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えっ死に掛けでも入れる保険があるんですか!?

作者: 春巻夏生

 俺はタイフー。冒険者をやっている。まぁ俺の名前なんてどうでもいい事だ、覚えないでいいぞ。

 俺はかつて有名なパーティに所属して名声を得ていた事もある。

 事もあるというのは、まあ、その。


 ある時カジノにどハマりして大敗し素寒貧となった俺は、自分の装備を質に入れる事となった。

 情けなすぎる理由で突然の戦力不足となった俺は、見事見限られたという訳だ。


 ないわーって。そう言わないでくれよ。俺だってどうしてそこまで熱くなってしまったのか分からねえんだから。

 仲間の財布にまで手を出す所までは狂わなかったから、追い出しだけで済んだんだ。我ながら情けなさが半端ない。


 そんな訳で、借金はなし、憂慮する因縁もなし、頼れる装備もなし、ついでに明日の宿代もなしの俺は、安物の装備を借りて普通なら俺一人でも問題ない筈の中級採取クエストに独り勤しんでいたの……だが。


 ────────────────────────


「くそっ! ツイてねえ! よりにもよってデミドラゴンかよ!」


 森の枝葉を万能ナタ(リース品)で斬り払いながら一心不乱に逃げる。

 背後からは鋭い鱗を持った巨大トカゲが追いかけてきている。

 アイツは速さはそこまでではないのだが、体力と硬度そして食欲が強く、まともにダメージを与えられないなら、この様に撒ける事を祈りながら全力で逃げるしかないのだ。

 勿論、装備が貧弱な今の俺には分も悪い。一対九ぐらい悪い。


「畜生が! てめえも野生生物の端くれなら普段食ってる生き物を襲いやがれ! 少なくとも俺ではなく!!」

「ジャアアアアアアアア!!」

「聞く耳持たねえのだけは分かってたわ知ってたわ!!!」


 かなりの距離を逃げている筈だが一向に諦める気配がない。

 空腹な所で出逢った運命の相手とかそういう認定されてるんだろうなこれは!


 木に登るか? いや、木を倒されて無事死亡だろう。

 身を隠すか? いいや、あいつは感覚が優れている。間違いなくバレて無事踊り食いだろう。

 いっその事戦うか? ナタを鱗に弾かれて無事返り討ちだろうな!

 くそー無事とはいったい! ダーマスクスの我が愛剣さえ有ればこんなモブ怪獣!


「はぁ、はぁ、は……なっ!」


 しまった、なんという運の無さだろう。

 崖だ。それも深く長い。横にかわしたら追い付かれる。

 対岸まで距離にして3.5m! 多分そんなもん!

 他に手はない、火事場パワーを信じて飛び越えるしかないぞ!


「う、うおおおお! 女神の加護とやらありやがれええええ!!」



 そうして俺は覚悟を決め


 見事なスピードで崖に差し掛かり


 飛び立つ足を滑らせ


 まるで吸い込まれるように崖の中へ。


 最後に見えたのは崖中で俺を待ち構える岩壁だった。


 ────────────────────────


「……ハッ!?」


 気が付いたら俺は白い世界に立っていた。とにかく何も無いようだが、固い地面がある事だけは分かる。


「なんだここは?」


 怪獣ヤローから逃げて、崖から落ちて、その先にこんな世界があったのだろうか?

 こんな常識外れな世界が、まるで世界の終わりみたいないやいやそんなまさか。


「ここはオレの世界だよ、人間くん。」

「な、誰だ!?」

「ハッハッハ、その様子だと諦めて飛び降りた訳じゃないな。」


 何だこの冴えない男は? どこから現れた? 何者だ?


「おいおい、混乱するのは分かるが焦るんじゃないよ。どうせここにいる間は時間が経たないんだ。ゆっくりしなよ。」

「何言ってんだ、そんな馬鹿な。そんな事、女神様でもなければ、いや女神様でも出来るかどうか。」

「オレはあの女神じゃない神で、そんな馬鹿な事が出来るんだよなぁ。」

「はい?」


 え? 俺の耳詰まった? 神って? ていうかそういや思考読まれた?


「そうそう筒抜け筒抜け。まあ神だからな。」

「ものすごくフランクな神がいるもんですね?」

「世界に流行ってる女神信仰はお堅いよな。オレああいうの苦手。」

「……はぁ。」

「おいおい人間くん、救いの手を差し伸べてやるんだからもうちょい迎合しろよな。」

「は、はぁ、……救い……そうだ、俺は一体どうなって!」

「ハッハッハ!」


 やっと本題に入れるみたいな肩のすくめ方しやがる。地味にイラッとする! ゆっくりしなとか言った癖に!


「さて、人間くん。君は今、本当は崖の途中だ。」

「えっ。」

「崖から落ちてまず無事では済まない途中だ。」

「嫌な言い直し要ります?」

「そんな中なんと、今回は特別キャンペーン実施中だ。」

「ものすごく胡散臭くなってきた。」


 俺のツッコミが聞こえてない訳では無い様で眉がピクピクしている。


「あー、所で君は死に掛けた瞬間に神が現れる意味が分かるかな?」

「意味?」


 む、むう。

 そういえば聞いたことがある様な気がする。


「異世界の神が気に入った人間を自分の世界に優遇招待とか、次の人生をどう有利にするか希望を聞いてくれるとか、そういう寓話を子供の頃聞いたことがあったな……。」


 まさか、そういう事なのか? もし本当にそうだとしたらコレは不幸中の幸いなのでは!?


