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六日目・3

倫子と啓太が、入って来て先に来ていた要、彰、博正、真司、田畑に気付いた。その後ろから、賢治が入って来て倫子を避けるようにして椅子へと座る。

何やら空気が不穏なのに気付いたようで、賢治は訳が分からず縮こまっていた。思えば、真霊能者だからこそ真の結果を言ったのに、それで疑われるのだから賢治にはどうしたらいいのか分からないのだろう。

皆が椅子に着くと、要が言った。

「今日の最終会議を開きます。」

すると、彰が割り込んで言った。

「今日は、倫子を吊る。今夜私が博正を占って、明日、啓太を吊る。それで、終わりだ。」

断定的な口調に、博正と真司は少し顔をしかめたが、何も言わなかった。田畑は、納得しているようで落ち着いている。倫子が、彰を見て言った。

「誰があなたを信じるっていうの?何でも自分の思う通りになると思ったら大間違いよ。」

彰は、黒い手帳を出して目の前に持ち上げて見せた。

「圭一が、私の占い結果を裏付けてくれた。お前が圭一の指を折ってまで取り去った紙の内容を読んだか?私は読んだ。あの圭一が、そんな分かりやすい場所だけに残す訳はないだろう。お前を大層恨んでいたぞ。だから私には、お前だけは吊る責任がある。たかがゲームだが、それでも負けるわけには行かないんでね。」

賢治が、目を見開いてそれを見上げた。啓太は、無言で話を聞いていたが、真っ青になって微かに震えている。倫子はじっとその黒い手帳を見ていたが、言った。

「…何が書いてあるのか知らないけど、あなたがとてもやり手なのは知ってるわ。あなたのことだから、たくさんの道筋が最初の日に役職を出した時点から頭に現れていて、進んで行く度に選別して行ったんでしょう。だったら、圭一と近づいて、その手帳を手にすることだって出来たでしょう。人付き合いなんてしない人なのに、やたらと圭一に絡んでいたじゃない?それに細工すれば、みんなに決定的な証拠を突きつけられる。時間はあったわ。私達では無理でも、あなたになら細工に十分な時間だったはずよ。それで、みんなを誘導したの?要は素直だし、あなたのような人になら簡単に騙されてしまうでしょう。他の三人も、疑っては居てもあなたのような人が持って来る証拠だもの、偽でもそれは精巧なものでしょうから、やっぱり騙されてしまうわね。いいわ、今日は私を吊れば。明日からでも間に合うでしょう。明日から、噛み先を見てしっかり考えて。」

博正と真司が、じっと一点を見つめて考えている。

彰は、倫子を睨んだままだった。

要は、ため息をついた。彰が説得を諦めるのは、こういう所にあるのだろうと思えたからだ。土台いろいろなことが出来てしまって優秀だから、何を持って来ても偽装出来るのではないかと思わせる。

それが偽装ではないと証明するよりも、その後に来る結果を見せて、自分が間違っていなかったことを証明する方が、簡単だから彰は説得しようとしないのだ。

要が諦めていた時、意外にも彰は、フッと笑って言った。

「明日残るラストウルフのために、伏線を張っているつもりだろうが、甘い。」彰は、指を立てて言った。「今夜は絶対にお前を吊る。お前も言った通り、まだ縄を余分に使えると思っているからだ。だが、お前はなぜそれを知っている?」

要が、ハッとしたような顔をした。気付いたのだ。だが、他の者達はむっつりと、博正ですら彰の話を聞いていた。

「昨日の投票のことを思い出せ。こいつは狼位置は嬉々として言っていたな。だが、慌てて昭弘を吊ろうと言ったのは、どうしてだった。」

要が、答えた。

「…狐が居たら、ヤバイから。」

それを聞いて、博正と真司が、ハッとしたような顔をした。確かにそうだ…倫子がノートをこれ見よがしに食堂で書いていた時、話を聞きに寄って行った。その時も、狐位置はグレーだと言っていたのだ。

「そうだ。こいつには、狐位置が分からないはずだった。村ならばな。」彰は、ニタリと笑った。「どうしてラストウルフを残してそれに希望を託す気持ちになれたのか?狐がもう、処理されると知っていたからだ。仮にそれが博正だったとして、私が今夜占うと言った時点で解決する。真司はあり得ない。なぜなら狼が真占い師だと知っている、私が占っているからだ。雅江で狐が処理されているのも知っている。だからこそ、今日自分を吊れと言える…村人なら、ここで吊られるのは怖いはずだ。狐が居るかもしれず、昨日こいつ本人が言っていた通り、もう縄に余裕がないからだ。余裕があると知っている時点で、こいつは狼なのだ。」

