表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

プラスへ向かう・二

 水落の目は弱々しく輝いているように見える。黒瀬の質問には答えないで、逆に訊いてきた。

「君は私を心配してくれたの?」

 その問いに、黒瀬はどう答えればいいか迷った。

「どうして、そんなことを訊く?」

「私を殺そうとする白銀君に酷いと言ったよね」

 静かな口調だった。痛みも感じないのだろうか。彼女は続ける。

「私のことを心配した証拠かな?」

 自信が無いような口調だった。黒瀬は頷いた。すると、水落の顔が少し良くなった。何かから解放されたように見える。その時、白銀の言葉が黒瀬の耳に入ってきた。

「先に殺すのは黒瀬ではなく水落だな」

 白銀は左手で左ポケットに手を入れて、手探りで何かを探している。彼の右手には銃があり、銃口を黒瀬に向けられているので、何もできない。

 銃を使うと、音が鳴り、一般市民に気づかれてしまうことを彼は恐れているようだが、反撃をしてきた場合は、仕方ないということで撃ち殺すだろう。黒瀬の脳裏に作戦が浮かぶことは無かった。

 白銀は目薬のように小さい容器を取り出す。中には透明な液体がある。彼はキャップを取り外すと、容器を起き上がろうとする水落に近づけた。彼女は怯えるように、容器から離れようとする。容器の中にある液体は死ねない身体を治してくれる『薬』だろうか。

「これが君が求めていたものだろう?」

 そう言われ、水落も気づいたようだ。彼女の目が大きく開く。

 白銀は左手に持った『薬』の入った容器を彼女の口に近づけていた。彼女はその容器をスロー再生のように右手をゆっくりと動かし、受け取る。右手が少し震えている。そして、口に近づけて、少しずつ飲み始めた。

 黒瀬はそれを見ていることしかできなかった。言うことは無いし、白銀の右手に持つ銃のせいで、行動も制限されている。


 容器の中の液体が無くなる。しかし、水落に異変は無い。右肩の傷は飲む前に治っていたのかもしれない。

 水落は黒瀬を見つめている。困っているような表情を見せている。俺も困っているんだよ、と心の中で言い返すが、彼女の表情は変わらない。

 白銀は水落の肩に刺さったナイフを抜いた。その瞬間、彼女の口から「ぐっ」という言葉が漏れた。彼女は顔を歪めて、右肩を左手で押さえている。刺された部分から流れる血が、彼女の左手を赤く染めていく。

「これが……痛み?」

「そうだよ」

 白銀は優しい口調で答えた。水落の反応を楽しんでいるように黒瀬には見えた。その時、黒瀬の心の中で化学反応のように、新たな感情が生まれ始める。怒り、というのかもしれない。

 それと同時に脳裏に浮かんだ一つの作戦。しかし、それを実行することに決心できない。何かが邪魔をするのだ。だが、このままでは俺も水落も殺される――、黒瀬は意識して目を閉じ、そして開く。その目で白銀を見る。

 そして、言うのだ。

「水落を殺すのか?」

「そうだが、どうした?」

 ナイフを水落に、銃口を黒瀬に向けて、白銀は訊いた。黒瀬は言った。

「殺すのは俺の仕事だ。依頼されてるし」

 白銀は少し笑った。

「そうか。まあ、良いだろう」

 そう言って、白銀は左手に持っているナイフを黒瀬に渡した。ナイフには血がついている。ナイフを持った手の感触が身体に伝わっていく。失敗は許されないのだ。

 銃口を向けられていることが、黒瀬の心の中にある恐怖や緊張をさらに膨らませる。

 ナイフを左手に持った黒瀬は顔を下に向けて、倒れている水落を見る。見下されているように見えたのか、水落は怯えていて、涙が流れそうな目をしている。黒瀬の右横には白銀がいる。

 ――最後の勝負だ。

 黒瀬はナイフの先端を罪悪感と共に水落に向けた。


 ナイフを水落の身体に近づける。どこを刺すか、考えていないし、考える必要も無い。刺すまでの間に白銀が隙を見せてくれることが大事だ。

 ナイフを持つ左手の力が強まる。その時だった。白銀の銃を持つ左手の力が緩んでいるように見えた。銃口が少し下に向いているのだ。……今しかない。そう思った黒瀬はナイフの先端を白銀に向けて、捨て身の覚悟で彼を刺そうとする。白銀は慌てて、銃の引き金を引いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