五日目・夕方
今夜は、昭弘吊りから動かない。
それを知っていたので、みんな投票時間10分前に、バラバラと入って来て席に着いた。昭弘は、力なく椅子へと座る。
その席で、彰は言った。
「私の言うことは信じないかもしれないし、私も知って驚いているのだが昭弘は真狩人だ。対抗を生かすためにこれまで噛まれずに来た。それを証明するために、私は今夜対抗狩人を占う。」
昭弘が、驚いて顔を上げた。要も、びっくりして彰を見た。確か、人狼に手の内を知られちゃ駄目だって言ってたんじゃ…。
倫子が、鼻で笑った。
「あなたの占いは信用出来ないわ。真狩人だなんて、そんなはずないじゃない。」
彰は、倫子を睨んだ。
「お前がやって来たことを知ってるぞ。圭一に指示して文香を占わせ、身内切りをしたな。そうして出た黒を霊能者に見せることで、圭一の真を確定させて次の日自分を占わせ、白を出させようとした。そこでこれ以上残れば破綻する圭一を殺しただろう。真の私を残したのは、まだ私のグレーが残っているからだ。狐ケアさせようとした。明日博正を占えば、狐が残っていたのかそうでないかお前目線確定する。そうして、怪しむ位置として私を吊り、縄を消費するのにも使おうとした。」
倫子は、首を振って彰を睨みつけた。
「どこまで傲慢なの!何もかも見えてるような顔をして!あなたに騙される愚かな人なんて、ここには居ないわ!今日は初日からみんなが怪しいと思っていた昭弘さんを吊るのが、一番いいのよ!」
彰は、じっと倫子を睨んだままだった。他の者達も、おろおろと二人を見ている。何が本当なのか、分からなくなっているようだった。
そんな中、博正が、言った。
「…まあ、今夜吊りを消費しても、まだぎりぎり間に合うんだ。悪いが昭弘には死んでもらって、明日みんなで考えよう。真狩人だったらすまないな。だが、村陣営だったら戻って来れる。今夜は、皆が納得する形で終わろう。」
それを聞いて、倫子はふんと彰から目を反らした。彰は、それ以上何も言わない。
要は、いつものように始まった投票時間、押す番号をためらった。倫子なら6、昭弘なら10、啓太なら18…。
要は、指を震わせながら、番号を押した。
1→6
2→10
4→10
6→10
8→10
10→6
14→6
17→6
18→10
19→10
そして、大きく10の文字が出た。
「№10が、追放されます。」
パッと照明が落ちた。
「う、うわあ!」
覚悟があったのか、そう大きな声で悲鳴を上げたという感じではなかった。そしてすぐにガシャンと閉じる音がして、パッと照明が着いた。
そこには、もう何も無かった。
「№10は、追放されました。」
モニターには、投票結果が出ている。見ると、共有者の真紀は、倫子に入れてくれていた。真紀の顔を見ると、真紀はにっこり笑って立ち上がり、そこを出て行った。
オレが、彰さんを信じたい、って言ったから。
要は、真紀に感謝した。自分を信じて、票を合わせてくれる。同じ共有者として、考え方を合わせてくれたのだ。
倫子は、ちらと票を見ると、不機嫌に出て行った。彰は、その背にわざと聴こえるように、声を上げて言った。
「共有は私の味方か。人狼に入れたら噛まれるぞ、今夜。」
倫子は、確かにその声を聴いたはずなのに、振り返りもせず出て行った。
要は、彰に駆け寄った。
「彰さん、あんなことを言ったら、誰を占うかバレるから、人狼に考える時間を与えてしまうんじゃ。」
彰は、ふんと鼻を鳴らした。
「何をしようともう変わらん。私が一応ああ言っておいたが、今日は間違いなく共有の護衛指定されていない方を噛むだろう。真狩人が昭弘だった以上、護衛成功はあり得ないからだ。君達が票を合わせてくれたのは嬉しいが、明日はこのまま動くことはあるまいな。君がいくら反対しても、明日は私か、賢治が吊られるだろう。村目線後三吊りだと思っているかもしれないが、人狼が二人残っている。このまま倫子の言う通りにしていたら、あと二吊りしかない。つまり明日私を吊って、明後日賢治を吊ったら、村は終わる。人狼勝利でな。」
