腹パン
最初の塩加減と後から来る甘み。
◇
今までに体験した事のない感覚だ。まるで自分が別人の様にも思える。
「小手調べだ」
まずは手始めに雷球を大量に作り出し、ステルスを付与してフェスの周囲へばらまいてみる。体から何かが抜けるのを感じ、それが魔力消費だと理解するのにはそう時間は掛からなかった。
取り敢えずのイメージで雷球を作ったが、どうやらこれは魔法の部類に入るらしい。
しかもこの世界の住人は魔力感知が出来るのか俺が周囲へ配置した不可視雷球にフェスが感付き始めた。
「これは……魔法…?」
「ご名答。正解したお前にはご褒美としてプレゼントしてやる」
指を鳴らす。不可視解除の合図だ。フェスはその突然現れた10を超える雷球の数に最初こそ驚くものの、瞬時に切り替えて剣を構え直す。
「やれ」
一斉掃射。雷球は全てフェスを目掛けて飛来する。
「くっ、開け!!」
剣で防ぐには無理があると気付いたフェスは回転斬りの要領で剣を振るった。ワンテンポ置いて、空間が裂かれる様にして開く。その中に雷球の全てが飲み込まれてしまい、俺の攻撃は無駄に終わる。
しかし、今の攻撃は囮だ。俺は空間が閉じ始めると同時に地を蹴り、最高速度でフェスへ駆けた。空間が開いている間はフェスも正面が見えていない。ならば攻めるなら今だ。視覚が制限されている今こそが、最大のアタックチャンスになる。
「ここだ!」
握り拳を作って全力でお腹を狙う。接近された事にようやく気付いたフェスが一度距離を取ろうと逃れようとするけど時は既に遅し。俺の女子でも容赦はしない拳は、綺麗にお腹に突き刺さった。
「ぐっぇ…ぁっ!!」
前のめりになり倒れようとするフェスを抱き留める。一応謝っておこう。
「ごめんな、お腹大丈夫?痛くない?」
「んにっ…!?」
抱き留めた関係上、必然的に後ろから押されればくっついてしまいそうな距離で見つめ合う事になってしまった。俺は気まずさを紛らわす為、心配の声を掛けながらフェスのお腹をなでなでした。
あれ?これってセクハラじゃね?
当の本人は顔を真っ赤に染めて口をパクパクさせている。金魚の真似かと思ったけどこれは間違いなく羞恥か憤怒のどちらかですわ。
俺的に痛いところは撫でると和らぐみたいな感じあるんだけどなあ。
「は、はなっ、離れなさいよ!ってか触んなばかあああ!!」
「ふがっ!?」
顎を手の平で力強く押されて舌を噛んだ俺はフェスを解放しつつ後退した。痛いよママ!
「…この場合、結果はどうなるんだ?」
舌の痛みに悶える俺と未だ顔を紅くして俺を睨んでいるフェスを見てエンジがレーカに問う。確かに俺もそれは気になる。まだどっちも倒れていないし。
「うーん。気絶とかしてないけど~、この場合1本取られちゃったフェスが負けって事になるかな~」
「って事は俺の勝ちか!やったぜ、第1回戦突破だ!!」
そう言えば勝ち負け関係なかったんだっけか。
「いやあ~、君やるね~!フェスの弱点を初見で見破っちゃうなんて~」
「ま、まぐれよまぐれ!別に私が本気出してればこんな奴に触れられる事もなかったし!?」
負けたのが悔しくて見苦しい言い訳をするフェスたんマジ萌え。
「でも負けは負けだ。後は俺に任せとけよ!」
次はエンジが相手だ。フェスの分も俺が勝つぜ的な意気込みをしているイケメンには絶対に負けたくない。
雪の宿。