ハプニング
暑い。
◇
「死ねやオラァァァァ!!」
獣にも等しい突進と共にベルゼギヌンテを振るう。ただそれだけで暴風が巻き起こり、周囲の地形を徐々に破壊し始めた。
それをものとせず暴風を切り裂いて反撃を繰り出して来たのは当然ながら星実だ。黄金色の軌跡が宙で描かれたかと思えば、ベルゼギヌンテを柄のみ残して砕かれてしまう。
咄嗟に跳び退り、砕けたベルゼギヌンテを見やって感情を高揚させる。即席の物だとしてもこうも呆気なく砕かれると楽しくてたまらなくなるだろ。殺しがいがあるってもんだ。
「何だよそいつは?反則じゃねえのか?」
「元勇者でも聖剣の加護が働いてるみたい。確か、殺生封じの加護とか言ったかしらね」
何から何まで黄金色で染め上げられた剣、もとい聖剣には加護が付与されているらしい。それも殺生封じときた。効果は恐らく対象の殺生行為を封じるとかその辺りだろうな。
しかし、能力付与か。試してみるか。
「そうかよ。だったら、尽くその加護も殺してやるよ!!」
ベルゼギヌンテの再構築をイメージ。ついでとばかりに能力、殺生封じ殺しを付与。効果は文字通り、殺生封じの加護を殺す。
再構築が完了すると同時に、再び俺は地を蹴って接近を試みる。背後で俺のいた場所から轟音が聞こえたが、今はどうでもいい。
「必殺!!シャイニングブラストォ!!」
「ここで必殺!?」
ベルゼギヌンテに纏わせた光を一気に放出して星実へ向かわせる。それは、まるで光線のようだった。
「でも、私には通用しないわよ!」
最初の攻撃と同じように、加護で掻き消そうとした星実を一切の狂いもなく包み込む。そのまま光線は火山に大穴を穿ち、満足と言わんばかりに消失した。
何故殺生封じが効かなかったのかと問われれば、さっきのは殺生封じ殺しを付与したベルゼギヌンテから放たれたものだからと答えよう。
「私には通用しない、だって?」
流石勇者と言うところか。満身創痍だがまだ息はあるらしい。残念な事に、光線に耐え切れずに宙へと投げ出されたみたいだが。
「――がっ!あ……ひゅ……!」
振ってきた星実をベルゼギヌンテの切っ先を突き上げて串刺しにした時点で、戦いの勝敗は決する。言うまでもなく、俺の勝利だった。
これが背中に刺されば見栄えが良かったんだが、どう落ちてきたのか股間部から綺麗に刺さっていた。星実の頭部から若干切っ先が顔を覗かせているが気にしないでおこう。
「俺の勝ちだ」
「ひ、ぎゅ……!くゃ、し……ぃ!」
何でこいつまだ生きてんだ、とは思ったけどここは口に出さないでおこう。何て言ったってここは異世界。こんなのが起きても不思議ではない。
「すぐに楽にしてやるからな」
初人殺しの記念として名付けた想像具現化を発動。以前より想像が楽になっている事を実感しながら俺は鉄の処女なる物を具現化させた。
ただ、これは鉄の処女とは違って人型だ。四肢は半端なところまでしかなくその先端部には刃があり、挟まれれば切断待ったなし。見れば趣味が悪いと誰もが思うだろうが、俺は寧ろ見てみたいと思った。
星実の、四肢切断された姿を。全身串刺しでとても美しいとは言えないだろうがな。
「殺れ!」
金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。鉄の処女もどきが星実を挟んだ音だ。
俺の周囲で地面に何かが落ちる音が聞こえる。視線だけを向けるとそこには星実の切断された両腕両脚が落ちていた。断面は一切のズレもなく綺麗に切られている。
一瞬の事で痛みすら感じずに死んだんだろう。隙間から流れ出る血液の量を見る限り死んだに違いない。どれ、拝見させてもらうか。
鉄の処女もどきを消し、剣に刺さったままの星実の遺体を見る。そしてあんぐりと口を開けた。
「うぇ、うぇええええええええええええええええええ!?」
「ちょ、ちょっと自分でも驚いてるわ」
本人より俺の方が驚いた。なんと血液塗れではあるけど星実に一切の傷はなく、四肢の断面も既に塞がっており、瀕死、死亡どころか元気いっぱいだった。驚かない方がおかしい。
何より1番驚いているのは串刺しのままピンピンしている事だ。
「な、何で生きてんだよ!?」
「私に言われても分からないわよ。って言うかこれ早く抜いてくれない?流石に私も恥ずかしいと言うか……」
言われてみれば血液塗れで気付くのが遅れたけど星実は全裸だった。ジッと見られて恥ずかしいのか星実が顔を背けている。本来なら俺もドギマギするだろうけど流石にこの状況では異常過ぎて興奮も出来ないわ。
取り敢えず剣を抜こうと頑張ってみる……が、一向に抜ける気配はない。もしかして、まさか、と脳裏に過ぎる嫌な考え。そんな筈は、と頭を振ってもう一度頑張る。
「痛い痛い痛い!そんなに引っ張ったら痛いじゃないの!」
「何……だと……!?」
やはり、俺の考えは正しかった。正しくあって欲しくなかったけど正しかった。
星実は、ベルゼギヌンテは、一体化してしまっていた。最早星実の分類は人間でもダルマでもなく剣だった。
「何がどうなってこうなったんだ…!?」
「私にも分からないわ。けれどこれだけは言える」
「何だ?」
「私達はもう離れない」
「嫌だ!!こんな趣味悪い武器持った奴に女の子集まってこないだろ!!」
「そんな女の子をこうしたのはアナタよ?責任取って!!」
「絶対嫌だ!!つーかここで捨てて帰る!!」
ベルゼギヌンテだった物を地面にそっと置いて走って下山する。つーか気付いたら周辺溶岩地帯になっててビビった。
「待ちなさいよこのスカポンタン!!」
「ぐへぁ!!」
背中に直撃した柔らかくそして重い一撃に俺は連続前転して転ぶ。顔面スライディングも兼ねて。
「いってぇ!何すんだよ!?」
「私は何もしてないわよ。この剣が勝手にアナタに着いて行ったの」
「ベルゼギヌンテ、お前……そんなになっても…!」
もう涙さえ溢れる。この短時間の間で俺とベルゼギヌンテの絆は最高潮に達していたらしい。
だが、それとこれとは別だ。
「でももうお前は必要じゃなくなった!俺の異世界ライフにはな!」
「待ちなさいって言ってるでしょ!」
「まだ動いてないぃぃぃ!!」
再び強烈な突進を受けて倒れてしまう。腹部に柄で攻撃してきやがった。
しかし、これはどうしたものか。何が何でも俺を逃がさないつもりらしい。破壊はさっきから創造具現化で試そうとしてるけど全て拒絶されてしまう。かと言ってこいつを野放しにして着いて来られるのも色々困る。
決断。然るべき処置を施して仕方なしに持って行く。
「くそ、余計な事すんじゃねえぞ?」
「分かってむぐ!?」
包帯を具現化させて刀身もとい星実全体に巻き付ける。一切の隙間なくだ。
こうしてしまえば少しは見栄えが……よくはなってなかった。寧ろスタイルの良さが裏目に出てボディーラインがくっきりと分かってしまう。無駄に良い体しやがって。
これ以上は施し様がないから布を被せて背に背負う事にした。
「これでよし。さて!聖獣狩りに行くか!!」
「んー!!」
「何かよく分かんねえけど覚醒もしたっぽいしな!」
「んー、んーーーー!!」
うるせえ!!
後悔と反省しかありません。