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覚悟

窓の外は夜だった。

応接室の時計は、8時をさしている。重苦しい空気の中、彰が重い腰を上げた。

「ここに居ても仕方ない。夜9時には部屋へ入らないといけないんだろう。」と、椅子の上で動かなくなった二人へと視線を移した。「この子達を、部屋へ連れて行ってやろう。このままじゃ、私達だって気が重くなる。ここから繋がるとか言っていたから、同じ階の客室だろう。皆、手伝ってくれないか。」

隣りの、田畑が頷いて大きなお腹を揺すりながら立ち上がった。真司が、息をついて立ち上がり、洋子の方へと歩いて来た。

「さ、君のお姉さんも部屋へ連れて行こう。」

要は頷いて、洋子の足を持った。真司が、脇を持って移動させてくれる。

要は、その重さにもう命が無いのを実感した。ダランと下がった腕が、自分の上着をかぶせられた姉がもう、ただの物体としてそこにあることを否応なく突きつけて来る。倫子が、涙を浮かべながら扉を開いて、待っていてくれた。

「要…あなたは、生き残って。」

要は、倫子を見て、頷いた。

「そのつもりだよ。」

そうして、廊下へと出た。


あの声が言った通り、応接室の横からすぐに客室が並んでいた。応接室のすぐ隣を手前から1、2と並んでいて、向かい合わせで同じような部屋が11、12と並んでいた。どうやら、向かい合わせで10ずつ部屋が並んでいるようだった。

要は、洋子の腕を見た。

「ええっと、姉ちゃんは…12。」

すぐ近くだったその部屋の扉を開くと、中は船室にしては広い仕様になっていた。トイレもあり、シャワーブースも設置されてある。奥にあるベッドへと洋子を寝かせると、要は自分の上着を除けた。そして、横の開いた瞳を閉じてやると、そっとその体にシーツを掛けた。

「生き残るからね、姉ちゃん。だから、今は悲しんでる暇、ないんだ。」

要はそう言うと、真司を見た。真司は、黙って要の様子を見ていたが、言った。

「もう、いいのか?」

要は、頷いた。

「うん。姉ちゃんは怖がりだから、きっとこれ以上いろんなことが起こったら気が狂ってもっとつらい想いして、死んじゃったかもしれない。ここで、待っててもらうよ。」

真司は、寂し気に笑って、要の頭をくしゃっと撫でた。

「こんなに綺麗な顔だし、もしかしたら仮死状態なだけで全部終わったら目を覚ますかもしれないじゃないか。こんなバカなことは無いんだ。犯罪だからな。心配するな、頑張って勝って帰ろう。」

要は、また浮かんで来る涙を押さえて、頷いた。真司が促してドアの外へと出ると、由美を運んだ彰と田畑も出て来ていた。他の面々も、まだ部屋に入らず廊下で立ち尽している。

真司が、言った。

「…なんだ、部屋に入らないのか。」

すると、妻の雅江を背後に、圭一が言った。

「入らないのか、だって?どうしてこんな状況を受け入れられるんだ!何とかして、船を動かして帰る方法は無いか考えないのか!こんなゲームをするなんて、ナンセンスだ!」

すると、彰が険しい顔をして圭一の方へ足を踏み出した。

「君は見ていなかったのか。誰がこんなことをしたのか分からないが、相手は姿も現さずに人を殺す手段を持っているんだぞ。逆らったら、君だってこの場で殺される。だったら、ここは従うしかないじゃないか。死にたいなら、勝手に死ねばいい。お前が死んだらその分早くゲームが終わる。人狼だったら吊縄を消費しないで殺せるわけだし、こっちとしては万々歳だ。」

「オレは人狼じゃない!」

圭一は、激昂して叫んだ。回りの人達は、困惑したり、怯えたりした表情で二人を見ている。博正が、二人の間に割り込んでそれを押さえた。

「仲間内でもめても仕方ないだろう。ここに居る人達はみんな被害者なんだ。助け合って行かないと共倒れになる。第一ここがどこかも分からないし、航海士も居ないのにどうやって帰るって言うんだ。あなたもいい歳した大人なんだから、いい加減状況を把握して何が一番自分の身を守るのか考えて動かなきゃいけないと思うけど。死にたいなら止めないけどね。」

