伊勢原 花 クリぼっち
ずるぺったんずるぺったん
「はあ渡り廊下は寒いなあ」
ファイルを抱え昼休みの生徒に混ざっていると、
「おいカウンセラー」
振り返ると秋生がいた。
「やあ秋生どうしたんだい?」
「夏生のクラスにぼっちになりそうなヤツがいるぜ気になるなら聞いてみろよ」
秋生がかったるそうにいう。
「ぼっち・・・また何か見つけたのかあいつら・・」
放課後、誠史郎は夏生秋生を保健室に呼び出した。
「昼の話は本当なのか?」
「だから自分で確かめろって言ったじゃん。伊勢原ってヤツだよ」
「フツーのヤツだったけど最近どんどん友達といる数が減ってきてさー、
最近毎日1人だぜ。何か変だよな」
秋生の言葉はわれ関せず。と言っているようだ。
「夏生秋生なぜそれに気づいたんだい?」
「んー企業秘密」
ニッコリ微笑む夏生。
「とりあえずそいつと話してみれば?」
ぶっきらぼうに話す秋生。
2日後北斗が聞いた通り、伊勢原を保健室に連れてきていた。
「あ、あの?」
「やあ、こんにちは。驚かなくていいよ。ちょっと伊勢原さんとお話してみたかっただけなんだ」
相談室のソファを誠史郎がすすめる。
「なんかね、最近クラスで1人でいることが多くなっているような気がしてね」
ピクッと伊勢原が動く。
「クラスで何かあったかなあ?気のせいならいいんだよ?」
無理をさせない口調で誠史郎が問いかける。
しばらく沈黙が続いた後、伊勢原が重い口を開く。
「友達に彼氏ができて・・・みんなと一緒にいる時間がすごく減ったんです。
グループの中でも半分くらいは彼氏いるし・・・
あたしも彼氏が欲しくて・・・もう11月過ぎてるしこのままじゃクリぼっちになっちゃう」
「クリぼっちねえ・・・イベントに合わせて無理やり作るものでもないと思うよ。
出会いなんてある日突然あると思わないかい?」
「でももう11月だもん。すぐに卒業だもん。一人で過ごすなんてイヤ!」
そういって伊勢原は相談室を飛び出していった。
「どうだったんですか?」
北斗が聞く。
「いや、ボクはフラれました」
バシン!
数日後
「おいカウンセラー報告~」
ガラガラと夏生と秋生が保健室に入ってきた。
「伊勢原、オトコできたみたいだぜ」
「は?」
夏生と秋生と学年廊下に行くと伊勢原が男子と楽しそうに話していた。
「うーん。たいしたものだなクリスマス1ヶ月前だ」
「バッカじゃねぇの?この時期カップルできるの多いぜ。
卒業式までイベントたくさんあるからな」
呆れたように秋生が吐き捨てる。
「まあ、うれしそうな顔して。このまま充実してくれればいいけどね」
夏生が微笑む。しかし心から祝福していないのは誠史郎にも伝わっていた。
厳寒の冬休みが過ぎていった。
・・・・・・
始業式のあとカラカラと保健室に伊勢原がやってきた。
「やあ、伊勢原さん。どうしたのかな?少し疲れた顔をしてるね。お正月はしゃぎすぎちゃったかな?」
「何か、少し、疲れちゃって・・・クリスマスもあったし、お正月もあったし、
彼と一緒なのは嬉しいけど、友達と行くのとはまた違うし、
お金も無いから行くところ限られるし・・・
なんか共通の話題も少ないから、会話とか少し減っちゃって・・・大変だなあって」
「異性と付き合うって言うのはそういうことだからね。
友達もそうだけど人と付き合うってことはそういうことさ。
すべてが自分の思い通りには行かないものだよ
疲れちゃった?少し距離を置いてみたら?」
「大丈夫です!まだバレンタインデーと卒業式があるもの!
ただボヤキにきただけ。楽しいことはまだいっぱいあるわ」
パタパタと伊勢原が出て行く。
「ちーすカウンセラー」
入れ替わるように夏生と秋生が入ってきた。
「なあ、そろそろ伊勢原弱音吐いて無かった?あいつはさ田川が好きなんじゃないの。
『彼氏』が好きなんだ。わかってんだろカウンセラー?あいつら卒業で別れるぜ」
秋生はにやにや話しかける。
「それでも人生の糧になっていると信じているよ・・ってどこから聞いていた?」
ハッと誠史郎が問い詰める。
「聞こえてたのよーん。2人とも大声だから」
と2人でふざけて耳に手をあてる。