一日目・昼3
要は、部屋へ帰って考えて来ると言って、一度部屋へと帰った。
そして、部屋にあったノートに自分の考察を書き残して置こうと思い、今日博正が書いていたことをそのままにノートへと書いた。まだ何も分からなくてグレーゾーンがあまりにも多いが、それでも幾らか情報が出たのは確かだ。
そうしていると、腕輪がピピピと鳴った。思った通り、そこには「着信17」と出ていた。要は、フッと笑った。こうして、部屋へ籠ればきっと何かあるなら向こうから連絡が来ると思っていたからだ。
落ち着いて通信ボタンを押した要は、言った。
「真紀さん?何か、気付いたことあった?」
真紀の声は、答えた。
『ええ。あなたがそれを知りたがってるんだと思って、私も考えて来るって言って部屋へ戻って来たの。他にも数人がそうやって戻って行ったから、私だけじゃないしバレることはないと思うよ。』
要は、手でペンをもてあそびながら言った。
「誰が部屋へ戻ったか分かる?」
真紀の声は言った。
『圭一さんと雅江さん。彰さんはまだ上の食堂に居たよ。真司さんと博正さん、それに倫子さんと啓太さん、裕則さん、田畑さん、亜希子さん、真澄さん、文香さんが残ってたわ。スタッフさんはみんな残ってる状態かな。それが、何か重要?』
要は、腕輪に向かって頷いた。
「うん。仲間が見えている同士は一緒に居る可能性が高いからね。でもそれだと、仲良し同士だから一緒に居るって方が正解かな。それで役職は見えないかな。」
真紀の声は、残念そうに言った。
『そう。わかりやすくていいなって思ったのに。でも、仲良し同士が同じ役職ってこともあり得るよね?妖狐も、人狼も。』
「確かにそうだけど。」要は、ため息をついた。「それにしても、倫子は静かだったな。どうしようもなく馬鹿なんだけど、でも最近は何か変わったんだよね。口数も少なくなって、もっと取り乱すかと思ったのに、オレに頼るわけでもなくさ。姉ちゃんが死んだ時も、騒ぎもしなかった。何か知ってるんだろうか。」
真紀の声が、深刻なものに変わった。
『倫子さんが人狼候補筆頭って感じ?』
要は首を振った。
「そうじゃない。倫子がこれを知ってたとは思えない。何しろ、当選したのは姉ちゃんで、倫子は最初やめとこうって言ったんだ。それを、姉ちゃんが押し切って連れて来た感じだったから。知ってたら来ないだろうし、倫子が変わったのは去年の夏ぐらいからだからね。今回のことは関係ないと思う。ただ、なんか落ち着いてるなあってだけで。」と、息をついた。「それで、今日の雅江さんのCOどう思った?オレ、昨日あの話を聞いた後だったから、怪しいなあと思ったんだ。占い師同士は、お互いが分からないからね。それなのに、誰かに視線を送るのはおかしいだろう。それとも、占い師だったから、どうしようかと旦那さんを見たのかもしれないけどさ。」
真紀は、声を低くした。
『それ。私、雅江さんが偽だと思う。』
要は、目を丸くした。
「根拠は?」
真紀は、咳払いした。
『雅江さんが出たのって、圭一さんが出てから一番最後だったじゃない?しかも、どうして言ってくれなかったの?とか旦那さんに言ってさ。自分だって黙ってたのに、責められるわけないよね。私には、何だか対抗心で出て来ただけにしか見えなかったんだけど。真司さん白は納得だったけど、でもそれって誰もが思うよね。真司さんは結構みんなことを考えてる感じの人だし、目だって発言もしてるし、人狼なんて誰も思わないもん。もちろん、雅江さんなりの理由があって占ったのかもしれないけど。』
要は、手元のノートを見た。占い師は、二人、もしくは役欠けを考えて一人が本物…。
「…それは頭に置いておくよ。だが、まだ占い師には手を付けない。やっぱり、グレランが一番いいと思うんだ。ただグレーが広いから、何人か指定する。その中に狩人を含めないように、君も考えてもらっていいかな。」
真紀の声は頷いたようだった。
『わかった。じゃあ私はまた食堂へ行くよ。みんなの動きを見て来ないと。』
要は、頷いた。
「オレも時間を置いて行くよ。昼ごはんも近いしね。じゃあ、また食堂で。」
要は、通信を切った。占い師の内訳は何だろう。彰に聞きたいところだが、彰はその占い師として出ているのに人外だった場合いいように誘導されかねない。としたら、真司か、博正か。
みんな大学生だったが、他の人達は何かふわふわとしているように見えた。現実として向き合って真剣に考えているのは、要が見る限り数人しか居なかったのだ。
真紀が出て行くだろう時間を過ごしてから、要は急いで食堂へと向かった。
食堂では、昼食の準備が進められていた。
いいカレーの匂いが立ち込めていて、要も自分がまたお腹を空かせている事実を知った。倫子が、顔を上げた。
「要?お腹が空いたでしょう。あまり根詰めたら駄目だよ。」
要は、今まで近かった倫子が何か遠い存在のような気がしながら言った。
「うん。でもまあ、どうやってやって行こうかって道筋は決まって来たから。お昼は、カレー?」
倫子は、頷いて苦笑した。
「みんな手伝えって言われて、私も野菜切ったりしたんだ。だから、いびつな野菜もあると思うけど。」
