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太平洋の真ん中で

立原要(たちはらかなめ)は、目を開いた。回りが、騒がしい。

ハッとして顔を上げると、自分はテーブルの下に突っ伏して倒れていた。

この日のためにと、母親が着せてくれた一張羅のスーツが皺になっている。急いで起き上がろうとすると、体が異様に重かった。

体を起こして回りを見ると、皆それぞれに同じような状態で、困惑した表情で目を覚ましていた。ぼんやりとした頭を振り払うようにして、姉の洋子と、その友達の鈴木倫子を探すと、二人は折り重なり合うようにして倒れていた。

「姉ちゃん!倫子!」

要は、まだふらつく足を必死に踏ん張って二人を揺り起こした。姉の、洋子がうーんと唸って目を開いた。

「要…?あれ、何があったの?」と、自分の足の上に倒れ掛かっている倫子を見つけて、慌てて叫んだ。「倫子!しっかり、どうしたの?!」

倫子は、大義そうに目を開いた。

「あら、洋子…要?」と、体を起こして、肘をついた。「一体どうしたのかしら…急に目の前が真っ暗になって…。」

要が言った。

「大丈夫?倫子。オレにもよくわからないんだよ。気が付いたら、今で。」要は辺りをキョロキョロ見回した。「みんなそうみたいだ。ちょっと誰かに聞いて来るよ。従業員の人とか。」

要は、立ち上がると制服姿の人を探して歩いて行く。

その足元には、まだ倒れている人も居たが、起き上がって話している人達も居た。洋子は、不安になってそんな様子を見つめていた。

つい、さっきまでは、みんなで和やかにディナーを楽しんでいたのだ。

こんな豪華な食事はしたことが無いと喜んで、軽い気持ちで申し込んだ雑誌の懸賞に感謝したものだった。

それなのに…。

まだ気分が悪そうな倫子に付き添いながら、洋子は不安で仕方がなかった。


要は、どう探しても誰も居ないので、キッチンの方へと足を踏み入れた。するとそこには、コックの服装をした恰幅の良い男が倒れていて、同じくコック姿の若い男が必死にその男に呼びかけていた。

「田畑さん?!しっかりしてください、大丈夫ですか!」

要は、その背に呼びかけた。

「あのー、大丈夫ですか?」

その若い男は振り返って驚いたように言った。

「ああ、お客様。ここはスタッフしか入れない場所なんです、御用は外のスタッフにお願いします。あの、取り込み中でして…。」

要は、首を振った。

「誰も見かけないんです。あの、みんな倒れてて、お客さんも、今目が覚めたばっかりで。」

若い男は、驚いた顔をした。

「え、みんな?じゃあ、外の人達も、みんな気を失っていたんですか?」

要は、頷きながらその男の胸にあるネームプレートを見た。そこには、竹田裕則と書いてあった。

「ええ。あの、竹田さんも倒れてらしたんですか?」

名前を呼ばれて少し驚いたような顔をした竹田だったが、ハッとして胸のプレートを見てから、頷いた。

「はい。私も今気が付いて。航行中に、急に電源が落ちて真っ暗になって、そこからの記憶がありません。いったい、何が起こったんでしょう。」

要は、肩をすくめた。

「オレにも全くわかりません。とにかく、他の人にも聞いてきますから、そっちの人の具合を見ていてください。」

要はそう言い置くと、キッチンを出てまだ混とんとしている食堂の方へと戻った。

すると、皆がそれぞれ立ち上がったり、椅子に座ったりして、目を覚ましていた。要が戻ると、背の高い地位の高そうな、制服姿の若いのかそこそこの年齢なのか分からない男性がこちらを向いた。

「ああ、君で最後か。今何があったのかと皆で考察していたところなのだ。この船は、湾を一周するだけの予定だったのに、ここは周りに何の光もない。もしかして、湾を出て太平洋上に漂っているのではないかと話していたのだ。」

初老の、厳格そうな男が言った。

「何の冗談だ。こんな場所に連れて来て。それに客に対して、その口調は失礼だろう。」

制服姿の男が、ふふんと笑った。

「確かにお客様だ。例え懸賞で当選してタダで乗り込んでおられたとしても。」相手がぐっと黙ったところで、その男の顔付きは鋭くなった。「とはいえ、私にも何が起こっているのか分からない。私も皆さんと同じ、被害者の立場なのだ。同じ立場として、接しさせてもらいたい。もちろん、従業員達も同じく。」

