物語の国
ある青年が問う。
「フィーテ、君は今何センチだい?」
と。
そして、ある少女が答える。
「24センチよ」
と。
「そうか、ついに越えてしまったか……」
青年はその答えに酷く落ち込んだ。
「そんな事言わないで。私が一番悔しいのよ」
金色の髪が風にさらりと揺れ、現れたサファイアの様に透き通る瞳が少女の足を捉える。その瞳からは憂いを感じられた。
一方、ブラウンのロングヘアの少女は若葉の様な瑞々しい色の瞳を細めて青年を睨んでいた。
「そんな顔をしないでおくれよ」
「あなたがそんな顔するからでしょ! なりたくてこんな成長したわけじゃないの。王子なんだからそれくらい分かりなさいよ」
少女がふいと視線を逸らすと、青年はしまった、と反省する。
当の本人はきっと超えまいとしてきたのになってしまった為、落ち込みは青年より大きいと考えた方が良い。しかし、それを理解できていたとしても、青年は落ち込まずにはいられないのだ。
落ち込んでいるこの2人に降り注ぐ暖かな太陽の光は、心まで届くことは無いようである。
さて、この2人何をそんなに憂いているのか。それはこの国がどんな国なのかを話せば良いだろう。
ここは緑豊かな国、イストワール。四季があり、季節によって自然も色を変える。海にも面しており、漁が盛んなことはもちろん、貿易も行っている。
イストワールの中心にあるのがレーシという街で、イストワール城がある国の中心だ。花や果物などが有名なレーシでは四季によって変わる街の雰囲気が国内外で人々の関心を寄せていた。
そして、このイストワールにはある物語が語り継がれている。
それは、庶民でありながら妃となったある女性の物語だ。
働き者で心も姿も美しい女性がいた。その女性は母を亡くし、新しく母となった者とその娘たちにいじめられ、まるで使用人のような扱いを受けていたのだ。
ある時、城で舞踏会が開かれる。魔法の力で着飾った彼女はそこで王子に出会ったのだ。彼女を気に入った王子だが、12時で解けてしまう魔法の為、急いで帰る彼女を引き留めることが出来なかった。
手元に残ったのは片一方のガラスの靴。王子は靴を手掛かりに彼女を捜し当てるのだ。
そして、王子はめでたく彼女を見つけ、2人は結婚したという。
この物語をうけて、イストワールでは誰しもが王子と結婚出来る権利を持っているのだ。
しかし、1つ条件が付く。
条件は“ガラスの靴を履く事が出来る者”である。イストワール王家に伝わる、ガラスの靴。物語のキーアイテムともなった靴は王家に受け継がれている。
もし、王子が認めた女性が履く事が出来たのであれば結婚が可能なのだ。
そう、履く事が出来れば、だ。
ちなみに、ガラスの靴のサイズは23.5センチとなっている。もちろんピッタリ履く事が出来なければ認められない。
お分かりいただけただろう。あの2人が憂いている理由を。
青年の名をシャルマント・イストワール。少女の名をフィエルテ。
シャルマントはイストワールの王子であり、フィエルテは街の娘である。