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別れ

病室へ入ると、そこはひっちゃかめっちゃかで大変な騒ぎだった。

面会人の姿はもう見えなかったが、人狼だった啓太や文香、裕則も加わって皆で集まって談笑してわいわい楽し気にやっていた。

その姿は、まるで合宿にでも来てはしゃいでいるようでもあった。

博正と真司の姿を見つけた圭一が、そんな騒ぎの端の方から手を振った。

「ああ、博正くん、真司くん!彰は、見なかったか?」

二人は、首を振った。

「いや、さっき廊下を歩いてたが、留守の間の仕事が溜まって大変みたいで、電話ばっかりしてたよ。」

博正がそう答えると、圭一は残念な顔をした。

「そうか。明日には退院できると聞いているし、今夜はゆっくり話したかったのにな。」と、隣に座る雅江を見た。「こいつとも、腹を割って話したんだ。彰に聞いて欲しかった。」

真司と博正は、苦笑した。彰が一番興味の無さそうな話題だったからだ。

「見かけたら言っておくけど、多分戻って来れないかもしれないな。あれで、結構な偉いさんらしいよ。」

圭一は、顔をしかめた。

「それは困った。まだ連絡先も聞いてないのに。確かに只者じゃあない雰囲気だったしな。」と、息をついた。「あれをカリスマと言うのか。オレは、あんなに意味もなく人を信じたりしないのに、あいつだけは信じようと思えたんだよな。敵だってのに、助けてくれそうで。」

真司が、苦笑して言った。

「頼りになる占い師でした。とにかく、皆さん無事で良かったです。でも帰ってから、くれぐれも口外しないように。その条件のもとに、生きて返してもらってるんで。何をされるかわかりませんから。」

圭一と雅江は、身震いしながら顔を見合わせた。

「ああ。それは絶対に守ろうと妻とも話し合ったんだ。世の中には、社会の闇のようなものも存在するんだと初めて知ったよ。このことには、金輪際触れないようにするよ。」

すると、人の輪から声が飛んで来た。

「博正さん!真司さん!こちらに来ません?どうせだから、話しましょうよ!もう明日からは、人狼の話できませんもん!」

真紀が笑ってそう言って、手を振っている。その隣りには、要も居た。真司と博正は、その声にそちらへ歩み寄り、そうして、皆で笑いながら人狼の反省会をしたのだった。


修学旅行のノリの夜は更け、話疲れたものからあっちこっちのベッドへ戻って眠りについた。

次の日の朝は、皆それぞれに家族に持って来てもらった服に着替えて、帰り仕度を始めていた。要も、昨日母が持って来た普段着に身を包んで、洋子と一緒に部屋を出る準備をする。

洋子は、始めから人狼に参加したわけではなかったので、その過程で何があったのか全く知らない。

昨日の人狼反省会で、倫子が人狼だったこと、仲間を切って残ろうとしたことは知っていたが、それでも実際にそれを見たわけでもないので、倫子に対して特に何も嫌な感情は持っていなかった。

なので、他がなんとなく距離を開いている倫子に、洋子は普段通りに話しかけていた。なので、倫子も徐々に普段通りに戻りつつあった。

ただ、要だけはそれを見てしまっていただけに、今まで通りという訳には行かなかった。

彰も、昨日はついに部屋に帰って来ることはなく、顔も見ないまま両親が迎えに来てしまった。

「さ、帰りましょう。結構な金額の慰謝料が振り込まれたから、驚いたわ。あなた達が、七日間生き延びてくれたからですって。こんなに支払いの速いのはびっくりだって、弁護士さんも言ってたぐらい。」

父は、上機嫌だった。

「凄いぞ!お前達の頑張りで、家のローンが一気に無くなる!」

要は、目を丸くした。賞金って、このことか。家のローンが無くなるぐらいってことは数千万だよね。この人数に…。

要は、なぜか彰を心配した。そんなにお金を使って、大丈夫なんだろうか。

「さ、早く帰ろう。」

父に押されて部屋を出そうになって、要は慌てて目についた博正に呼びかけた。

「博正さん!」

博正は、こちらを向いた。

「おう、要。帰るんだな。お疲れ。」

要は、首を振った。

「まだ帰れないよ。彰さんは?」

博正は、首を振った。

「あいつは忙しい。昨日の夜、ヘリが迎えに来て研究所へ帰ったよ。新しい検体が云々言ってたな。オレももうすぐ、帰るつもりだ。」

要は、愕然とした。帰った?