圭一は、グッと黙った。文香と、同じスタッフの成田真澄は後ろで顔を見合わせて、ボソボソと話し合っている。圭一の後ろに隠れるようにしていた、雅江が圭一の横へと並んで言った。

「圭一さん、とにかくここは皆さんと合わせて、言う通りにしましょう。でないと、あのお嬢さん達みたいに、あっさり殺されてしまうのよ。おとなしく、部屋に帰って今日は休みましょう。」

「……。」

圭一は、黙り込んだと思うと、身を翻して自分の番号、3の部屋へと勢いよく入って行った。それを見送ってから、雅江はみんなを振り返って頭を下げた。

「すみません、普段はあんな感じじゃないんですけど。きっと、私が当選したからって無理に連れて来てしまったディナーで、こんなことになってしまったから…。」

真司が、首を振った。

「こんな状況で、混乱しない方がおかしいんですよ。オレ達だって、何が起こってるのかって混乱してる。でも、感情的になったら殺されるのはさっきの事で分かった。だから、冷静になろうとしてるだけなんです。」

要が、頷いた。

「今日は人狼の襲撃がないってさっき説明していた。でも、今夜は人狼同士も話し合うかもしれないけど、共有者同士だって話し合うと思うんだ。明日からの戦いに向けて、占い師も霊能者も、自分がどうやって役職を公開していくのかとか、そんなことをしっかり考えた方がいいと思う。この村は恵まれてるよ、占い師も霊能者も二人ずつ居るし。だから、脱出の道が見つかるまで頑張って生き残っていこう。」

戸惑いがちなみんなも、少しずつ実感が湧いて来たのかそれぞれに頷いた。それを見てから、彰が言った。

「さあ、じゃあ部屋へ帰ろう。今夜は襲撃もないし、明日はみんな普通に会えるんだ。明日からに備えて、ゆっくり休もう。」

そうして、一人、また一人とぞろぞろと部屋へと入って行く。

要も、ちらと洋子の部屋の12のドアへと視線をやってから、自分の14の部屋へと足を踏み入れたのだった。


部屋へ入ると、洋子の部屋と全く同じ造りだった。

泊まるつもりもなかったので、着替えも何も持って来ていなかったが、入口横の作り付けのクローゼットを開けてみると、中にジャージが入っていた。サイズは、メンズのLサイズで高校三年生の要の体には、横幅が大きい。それでも、丈はちょうどいいので、ここにあるものを使うのはシャクだったがスーツのままで居るわけにはいかない。なので、それに着替えた。与えられるものは、何でも利用しようと思ったのだ。このままでは、洋子も戻って来られない。真司が言ったように、あんなに綺麗な状態だったのだ。あの声は、勝利陣営なら戻って来れると言っていた。きっと、仮死状態で村人陣営が勝ったら帰って来る。

要は、自分に言い聞かせた。洋子のカードを見た、由美は「村人」とつぶやいていた。だから、あのカードは村人で、洋子は村人。共有者の自分とは、同陣営なのだ。だから、自分が勝つことが、洋子のためにもなるはずだ。

そう思って着替えていると、自分の腕輪が突然ピピピと鳴った。何事かとびっくりした要だったが、見てみるとそこの液晶画面に「着信17」と出ている。要は、記憶を探った…自分が14で、隣りに座っていたのは15の成田真澄、その隣りが16の柏原文香、その隣りは…。

同じ共有者の、田村真紀だ。

要は、教わった通り通信ボタンを押した。

「もしもし?」

すると、腕輪から声が聴こえた。

『もしもし、立原要くん?あの、私同じ共有者の…』

要は、見えないのを承知で頷いた。

「うん。オレのことは、要でいいよ、田村真紀さん。」

相手は、ホッとしたような声になった。

『よかった…私のことも、真紀でいいよ。あの、死んだ由美と、それから芽衣は、友達なんだ。三人でこのクルーズに来たの。由美が当たったって言って、三人まで来れるって案内に書いてあったから、誘われて来たの。大学で、同じ学部なんだ。』