要は、身震いした。恐らく、そうなると明日の夜噛まれるのは自分。だが、その後村が勝ってくれさえしたらいいが、勝たなかったら…。
「…でも、どうして彰さんは昭弘さんが真狩人だって知ったんですか。占ってもいないのに。」
彰は、苦笑した。
「圭一が、私に知らせてくれたのだ。命を懸けてな。だが、もう遅かった。」
要には何のことか分からなかったが、彰はそれから、じっと黙って何かを考え込んで、詳しく聞くことは出来なかった。
真司と博正が、その会話を入口辺りで聞いていたが、何も言わずにそこを後にして行った。
その夜は、重苦しい雰囲気だった。
それでも、真紀は恒例の夜の腕輪通信で、努めて明るい声で話した。
『ねえ、きっとみんな死んでないと思うのよ。だって、そうだったら犯罪でしょ?だから、きっとみんな蘇生して、どこかで私達が勝って来るのを待ってるんだわ。だから、何が何でも陣営を勝利に導かなきゃ。要くんなら、きっと出来るよ。頑張って。』
要は、その声に逆に暗い気持ちになりながら言った。
「でも、どうなるか分からないのに。護衛指定を、やっぱり君にしよう。彰さんの勘違いで、真狩人かもしれないじゃないか。君が守られてるのを知らずに、君を噛むかもしれない。そうしたら、護衛成功するだろう?」
真紀の声は、呆れたように言った。
『彰さんを信じるんでしょう。あの人は、凄い人で凄すぎるからみんなに理解してもらえないんだって、あんなに力説してたじゃないの。大丈夫、あなたが残ればきっと博正さんと真司さんを説得出来るわ。私には無理。だって、彰さんの言ってることを、全く理解出来ないかもしれないから。知らないことで、人を説得するなんて無理だわ。あなたなら、それが出来る。あのね、死ぬって思わないで。あなたのお姉さんと同じで、きっと仮死状態なんだと思うわ。だから平気。みんな少しも乱れてなくて、全く自分が怪我してるのさえ気づいてないみたいに眠っていたでしょう?私も、怖くないわ。きっと、気が付いたらあなたが居て、勝ったよって言ってくれるんだと思うから。だから、勝ってね。待ってるよ。多分寝てて時間は感じないんだろうけど。』
要は、真紀と洋子の二人を背負うことになるとは、正直思っていなかった。自分の方が先に噛まれて、真紀に村の後を任せることばかりを考えていたからだ。
だが、ここまで来たら仕方がない。確かに、真紀が言う通り、真紀では真司と博正を説得出来ないだろう。護衛は、このまま自分で行こう。
「…分かったよ。必ず、勝って君を起こすよ。姉ちゃんにも、遅かったわね、って文句言われそうだけど。でも、姉ちゃんは最初で脱落して何もつらい想いしてないんだし、それ以上言わせないけどね。」
真紀は、笑い声を上げた。
『ねえ、でも思うのよ。このゲームって本当に怖いんだけど、人の本質みたいなのが見えて面白いわ。それに、頭が良くても駄目なのよ。信頼を得て引っ張って行ける人でないと、勝てないんだわ。人狼の人達だって、好きでそのカードを引いたわけではないんだし、私は責めようとは思わないわ。生きて帰って来れるんだって、信じてるから。』
要は、その言葉には頷いた。倫子…彰目線では人狼。あの倫子が、ああして彰に罵声を浴びせているのを見ていると、人狼も必死なんだろうなと本当に思う。自分なら、彰と敵陣営になんかなりたくないひと目で見抜かれて、「君が人狼だろう?」とか言われそうで…。
要は、その夜時間制限が来て通信が遮断されるまで、真紀と話し続けた。たわいもない、このゲームが終わったら、テーマパークにみんなで出掛けようとか、映画に行こうとか、そんな話でしかなかったが。