「そんな…また病室へ一度戻って来るって言ってたのに。」

博正は、苦笑した。

「だから普通の人じゃないんだって。普通なら、顔だって見る事ない人種だぞ。忘れた方がいい。表には出て来ないんだ。だから、偽名だろうが。」

要は、首を振った。

「神原は偽名だけど彰は本名だって言ってた!」博正が驚いていると、要は続けた。「だから、本当に彰さんなんだよ!ジョンも神原も偽名でも、それは本当なんだ!」

博正はまだ驚いていたが、ふと表情を緩めると、その頭を撫でた。

「そうか。お前には本名を言ったか。良かったな、要。あいつに認めてもらえるなんて、相当の能力者だぞ。これから頑張って勉強して、お前は表の道を行け。あいつは、わざとお前に何も知らせず行ったんだと思うぞ。お前には表を歩いて欲しいんだろう。勉強してたら、その内会えるかもしれないからさ。」

要は、何も言わずに頷いた。彰は、何も言わずに去るつもりだったのだ。自分とは、会わないつもりで…。でも…。

「ありがとう、博正さん。」要は、博正に頭を下げた。「でもオレ、やっぱり彰さんみたいになりたいよ。」

そうして、待っていた両親と共に、そこを出て行った。

博正は、その背を見送って、ため息をついていた。あいつは、ああしてあいつの背を追ってこれから表の道を走ってくんだろうな…。



彰は、研究所のいつもの自室でパソコンのモニターを眺めていた。

ここ数日に起こったことは、最初は軽い気持ちで加わったただの遊戯だった。

それなのに、いつしかそれが面白くなり、むきになり、人に無心に信用されるということを知った。

今まで、自分の好きに生きて来た、そのためなら手段を選ばなかった、彰には新鮮なことだった。

要は、まだ未熟だがもっと学べば間違いなく優秀な研究者になる素材だった。あの、ひたむきな瞳を眺めていると、何かを信じるのもいいのかもしれないと思わせた。

自分も含めて人などただのヒト科の生物だと思っていた彰は、個人というものを始めて意識した。

細胞以外に自分を夢中にさせることがあるとは、思いもしなかったのだ。

モニターに映される、いろいろな言語のレポートや質問文へと目を通しながら、彰の心はここにあらずだった。彰にとっては、相変わらず単純で退屈なものでしかないそれらでも、採点や添削、回答を送ることで得られる益のことを考えると無下には出来ないのだが、今はそんなものに目を通す気持ちになれない。

後にするか、とそれらを閉じた時、受信箱に見慣れないアドレスを見つけた。珍しいことに、それは国内の通信会社のアドレスだった。

…何かが紛れたか。

彰はそれにチェックを入れて削除しようとしたが、ふと、その手を止めた。

自分のこのアドレスを知っているのは、海外の、それもヨーロッパの研究者だけのはず。

彰は、脳裏に過ぎったひとつの可能性に驚いた。

まさか。

彰は、そのメールを開いた。すると、そこには日本語でこう書かれていた。

『彰さん、オレは海外へ留学します。彰さんに追いついて、きっとそこへ行く。だから、待っててください。それから、時々オレにアドバイスをください。オレは、彰さんほど強くないから、きっと負けそうになってしまう。だから、このアドレスを変えないでくださいね。 立原 要 』

…あの時、アドレスを覚えたか。

暗記が得意だと言っていた要の言葉を思い出して、彰はフッと笑った。そして、返信を書いた。

『負けたよ。捕まったか。だが、私に頼ってるようではここへはたどり着けないな。しかし、君に捕まったのだから、観念してまたこちらから連絡しよう。君の電話番号なら知っている。また話をしよう。ではな。 神原 彰 』



要は、父が運転する車に乗って、きゃっきゃとはしゃぐ洋子と母の話声を聞きながら、スマートフォンを手に窓の外を眺めていた。左腕には、ペンで書かれたメールアドレスが残っている。

オレは、彰さんの後を追う。海外の大学への留学を考えて、先生に相談してみよう。

要は、そう決意して空を見上げた。

青い空は広くどこまでも続いていて、裏の世界に生きている人なのに、なぜか彰を思い出させた。要は、きっとその空へとたどり着いてみせると、心に誓ったのだった。




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人狼 倫子 裕則 文香 啓太

狂信者 圭一

占い師 彰 由美

霊能者 賢治 芽衣

狩人 昭弘

共有者 要 真紀

村人 真司 博正 洋子 真澄 雄二

妖狐 雅江 留美子

ここまでのお付き合いありがとうございました。

今まで悪者扱いでどうしようもない人格所持者のジョンこと彰ですが、ここに来てしっかり出してキャラをつけてみました。

次回は明日からで、ここから4年ちょっと経ったある日に、彰の過去の人間関係(主に女)の軋轢からの襲撃に、要が留学先のボストンから飛んで戻って戦う人狼をするお話です。これで要の性格がちょっと変わって来るのがまた運命なのか…人狼はちょっとだけしかしませんので、人狼が読みたいかたにはお勧めできないです。人間の物語がメインなので、また要とか彰に興味がおありでしたらよろしくお願いします。それにしても彰は困った人やわー。

ヒトの仔は獣に倣う  http://ncode.syosetu.com/n7449dt/ ←2/28からです

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