敗北
駆け足気味かもしれないです。
◇
試験開始の合図と共に危機を感じてしゃがみ込む。同時に髪を揺らす突風が頭上に吹き付けた。
「あれ~?かわしちゃったの~?」
ただ、レーカが俺の目の前にいて腕を突き出しているだけの事。驚く事じゃない。だけど、今のを回避出来ていなかったと思うと、体の震えが止まらなかった。
確実に殺すつもりで来ている。俺の脳がそう理解した直後に繰り出される蹴り。
腕を交差させて防ごうと試みたけどその蹴りが強力で強力で。吹き飛ばされただけでなく、俺の両腕の骨が一撃で砕かれてしまった。
「マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫ばないとやってられない。両腕を襲う激痛を忘れようと悲鳴混じりの絶叫をする俺へ追撃しようとレーカが両手を突き出しているのが見える。まだやるのかよ。
「今度はこれ~」
収束する灼熱。離れた距離からでも感じる熱に、俺は逃れようと震える足に叱咤して立ち上がる。
「何処に行くのかな~?」
逃げろ、逃げろ、逃げろ。頭の中が警告音で埋め尽くされる。このままじゃ死ぬぞと叫んでいる。
ふざけるな、ここで死ねるかよ。
「行くよ~!それ~!」
熱源。迫り来る灼熱から逃げて、俺は力を振り絞って射程外へと飛び込んだ。両腕は使えず受け身が取れない。だが灼熱に焼かれて死ぬくらいなら、多少の痛みはどうって事ない。
「あぐっ…!!」
肩から着地して、痛みに耐えていると不意に違和感を覚えた。
「――ぁ、ぁ……」
妙に熱いな。視線は自然と熱を帯びる両脚へ。
「ぅ……こぁっ…!!」
無くなっていた。俺の両脚が綺麗さっぱりと。傷口は既に焼け塞がっている。
痛みはないけど、それでも四肢の自由を失ったショックは大きい。だから叫ぶ。
「ぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」
「全然弱いね~。もう飽きちゃったよ~」
「ちょ、今の叫び声何!?」
エンジを運び終えたフェスが俺の叫びを聞いてか戻ってきた。そしてこの光景を見て、両手で口を塞いだ。
「何……?嘘、でしょ?これって……」
「あ、フェス~。見てよ、もうへばっちゃったよ~」
ここから先はずっと2人が何を話しているのか分からなくなっていた。ただ虚ろとした表情で2人を眺め、意識を治癒に回すのみ。
イメージを何度も繰り返して四肢の完全再生を試す。やがて自分が何をしているのかさえ分からなくなり、とうとう俺の視界と意識は黒に染まった。ブラックアウト。
「――ん……」
「あ、起きた?」
「ここは…?」
「ギルドの休憩室よ。アンタやられちゃった後気失ってたからここまで連れて来たの」
「……そうか、俺負けたのか」
俯いて両手を見つめる。負けた悔しさから握り拳を作って、初めて気付いた。両腕の骨折が治っているどころか、両脚も再生している事に。
「あれ……治ってる?」
「馬鹿げた再生能力よね。一晩寝かしたら治ってたわ」
気絶する前の完全再生のイメージ、どうやら具現に成功していたらしい。自然と安堵の溜め息が出た。
「そいつは良かったぜ。さて、と……」
「何処行くつもり?」
「出て行く。そんで強くなって再戦してやる」
圧倒的な力量があったとしても、負けたのは悔しい。だからリベンジしてやるんだ。
俺はベッドから出るとふらついた足取りでそのまま休憩室の扉に手を掛けた。
「近くの宿屋まで送ってもあげてもいいわよ?」
「遠慮しとく。流石に情けねえよ」
それを最後に、俺は休憩室を出てギルドも出て、城下町も出る。途中で情報収集しつつも、強くなる為にとある場所を目指した。
待っていろ、最強。待っていろ、ハーレムの夢!俺は絶対に王道に咲き誇ってみせる!!
実質最後の敗北くらいだった気がしないでもない気がします。