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一日目・投票

夕方5時になって、ぞろぞろと足取りも重く皆が階下の応接室へと降りて来た。

誰も何も話さず、何を言われなくても自分の椅子へと座って行く。誰しもここへは来たくなかったが、それでも来ないと投票も出来ず、投票しないとあの昨日の二人のように、何の前触れもなく死ぬことになる。

この話し合いにしても、もし来なければ恐らく自分に投票される理由を作ってしまうので、皆仕方なく来たのだ。

要も、気が重かった。真紀も重苦しい顔をしてい椅子へと座る。要自身、本当はこんなことはしたくなかったが、それでもさっさとこれを終えない事には、家に帰してもらえず、洋子も戻って来れないだろう。

生き返ると思っているからこそ、こんなに平静を保っていられるが、そうでないなら、こんなことは出来なかった。

あの後、洋子の部屋へ入ろうとしたが、鍵がしっかりと掛かっていて入ることが出来なかった。中で今、洋子がどうなっているのか分からなかったが、それでも要は希望を持ち続けることにしていた。

みんながまるでお通夜の席のように黙って下を向いている中で、彰と真司、博正、それに数人は顔を上げて皆を見ていた。まるで、人外はどこだと言わんばかりの目だ。これが、村陣営でなかったなら、そうとう厳しい戦いになるだろう。

ふと見ると、洋子の座るはずだった12の椅子が無くなっている。もしかしてと見ると、由美の20の椅子も作り付けであるにも関わらず、きれいさっぱり無くなっていた。もう、ここには居ないのだと言われているようで、また心が重くなった。

要は覚悟して、口を開いた。

「もう一人の共有と話し合った結果、先に占い先を指定します。占い師の皆さんは、心にとめて置いてください。」

圭一が、頷いて懐からメモを取り出した。彰が、要を見た。

「希望は聞いてくれるのか?」

要は、首を傾げた。

「今日は、こちらの指示の中からお願いします。では、彰さんですが、芽衣さん、倫子のうちどちらかをお願いします。」

彰は、それ以上何も言わず、頷いた。

「分かった。」

続いて、要は圭一を見た。

「圭一さんは、博正さん、啓太さんのうちどちらかを占ってください。」

圭一は、頷いてメモしている。間違って疑われては大変と思っているのだろう。要は、雅江を見た。

「雅江さんは、真紀さんと、昭弘さんのうちどちらかを占ってください。」

雅江は頷きながら、困惑したように昭弘の方を見た。昭弘は、そちらを見ない。

しかし、彰が言った。

「昭弘くんは投票対象にしないのか?」

要は、それを聞いて首を振った。

「先ほど、部屋で弁明を聞かせて頂きました。その結果、まだ残すことにしました。ただ、占い先として指定はします。」

彰は、それ以上何も言わなかった。要は、先を続けた。

「本日は、残りの人からグレランになります。そうやって考えた結果、5人が残ったんです。役職と占われた人を除けて、占い指定に入らなかった人は、以下の五人になります。5番留美子さん、11番亜希子さん、13番裕則さん、15番真澄さん、16番文香さんです。皆さんは、この中から一人に投票して、本日の吊対象を選んでください。」

「ちょっと待ってくれ。」田畑が、慌てたように口を開いた。「うちのスタッフ達ばかりが残ってるじゃないか!みんないい子なんだ、人狼のはずがない。」

すると、彰が言った。

「君は聞いていなかったのか。みんないい子なのは分かっている。だが、カードを引くのはランダムだ。誰が何を引いているのか分からないんだぞ。あくまで、人狼か妖狐を探してくれ。このゲームを早く終わらせないと、どんどん犠牲が出る可能性があるんだぞ。あくまでこれは、人外を追い詰めるための手段だ。占われないのなら、吊対象に。これは鉄則だ。この中に人狼が一匹でも居たら、吊れる可能性が上がるんだ。」

田畑は、言った。

「じゃあ、オレが吊対象になる。誰かと入れ替えてくれ。そうしたら、あなたが入れ替わった子を占ってくれたらいいじゃありませんか。」

彰は、首を振った。

「君じゃあ代わりになれない。言っただろう、今日は占われていない者達が対象だ。君は既に圭一に占われている。そんなことを言い出す君は限りなく白いのに、どうして吊対象になんか出来るんだ。」

田畑は、グッと黙った。要は、重苦しい息を吐いた。

「仕方がないんです。こうするしか、人狼を消して行く手段が村人には無い。その上、ここには妖狐も居るんです。村人は圧倒的に不利なんですよ。占い師だって、ずっと残っていられるか分からない。だからこそ、早くグレーを狭めて行かなければ。」

博正が、息をついた。

「誰かが代わっても、結局明日には同じことだ。つまり、オレが誰かと変わってそいつが占われて、オレが吊対象になっても吊られず残ったら、また次の日は占い指定になるか、また吊対象にされるか。グレーでなくなって初めてまた一から、全部を確定白にするために占い出すみたいになる。そんなことをしている間に、占い師も減り、黒も出て、自然に人狼も妖狐も減って行くんだと思う。どうしようもないじゃないか、こんな海のど真ん中に放り出されてしまったんだから。とにかくこのゲームを終わらせることを考えよう。」