今度は、本当に皆が理解した。

彰は、倫子にその言葉から証拠を突きつけたのだ。全員に、分かるような形で。

倫子は、ブルブルと震えて言った。

「あなたが私を吊ると言うから、無罪だって証明するために吊ってもいいって言っただけよ!そんなに深い意味はないわ!確かに狐は怖いけど、だからってこれだけ狭まっていたら、もう死んでいてもおかしくないとも思うし…、」

彰は、首を振った。

「昨日言ったことと矛盾している。お前はあくまで狐と狼両方が残っている可能性を考えて、どうしても狼だと思える位置の昭弘を吊ろうと皆に提案したじゃないか。村人ならお前視点、私が偽なら完全グレーの博正が怖いはずだ。偽占い師が占っても狐は溶けないからだ。博正から吊って欲しいと言ってもおかしくない位置だ。真司だって圭一に占われていないのだから、充分狐があり得るだろう。狐ケアで真司まで吊り、最後私と賢治の決め打ちに持って行くしか村勝利の道は無かったはず。それも、私と賢治が狼狼ならもう村は勝ちがない。真司を村と決めてそのまま私と賢治を吊るか、どちらかの選択を迫られるはずだ。いずれにせよ、お前が吊られている場合じゃない。村は厳しい戦いになる。あれほどノートにいろいろと記していたのではなかったか。そんなお前が、村ならそんなミスをするのか。狼だから、そんなことが口から出たのではないのか。」

倫子は、首を振った。

「全部あなたに誘導されてる!私は、村人よ!あなたはいつもそうよ、皆を馬鹿にして、見下して、どうせ分からないと突き放して、結果困っているみんなを嘲笑って…!」

彰は、それを聞いて、フッと笑った。

「…そうだったな。だがまあ、愚かでも愚かなりに、一から嫌になるほど細かく説明すれば、理解出来ることもあるのだと学んだ。私も人付き合いに関しては愚かでね。」と、要を見た。「要にしたら嫌になるほど私は愚かであったろうに、いちいち忠告してくれたからな。これは要のテストに対する、私の答えだ。」

要は、目を潤ませた。

その日の投票は、倫子に集中し、そうしてその夜、倫子は暗闇の中に、声もなく沈んで行った。


夜時間に移り、皆それぞれの部屋へと帰って行った。

部屋へ入り際、博正と真司が、要の肩をポンと叩いて笑いかけ、そして通り過ぎて行った。要は、覚悟していた。今日は、間違いなく自分が噛まれるだろう。啓太は、何も言わずに彰に投票し、そして、部屋へと入ったまま出ては来なかった。ここまで生き残って来たのは、啓太が狩人を騙っていたからだった。執拗に片方に自分を守るように指示していた要は、ついにここまで噛まれずに来たのだ。

だが、明日は恐らく啓太を吊る。これは、覆ることはないだろうと思われた。仮に博正が狐だったとしたら、彰に占われて溶けた時点で彰の真占い師が確定し、啓太はやはり吊られることになるからだ。

倫子は、それを考えなかったのだろうか。

いや、恐らく余裕がなかったのだろう。自分の白さをアピールするために、自分を吊れと言ったのに、それが反対に彰に揚げ足を取られることになったのだ。

彰の信用がないことを知っていた倫子は、もう今日賢治を吊って明日彰を吊って、それで安泰だと気を抜いてでもいたのだろう。

要は、この六日間のことを思っていた。この部屋で、じっと人狼のことばかり考えていた。ズボンはもう擦り切れて来ていて、カッターシャツもボロボロだ。カレーやらシチューやらのシミが所々についている。

母さんに怒られるな…。

そう思った要は、今夜を生き延びることさえ出来ていたら、きっとそれもあったんだろうと苦笑した。真紀はああ言っていたが、確かに死んだ人を、蘇生させるなんてそんなことは無理だろう。死んだ瞬間から体は変化を始め、細胞は死滅して腐敗し、何をしても蘇生など無理なのだ。

ふと、要は思い出した。

…人体の研究をしている。細胞のことばかり研究している…。

彰さんは、何か知っているだろうか。

要は、ちらと時計を見た。まだ、通信可能だ。

要は、迷いもせずに彰の1の番号を押して、彰に通信した。

『…HELLO?』

彰の、寝ぼけたような声が聴こえる。もう寝ていたのか…でも、まだ10時過ぎだけど。

「あの、彰さん?」

声は、我に返ったようでしっかりとした声になった。

『要?…ああ、すまない。ついウトウトしてしまってね。私に電話といったら、海外からばかりだからな。寝ぼけてしまった。』

要は、そんなこともあるんだと思って、微笑ましい気持ちになった。いつも完璧で服さえも汚れていなかった彰が、寝ぼけることもあるんだ。

「あの、聞きたいことがあって。博正さんと真司さんに聞いたんですけど、彰さんは細胞に詳しいですよね。人って、死んでからどれぐらいの時間で蘇生できなくなるんですか?」

