火山でレッツ修行!
序章抜けました。
◇
「――ここがマーガレス火山か」
道行く人に片っ端から聞いてようやく辿り着いたマーガレス火山には何でも世界最強を誇る三大聖獣のトップ、火の鳥が生息しているらしい。何で世界最強のしかも一番強い奴から挑もうとしているかって言うと1番距離的に近かったからとお答えしよう。
ちなみにマーガレス火山以外にもヘルザバード大森林、ナラクノ大穴と言った聖獣の住処があるって話だ。この中でナラクノ大穴だけが4年前の大地震で崩れ、三大聖獣であるヤマタノオロチが生き埋めになってしまったとか。名前に反して間抜けな奴よ。
しかしこの火山、火の鳥の住処と言うだけあってか死ぬ程暑い。既に汗で着ている服がびっしょりだ。
「火の鳥に今出会したら死ねるなあ…」
火の鳥に挑む前にまずは修行からだ。幸い、ここはアホみたいに暑い。この環境下で修行して、最後にはこの暑さにも涼しげな顔をしていられる様にはなっていたい。
俺は着ていた無地の白Tシャツを脱ぎ捨てると、その場で胡座を掻いた。俺にも異世界転移の影響で魔力が通っているっぽいし、如何に暑さに耐えながら魔力制御を熟せるかから始めてみよう。
と言っても何時もやっている具現とやる事はあまり変わらない。イメージから入る。
イメージ、イメージ。血液とは別の、全身を巡る魔力。何となく感じは掴めてきている気がする――っとここでまさかのイレギュラー!暑さに耐えられなかった事でイメージが乱れて血液が沸騰し始めてしまった!地響きも聞こえてくる!
クールステイ。落ち着いて、もう1回仕切り直しだ。
「――だあああっ!!無理!!暑過ぎる!!」
バタッと大の字になって倒れる。勢いで倒れ込んでしまったけどよく思えばここ火山だった!あっっつ。
背中が焼ける様な熱さに襲われて跳ね起きた俺はふと、お腹が空いている事に気付く。さっきから地響きと勘違いしていたのはお腹が鳴る音だったか。
「そう言えばここに来てから何も食べてないな……」
お腹を擦って辺りを見渡す。流石に火山に生き物は生息していないか、と溜め息を吐きかけた瞬間。
「きゅっ!」
「んぁ?」
目の前に可愛らしい肉の付いた兎の様な生き物が現れた。しばらく見つめ合い、俺がその兎を食料だと認識したのとほぼ同時に兎は危機察知したのかまさに脱兎の如く逃げ始めた。
「待ちやがれええええええ!!俺の食料!!」
「きゅうぅぅぅぅぅ!?」
――30分経過。
「ゼェ…ゼェ……な、中々やるじゃねえか!」
「きゅぅぅぅぅ……」
俺は兎もどきを未だに捕まえられずにいた。くそ、こうなったら遠距離攻撃でやるしかない!
今の状態で何処までイメージ出来るか分からないけど、ここでこいつを逃せば俺は一生後悔するに違いない。
「そろそろお仕舞いにしようやぁ……」
イメージ。対象を穿つ光の矢。狩人の如く、弓を引き絞る己の姿。――見えた。
具現化に成功した。放たれた矢は直線上にいる疲れで判断力の鈍った兎もどきを貫いた。
「きっ……ぅ」
「悪いな。これも生きる為なんだ」
既に息絶えた兎もどきの耳を掴んで持って行き、修行をしていた広場へ戻る。しかしこのままでは食べる事も出来ない。どうしようか悩んでいると、不意に足音が近付いて来ている事に気付いた。
「他にも誰かいるのか…?」
丁度俺がいる広場から下を覗けるので見てみると、そこには長く伸びた茶髪をポニーテールにして抜群なスタイルを持ったまたまた革装備の高身長美少女が怠そうに登ってきていた。何か見た事あるぞ。
「ったく、暑すぎでしょ?ちょっとは気を利かして冷房なり付けてくれればいいのに。あーあぁ、こんな事なら勇者ライフなんて言う楽な方選んどけばよかったわね…」
「まさか……神城さん!?」
「あら?アナタは確か……神斗だっけ?」
思わぬ再会を果たした俺と神城星実。この再会が、俺を大きく変える切っ掛けになるとはこの時はまだ知る由もなかった。偶然って凄い。
半裸で片手に兎もどきの死骸を持つオッドアイの男。