二十代半ばから後半ぐらいの男が、言った。

「どうしてこんなことになっているのか、全く心当たりはないのか。」

制服の男は、首を振った。

「まったく。本当に、湾の中に浮いているだけのはずだったし…しかし、航海士が居なくなっているのを見たら、あいつらは何か知っていたのか?」

「居なくなっているのか?」

先ほど突っかかって来た男が言う。制服の男は、頷いた。

「目が覚めてすぐに、状況を確認しようと船室を見て回った。だが、誰一人見つけることが出来なかったのだ。それに、船底には行けないようになっていて、機関室を確認することも出来ない。」

すると、脇で腕を組んで座っていた20代前半ぐらいの男が息をついて、口を開いた。

「とにかく、自己紹介をしよう。今のままじゃあ、きっとしばらくはここから出られないんだろうし、お互いにつんけんしてても仕方がない。」と、皆を見回した。「オレは、田代博正(たしろひろまさ)。博正って呼んでくれ。」

すると、制服の男が頭を下げた。

「私は、神原(かんばら)(あきら)。私も彰でいい。」

すると向こうで、苦情を言った男が言った。

「私は三村圭一(みむらけいいち)。こっちは妻の雅江だ。」

隣りで座る、40代ぐらいの女性が軽く頭を下げた。

そうして、皆順々に名前を言って挨拶を終えると、博正が言った。

「じゃあ、今の名前をこの辺りに貼っとこう。覚えないとな。」と、紙のテーブルクロスに書いた名前を食堂の前の壁に貼った。「で、オレ聞きたかったんだけど、この腕輪はなんだ?目が覚めたらついてたんだけど。」

それには、気が付いていた者が多いらしい。あちらで、洋子が頷いた。

「私も、気になっていたんです。なんだか、デジタル時計の大きいのみたいで。番号が…12って。」

すると、隣り倫子がえ?という顔をした。

「12?私は6なんだけど…。」

こっちで、彰が言った。

「私は1だ。良い番号だが、一人ずつ違うのか。」

「ちょっと待って。」博正は、ペンを手に名前を書いたテーブルクロスへと寄って行った。「なんか関係あるのかな。番号被ってないか確かめよう。みんな、順番に番号を言って。」

そうすると、こうなった。

神原彰 1 給仕係責任者

矢田賢治 2 客

三村圭一 3 客

大井真司 4 客

谷口留美子 5 客

鈴木倫子 6 客

三村雅江 7 客

田代博正 8 客

田中芽衣 9 客

本田昭弘 10 客

増田亜希子 11 給仕スタッフ

立原洋子 12 客

竹田裕則 13 調理スタッフ

立原要 14 客

成田真澄 15 給仕スタッフ

相原文香 16 給仕スタッフ

田村真紀 17 客

榊啓太 18 客

田畑雄二 19 調理責任者

橋口由美 20 客

「…こうして見たら、スタッフと客を合わせて20人居るんだな。」

博正が言うと、圭一が顔をしかめた。

「この規模の船には少ないぐらいだろう。だが、何だか胸騒ぎがするな。まるで、囚人に着けるタグのようじゃないか。」

それを聞いて、皆シンと静まり返った。確かにこの番号…無機質で飾り気のない腕輪…。

だが、黙っていた留美子という、30代ぐらいの派手な女が言った。

「も、もう!脅かさないでよ、あたしは飲み放題って言葉に惹かれて、お酒飲みに来ただけなの!何かの冗談で、ドッキリとかなら早く帰りたいんだけど。」

みんな、深刻な表情で顔を見合わせている。

誰も、ドッキリの首謀者など居ないようだ。

「ど、どういうこと?!」文香(ふみか)という、パッとみまだ学生の女が言った。「ただ、バイトで来ただけなのよ!9時には帰れるって話だったわ!どうなってるの?!」

要が、それを見てこのままではパニックになって解決どころでなくなってしまう、と割り込もうとした時、急に食堂にある天井からぶら下がったモニターが、音もなくパッとついた。

いきなりの事に皆が驚いてそちらを見ると、黒い画面に文字が浮かび上がった。そして、機械的な女声が響いた。

「ようこそ、これから、ゲーム内容をお知らせ致します。応接室の方へお移りください。」


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