷惑メールと依頼のメールが混ざっているので、とても面倒だ。一番上にあるのは……迷惑メールか、削除。

「まあ、ゼロか」

 依頼のメールが来る日なんて一週間に一回……二週間も来ないこともある。まあ、毎日来ていたら、逆に怖いが。

 そんなことを思いながら、一番下にあるメールを見た。

『失敗』

 ……まさか。水落のことが脳裏に浮かんだ。あの毒を飲んで生きることができる人間は聞いたことが無い。しかし、よく考えてみれば、題名だけではこれが水落のメールとは限らないのだ。とりあえず、内容を見ることにした。

『依頼失敗のようですね。できれば、またお会いしたいです。今日行った喫茶店の前で良いですか? と言っても、返事なんて来ないですよね。私は待ってみます。明日になるまで待ってみます』

 夢のような出来事が起こった。とりあえず、興味を持ってしまったので、黒瀬は喫茶店へ向かうことにした。時刻は午後七時四十分。秒が進むと同時に、黒瀬の心中にある興味も増大していった。


 今考えても、電車の中で自分がどうしていたのかわからない。覚えていないのだ。水落という女性が毒を飲んだのに生きているということが信じられない。

 あのメールも黒瀬の脳裏に強く残っていた。依頼失敗という殺し屋として一番聞きたくない言葉があったし、明日になるまで待ってみます、という異様な雰囲気を漂わせる文があったことが理由だろう。

 喫茶店の前まで歩くと、人がいた。しかし、一人ではなく、二人だった。黒瀬自身は気づいていなかったが、歩く速さが少し速くなっていた。

 二人との距離が三メートルくらいになると、向こうも黒瀬の存在に気づいたのか、顔を黒瀬に向ける。暗くて誰なのかよくわからない。一人は水落だと思うが、もう一人が誰なのか予想できない。そう思っていると、黒瀬から見て右側にいる人が話しかけてきた。

「よお、黒瀬じゃないか」

 その声は水落ではない。しかし、聞いたことのある声だ。その言葉を聞くと、少し驚いたように黒瀬は返事した。

白銀しろがねさん……」

 それを聞いた白銀は、少しだけ笑みを浮かべて言った。

「久しぶりだな。三ヶ月くらい会っていなかったかな? その間に彼女を作っているなんてね。お前ってそんなに積極的だっけ?」

 元気のある高校生のような口調だった。しかし、この口調から想像できるような、黒瀬と白銀の関係は深いものではない。友人でなければ、先輩と後輩のような関係でもない。知り合ったのは、黒瀬が殺し屋になってから一年が経過したときのことだ。



 出会った場所には、一つの死体が転がっていた。その場所はマンションの一室。二人は仕事のときに出会ったのだ。依頼人は白銀と黒瀬の両方に依頼のメールを送っていたのだ。念のためのつもりだろうか。こっちのことも考えてほしい。

 標的は三十代の男性。先に殺したのは黒瀬。返り血がついても良いようにコートを着ていた。殺し終えた黒瀬が、返り血のついたコートを丸めて黒い袋に入れて持ちながら、自宅に戻ろうとしたときに白銀が現れたのだ。白銀は少し驚いたような顔を黒瀬を見せて言う。

「あんた、誰? まさか殺しちゃってる? 血の匂いがしてるけど」

 声には明るさというものがあった。黒瀬が想像している殺し屋とは逆だった。殺し屋って陰気で口数も少ない感じだと思うが……。その証拠……と言えるかどうかわからないが、黒瀬も口数は少ないし、性格も暗い。着ている服も、その暗い性格を助長するかのように暗い色だった。

 しかし、この白銀という少年。髪型も茶色に染めていて、今の若者のようなオーラを発している。顔も格好良く、普通に生きていたほうが得すると思う。多分、昔に何かあったのだろう。そういえば、この雰囲気はいつになっても変わっていない。

 そう思っているときに、白銀は死体のある部屋の中に入り、平然と言う。

「刺殺か」

 そして黒瀬のほうに顔を向けて続ける。

「君でしょ? 僕は色々とこの男の情報を集めていて、この男と何らかの関係がある人間の氏名や顔を全て調べたけど、君の顔は全然出てこなかった。つまり、君は部外者。そして僕と同じ殺し屋。そうだろ?」

 無表情で黒瀬は聞いていた。そして、黒瀬は口を少し開いて言う。

「そうですね」


 黒瀬はいつ白銀が襲ってきても、対抗できるような姿勢をとった。横取りされた――それは心に深く突き刺さっているかもしれない。依頼失敗になるし、そのことを逆恨みして俺を殺そうとするかもしれない。

 しかし、黒瀬の考えとは正反対に、白銀は少し笑った。そして、彼は上から目線で言う。

「まあ、知ってたけどね。実力を見てみたかっただけだよ。部屋の前で二人の声を聞いていたけど、被害者が悲鳴を出すようなことはしていなかったみたいだな」

 ありがとうございます、なんて言えるわけが無い。いきなり出てきて、上から目線で話しかけてくるこの男は何者だろうか。

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