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腕を引かれて、そして、惹かれて~2~


 警備隊のもとに近づいているのかどうなのか、シャルマントは知らぬままフィエルテについて行く。歩き疲れ、2人は噴水の近くにあるベンチに腰を下ろした。


「あー、お腹すいた……。シャルマントは?」

「そうだな……昼も過ぎたし……」


 ぐぅ。


 シャルマントは隣から聞こえた腹の虫の音に驚く。隣をちらりと見ると、音の原因となったフィエルテは赤くなって俯いていた。

 今までずっとフィエルテに逆らえなかったシャルマントはニヤリと笑う。


「何の音?」

「う、うるさい! おいしいお店教えてあげない!」


 意地悪く言ってみたシャルマントにフィエルテはさらに顔を赤くした。立ち上がったフィエルテはそのままシャルマントと繋いでいた手を乱暴にふりほどいて、背を向け歩き始める。

 シャルマントはいくら何でも女の子に対してこれはなかったかと反省した。フィエルテも一応女の子だ。いくらからかわれ続けても、仕返ししてやろうなんて思うとは、王子としてなっていないと、シャルマントは思う。


「フィ、フィーテ……! ご、ごめん!」


 せかせかと歩き、フィエルテと並ぶが、フィエルテは顔を背けてシャルマントの方を見てくれない。


 ぐぅうう。


「あ」


 そこで、また腹の虫の音が聞こえた。


「なぁんだ。わたしよりもシャルマントの方が腹ペコじゃない」


 今度はフィエルテではなく、シャルマントの腹からだった。

 フィエルテは一瞬面食らった顔をしたがそれもつかの間、すぐに笑い出す。シャルマントは俯いて動けずにいたが、フィエルテはどこかへ行ってしまった。

 シャルマントが気付いたときには姿が見あたらない。シャルマントは仕方がないのでベンチに戻った。


「……あーあ、今日ずっとこんなんだな」

「なーに落ち込んでるのよ」

「へ? ……むがっ」


 今日出会い、散々シャルマントを振り回してきた少女の声が聞こえ顔を上げると口の中に何かをつっこまれた。シャルマントはじんわりと口に広がるおいしい味に驚き、目の前のフィエルテを見つめる。


「いいかげん自分で持ってよね」


 言われるがままシャルマントは口と手で支えるようにそれを持った。噛み切り、おいしい原因を見つめる。むしゃむしゃと咀嚼しながらじろじろと食べ物の正体をシャルマントは探った。

 たっぷりの野菜と、肉が薄い皮のようなものに巻かれていた。味はソース味でどうやら一緒に巻かれているようだ。


「おいしいでしょ。わたしこれ大好きなの」


 シャルマントに少しどけるように言いながら隣に座って、フィエルテは笑顔でほおばる。ソースが口の周りについたのもお構いなしだ。


「ちょっと、ソース」

「食べ終わったら拭くわよ。どうせ食べ終わるまでまたつくし」


 やっぱり女の子じゃないのではないかと思いながらシャルマントもほおばる。フィエルテが大好きと言ったのも分かる気がした。

 食べ終わった後、豪快に口を拭うフィエルテに口をあんぐり開けて驚いたシャルマント。少女はまた笑ったのだった。


「もう少しで警備隊のところよ」

「……絶対遠回りだったよな」


 明らかに近い道があったのではないかと思うほどシャルマントは疲れていた。フィエルテはそっぽを向いてシャルマントの訴えをかわす。

 そして、警備隊の駐在所に着いた2人であった。そこにはすでに先客がおり、シャルマントを見たとたんシャルマントをひしと抱きしめる。

 スィーヴルはまだ若く、30代の従者だった。とても心配性で、何かシャルマントの身にあると抱きしめるのは癖のようだ。


「シャルマント様!! 心配したのですよ!!」

「スィーヴル、苦しい……」

「も、申し訳ございません! しかし、どちらに行かれていたのですか、本当に心臓が止まるかと……。あ、そちらのお嬢さんがここまで?」


 従者のスィーヴルは腕を解くと、フィエルテに視線を移した。


「ああ。フィーテがここまで連れてきてくれた」

「フィーテさん、ありがとうございます」

「いえ、わたしもありがとうございます。楽しかったので」

「?」


 よくわけが分からないスィーヴルにフィエルテはにこりと笑う。そして、ぺこりと礼をして去ろうと背を向けた。夕日に照らされた後ろ姿のフィエルテを見て、シャルマントはぎゅっと胸が掴まれたような感覚になる。


「フィーテ!」


 ブラウンの髪が揺れ、若葉の瞳とサファイアの瞳が結ばれる。


「また、また遊ぼう! 噴水のところで待ってて。また行くから!」


 フィエルテはにっこりと笑う。


「噴水まで来る時は迷子にならないでよ。遅かったら帰っちゃうんだから!」


 フィエルテは笑いながら走って帰って行った。


「もう迷子になんかなるものか」


 スィーヴルは2人のやりとりとシャルマントの呟きに笑みがこぼれたのであった。




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