火の鳥
本来なら既に火山を出ている筈なんですけど……おかしいですね!
◇
いざ聖獣探しへ、と言うところで不意に今までで1番激しい揺れが火山一帯を揺らした。外の状況が全く分からない星実が背中で叫んでるけど無視だ無視。
「暴れ過ぎたか!?」
『ええ、その通り。あなたはあまりにも暴れ過ぎました』
直接脳内に語り掛けてくる様な声に奇妙な感覚を覚えていると辺りが急に暗くなった。まさかと思って見上げると、そこには全身が灼熱で出来た様な巨大な鳥が存在していた。
両翼を羽ばたかせる度に火の粉が舞ってそれがちょくちょく俺に当たるんだけど地味に熱くて腹立つ。リアクションを取る程までの熱さじゃないってところが特に。
「まさか、お前が火の鳥か?」
『ええ、その通り。私がこの火山の主、火の鳥フレニクスです』
「その様子を見ると随分ご立腹のようだな!」
『ええ、その通り。住処を荒らされてとてもご立腹です』
「丁度良かったぜ……探す手間が省けた!!」
『ええ、その通り……って、ええ!?』
戸惑う火の鳥を置いてけぼりに俺は指を鳴らして戦闘準備に入る。ベルゼギヌンテ?ただの装飾だろ。
『ま、まさか私に挑もうなどとは思っていませんよね?』
「ええ、その通り。俺はテメェをぶっ殺そうとしている!!」
ビシッと指を差して火の鳥に宣戦布告と言うか殺害予告をする。あ、でも聖獣って殺して大丈夫なのかな?世界のバランス崩壊とかに繋がらないよな?
ま、いっか。
『……仕方がありませんね。今まで幾多の挑戦者達を焼き尽くしてきた私の炎であなたも消し炭にしてさしあげましょう!』
火の鳥が鳥みたいに鳴く。どうやって鳴いてるのかは知らないけど空の果てまで鳴り響く良い声だった。殺しがいがある。どんな声で鳴いてくれるのか楽しみだ。
「想像具現化!」
火には水を。紅炎を前面に収束させ、解き放とうとしている火の鳥に照準を合わせて水で出来た槍を3本具現化させた俺は右腕を突き出して攻撃に備える。
『プロミネンスフレア!!』
ヒシヒシと伝わってくるその熱さに普通に汗を垂らしながら凝縮された紅炎の塊を受け止めてみせる。これだけで驚きだと言うのに俺はさらにこれを膨大なエネルギーに変換し、そのまま槍へと流用した。
巨大化した3本の槍はやがて回転を始める。エネルギーが余分に余ったから取り敢えず回転させてみたんだけどどうだろうか。ドリルが如く回転する水の槍の脅威は見て取れる。
『私の炎を、利用した…!?』
「それだけじゃねえよ。こいつは今から、お前を殺す!!」
水の槍に指示を出す。最高出力で回転し、飛来するそれを回避出来る筈もなく火の鳥は呆気なく串刺しにされてしまった。活動停止かと思いきや、水の槍は熱によってか蒸発してしまい仕留め損なってしまった。
「ほほー?これでもまだ生きてんのか」
『――当然です。私が何者か、お忘れではないですか?』
そうだ、言われるまで忘れていた。火の鳥とは、不死鳥で有名なんだった。それなら次の手は決まったな。
「不死なのを見落としてたぜ……」
「んーんー!んーーー!」
今まで黙っていたのに急にモゾモゾと動き始める星実を一瞥してたっぷり考える。こいつを使うべきか、使わないべきか。でも実際使うとなると絵面とか不味い気がする。
剣に串刺しになった女の子で火の鳥を殴るとかシュール極まりない。
「……あ、こいつ使えるんじゃねえか?」
殺生封じの加護とは違うけど、結局は殺せないんだ。殺す事が出来ないなら、その死なない体質を殺すしかない。俺は想像具現化を発動して殺生封じ殺しの能力をさらに進化させる。
その名も必殺。不死すらも必ず殺す能力だ。
「ないとは思ってたけど早速出番だ。あの鳥に感謝しな」
布を取り去り星実を構える。
「ん……んん!んぁー!!」
「ん!?」
ベルゼギヌンテに巻いていた包帯が全て弾け飛び、星実が飛び出してきた。このタイミングでか。
「ふぅー……やっと解放されたわ…」
「今出てこられちゃ困るんだよなー…?」
「何?あれ」
「……火の鳥」
「へえー、あれが?案外鳥っぽいのね」
「しっ!聞こえるぞ!」
『すみません、全部聞こえてます…』
「盗み聞きとかテメェ正気かよ!!」
『明らかに正気じゃないのはあなたですよね!?』
火の鳥の視線は恐らく星実。言われていれば端から見れば俺も正気じゃなかったわ。
「見られちまったからにはしょうがねえ。ここで死ね!必殺のシャイニングブラストォォォ!!」
『え、ちょっとま、あ、ああああああああああああああああ!!』
火の鳥、消滅!!こうして俺の聖獣討伐は幕を閉じたのであった!完!
「何か落ちてきたわよ」
「何だこれ宝石?」
『私の核です』
「うわああああ!!喋ったぁぁぁぁぁぁ!?」
上手いこと俺の手の平に収まったかと思えば急に喋り始める宝石と言うか核。火の鳥の声だ。
まさか核を殺しきれなかったと言うのか!不覚!
『私をここまで追い詰めたのはあなたが初めてです。正直、初めて敗北を味わいましたが、悪く、ないですね……』
「ドM覚醒しちゃってる!?」
『も、もしよければ私もあなたの旅に同行させてはもらえませんか?』
「え、お断りします!」
これ以上変なのに増えられたら困る。超困る。
『はぅ、そ、そんな!そこをどうか!』
「嫌なもんは嫌だ!」
『あう、うぅ…大人しくしてます!ですので、どうか、どうか私を!』
「ああ!鬱陶しい!帰れ帰れ!俺のパーティーメンバーは既に予約が詰まってんだよ!」
まだ見ぬ美少女達の予約がな!それをこんなドM宝石の為に美少女を1人減らさなければいけないのは癪に障る!
『こ、これだけお願いしても、ですか…?だ、だったら、えいっ!』
「何を……」
「あら…?」
投げ捨てた宝石が浮いたかと思えば何をとち狂ったのか星実の引き締まったお腹に体当たりを始めた。そればかりか徐々に星実のお腹にめり込んでいって……いなくなった。
「は…?」
『これでずっと一緒ですね!』
「ちょっと待て、何したんだよお前!?」
『勝手ながらこの方と同化させていただきました』
「ああ、この子の情報が流れ込んでくるわ……」
「止めろ!恍惚な顔してんじゃねえ!!」
『わ、私の方にもこの方の情報が……す、凄い…!こんな、経験を…!』
やけに色っぽい声を出す火の鳥は恐らく四肢切断シーンを星実の記憶を通じて見ているんだろう。ドMの域はこの戦いで最高潮に達しているらしい。
この先こいつの相手もしなくちゃいけないのかと思うと頭が痛くなってくる俺だった。
火の鳥が仲間になった!