要は、そうだろうなと思っていたので答えた。

「一緒に居たもんね。オレも、姉ちゃんが当てて姉ちゃんの友達の倫子と、オレで来たんだよ。他にもいろいろ、組になってそうな人達居たよね。」

真紀の声は、少し小さくなった。

『ねえ、誰だと思う?その、人狼カードを引いたの。』

要は苦笑した。そんなの、あれだけで分かるはずはない。

だが、困ったように言った。

「まだ分からないよ。応接室でみんなの様子は観察していたけど、みんな同じ、固まった顔でじっとしているだけだった。オレは姉ちゃんが殺されて、パニックになってしまったから、その辺りのことは分からないんだけど。」

真紀は、少し黙った。それから、思い切ったように言った。

『あのね、要くん。私の勘違いかもしれないけど、私の正面だからよく見えたの…あの、7番の雅江さん。三村圭一さんの奥さんの。』

要は、思わず身を乗り出した。

「え、何かあったのか?」

真紀は、唾を飲み込んだようだった。

『うん。というか、カードを見た後、少し震えたの。それから、誰を見ているのか分からないけど、視線を左へ向けていたわ。彼女から見たら、右側になるかしら。』

要は、座っていた場所を頭に浮かべた。

「ええっと、7番の左っていうと…6の、倫子?」

真紀の声は、困惑しているようだ。

『いえ、彼女とは限らないわ。だって、その倫子さんは全くそちらを見ても居なかったし、落ち着いた感じだったもの。むしろ、その向こうの谷口留美子さんの方が怪しいかな。それから、その隣りの4番の大井真司さんか。…まあ、真司さんも、全然回りは見てなかったけど。何か、役職を持ってるのかなって思った…占い師同士とか、霊能者同士ってお互いを認識出来るのかな。』

要は、首を振った。

「いや、分からないと思うよ。お互いに分かるのは、共有者と人狼と狐だけだ。もし、雅江さんが人狼か狐だったとしても、そんな分かりやすいことするかな。オレが思うに、真司さんの向こうに居る旦那さんの方を見たのかもしれないし。ほら、圭一さん3番だろう。」

真紀の声は、あ、と言った。

『そうかも!そうね、圭一さん3番だったっけ。でも…私達だって、思わず視線を交わしちゃったでしょう。だから、一応頭に置いておいてほしいわ。私、あんまり人狼は得意じゃなくて…あなたに頼るよりないから。』

要は、息をついた。

「オレだって、あんまりしたことないゲームなんだ。でも、セオリーは知ってるし、頑張ってみるよ。君は潜伏する?オレが、共有COしようか。」

真紀は、明るい声になった。

『ほんと?ありがとう!進行なんて出来ないって思って、一瞬悩んだから。私は、黙ってみんなを観察して、こうやって夜に報告するよ。狩人が一人しかいないから、二人出ると厳しいものね。』

要は、頷いた。

「うん。じゃあ明日からよろしくね、真紀さん。オレも、頑張って観察するけど、どうしても話してる人を見ちゃうと思うから。他は真紀さんに任せる。二人で頑張ろう。」

真紀の声は、最初に掛けて来た時とは格段に明るくなった。

『うん、ありがとう!良かった、要くんが相方で。頑張って人狼吊って、占い師に狐呪殺してもらって、終わらせよう!』

要は、そんなにうまく行ったらいいんだけどな、と思いながらも、苦笑して頷いた。

「そうだね。なるべくそうなるように頑張るよ。」

真紀の通信は、切れた。要は、今話したことを考えた。そうか、倫子さえも疑わなきゃならないのか。雅江さんが見た方向…真紀さんにはああ言ったけど、左側の誰を見ていたのか分からない。みんな挙動不審になっていたし、いちいち気にしていたらきりがないが、明日の役職公開の様子を見て、考えるしかないか…。

要は、なかなか眠れない中で、洋子のことは考えないようにしていた。死んだんじゃない。眠っているだけだ。だからこそ、オレは勝たなければならないんだ。

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