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私が一番悔しいの!


「何よあの顔!」


 荒々しく扉を開けたフィエルテは開口一番こう言った。突然荒ぶる娘が帰って来るものだから、台所に立っていたフィエルテの母親は何事かと視線を向ける。

 フィエルテの家は扉を開けてすぐにリビングがあり、台所からでも入り口を伺うことができた。どんな人が来てもすぐ顔を見れるようにと造ったのだ。まさか、娘の不機嫌な顔を見ることになるとはフィエルテの母親も想像つかなかったが。


「あら、どうしたの? シャルマント様に会ってきたんじゃなくて?」

「会ってきたわよ。会ってきたけど……。あー! イライラするの!」

「あらやだ、更年期?」

「かもね!」


 バン!


 フィエルテは荒々しさをそのままに自室へと戻っていった。ずかずかと歩いていく姿はお世辞にも年頃の娘とはいえない。


「かもね、って……。大丈夫かしら」


 フィエルテの母親は娘が消えた部屋の扉を見つめながら一人つぶやいた。



(私だって、こんなのは嫌なのよ。分かってる。シャルマントもそれを分かってる。シャルマントが分かっている事を私も分かってる)


 部屋に入るなり、ベッドに倒れ込み、見慣れた天井を見つめる。

 部屋には1人が収まるぐらいのベッドが窓際にあり、タンスと木目のドレッサーが置いてあるくらいだ。ごちゃごちゃするのが嫌いなフィエルテは余計な物を部屋に置かないようにしていた。全体的に塗装などで白や淡い色などを使わず、木目そのままの家具で揃えられている。

 木の温もりを感じさせる部屋でフィエルテは何度も自分の問いに答え続けた。落ち着くはずの部屋のはずだが、どうしてもイライラする気持ちが抑えきれない。

 何年間も一緒に過ごした中でこの様な事はほぼ初めて。もやもやとした気持ちをフィエルテは抱えた。


「もう! 何なのよ!」


 唐突に浮かんだのは、2人の出会い。フィエルテがシャルマントに出会ったのは10にも満たない時である。彼女の性格からか、シャルマントとは友達のように接し、気を使わない仲になるのは案外すぐだった。

 昔から負けん気の強いフィエルテは迷子の王子を助けた。王子はそれがきっかけですっかりフィエルテを気に入り、1週間に3度以上は会うような仲になる。周りは王子だということでヒヤヒヤしていたが、フィエルテはそんなことお構いなしだ。王子を川や山に連れて行き、魚釣りから泳ぎ、野草の採取や山を駆けめぐった。


 始めはシャルマントがフィエルテについて行いったが、シャルマントが成長するにつれ、それは逆となる。そこでフィエルテは気が付いたのだ。シャルマントが自分とは違うということに。

 男と女。どうしだって体力や背格好も変わってくる。1度気が付いたら最後、フィエルテは意識せずにはいられなかった。


(いつの間にか好きになってて、やっと18になって、それで……)


 このイストワールでは18歳になると、男も女も結婚が認められる。シャルマントはフィエルテの1つ上であるから、彼女が18歳になるのを心待ちにしていた。


 1つの不安を抱えながら。


 結婚を決め、最低18歳にならなければ、ガラスの靴を履く儀式である“靴の姫選び”の機会を得る事ができない。その儀式が終われば足が大きかろうが小さかろうが関係ないのだが。

 17歳の時点で足23.5であった、フィエルテの成長は止まらず、ついに越えてしまっていた。


(ああ、私悔しいんだわ……。シャルマントと未来(これから)を過ごせない事が)


 仰向けになったフィエルテの瞳からは涙が零れ始めた。長い間過ごしてきた彼女はこれから先、シャルマントが隣にいない日々がまるで想像できない。いや、したくないのだと心のどこかで思っていた。


「……シャルマント」


 横向きになり、身体を縮め小さくなったフィエルテは涙を流しながら意識を手放した。

 すやすやと寝息をたてるフィエルテを起こさないように静かな足音が近づく。顔が見えるくらいまでの距離でフィエルテの頬にある、悲しみの跡が目に付いた。


「……フィーテ。こんな所で1人で泣くなんて。君は強がりだな」


 このとき訪れた、優しい手の温もりを彼女は知らない。



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