「ハッハッハ! なるほどなるほど!」

「ええと、ラッキーと思っていいやつなんすか?」

「ああラッキーだよ人間くん!」

「やったー! 俺本当は魔法使いにな「その状態からでも入れる保険があります!」ぜ!」


 ………………おん?


「保険?」

「うむ。」

「転生じゃなくて?」

「うむ。」

「加護でもなく?」

「うむ。保険。」


 ………………………おおん?


「なんで?」

「君死んでないもん。」

「さっきの話から察するにもう死ぬようなものなのでは?」

「いや、死んでないし死なないよ。」

「んんんんんん?」


 混乱が帰ってきた。じゃあなんでこんな事になってんだ俺は?


「だから特別キャンペーン実施中だと言っているだろ?」

「???」

「君には特別に! このタイミングでも保険に入る権利がある!」

「なんで??」


 なんで保険なんだ。

 なんでそんな変な特別なんだ。

 なんでそんな事やってんだこの神。


「その信じられんものを見る目やめよう?」


 無理です。


「そこの所説明しないと駄目かね?「お願いします。」食い気味。」


 俺は頭脳派じゃないんだ、理解が及ばないのは許して欲しい。


「前提として、神というのは信仰を糧にしている。」

「はい。」

「信仰というのは感謝や畏れといった、自分より高次な存在を強く肯定する気持ちだ。」

「はぁ。」

「で、だ。最近は女神の奴が世界に幅を利かせているだろう。」

「はぁ、そうなんすかね。」

「あいつが頑張り過ぎてオレの信仰が減った結果、オレのポケットマネーも減ってきたからちょっとは巻き返したいなと。」

「はぁ?」

「かと言って奇跡を起こすのはめんどゲホッゲホッ赤字ゴホッゴホッ大変な事だし、ある程度有名な人間を明確にオレが助けたと知られるぐらいでいいかなと。」

「セコくね?」

「ぶっちゃけ最近は女神が目立ちまくってるだけで、オレって凄い神だから、オレの存在を思い出してもらえるだけでミッションクリアなんだよね。」

「……はぁ。」

「という事で死に掛けから入れる保険があるんですよ!」

「仮にも神がその口上やめない? あとやっぱセコくね?」


 つまり奇跡起こして助けるのは割に合わないから、割に合う干渉ねじ込んで自分を宣伝したいと?


 くっっっそセコいな?


「まあ、そんなに怪しむなら仕方ない。この話は無かったことに。」

「あ、いや、待った、待ってください。」


 真に下らねえ事情だったけど俺の大怪我は確定事項だった!


「えー? でもセコいセコいって思ってただろう?」

「思ってましたけど。」

「口に出さなくても無駄だからって直球投げるんじゃあない。」


「えーと、それでその保険って維持費とか保証とかどういう?」

「保証は人間くんらの金だ。問題なく使える通貨だぞ。」

「神が。通貨で保証。」

「維持費というか対価はそうだな、住んでいる街の広場でオレを讃えてもらおう。吟遊詩人の真似事はできるよね?」

「え"っ」

「やらないなら無し。」

「やります……。」


 くっ、背に腹は変えられん。俺は今無一文なのだから! 無一文で瀕死とか、そんなの野垂れ死に以外に無いのだ!!


「ああ、踏み倒しは無理だからね。順序が逆だけど。」

「やっぱ何か尊敬できないわこの神。」


 ────────────────────────


 神の保険に加入して俺達の住む世界に戻ってきて早々、俺は崖にしこたま体を打ちつけ意識を失った。


 そういえばここからどういう逆転があれば助かるんだ……?


 ……。


「はーい、ゴッドサービスでーす。」

「ってボロカスだな、返事期待出来ねえぞアルファ。」

「ちぇー、じゃあさっさと運んじゃおうオメガ。」

「おう。」

「あ、どうせ血塗れだし受領証に血判貰っとこう。」

「アンタは人の心が無いのか。」

「天使に人の心求めないでよね人間ー。ボクは上司の命令に忠実に、かつ効率良く楽したいだけでーす。」

「慈愛ぐらいは持て。」

「自愛? 持ってる持ってる。」

「やれやれ……。」

「じゃ、保険加入ボーナス便、出発(デッパツ)ー!」


 ……。


 気が付いたら街の病院に担ぎ込まれていた俺は、らしくない雰囲気な神官の男女から保険金を受け取り、半年入院して体を癒した。

 無事退院となった後、ツテのある教会であの巫山戯た神の事を調べた所、よりにもよって創世神であった事を知る。

 この世界は神の遊び場と酔っ払いが笑いながら駄弁っているのを以前聞いたことがあったけど、こりゃまさか大当たりなのでは?


 その後俺は、保険金を持ってきた神官二人に何処までも追跡され続ける事となり不承不承創世神について語る唄を演じたり、仕事中にまた理不尽な大物に追い回されたり、結果また大怪我をして保険金の世話になったりとするのだが、それはまた別の話。




「なぁ神官さんらよ、真逆だけど俺の運が無いのってもしかしてあの神のマッチポンプ?」

「今更気付いたんですかー?」

「正直神の遊び道具だぞアンタ。」

なおカジノの大敗は純粋に運が無かった自業自得だけど、それも神のせいと勘違いしながら逞しく入院(いき)ていく事でしょう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 保険は、どんな効果があったのでしょう? すいません、理解が追い付かず(;>_<;)
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