イケメン
過去作再現だからか現在に負けず劣らずの酷さです。
◇
「――抜けた!!」
暗闇はいずれ晴れる。光が見え、そこを潜り抜けた瞬間に視界が強めの光に埋め尽くされた。
目が、目があああああ!!
有名な台詞を叫びつつ、俺は視界に広がった光景に絶句した。
「ぬ、抜けるんじゃなかった!!」
前言撤回。暗闇からやっと抜け出せたはいいけど抜けた先は大空、つまり上空だったわけです。
マジでさー?転移場所ちゃんとしてくれないとさー?イレギュラーなのは分かるんだけどさー?
文句垂れていても地面との距離は近付くだけ。早く何とかしなきゃ!
「そうだ!こう言う時って大抵異能力とか使える様になってる筈!」
いやー、冴えてるぜ俺。やっぱ天才は思い付く事が凡人とは違うっつーかぁ??
「取り敢えず、空を飛べるもの!!」
イメージ。大きな両翼。空を飛ぶ自分……はあまりにもあり得なさすぎて想像出来なかった。
だからかな?生えてきたのはほんの数センチの可愛らしい翼でした!
「ふっっざけんなああああああああ!!?」
俺はここで死んじゃうの!?いやまだだ!!まだ何か方法がある!!
閃いた。地面に向けて何かしらの攻撃を放てば着地を和らげる事が出来るかもしれない。出来る事は片っ端からやってく精神で、俺は両手を真下に存在する広大な森へ向けてみた。
「あーあー、炎よ!でゅろっ!」
噛んでしまった。だが、イメージは完璧だった筈だ。手の平から数メートル先へと炎を噴射する光景。これさえ実現出来れば恐らく落下速度の軽減も期待出来るに違いない!
しかし、俺の両の手から放たれた炎はそんな俺の期待を大きく超え、さらには予想外な事態を引き起こしてしまう。
「え、あ、嘘!?そんなに?そんなにやっちゃいます!?無理無理無理!!そんなのらめえええ!!」
放つは炎、訂正。熱線が穿ち焼き尽くすは真下に広がる森。期待以上の働きをしてくれたけど余計な事までしてくれた。
強大過ぎるその熱線は触れた木々、動物達を尽く、無惨に、無慈悲に炭へと変えていく。俺の制御下から離れ、暴れるだけ暴れた熱線は最後にゲップをするかの様に爆発を起こして消えてしまった。
流石の俺もこれには唖然している。ここまでする必要無かっただろうに!
大分落下速度も落ちてふわりと羽の様に着地した俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「やっちまった……異世界デビュー数分にして森壊滅させちまった……!どうしよう、これって重罪?――ってうぇえあ!?誰か来た!!」
転移魔法だろうか?突然瞬間移動してきた男に驚いた俺は無意識のうちに隠れてしまった。男が背中を向けていたからバレずに済んだ。
まあ隠れたと言っても隠れる場所なんて何処にも無いから咄嗟に姿が見えなくなるイメージ、つまり透明化したんだけど。
もしかして今の俺って何でも出来ちゃう感じ?チート?チートなの?
「何なんだ一体……突然森が全焼なんて前代未聞じゃないのか?」
男が周囲を見渡す事でやっとその素顔が拝見出来た。赤いツンツン髪のイケメンだった。
殴っていい?殴っていいの?そう訊いている間に俺の拳が空気で滑って!
「死ねぃ!!」
「がふっ!!」
顎にクリーンヒット!!スーパーエキサイティング!!
しまった、何時の間にか殴ってしまっていた。これはもしや魔王軍の仕業か!!
まるで自分はやっていないかの様に振る舞っていると、殴ったイケメンと目が合った。もしかしてステルス解けてる?
「いっつぅ……お前、いきなりなんだよ!?」
「え、何にも!?あ、でも急に体が乗っ取られた感じしてたからそれで殴ってたかも!」
「明らかに死ねとか言ってたよな」
くそ、誤魔化しきれない。仕方がないからここは素直に殴ったと認めよう。
「イケメンなのが悪い」
「はあ?何で俺がイケメンになるんだよ。どっから見てもフツメン以下だろ」
「自覚無し……だと?」
本当にこんな奴が存在していただなんて思いもしてなかったから驚く。流石異世界と言ったところか。
本来ならばこう言う奴こそ主人公っぽい事をするんだろうけど、安心してくれ。見ての通り、地の文を支配している俺こそが主人公だから!
何か急に赤いイケメンどうでもよくなってきたな。さっさと街とか見に行くか。
「さてと、ここに長居する理由も無いし、何処かにぶらつきに行くかなー?」
「……待てよ。此処をこんなのにしたのはお前だろ?」
「何でそう思う?」
「この状況の中、無傷で尚且つあまりにも冷静過ぎるからだ」
不味い。完全に疑われてる。ちょっとしくじったな。
沈黙を続けていると、イケメンが俺の腕を掴んできた。
「もう少しで俺の仲間が来る。その後色々聞かせてもらうぞ」
「ぼ、僕は知りません!!離して下さい!!」
此処で透明化して逃げてもよかったんだけどここは面白そうな方を取る事にした。イケメンの仲間、イコール美少女は異世界の法則であると勝手に判断した俺は完璧な美幼女をイメージして、その姿に変化した。
目の前で突然姿を変えた俺にイケメンもさぞかし驚く事だろう。そして、後から来る仲間も、イケメンが幼女を捕まえて怖がらせてると知れば、さぞかし。
内心邪悪な笑みを浮かべ両腰に腕を当てて高笑いする俺。見せてみろ、お前にとっての悲劇を、俺にとっての喜劇を!!
「……エンジ?」
「ぁえっ……ふ、フェス?」
さあさあ盛り上がって参りました!
僕も一時期チートに憧れていたのを思い出しました。