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六日目・2

彰が窺うように目を細めて二人を見る。要は、二人に駆け寄った。

「違うんだ、あの、彰さんの言っている事が、真実なんだって知って欲しいんだよ。」

要が取り成そうとしているにも関わらず、彰は不機嫌そうな顔で言った。

「…部下、だと?お前達は私の言っている事が1つも理解出来ないのに、部下のつもりか?いつか、私を化け物と言った事があっただろう。そんな風に見えているお前達に、私の研究など手伝えない。」

要は、なんてことをとオロオロする。真司も博正も、じっと彰を睨み付けて言った。

「オレ達を何の説明もなくこんな体にしておいてよく言うよ。オレ達はお前を許すつもりなんかない。だが」と、博正は息をついた。「なんだかんだ言ってお前は嘘はつかない。真実を伏せることはあっても、嘘はつかないんだ。それはこれまで一緒に来て知っている。そこで質問だが、お前はここでも、お前のままか?人狼ゲームは、嘘をつかなきゃ成り立たない。お前は人狼になっても、嘘をつかないで最後までみんなを誘導出来るのか?」

彰は、フッと笑った。

「誰に問うている。自分が嘘をつかなくても、他に騙らせればいいのだ。私は真実をそこへ絡めて混ぜていく。そうしたら自然、私は残され人狼が勝つ。私が人狼なら、そうやって戦う。下手な噛みはしない。私は、騙らなくても自分のいいように場を動かす方法を考える能力がある。村人陣営だから面倒な事になっているのだ…愚かな奴らに信じさせるのは骨が折れる。しかも数が多いから、フォローが間に合わない。要のように、適切な判断が出来ている人を見極めて指示を仰げる奴が圧倒的に少な過ぎるのだ。私に村人は合わない…愚かな奴らを統率するなど出来るはずはない。」

博正は、それを聞いてじっと考えた。真司が、同じように考えてチラと博正を見る。

博正は、険しい顔のまま、言った。

「…話を聞こう。何より、要のためだ。」

彰は、薄っすらと笑った。

「甘いな。後悔するかもしれんぞ?それでも私の話を聞くか。」

要は、せっかく話を聞く気になっているのに、と思うと、歯ぎしりしたい気持ちだった。だが、この三人の間には、恐らく蓄積された何かがあるのだろう。黙って見ていると、そこへおずおずと田畑が入って来た。

「オレも、話が聞きたい。その、彰さんの部屋を訪ねたら居なかったので、探しに来たんだが。」

彰が、驚いたように田畑を見る。要は、急いで田畑に駆け寄った。

「もちろんです!こっちに座って。」と、彰を見た。「彰さん、話をして頂く約束です。」

彰は、要の必死の目を見て、しばらく黙っていたが、息をついて頷いた。

「…私は約束は守る。お前達も、座れ。」

言われた博正と真司は、少し彰から距離を取って座った。要は、彰の横へと座って、何かあったらフォローしようと身構える。

彰は、それを感じて苦笑しながら、懐を探ると、前のテーブルへとビニールの袋に入った何かを放り投げた。

「圭一の知らせたかったことだ。あいつの体の、口の中から出て来た。上顎に張り付いてたのを、剥がして来た。」

要が驚いて、急いでそれを開こうとすると、彰が手を上げた。

「何の処理もしてないから細菌の温床だぞ。」と、今度は腰のポケットからラバー手袋を出して投げた。「それを使え。」

要は、驚いてそれを受け止めると、どうしてこんなものを持ってるんだろうと思いながら、それをはめた。ぴっちりとしたタイプなので、手間取る。彰はそれを辛抱強く見ていたが、要は無言でいるのもと思いながら、言った。

「あの、こんなものを持ってるなんて、医師みたいですね。」

彰は、眉を上げた。

「みたいではなく私は医師だ。臨床医ではないがな。世界各国で医師の資格は獲ってある。どっちでも良かったが、まあ持っていてもいいかなと思ってな。」

「日本の司法試験も通ってるしな。」博正が、嫌味な言い方で言った。「いろいろ大層なもんを持ってらっしゃるんだよ、こいつは。」

藪蛇だった、と要は顔をしかめながら、やっと手袋をはめ終えてビニール袋を開いた。中から、ところどころ茶色に変色した折りたたまれた紙が出て来る。開いてみると、鉛筆書きの小さな文字で、びっしりと彰へのメッセージが書かれてあった。

それを見て、要はふと、思い出した。そうだ、圭一さんの、手帳…。

「それが本当に圭一が書いた物だとどうしてわかる?」

博正が、彰に言っている。彰は、ぶっきらぼうに答えた。

「そう言うだろうと思ったが、私がそれを取り出す現場に誰も居合わせなかったからな。私は事実しか言えない。」

説き伏せる気持ちもないようだ。しかし、要が言った。

「オレ、覚えてます。」要が言うのに、皆が驚いたように要を見上げた。「ここで。二日目だったかな、雅江さんが狐じゃないかという話を、ここで博正さんと真司さん、それに彰さんと圭一さんと雅江さんでしたことがあったじゃないですか。あの時、圭一さんは黒い手帳を持っていた。それと、同じ紙です。圭一さんは、大切なことを書きとめる時は、鉛筆だって言ってた。水に浸かったりしたら消えるから。これは、間違いなく圭一さんの書いた物だと思う。」