彰の声は、一瞬黙った。それから、言った。

『気温にもよるがな。一番に問題なのは脳細胞だ。これを維持出来なければ、いくら肉体をよみがえらせることが出来ても蘇生したことにならない。まあ一般的には、脳への血流がストップしてから4分かな。なぜそんなことを?』

四分…。要は、肩を落とした。洋子は、もっと長い時間放置されていた。あの場で死んだまま説明を聞かされ、そして部屋へと運んだ。その後もし、何らかの処置をされていたとしても、もう間に合わない。

「…姉ちゃんが、最初に亡くなってて…オレ、姉ちゃんのためにも、頑張って勝とうって思って来たから。それに、オレはきっと今夜襲撃されるし。勝利陣営なら、戻って来られるって聞いてるから、きっとみんな元気に会えるんだって、それを支えにしてたから…。」

そんなことを、彰に言ったところでどうにもならないのは分かっていた。でも、自分は今夜死ぬかもしれないのだ。だったら、言いたいことを言い残したいと思った。

彰は、しばらく黙ってから、答えた。

『そうだな…しかし私は知っているんだ。この世の中には、不可能を可能にする薬品を創り出している組織が存在するんだ。君たちの常識などあてにはならない、死の概念すらなくなってしまいそうな、そんな研究がね。だから、君は希望を捨ててはいけない。人は、驚くべき可能性を秘めている。細胞は、意思を持っているんだ…その体を作る37兆2000億個の細胞は、一つ一つが生きたいと、意思を持って生きているんだ。そう思うと脳死が人の死だと定義するのは愚かだが、それでも人の定義がどこにあるかの議論になるので私も深くは突き詰めないが、そう思うと、死んでも生き返るのは、案外簡単なことだと思えて来ないか?』

要は、彰が自分を元気づけてくれているのだと思った。励ますにしては方向がおかしいが、それでも彰の気持ちは分かった。

「細胞を、思うように操るんですか?薬品で、指示を出して。」

彰の声は、明るく答えた。

『そうだ。無理だと思ったら何も出来ない。だが、いろいろな方向からアタックすると細胞と対話する方法が見えて来る。要、お前は何を目指している?どちらの方向へ行くつもりだ。』

要は、将来のことなど今は考えられなかったが、答えた。

「両親は医学部に入るのを期待してます。オレ、模試とか受けても結構いつもラッキーで簡単な問題に当たるみたいで、点数採れるから。」

彰は、更に聞いた。

『そうそう幸運は続かないがな。今までで分からない問題はあったか?間違えたとしても、理解は出来ていたものは除くぞ。』

要は、首を振った。

「いいえ。その考えから言うと、分からない問題はありません。暗記系ならいつも満点です。」

彰の声は、笑った。

『では君は海外の大学へ行くことを勧めるがな。国内でもいいが、いずれは結局行くことになるのだから、さっさと行っておいた方がいい。あちらは体力が要るからな。若い方が楽だ。といって、君が選ぶのだから、好きにしたらいいが。臨床医を目指すつもりか?』

要は、また首を振った。

「オレはあんな風に誰かを治療している未来が見えないので。きっと、なるとしたら研究医だと思います。新しいことを見つける方が、オレには合ってるように思います。」

彰は満足したようだった。

『ならばそれを目指すといい。要、未来はある。今夜襲撃されてもされなくても、君には未来が来る。安心して眠るがいい。目覚めた時は、私達の勝利だ。』

要は、その言葉が引っかかった。最初慰めてくれているからかと思ったが、彰は嘘を言わないと、博正と真司が言っていた…。

「…彰さん?あの、でも襲撃されたら、もう生き返らないんじゃ…」

彰の声は、落ち着いていた。

『私を信じろ。信じない奴は多いが、信じたらいいこともあるぞ?』

要は、彰は信じられると最初から思っていた、自分の勘を信じていた。だからこそ、頷いた。

「はい。彰さんは、いつも正しいから。信じます。」そのまま切ろうとして、ふと、言った。「そう言えば、彰さんは本当の名前ってあるんですか?博正さんが、偽名だって。」

彰の声は、答えた。

『君には言おう。神原は偽名、彰は本名。嘘はつかない、偽名だと堂々と言っているからな。だが、ファーストネームは彰だ。』

要は、もう一つ聞きたいことがあった。

「でも、どうして偽名なんて…彰さんの居る研究所は、いったいどこに、」

そこで、ブツリと通信が切れた音がした。驚いた要は、腕輪を見る。腕輪の時計が、午後11時を指していた。通信可能時間を、過ぎてしまったのだ。

彰さんを信じて、遺言なんか残さずに、眠ろう。

要は、まだ眠くなかったが、ジャージに着替えてベッドに入って目を閉じた。

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