皆、押し黙った。対象でない者は今日は切り抜けても、明日は分からないということだ。人狼の襲撃も、どんなものか分からない。何が起こるのか、本当に分からない…。

空気が重い。

要は、胃が痛くなるのを感じていた。


そうやって皆がボソボソと話しながら時間を過ごしていると、真っ暗だったモニターが、一斉に青いバックの画面を点灯させた。

「投票、10分前です。席について、投票の準備を始めてください。」

そう聞こえたかと思うと、画面にはでかでかと10:00からカウントダウンが表示された。

それだけでも大概びっくりしていたのだが、窓の外のシャッターが、カシュンという音を立てて、端から順にどんどんと閉じて行くのが見えた。

「な、何事だ?」

圭一が、見るからにうろたえている。電灯が灯り、部屋が明るくなったが、窓の外は見えなくなった。

「よくわからないけど…夜ってことだよね。これで、投票を終えろって。」

要が言うと、隣りの真司が頷いた。

「だろうな。こんな海の真ん中で、戸締りもないっていうのに。」

こんな場所に泥棒が来ることは確かにないだろう。だが、ここにはそれより怖い物がある。

回りの皆は、怯えている。だが、カウントダウンは容赦なく進んでいた。

「あと一分です。席について、投票の準備を始めてください。」

要は、腕輪を前へと持って来た。部屋にあった説明書には、投票は一分以内に済ませろと書いていあった…。

「あと30秒です。投票は1分以内に終えてください。それを過ぎましたら、追放となります。」

皆は、要に倣って腕輪を前に構えてその時を待った。まずは番号、続いて、000…。

「投票してください。」

皆が、一斉に番号を腕輪に入れた。要も指が震えたが、それでも押し間違えのないように、落ち着いて一つずつ必死にボタンを押した。

『投票が完了しました。』

要の、腕輪が言った。要は、ホッと脱力して回りを見る。

回りでは、まだ必死にボタンを押している。『もう一度投票してください』という声が、あっちこっちから聞こえて来る。

「え、誰がまだ投票出来てないんだ?!」

手伝わないと。

要は、慌てて辺りを見回した。見ると、投票を終えた者達が、まだ終えていない者達の脇へ行って、ひたすらにボタンの操作を手伝っている。

「何が悪いんだ!」

圭一の声がした。見ると、圭一が冷や汗を流して腕輪と格闘している。雅江が、横で困ったようにただ座っていた。要は、そちらへ向かって走った。

「投票する番号を入れてください!」

要がその腕を掴んで言うと、圭一は番号を入力した。二桁だ。

「次にゆっくりと、0、」圭一は、言われた通り0を一回押す。要は続けた。「0、0。」

『投票が完了しました。』

圭一の腕輪が言った。要はハーっと息をついた。圭一も、へなへなとその場へへたり込む。

要が席についていないといけない、と慌てて自分の席へと飛んで帰ると、モニターに数字が映し出された。

1→13

2→16

3→15

4→13

5→15

6→13

7→13

8→13

9→5

10→15

11→5

13→5

14→13

15→5

16→5

17→13

18→15

19→5

そして、大きく13の数字が画面に映し出された。

「なんだって?!どうしてオレなんだよ!」

声は、それには答えずに言った。

「№13が追放されます。」

という声が終わるか終わらないかと間に、パッと照明が落ちて真っ暗になった。

「きゃああああ!!」

誰かの悲鳴が聞こえる。すると、ガシャンという機械的な音が聴こえ、何か大きなモーターのような物が回る音が聴こえた。

「なに?!なんなの!!」

「うわああああああ!!」

要の隣りで、裕則の声が遠ざかって行くのが聴こえた。何が起こっているのか分からないままに、真っ暗で誰も動けずに居る間に、音は終わって、パッと照明が復帰した。

「!!」

要は、絶句した。

隣りに居るはずの、裕則の姿が跡形もない。そして、椅子も綺麗に無くなっていた。青い顔をしていた芽衣が、文香がそれを見て倒れ、向こう隣りの亜希子が悲鳴を上げた。

「いやああああ!裕則さん!」

田畑が、茫然とそれを見ている。真司がやって来て、椅子のあった辺りを調べた。

「…床が開くようになっているのかもな。ここに、切れ込みがある。皆の椅子の下もそうだ。」

それぞれに椅子の下を見る者、椅子から飛び退るものと、いろいろな反応をした。モニターからは、声が聴こえた。

「№13は、追放されました。それでは、夜時間に備えてください。明日のこの時間に、またこちらでお会いしましょう。」

そうして、声は途切れた。

要は、ショックを受けてしばらく動けなかったが、まだ表示されたままのモニターを見て、それをノートに書き留めて行った。

これが、明日からの情報になる。これが、誰が人狼なのか探し出す切り札に…。

要は、ひたすらに自分にそれを言い聞かせて、ひたすらに投票先を書き記して行った。

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