要は、驚いてキッチンの方を見た。
「え、ごめん!オレ、何もしてない。」
すると、向こうから田畑が言った。
「君は人狼を見つけるのに精を出してくれたらいいから。他の連中は、どっち陣営か分からないのにオレが全部やることもないかと思って。だいたいみんな座ってたら飯が出て来るってどうなんだ。これはもうオレの仕事じゃないぞ。」
すると、彰がこちらから言った。
「作らずに居られないくせにな。君は根っからの料理人だろうが。腹を空かせている人が居て、放って置ける性格でないのは知ってるぞ。」
田畑は、横を向いた。
「何のことですかね。」
そうして、また作業に戻る。どうやら、田畑より彰の方が上司になるようだ。彰は、笑って要を見た。
「で、まとまったかね?」
要は、促されるままに彰と真司、博正が座っているテーブルへと座った。
「とりあえずの、方向性だけは。それで、真司さんと博正さんに聞きたいんだけど、占い師の内訳どう思う?」
真司が、顎に手を置いた。
「そうだな。役欠けも念頭に置いて考えたら、真・狂・狼、真・狂・狐、真・狼・狐ってパターンも無くはない。素直に考えたら真・真と狂、狼、狐のどれかってパターンだけどな。」
博正が言った。
「ゲームとはいえこれはゲームじゃない。みんな命が懸かってるから、何をするか分からないからな。狂人が今回は狂信者だから人狼が誰か分かってるわけだが、その性格如何によっては出てないかもしれないからな。オレが思うに、もし狂信者が強い性格の人で、人狼が頼りなかったら恐らく狂信者の考えで動くんじゃないかって思う。だから、狼・狼・真でも驚かないよ。」
要は、目を丸くした。
「え、でも人狼が全滅したら狂信者だって負け陣営なのに。」
博正は、苦笑した。
「そうだけど、普通のゲームと違って上下関係とか、あと発言の強さとかでうまく誘導出来る人が有利なんだよね。別に勝てなくたって、自分が生き残ったらいいと思っている狂信者だってあるかもしれないし、人狼っていう役職のプレッシャーに耐えられずにバラしちゃう人狼だっているかもしれない。そこが、リアルな人狼とゲームの人狼とは違うんじゃないかって思うな。オレだって、死にたくないもんね。ま、村人だから、回りに頼るよりないんだけどさ。」
要は、考え込んだ。一人一人の視点に立って考えたら、確かにそうかもしれない。自分だけ、吊られず襲撃されずに残ったら、それでいいと考える役職持ちだっているかも…。
彰が、困ったように笑いながら言った。
「占い師の内訳を話している時に私が口出しするのもなんだが、村役職で出て来ないなんてクズだと思うね。」要がそちらを見ると、彰は続けた。「協力して人狼を吊らなければ、自分が襲撃される恐怖で怯える時間が増えるんだぞ。さっさと自分の得た情報を村に提供した方が、絶対に早く終わる。真なら堂々としていれば狩人に真と認めてもらえて守ってもらえるのだ。自分の器量だ。オレは自信があるから出た。人狼にも噛ませはしない。」
彰は、歳はよく分からないが、驚くほどにパワーを感じる男だった。堂々としていて、自信に満ちている。相手を威圧する迫力のようなものがあって、その言葉を信じたいと思わせる何かがあった。カリスマ性というんだろうか。それとも、この男が内包する知識のせいなのだろうか。
要は、じっとその目を見ていて、そんなことを思っていた。きっと、この人は普通の人とは違う知識を持っていて、世間を見下して生きて来たような気がする…。
このタイプの人間を、要は知っていた。一年前に倫子と洋子と一緒に行った合宿で出会った、純という一つ年上の男だ。頭が良く、状況の把握も早く、普段はじっと黙って前へ出て来ないが、話しているとその回りを馬鹿にしたような考え方を感じ取ることが出来た。自分のことは対等に扱ってくれていたが、回りを小ばかにしたような発言には、要も辟易したものだ。
要は、彰を見た。
「彰さんを疑っているわけじゃありません。でも、彰さんはとても頭が良い。話していてわかります。そうすると、どこか行ってはいけない方向へと誘導されてしまうような危うさを感じるんです。理解出来る人は大丈夫ですが、普通の人はそれを脅威に感じます。すると、それを疑いへとすり替えて、吊ってしまおうとするかもしれません。普通の人の感覚を考えて、行動されるのが無駄な吊をさせないために役立つかと思います。真占い師なら、特にそうです。全員の目線を考えて発言した方がいいと思います。」
彰は、少し驚いたように眉を上げて言葉を詰まらせるように黙った。そして、じっと要を見ていたが、微かに笑って、言った。
「…頭に置いておく。」
真司と博正が、顔を見合わせた。二人が何を思っているのか分からなかったが、要は彰の様子を見て、自分が言ったことは間違っていなかったのだと感じていた。恐らく彰は、自分が普通の人にどう見られるのか分かっていなかった。いや、分かっていたとしても、今この瞬間まで忘れていたのだ。
もしかして人外の騙りかもしれない彰に、塩を送ってしまったかもしれない、と思いながらも、要の心はもう今日の吊りのために、回りで昼食を運び出した皆へと向けられていた。