VSエンジ
何時もより少し早いペース。
◇
「……不服だけど、頼んだわ」
「じゃあ次はエンジが相手ね~。準備はいいかな~?」
まともな休憩もないまま試験は第2回戦へと突入していく。まだ舌の痛み引いてないよ。
「俺は何時でも出来てる」
「どうぞぉー」
適当な返事をしながら配置に就き、鼻をほじる。接近戦で来たら擦り付けてやる。
「ではでは~第2回戦、開始だよ~!」
抜けた第2試験開始の合図。俺は相変わらず鼻をほじっている。その姿になめられていると思ったのか、エンジは顔を顰めた。お前の顰め顔は可愛くもない。ぶっ殺すぞ。
謎の殺意が芽生えた俺はもう絶対にこの鼻くそをエンジに付けると決めた。さあ来い、汚らわしくしてくれるわ!どぅはははは!!
「この、なめやがって!!」
見事に突っ込んで来やがった。馬鹿な奴め。
「おっと」
真っ直ぐ走ってきて放たれる顔面を捉えた拳。ここまで単調な動きだと止めるのも容易い。
俺は未だ鼻ほじを止める事なく片手でエンジの拳を受け止めた。軽い、軽いぞイケメン!
「何だ何だぁ?なまけものが1日に行う動作のどれよりも遅かったぞ?」
「この、離しやがれ!」
「かしこまりぃ!!」
離せって言うんだから仕方がない。俺はささっと気付かれない様にエンジの鼻の下に鼻くそを張り付け、背負い投げをお見舞いした。中学の頃に囓っておいてよかった。ちょっとうろ覚えだったけど何とか出来たよ。
しゃがまずに膝をピンと伸ばしたまま適当に投げたから雑に叩き付けられたエンジ。肺が圧迫されたせいで呼吸が上手く出来なくなっていて苦しそうだ。
「ごっめーん!変な投げ方しちゃった!」
「かっ…は…!て、め……!」
「ついでだしサービスしちゃう」
右手に拳1つ分の火球をイメージして作り出す。その際に火球へ3つの命令式を組み込んでみる。
1つ、俺の手から離れた時点で重力の影響を受ける事。
2つ、何かに触れた時点では一切のダメージを与えない事。
3つ、10秒の時間差でダメージありの爆発を起こす事。
格好良く決める算段を思い付いた俺はその命令式を組み込んだ火球を仰向けに倒れてるエンジの腹部に落とした。
「な…んだ、これ?」
「あちゃー。不発だったかー!良かったな、命拾いしたぞ!」
「この…!今度こそ…」
ようやく通常の呼吸を取り戻したエンジが立ち上がって腰に提げた鞘から何の変哲もない剣を抜いた。最初から剣を使ってればよかったのに。と言うか何で皆魔法使わないの?遠距離攻撃の方が俺を倒せる見込みあるよ?
「ちなみにそれ爆発します」
「なっ…ほげゃっ!?」
爆・発!!流石に火力は抑えてあるけどお腹を中心に爆発したから下手すれば破けて大惨事かもな!もしかするとバラバラの可能性もある!やだなー、見たくない。
「――え、エンジ!?」
「え、えっと~、第2回戦終了~!」
フェスもレーカも思わない事態に焦っている。対して俺は変な事に凄く落ち着いていた。
罪悪感を感じるどころか少し楽しいとも思ってしまった自分がいる。おかしいな、俺ってば前科も無しでごく一般的なぼっちライフを送ってたノーマルピーポーだった筈なのに。
「し、死んじゃったの!?そんな、ただの試験で殺す必要――」
「まだ、死んでない、ぞ…!」
爆発で巻き上がった砂煙が晴れ、ボロボロになったエンジが現れる。満身創痍と言ったところか。ところどころ焼け焦げている。
「俺は、お前にだけは、絶対に……負けない」
「あっそ」
再び火球。今度のは本当に飛来してダメージを与えるだけのもの。まともに動けないエンジは回避する余裕もなく火球を喰らい、そのまま倒れてしまった。死んでない、意識を失っただけだ。
「……次は私だね~」
敗北したエンジがフェスに運ばれていき、代わりにレーカが俺の前に立った。さっきとは雰囲気が違っている。感じられるのは怒気だろうか?
「審判がいないから、もう始めちゃうね~。勝敗はどっちかが気絶するまででいいよね?」
「もち」
「それじゃあ、始めるよ~」
第3試験、俺VSギルドマスター・レーカ。これを乗り越えれば俺の勝ちだ。
だんだん神斗に異変が…!?