おいらの話をしようか
ガラスの靴の精霊視点です。
気が付いたらおいらはそこにいた。
ガラスの靴。長い年月を経て、物に何かが宿るのはままあることだ。おいらはどうやら、ある物語に関わる物に宿ったらしい。
何十、何百年前に幸せをつかんだ娘がいたという。その娘は継母たちに虐げられ、毎日召使いのような扱いを受けていた。それでも、娘の心は清いまま、城の舞踏会を夢見ていたのだ。きらびやかなドレスに身を包み、その場に立つことが彼女の夢。
その思いが通じてか、魔法使いが現れ、彼女に救いの手をさしのべる。城の舞踏会に足を運ぶことができた彼女。そして、姿も心も美しい彼女に王子は惹かれる。だが、12時の鐘は終わりを告げる合図。急いで去った後には一足のガラスの靴が残った。それを元に王子は彼女を探し出し、めでたし、というわけ。
で、おいらが宿ったのがそのガラスの靴だ。
まさか、こんな乙女チック全開ストーリーのキーアイテムに宿るとは思いもしなかった。おいらなんかがガラスの靴に憑いてもいいのかと思うくらいだ。
さらに驚いたのが、このイストワールという国にはこれにならった儀式があるということ。なんでも、“靴姫選び”とかいって、靴がぴったりと履けたものが王子の姫になれるとか。
道理で何十年かに一度か二、三度可愛い娘がおいらを踏みつけに(という言い方は実際正しくないが)来るわけだ。まあ、別に、可愛い娘に踏まれるのは本望だけどね。
しかし、だ。
どうやら、ガラスの靴は絶対であるらしく、靴がぴったりと履けない娘は容赦なく、王子の姫となることを否定された。
「わ、私……!」
今日もまた、悲痛な顔をさせてしまう。娘は王子にすがりつき、涙をこぼしていた。王子も彼女を抱き締めるが、衛兵たちは2人を引きはがしたのだ。そのまま娘は外へと連れ出され、おいらが彼女を見ることはなかった。
今までに何度か、なんてものじゃない。
精霊として多分、何百年かになるがもう両手では数え切れないほど、その涙をみた。
最近は王子たちも学んできたのか初めから靴のサイズを把握して、姫を選んでいるようだ。しかし、宿った初めの頃はサイズが合わないことはよくあり、“靴の姫選び”が大嫌いだった。
精霊のくせに、靴のサイズを任意に変えることもできず、ただただ見るだけ。何かの罰かと思ったね。
そんな、ある日。
街の方から飛んできた念に背筋が凍る。
(ガラスの靴なんてぶっ壊せばいい!)
本当に、怖かった。
しかも、まさかそれが結構可愛い娘だったとはそのとき想像も付かなかった。
『……壊す、か』
円い部屋の中、なんとなく言葉がこぼれた。頭の中でリフレインしたその言葉。少し時間がたった後、おいらは思いつく。そうか、壊せばいいのか、と。
考えもしなかったのだ。ガラスの靴が壊れてしまえば、“靴の姫選び”もなくなる。そうすれば、本当に誰でも王子と結婚できるのだ。
突然の殺気から思わぬヒントを得たが、ガラスの靴を壊すということは、宿るものをなくすということだ。つまり、精霊は消えてしまう、おいらが消えてしまう恐れがある。
悩ましい。
『そうだなぁ。今回の王子と選んできた娘を見て決めるかなぁ』
悩んだところで時間の無駄になりそうだった。無駄なことは極力したくない。だったら、本人たちを見てその時決断を下そうと思った。
『生意気とか腹立つ相手の幸せを願ってやることも、壊れてやることも、おいら、したくないしー』
結局おいらは2人に手を貸すことになる。後悔はしていないし、むしろ、良かった。別にこいつらの為なら消えたっていい。そう心から思った。
ま、消えないで残ることも結果、出来たしね。
毎日お熱い2人を見るのはどうもむず痒いが、これもおいらのおかげだと思うとなんだか暖かな気分になる。
でも、恥ずかしいなぁ。何が恥ずかしいって、フィエルテいつも強気で女の子らしさが無いのだけど、たまに可愛らしくなるのが憎いね。
後から聞いたんだけど、靴を履く為に足を削ろうとしたって聞いて、一瞬性別を疑いたくなったよ。シャルマントも驚いたらしいけどね。でも、自分のことを大切に思っての行動だから愛おしいって言ってたっけ。あーやだやだ。おいらの入る隙間もない。
ほんっとうに、変な夫婦だよ。