博正が顔をしかめる。真司が、横から言った。

「確かにそれは見ているが、その手帳と照らし合わせてみる必要があるだろう。作ったものかもしれない。」

どこまでも疑うんだ。

要は、徹底的な証拠を突きつけられなければ信じないぞという意思を、この二人から感じた。

彰は、それをあざ笑うかのように胸ポケットへと手を入れると、ポンと黒い手帳を放って寄越した。

「これか?」目を見張る二人を見て、彰は笑った。「存分に照らし合わせてみたらいい。圭一の服の下から出て来た手帳だ。人狼は隠したかったみたいだが、詰めが甘い。」

博正が、その手帳を手に取った。そして、中を開いてみると、最初の方はカレンダー式になっていて、今年の始めからの圭一の仕事の予定がびっしりと書き込まれてある。やはり鉛筆で、ところどころに赤鉛筆も使われてあった。

ページを繰って行くと、後ろの方のノートスペースに、この人狼ゲームに巻き込まれてからの、圭一の考察が書かれてあった。投票結果、夜行動、人狼の名前…。

「…圭一の字は分かった。」博正は、最後の方へとめくって行った。「ここが、何枚か切り取られている。」

要は、黙ってそこへ、圭一の口から出て来たという紙を近づけた。すると、何枚か千切られたうちの一枚の切り口が、ぴったりとその紙と合った。

「間違いないな。」真司が、ため息をついた。「この手帳の中身も合わせて内容はなんとなくわかる。だが、読んでくれ、要。」

要は頷いて、紙へと視線を落とした。

「彰へ

 本当にすまない。この手紙も君の手に渡らないかもしれないが、君なら見つけてくれると信じている。

 そう、私は君を信じているんだ。

 なぜなら、私が狂信者で、人狼を知っていて、妻が狐であることも、狼が噛み先から知って私に伝えたからだ。

 相互占いをしようと言ったのは、君が真だと皆に知らせるためだった。私は脅されていた。言う通りにしないとあいつらに用済みとされて消される。

 それを知っていたから、君が妻を占うようにと仕向けた。

 人狼にはなぜ相互占いを止めなかったと責められた。君の真が確定するからだ。だが、私が疑われるからだと逃げた。

 その日、私は文香をいう人狼を占うように言われた。そして、黒を出せと。仲間を切るつもりなのだ。

 本人は知らないだろう。いつも指示を出すのは同じヤツだった。私は言う通りにした。

 次の日の指示は、ヤツだった。毎日私に指示を出す、人を人とも思っていないような女。そいつを占って、白を出せと。

 鈴木倫子。あいつは悪魔だ。いくら馬鹿な私でも、それはあいつの白を確定させる前日からの仕組まれたことだと知った。自分の身を守るため、あいつは仲間を切ったのだ。

 そして、分かった。私は今夜、あいつに殺される。

 彰、人狼は裕則、文香、倫子、啓太だ。昭弘は恐らく真狩人。啓太が騙って出ている。共有が狩人のことを君に明かすか分からないが、賢い君のことだ、もう位置はわかっていただろう。人狼に利用されている。君は私の代わりに狂信者として告発されるだろう。私達は同じ陣営では無かったが、君の私の生き方に対して踏み込んで来ず肯定してくれるスタイルは、初めての経験で楽しいと思えた。もう会えないだろうが、君は生き残ってあいつを吊ってくれ。負けても、倫子だけは。

                                         圭一」

要は、最後の方で涙が浮かんで来た。圭一も、圭一なりに苦しんでいたのだ。占い師として狼を恐れていたのではなく、狂信者として狼に利用され、処分されてしまうことを恐れていた。

人狼は、信頼を勝ち取るゲーム。要は、その言葉をどこかで聞いた気がした。

「…人狼は、信頼を勝ち取るゲームなんです。」要は、口を開いた。「オレ、そう聞いたことがある。彰さんは、とても頭が良くていろいろ分かっていても、人の扱い方が分からないから、村人達の信頼を勝ち取ることが出来ず、間違ったことは言っていないのに票を集めてしまう。倫子は、村人の前では信頼を勝ち取ることは出来たかもしれないけど、仲間うちではもう崩壊していて、切って捨てて行ったことが裏目に出て、仲間の告発を受けて票を集める。これは、単なる推理ゲームじゃない。実際に一緒に生活しながら、本当に命を懸けている重みは、きっとここにあるんだ。」

皆は黙って聞いていた。もはや、圭一の告発が嘘だという決定的な倫子からの弁明が無い限り、恐らく今日は、倫子吊りだろう。

彰が、要が声に出して読んだことで、圭一が自分に何を言い残したのかやっと深く理解した。圭一は、自分と違ってこのゲームで死んだらどうなるのかなど知らない。これが、最後の手紙だと思って書いているだろう。その、圭一の覚悟のような物が伝わって来て、胸の中が何かにぐっと握られたような気がした。

「…何を諦めていたのか。たかがゲーム、愚かな奴らの負ける様を見て楽しんでもいいか、などと思っていた。だが、人は一人一人、愚かながらも愚かなりに感じ、考え、足掻いているのだと知った。このゲームには負けるわけには行かない。お前達の票が必要だ。私が言った通り、倫子と啓太が人狼だった。狐位置が分からない。まだ占っていない博正、お前を今夜占う。万が一にも足元をすくわれたらたまらんからな。」

博正は、ふんと横を向いた。

「オレは村人。だがその方が村も安心するしいいだろう。これの真贋は恐らくは真だということにしておいてやる。お前が圭一の手帳を見つけて、いろいろ書き込んで、最後にこれを破ってオレ達に突き付けてるってことも考えられるんだからな。字だって、お前なら模倣するのはお手の物だろう。」

彰は、ムッと口をつぐんだ。それを見た博正は、笑った。

「冗談だ。お前にこんなお涙頂戴な文章が書けるかよ。」

そうして、5時は近づいて来た。

今日の投票前の会合が始まった。

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